35.作戦開始
◆シャーリィー◇
「まだ、本調子ではないようだな。」
「あぁ、せいぜい半分程度か。」
「お二人共…………いつの間に……。」
いつの間にか傍にいたエレナ様とバッティアート様が視線をメラルダ様に向けつつ、興味深い言葉を交わす。
ここが騎士団の修練場である以上、当然といえば当然だけど、特にエレナ様に限っては、まさか見にいらっしゃるとは思いもしなかった。
「フッ…………!。」
その瞬間、メラルダ様が地を蹴り、先ほどとは段違いの速さで男に迫った。
「ッ………………。」
そうして、その勢いのまま、強烈な拳が男を襲う。
――パリーン……ドガァァンッ!!
「おいおい、今の…………。」
「あぁ、目で追うのもやっとだったぜ。」
「あんな子供が、これほどの……。」
騎士達が再び騒がしくなる中、踏ん張りきれずに吹き飛ばされた男は、呆然と拳を受け止めたはずだった自身の両腕を見つめた。
男は、確かにその威力の脅威に気づき、防御魔法を貼りつつ、腕を交差することで身を守ろうとした。
しかし、メラルダ様の一撃はその魔法すらもうち破り、防御体勢であったはずの男を吹き飛ばして見せたのだ。
「………………まだ、魔化をする気はありませんか?」
「…………ふっ。いや…………。」
その瞬間、男の魔力量が急激に膨れ上がり、その余波が周囲を襲った。
それは、おそらく気合いの現れ。
あの時はこのような余波がなかったことを考えると、恐らく男は、メラルダ様にここからは本気だということを伝えているのだろう。
男の足元が徐々に蛇のそれへと変わり、身体の所々に鱗のようなものが出現する。
「気が変わった、本気で相手をしてやる。」
「そうでなくっちゃ。」
そう言ってメラルダ様は手にある双剣を捨て、拳を構えた。
それに習うように、男も短剣を捨て、手刀を構える。
双方の威圧、そして膨大な魔力が膨れ上がり、上空で二つの魔力が衝突する。
そして、二人が同時に地を蹴った。
――ドガァァァンッ!!!
その衝撃は地を揺らし、その余波は熟練の騎士でさえ踏ん張らなければ吹き飛ばされてしまうほどに激しいものだった。
これほどの威力、勝敗はどうであれ、双方無事で済むはずはずがない。
騎士達の誰もが、そう思った。
しかし…………。
「「ッ………………!?」」
その二つの攻撃は、一人の手によって受け止められていた。
「双方、ここまでだ。」
衝撃の中心。
そこに、余裕の表情でエレナ様は立っていた。
片手で男の手刀を掴み、もう片方の手でメラルダ様の拳を受け止めている。
「はぁ…………、シャーリィー。」
「え?あ、はい!」
「お前は審判だろう。二人の防御結界を常に確認しておけ。」
「はっ!」
エレナ様に指摘され、慌てて二人の防御結界を確認する。
結界は…………二人とも、既に破壊されていた。
「なっ…………。」
「メラルダが力んだ時、そして、こいつが魔化した時。二人は自ら結界を破壊した。…………つまり、メラルダ、お前の負けだ。」
「っ…………。」
確かに、ルール通りであれば、負けたのは先に結界が破壊されたメラルダ様だ。
でも……。
「…………いや、負けたのは俺だ。」
すると、突然男はそう言って、メラルダ様に歩み寄った。
「あの時、もしお前の邪魔がなければ、俺は恐らく負けていた。ルールなんて関係ない。これは、俺とこいつの勝負だからな。」
そう言って、男は乱暴にメラルダ様の頭を撫でた。
「ちょっ、…………どういうつもり?」
「丁度いいところに頭があったんだよ。」
「はぁ?」
「やめてよ!」と抵抗するメラルダ様の頭を、言われてもなお撫で続ける男。
その光景は、牢屋にいた時とは異なり、まるで一人の父親のよう。
「贅沢暮しの餓鬼かと思ってたが、どうやらそうでは無いらしい。おい、そこの女。」
「何だ?」
「こいつは、ただの弱者じゃない。」
そう言って、男は初めて笑った。
まるで、自分の娘を誇るかのように。
「ふっ…………。それくらい知ってる。」
それに影響されたのか、エレナ様もそうやって軽く笑みを浮かべると、ボソッとそう零して、この場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
――そうして作戦当日
「いいかッ!今回の敵は暗殺者ギルドッ!しかし、戦争に介入する以上、実質二国を相手にするも同義だッ!」
エレナさんの言葉が、屋敷の庭全体に響く。
今この場には、アトキンス騎士団の第一部隊、第二部隊、そして、シャーリィーを含む作戦に参加する使用人など、総勢千人をも超える人々が集結し、エレナさんの言葉に耳を傾けている。
「………………もう行っていいか?」
「まだに決まってるでしょ!」
つまらなそうにそう言う男、バチストに対し、私はそう言ってキッと睨んだ。
「そうか……。」
いや、まぁ、私も少しは思うよ?
