40.苦難【2視点】
◆メラルダ◇
あれから、私はすれ違った騎士にバチストのことを説明して、奴隷商の拠点を出た。
んで、戦場に向かおうと思ったんだけど……。
「ダメですかねぇ……?」
「そりゃ、戦争してる場所に向かえって言われてもねぇ……。」
「………………お金あるんですけど……?」
「命には変えられねぇな……。」
だよねぇ…………。
この会話も既に八回目。
何をしているかと言うと、戦場の近くまで馬車で行こうとして、交渉中である。
というのも、転移魔法を使えない私からすれば、ここから戦場までは結構の距離がある。
どれくらいかっていうと、馬車を使っても数日かかって、任務に間に合うか危ういくらいには遠い。
まぁ、走ったりしたらその倍はかかるんだけどね。
でも、私なんかのために凄腕の魔法師を呼べというのも無理がある。
それに、王国騎士団は拠点の後処理で忙しいだろうし。
アトキンス騎士団なら、もしかしたら転移で連れて行ってくれるかもしれないけど、これは別に任務じゃないし、私個人の事情に巻き込むのも申し訳ないしね。
だから、この前シャーリィーに聞いた、全民の味方である運送馬車を利用しようと、運送馬車が集まる付近まで走ってきたわけ。
勿論、バチストにはああ言ったけど、数日遅れの到着になるから、任務は終わっちゃってるかもしれないけどね。
ただ、問題はここからだった。
当たり前だけど、命の危険のある場所に、なんの護衛もなしに飛び込む馬鹿などいない。
護衛などを雇っていないなら尚更ね。
でも、戦場に行ったのはあくまでアトキンス騎士団、王国騎士団じゃない。
だから、多分ここまで戦争のことは伝わってないだろうっ思ってたんだけど……。
「ですよねぇ………。」
知ってたんだよねぇ…………。
その理由は単純で、そもそも運送馬車をやってる人の殆どが、元商人らしい。
だからこそ、広い情報網を持つ者も多く、同業者同士の情報共有も結構頻繁に行われているらしい。
だから、精皇国から帰ってきた人が、多分広めちゃったんだろうなぁ……。
そんな訳で、「せめて精皇国周辺まで!」と言って、この時の為にシャーリィーから貸してもらったお金を見せて回ってるんだけど…………今のところ八連敗中。
これも合わせると九連敗かな…………。
「はぁ…………。」
「すまないね、嬢ちゃん。」
「いえ、ご迷惑をおかけしました……。」
となると…………次は……。
いや、多分この付近の運送馬車は無理かなぁ……。
周囲を見渡すと、馬車の近くにいる人達がさり気なく視線を逸らした。
多分、こっちに来て欲しくないのだろう。
「はぁ…………。」
こうなれば、少し遠いけど屋敷に戻って、残ってる騎士に頼むしかないかぁ……。
流石に王国騎士団には頼めないしね……。
「ねぇ、あの馬車って…………!」
「おいおい、マジか……!」
「なんでこんなところに!?」
そんなことを考えていると、突然周囲が騒がしくなってきた。
何事かと周囲を見渡すと、みな同じ方向を向きながら、驚愕した表情をしている。
「ん?なんだろ?」
みんなの視線を追うようにその方向を向くと、一つの馬車が、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
「運送馬車?」
でも、それにしてはやけに豪華なような……。
それに、馬車の周囲には馬に乗った騎士達がいる。
ってことは、貴族?
あー、だから道開けてるのか……。
確かに、貴族に喧嘩売ると面倒くさそうだし。
すると、私の周囲にいた人達も道の端により始める。
そうして、私もそれに合わせて端により、その馬車が通り過ぎるのを待った。
急いではいるけど、アトキンス家の人達に迷惑はかけたくないしね。
そうして、とうとうその馬車は私の前を通り過ぎる――。
「止まれ。」
はず………………なんだけど…………。
――なんか、止まった。
すると、馬車の扉が少し開き、そこに駆け寄った騎士と中の人が、何か言葉を交わした。
すると、駆け寄った騎士は話を終えると、周囲にいた人々に目を向け、全員に届くような大声で告げた。
「この中に、アトキンス家の者はいるかッ!」
……………………しーん。
「い、いるかッ!!」
……………………しーん。
「い、いないのか……。」
「なわけあるかッ!」
その瞬間、そう言ってバタンッと馬車の扉が開かれた。
そうして、その中から出て来たのは…………来たのは…………………………うん?
