37.それぞれの思惑【3視点】
◆エレナ◇
「………………おっせぇな。リシェの奴、しくじったんじゃねぇだろうな……。」
リベラ軍の進軍を見ながら、バッティアートはそう不満をこぼした。
「見つかったところで、だがな。」
仮にシャーリィーが見つかったところで、現段階では何も出来ない。
今回の作戦は、まずリディア、シャーリィー、そしてリシェ率いる二番隊が、展開しているいくつものガルシア軍の部隊の中から皇帝のいる部隊を見つけ、そのうえでリディアの交渉をもってガルシア軍を撤退させなくてはならない。
そうでなければ、最悪こちらの戦闘に巻き込んでしまう可能性がある。
まぁ、最悪の場合は仕方ないがな。
だが、それ以前にそもそも我々はまだ肝心のサーシャを見つけ出せていない。
「それもそうだ!…………だが、何処にいる?」
「さぁな。だが、必ずこの戦場に現れるはずだ。」
恐らく、メラルダの予想は当たっている。
というより、そうでもなければ、わざわざ戦争など仕掛けはしないだろう。
奴らの目的は、この戦争で生まれる死者の魔力を集め、魂移術を行うこと。
だが、それでもなお疑問は残る。
それは、どうやって奴らは精皇国の皇族を納得させたのかだ。
――今の皇王は、皇帝には及ばない。
これは周知の事実であり、皇族なら尚更自覚していることだろう。
にもかかわらず、何故こうして戦争になっているのか。
無論、確かにサーシャの身体を乗っ取ることができれば、場合によっては皇帝にも勝てるかもしれない。
だが、それを皇族や上層部にそのまま伝えることはできないはずだ。
まぁ、皇族が愚かであったという話ならはやいのだが。
「そういえば団長、この付近にはダンジョンがあるとか言ってたな。そこんところは大丈夫なのか?」
「あぁ、付近とは言っても離れている。それに、あそこにはエリを向かわせているからな。」
「そうか……。」
まぁ、念には念をと言うやつだ。
万が一にも有り得んとは思うがな。
「そんなことを気にしている場合があったら、お前もサーシャーを探しに行け。」
「分かったよ。」
そう言うと、こいつは怠そうにそう言って、のんびりと去っていった。
バッティアートを見届た後、さらに集中して探知を展開する。
というのも、現在ほとんどの騎士は、私の指示で肉眼での捜索を行っている。
その理由は、下手な探知をした場合、エルフら、特にハイエルフにバレてしまう恐れがあるからだ。
これほどの距離をもってしても、下手な探知なら、ハイエルフでなくとも、ある程度のエルフなら気づく。
そしてハイエルフの場合、恐らく私や隊長格の面々以外の探知なら、全て見破れるだろう。
私でも、少しでも油断すればバレてもおかしくないほどだ。
エリを連れてこれれば早かったのだが…………。
…………いや、それはもう終わった話だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
「ほ、本当にやるんですね……?」
「今更何を言ってやがる?当たり前だぁ!何のためにここまで大金はたいたと思ってんだ!」
ふざけたこと言う部下を叱咤し、俺は現在唯一の希望である小娘を見た。
「このアトキンスの力さえあれば、もう皇帝なんぞに怯える必要もねぇのさッ!…………まぁ、聖獣を逃がしたのは致命的だがなっ!」
「それなのですが…………あの男達、本当に信用してもいいのでしょうか?」
小娘を抱いた女の部下が、心配そうに首を傾げる。
「はっ!信用なんてはなからしてねぇよっ!ただ利用しているだけだッ!それに、これだけは本物だからなッ!」
そう言って、俺は首に下げていたペンダントを二人に見せつけた。
「これは、あの魔術を発動するための魔道具だっ!この意味が分かるか?」
「つまり、だれでも使えると?」
「そのとぉうりぃ!」
これがあれば、複雑な術式を覚える必要も、馬鹿みたいに細かい想像をしなくてもいい!
魔力の精密な操作だって不要だっ!
ぜーんぶ、こいつがやってくれる!
そうして、俺は小娘の身体に触れた。
もうすぐ俺のものになる、若く強い、しかしそうとは思えないほどに儚く、幼い身体。
魔力過多なんて面倒な病にかかってわいるが…………幸い、この身体はアトキンスの家のヤツらのおかげでだいぶ回復している。
もちろん、それでも普通にほおって置けば直ぐに悪化するが………………俺は違う。
精霊と契約した俺ならば、この小娘の身体を有効勝つよできるっ!
