39.背後【2視点】
◆フィロメナ◇
「あれだけ言っておいて、結局皇主様は間に合わなかったのかよ。」
「フィロ、失礼だぞ。」
「ちっ…………!」
分かってる。
フォルジュの指摘は正しく、たかが使用人の私が口を挟むべきではない。
だが、それでも今回の作戦だけは納得がいかなかねぇ!
そもそも、何故旦那様は魔帝国を撤退させるなんて重要な役目を、皇主ってだけの餓鬼に任せた?
あいつは確かに、魔帝国の中では王族だが、それでも餓鬼は餓鬼。
普通の餓鬼よりかは強いんだろうが、大多数を納得させるには、実力が伴ってなさすぎる。
それに、交渉相手はあの皇帝だ。
私も魔帝国出身だから分かるが、あいつは娘の意見だからと言って、一度決めたことを容易に変える男とは思えねぇ。
まだ、魔帝国に多少なりとも影響力のある私やティファンヌ、アマンドがやった方がマシですらあるくらいだ。
「フィロメナ、任務中よ。」
「………………悪かった。」
そう言って上空を見ると、エレナ様の黒雲が、徐々にその規模を増しながら、ゆっくりと落ちていくところだった。
精皇国、魔帝国ともに必死こいて黒雲を攻撃するが、あれはあくまで雲や霧の類。
半端な攻撃など効くはずもなく、それは徐々に彼らを蝕んで行った。
「…………行くぞ。」
「「「了解。」」」
そうして、旦那様の合図とともに、私達は旦那様の後に続くかたちで駆け出していく。
それは、黒雲に入っても衰えることはない。
「奥様、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ。」
黒雲の中では、視覚は宛にならない。
それ加えて、ある程度の魔力探知はこの黒雲に阻害されてしまうため、この黒雲を走るには、高精度の魔力探知を維持し続けなければならない。
それは、例え熟練の騎士であっても、出来ない者の方が多いほどの至難の技だ。
にも関わらず……。
「これ、初めてやったけど、意外と簡単ね……!」
「はぁ…………。」
普通のご婦人方は出来ませんけどね……。
まぁ、本人は自覚ないんだろうけど。
そうして、おかしな人物がもう二人。
「意外と相手も対応してきますね。」
「あぁ、そのようだな。」
フォルジュと旦那様だ。
何がおかしいかって、この二人。
この黒雲の中で、ずっとすれ違う敵全てを殺さずに無力化している。
一人も殺さずにだ!
おかしいだろ!
当たり前だが、これは敵を普通に殺すより何倍も難しい。
それに、敵だって素人集団ではない。
少数ではあるが、中には私ですら無力化は難しいほどの敵も数人だがいた。
それを、走る速度を落とすことなく、二人は魔力探知だけでとらえ、無力化してるんだ!
こんなんが使用人だから、アトキンス家の使用人が騎士団と互角とか言われるんだよッ!!!
まぁ、私も人の事言えないかもだけどなッ!
「もうすぐだ。」
「私と旦那様で無力化しますので、フィロと奥様はサーシャ様を。」
「分かったわ!」
「了解ッ!」
そうして、サーシャ様が目前となった瞬間、それは起きた。
魔力探知を通して、高速でこちらに迫る何かを捉えた。
「これは…………。」
「……………………フォルジュ、オリビアとサーシャを頼む。」
「………………かしこまりました。」
それだけ言うと、マイルズさんは一人私達から離れ、その方向に向かっていった。
――キーン!
その瞬間、甲高い音が周囲に響き、同時にその衝撃波が周囲を襲った。
それは暗に、この場に旦那様と同程度の実力を持った者がいるということを示していた。
「ッ…………!フィロっ!」
「っ…………!任せろッ!」
「な、何をッ!」
フォルジュの指示を受け、私はいち早くオリビア様を抱き抱えた。
そうして、私はそのまま来た道を駆けた。
「悪いな奥様、状況が変わったッ!」
「え?」
この状況も、予想してなかった訳では無い。
しかし、まさかこれ程まで接近しなければ気づけないとは……ッ!
「あの時と同じだっ!どうやって潜伏していたのかは分からないがな。」
「それって……。」
「あぁ、ロラが敗北した奴ら。暗殺者ギルドの者と思われる者達が確認された。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エリ◇
「隊長!ダンジョン内、異常ありませんっ!」
「………………分かった。」
「それにしても、私達三番隊をこのようなことに使うなど、団長は何をお考えなのでしょうか?」
そう言って、分かりやすくプンプンするカルメ。
本来なら、ここで私が「団長にも考えがあるんだよ。」と言って、華麗に宥めるべき………………なんだけど。
正直、暇すぎて今は同意しかない。
それに、団長の意図を知ってる私からすれば、逆に何かあったら大変すぎてヤバい。
と、言うわけで……。
「………………トランプとか……………………する?」
「はい!是非!」
ふぅ…………。
良かった、ちゃんと言えた……。
やっぱり、どうでもいい人でないと、緊張ってするものだよね。
嫌われたくないし……。
「じゃあ…………………………っ!」
そうして、トランプを取り出そうとした瞬間、魔力探知に強烈な反応があった。
「嘘…………。」
「隊長?」
さっきまでは、何も以上はなかったッ!
でも………………でも…………。
今、このダンジョンの最深部には、二つの反応がある。
一つは…………まぁ、大した脅威ではないと思う。
問題は、もう一つの気配。
背筋が凍るほどの殺気を発し、有り余る魔力をダンジョン全体に撒き散らしながら、地上に迫る何か。
そうとは思いたくないけど…………多分、こいつが団長が言ってたやつ…………なんだろうなぁ…………。
だとしたら、私じゃあ絶対に勝てっこない。
というか、このままだと三番隊全滅するッ!!
私の異変に気づいたのか、カルメも表情を引き締める。
「ッ…………!三番隊、撤退ッ!」
「………………了解ッ!」
突然こんなことを言われたら、普通は何故か問いただすだろう。
しかし、カルメは何も言わず、速やかに念話で撤退を全隊員に伝達した。
撤退する場合のルート、そして目的地は、予めみんなに伝えてある。
でも…………。
「あれ?………………これ…………不味いかも…………。」
「え?」
いきなりの事で忘れてたけど、よく良く考えれば御屋敷を襲った人達って、団長ですら気づかないほどに気配を消すのが上手いらしい。
そう考えると、このもう一つの気配って…………。
「カルメ…………。」
「はい。」
「予定変更…………付き合って…………くれる?」
「………………はいッ!」
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次回の投稿は2025年4月3日を予定しております。
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