これいる?って。
実際、海賊時代もこういうのたまにあったしね。
そのたびにカリーナと、「これいる?」「いらない。」などと話した記憶がある。
まぁ、その時は話してたのがあのエロフだったからってのもあるけどね。
「また、今回の任務はあくまでサーシャの救出にあるッ!戦争ではないッ!!よって、無駄な争いは極力避け、自分の命を優先せよッ!!」
『はっ!!!』
やはり、これだけ人がいると、言葉一つでもその迫力は桁違いだ。
あの時、変態としか見ていなかったバッティアートも、こうして見ると歴戦の騎士って感じがする。
「それではこれより、作戦を開始する。みな、健闘を祈る。」
そう言うと、エレナさんは舞台を降りた。
その後、騎士達は各々の役割を果たすために、屋敷を出て行った。
「さて、私達も行きますか。」
「あぁ、そうだな。」
私達の狙う箇所は全部で四か所。
本当は八か所あったらしいのだけど、残りの半分は、王国騎士団の人達がやってくれるらしい。
ほら、王国騎士団は他にもやることが多くあって、いくら貴族の子供が誘拐されたとて、そう大胆には動けないからね。
それに、国を代表する騎士団が戦争に介入したとなったら、それこそ国同士の戦争になっちゃうから。
それでも、王様はいくらか力になりたかったようで、その結果、本来八ケ所潰すはずだった拠点の半分をやってくれるらしい。
………………まぁ、そもそもなんでこの国にこんなに残ってるのって話でもあるんだけどね。
一度全部潰したとか言ってたのに……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「な、何者ッ!」
「そのセリフはもういいよっ!」
「げふっ……。」
さて、これで二ヶ所目か……。
というか、奴隷商のボスってなんでどいつもこいつも第一声が同じなんだろうね……。
そんなこと言う前に、とっとと戦闘態勢をとったらいいのに……。
「さて、ここに捕らわれてる人達は騎士団に任せて、私達は次だよ。」
「……………………。」
「?…………聞いてる?」
「!…………あぁ、そうだな。」
うーん?
なんか、変。
なんというか、落ち着きがない。
まるで、迫る何かに怯えているような、そんな感じ。
「大丈夫?」
「問題ない。」
「そう……。」
まぁ、本人がそう言うのなら、それでいっか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いない…………。」
「いい加減にしてっ!」
最後の拠点を潰し終えた時、次第に落ち着きの無くなっていたバチストに、私はとうとう声を上げた。
「二ヶ所目の時、問題ないって言ってたよね!?でも、さっきから貴方は、捕まった奴隷達を見ては、落ち着きがなくなってきてる!」
「………………。」
私の指摘に、ついに黙りとなってしまったバチスト。
しかし、これを許せば、この後万が一の事態になってもおかしくない。
その余裕のなさは、戦闘においては致命的な穴にもなりうるからだ。
そういえば……。
――だが、捨て駒の情報など、たかが知れている。
――………………そうですね。
――………………?
――人質ですよ。
「もしかして、誰かを探してるの?」
「っ………………。」
その言葉に、バチストは分かりやすく反応した。
「………………………………。もしかして…………それが、エレナさんとの取引?」
「………………。」
「……………………。私を護衛する変わりに、奴隷として捕らわれている貴方の知り合いを助けられる……とか。」
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次回の投稿は2025年3月17日を予定しております。
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