こいつのように、せっかくの宝を粗末にはしない!
「さぁ!敵にも味方にも気づかれないように行くぞぉー!我々の夢のためにッ!」
「「はっ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆???◇
夢ねぇ…………。
その儚い夢が一体いつまで続くのか。
是非とも特等席で拝みたいところではあるのだが……。
「これも、俺の仕事か……。」
男達の気配が遠ざかって行ったのを確認し、テントの影から静かに移動を始める。
「それにしても、あの人は本当に恐ろしい人だ……。まさか、こんなことのために聖獣とアトキンス家を巻き込むとは。」
正気の沙汰ではない。
そもそも、普通の悪党ならアトキンス家と関わることは国を敵に回すのと同じだということくらいは知ってるはずだ。
にも関わらず、あの人はアトキンス家だけではなく、聖獣まで利用した。
全ては、あの人の娯楽のために。
「イカれてるよ、本当に。」
そうして、それを実行する俺も、相当イカレている。
まぁ、もう慣れたもんだが……。
「さて、次は………………マジかよ……。」
手元のメモを見つめ、俺は重いため息を吐いた。
いや、大体口頭で言われたから、いちいちメモなんざ見てなかったが…………これは聞いてないぞ?
「俺、マジで死ぬんじゃね?」
まぁ、かと言って断る訳にもいかないんだが……。
はぁ…………。
まぁ、それでもあの人とここにいるよりかはマシか……。
「行くか…………ダンジョン。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
「いた……!」
軍の最後方。
そこにいる貴族と思われるエルフの男に付き添う女の腕の中に、サーシャはいた。
これまで探知に引っかからなかったのは…………あのテントのせいか。
どうやら、相当高度な隠蔽の結界がかけられているようだ。
「まさか、こんなに堂々と出てくるとはな……。」
「ですが、この方がある意味効果的ですね。」
こいつの言う通り、下手な誤魔化し方をするより、ある意味こうやって堂々としていた方が、下手な不信感を仲間に抱かれることはないだろう。
それに、サーシャは未だ公の場には姿を見せたことがない。
つまり、サーシャを見て、アトキンス家の娘だと気づかれることはないだろう。
「どういたしますか?団長。」
「……………………。」
ここで、サーシャを助けるだけなら簡単だ。
だが、出来ることならリベラ軍とも戦わず、密かに終わらせたい。
まぁ、今頃別の場所で息を潜めているマイルズらは、すぐにでも助けたくてしょうがないだろうがな……。
「………………作戦通りにいく。お前は持ち場に戻れ。最悪の場合は、シャーリィーからの報告がなくても開始する。」
「了解!」
そうして、部下が次の配置に向かうのを見届け、私も行動を開始する。
今問題があるとすれば、それはやはりシャーリィーからの報告がないことだろう。
リベラ軍とは違い、ガルシア軍には皇主から、この件にアトキンス家が関わっていることが伝えられているはずだ。
皇帝も、流石に自分の民が相手の魔法の生贄になると知れば、撤退を選択するだろう。
だが、万が一ということもある。
その場合はガルシア軍諸共という風にはなってしまうが…………それでもこの魔法に攻撃力はないから大丈夫だろう。
そうなったら、後はこの魔法を使った後、マイルズが上手くシャーリィーを回収できるかどうか。
もちろん、あいつの力量なら余裕だろう。
もし、例外があるとすれば、あの時の侵入者か。
あの時は、この私でさえ奴の気配に気づかなかった。
そして、その原因は今もなお判明していない。
「結局、あの男もただ気配を消すのが少し上手いだけだった……。」
だが、あれで私が気づかなかったとは考えにくい。
「標的、目標地点に入りましたッ!」
「分かった。」
考えるのは後だ。
イレギュラーは、起こった後にでも対処すればいい。
シャーリィーからの報告も来ていないが、こればっかりは仕方ない。
『作戦を開始する。』
『はっ!』
合図と共に、現在この戦場にいる全ての部下から返答の念話が届く。
「ふっ………………。」
そうして戦場は、黒い霧に包まれた。
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次回の投稿は2025年2月25日を予定しております。
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