41.謎の影【4視点】
◆???◇
――時は少し遡り、黒雲発生直後。
「だ、団長…………あれって……。」
そう言って騎士の一人が指した先には、夥しい量の魔力が収束されていた。
「これって……。」
「団長ッ!!」
……………………。
「撤退するわ。皇王様にもそう伝えて。」
「なっ…………り、了解ッ!!」
近くにいた騎士にそう伝えると、その騎士は多少動揺しつつも、直ぐに念話を始めた。
ここからなら、念話一本で済むでしょう。
撤退だけなら、私がここにいる必要はないわね。
「団長、どちらに?」
「ちょっとね、先に行ってて。」
「どうかなされたのですか?」
そっか、あなた達は分からないのね……。
「えぇ、少し懐かしい人を見つけてね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆マイルズ◇
「貴様、何者だ?」
「にぃ!!!やはり、俺は強いッ!!!英雄だって殺せるッ!!そう、俺こそがッ!!!」
会話は通じないか……。
だが、エレナの黒雲の中、こいつは明らかにこちらの位置を把握したうえで、特攻を仕掛けてきた。
それに、こいつは少し加減をしていたとはいえ、俺の剣を受け止めた。
この黒雲の中で、そこまでの動きができる者など、そう多くいない。
「お前、暗殺者ギルドの者か?」
「うんんんんん????何故?何故何故何故!?」
すると、男は突然狂ったかのように自身の頭を掻きむしった。
「その名前は!!その存在はッ!!!その神秘はっ!!!!!!!………………秘匿されているはず。にも関わらず、何故こいつ知っている?」
「さぁ、何故だろうな。」
これで確証を得た。
あの災厄とも言われた組織が復活している。
そして、理由は不明だが、暗殺者ギルドはどうしても精皇国を勝たせたいらしい。
正直、こいつを無視してサーシャを奪還する方がずっと楽であり、確実だが…………。
当然の問題として、こいつは私を逃す気はないのだろう。
「あぁ…………!あぁ!!!!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!………………あいつかッ!!!あの忠誠心の欠片もない奴隷風情がッ!!!」
「ふん、あれでアトキンス家をどうにかできるとでも思ったか?」
情報源に気づいたのか、さらに頭を掻きむしる男。
試しに挑発もしてみたが、どうやら怒りで届いてすらいないらしい。
「せっかく、組織の為に命を捧げられるという名誉を授かったというのにぃぃぃ!!!」
「はぁ…………見苦しい。」
――ボトっ。
「あぁ、あぁ、あぁ!!!何故、何故だっ!!家族のためか!?あんなメス豚のためかぁぁ????力があるというのに、何故!!何故ッ!!!」
――どうなってる?
俺は今、確かにこいつの腕を切り落とした。
そして今もその腕は地面に落ちており、男の片腕は夥しく出血している。
にも関わらず、何故こいつはこうも平気なんだ?
「あぁ…………あぁ。そうだ。これは、我が神聖なる神が授けて下さった私への試練ッ!!!」
……ずぼっ!!
「なっ…………!」
腕が、生えてきた??
こいつ、エルフじゃないのかッ!!
「ならばッ!!!ここでこの英雄の首を持ち帰り、手見上げとしようッ!!!それなら、私も幹部ッ!!!そうっ!!私も神の視線に入れるッ!!!」
その瞬間、男から膨大な魔力が溢れた。
一般人ならば、浴びるだけで命に関わるほどの、濃密で、瘴気を強く纏った魔力。
こんなもの、普通のエルフが持っていいものではない!