なーんか、見覚えがある…………というか、面影があるような…………。
目のは違うけど、この金髪…………。
すると、馬車から出てきた男…………の子?
は、慌てた様子で周囲を見回した。
うーん……。
あれ、よく見るとこの騎士と馬車の紋様もどこかで……。
「いたッ!」
そうして、見た事のある紋様を思い出すのに頭を回していると、何かに手を掴まれた。
「っ…………!」
「ぇ…………?」
反射的にその手を振りほどくと、そこには先程扉を開けて出てきた男の子。
そうして、その背後には怪訝な顔をした騎士達が、こちらを睨めつけていた。
「……………………?」
「………………お前、アトキンスの者か?」
すると、先程声を上げていた騎士が、同じ質問を何故か私にしてきた。
ただ…………まぁ…………うん。
「いいえ。」
「な………っ!」
「違いますけど…………。」
だって私、別にアトキンス家の人じゃないもん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆リディア◇
「あれは…………無理よ…………。」
本能が、警報を鳴らしている。
今すぐ逃げろと。
抗うすべはないと。
それ程までに、あの黒雲に秘められた魔力は絶大なものだった。
「陛下ッ!」
「…………撤退する。」
私が反射的にそうさけぶと、陛下はそう言って首を縦に降った。
「陛下っ!」
「よろしいのですか?陛下。」
すると、陛下が一番信頼を置く近衛騎士であるカールスが、そう問いかけた。
しかし、カールスの問いは決して陛下の決定を避難するものでなく、あくまで全体を納得させるためだ。
「あぁ。あれを浴びれば、近衛兵と一部の兵以外は全て眠りにつくだろう。そうなれば、被害は想像を遥かに超える。」
「畏まりました。」
すると、カールスは「失礼します。」と陛下に一言告げると、上空に撤退の合図と思われる魔法を打ち上げた。
「ほ、本当に、宜しいのですか?」
すると、陛下の後方から弱々しい声が聞こえた。
その主は、先程先走ってリシェ殿を攻撃してしまった近衛騎士。
先程陛下直々に下がれと告げられたことが余程応えているのか、或いは自分の攻撃した相手がアトキンス家だと知ったから、彼は顔色の悪くなっており、その雰囲気もどこか薄くなっていた。
「い、いくらアトキンス家とはいえ、戦争中に割って入るなど、非常識にもほどがあります。」
「成程。ではお前は、陛下にこの場で戦えと、そう言っているのか?」
陛下に変わり、カールスがそう言って男を軽く威嚇した。
しかし、それで折れるほど、彼は臆病ではないようだ。
「そこまでは申しておりません。しかし、このまま彼らが音沙汰ないというのは…………。」
「ふむ…………そなた、そこの皇帝よりもしっかりしておる。」
すると、突然話に割って入ったリシェ殿がそう言って男を称えた。
「り、リシェ殿っ!?」
「ふむ、確かに普通ならば、彼の言う通りであり、王の間違いを正すのも、近衛騎士の役目じゃ。」
た、確かにそうだけど…………。
「じゃがな、それはお主が暗殺者ギルドという脅威を知らないからじゃ。」
「なっ………………。」
「歴史からも消えてしもうたからのぅ。知らんでも無理はない。」
――歴史から消えた?
でも、確かに王族である私ですら、暗殺者ギルドに関することを学んでは来なかった。
そんな御伽噺を、少し知っている程度だ。
「まぁ、それはあとでそこの小僧にでも聞くとよい。そやつは、身をもって知っておるからのぅ。」
「…………昔の話です。しかし、まさか暗殺者ギルドがおとぎ話とは…………。」
その態度に魔帝国の者は驚愕した。
まさか、近衛騎士の顔とも言えるカーリスが、王族でも、客人でもない他国の騎士相手に敬語を使う姿など、想像もつかなかったからだ。
「まぁ、それも今が平和な証。良い事であるがのぅ……。」
そう言うと、リシェ殿は一瞬どこか遠くを見つめた後、陛下に軽い笑みを向けた。
「さぁ、早く行け。ここにいては呑まれるぞ。」
「…………………………行くぞ。」
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次回の投稿は2025年4月8日を予定しております。
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