「さぁ、はじめよう。この場は私の舞台ッ!!!そうッ!!!ここは私が幹部へと至るステー――ジッだッ!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆フォルジュ◇
「フィロは行ったか…………。」
正直、今回の任務は言う程困難なものではないと思っていた。
それどころか、今までのサーシャ様のことも考えると、奪還さえすれば、あとは聖獣と契約するだけ。
治療法がなく、ゴールのない道をずっと走っていたあの頃と比べれば、何倍もマシだろう。
しかし、それも全て、この暗殺者ギルドの介入がなければの話。
作戦前日にエレナ様も仰っていたが、今回の任務で唯一のイレギュラーがあるとすれば、それは暗殺者ギルドだ。
その理由は単純で、相手の情報がほとんどないこと。
前回の襲撃の後、シャーリィーはロラのことに責任を感じて、一人で相手の手の内を暴こうとした。
何日も休むことなく、メラルダ様が止めて下さるまでずっと、徹夜で奴らの痕跡を探った。
にも関わらず、それで得られた情報は僅かなもの。
その後、メラルダ様や皇主様と共に調査を再開するも、それでも肝心な魔力探知を回避した方法までは掴むことが出来なかったという。
また、あの時も暗殺者ギルドの手口を暴くことができず、そのせいで多くの被害が出してしまった。
だからこそ、こうして暗殺者ギルドが介入してきた現状は、決して油断のできるものではない。
「でも、この任務さえ成功すれば、昔のような幸せな日常に戻れるんだ。」
氷魔法を駆使し、手元とその周りに複数の氷の短剣を出現させ、私を囲う者達を睨む。
「だから、ここを通してもらうッ!」
「ほぅ、そんなに俺達が雑魚に見えるか?」
「いいや。」
雑魚ではないさ。
ただ、そこまで強くもないけど。
「ふん、それにしては余裕そうだな。」
「あぁ、それはそうさ。だって、旦那様と比べたら、どうってことない。」
旦那様の剣技を受止める技量。
その時に感じた、あの違和感のある魔力。
いずれも、油断のできないものだ。
それに比べれば、こいつらはただ雑魚じゃないだけだ。
「ほぅ、さてはお前。アトキンス家の使用人だな??あそこの使用人は猛者ばかりとは聞くが、所詮は使用人の中での話。常に戦場を駆ける俺らには遠く及ばない。」
「そうか。では、試してみよう。」
そうして私は、試しに一人の男の首を跳ね飛ばした。
「ぁ…………?」
しかし、そもそもこの剣の速度に、誰もついてこられていないらしい。
「な、お、お前ッ!!何をしたッ!!!」
「魔法だっ!!あの剣に惑わされるなッ!!」
すると、男達は勝手にこれを別の魔法によるものと勘違いし、周囲を警戒を始めた。
私がやっているのは、ただ浮いている剣を飛ばしているだけ。
周囲の剣の数を見れば、それも一目瞭然だというのに…………。
「な、お、おい!!死体がッ!!!」
「こ、凍ってるぞッ!!」
「ってことは、やっぱりあの剣がッ!!!」
死体が氷像になりかけていたところで、やっと気づいたらしい。
「はぁ、まさかこれほどとは…………。」
こんな者ばかりなのであれば、奥様を逃がすに必要もなかったのかもしれない。
まぁ、万が一ということもあるにはあるけれど。
「その万が一を起こさないのも、使用人である私の務めなんだけどね。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
「GRAAAAAAA!!!!!!!」
「うわ……怖…………。」
こんなのを解放したのか…………。
俺、絶対ロクな死に方しないよなぁ……。
「まぁ、もう遅いか……。」
――Sランク指定、バルムンク。
Zランクほどではないにしろ、国を揺るがすほどの力を持つ化け物。
まぁ、他のSランクの魔物に比べれば、こいつはある意味優しい方ではあるけど。
「さて、こいつを利用してスタンピードを起こす訳だが…………って、もう起きてるか。」
一足先にダンジョンを出て、こうして様子を見ている訳だが、さっきから色んな魔物が、次々とダンジョンから飛び出している。
そうして、俺の結界に阻まれて上手く戦場の方向に向かっているっと…………。
我ながら、素晴らしい仕事っぷりだな、俺。
「ただ……………………問題のこいつ………………なんで出てこないんだ?」
バルムンクの奴、せっかく封印を解いてやったのに、一向にダンジョンから出る気配がない。
それどころか、さっき探知をしたところ、どうやら魔物を食べているようだ。
「食事か?……まぁ、誰でも腹は空くか……。」
できれば早く動いて欲しいけど、流石にそこまで面倒を見る必要はないだろう。
こいつの封印が解けただけでも、ある意味奇跡と言っていい。
まぁ、封印が緩んでいたおかげなんだけど。
「さーて。」
「何処に行くんですか?」
ッ――――――!
「おいおい、嘘だろ…………。」
ダンジョンを出た時には、もう騎士はいなかったから、すっかり撤退したのかと思ってたが…………。
…………まさか、残ってたとはな。
「………………あなた………………暗殺者ギルド?」
「だったら、どうする?」
「なら………………捕まえなくちゃ。」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年4月12日を予定しております。
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