33.取引【2視点】
◆メラルダ◇
「「……………………。」」
「え、えーと………………。」
私、なんか不味いこと言っちゃったかな?
もしかして……身体の乗っ取りって禁句だったりしたのかなぁ……。
それとも、言葉が出ないほどに呆れてるとか?
いや、確かに今までもそんなことはあったし、それに今回の身体を乗っ取る魔法って禁忌なんだよね?
っていうことは、それだけ国が厳重に管理しているわけで…………もしかして、私が今言ったのって、結構失礼な事なんじゃ……。
「……あ、いや、その……」
「それなら、いけるかもしれません。」
「だよね、やっぱり無理だよ……………………ん?」
え?
いけるの?
「私は…………精霊と契約したことは…………無いけれど、召喚属性の契約魔法は身体ではなく、その者の魂を結び付けるものだと聞いたことがあるわ。」
「……………………つまり?」
そう言って、リディアの方を向くと、彼女は驚いた様子で言った。
「…………それ、当たってるかも……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そうか、その手があったか。」
あの後、私達は走ってエレナさんの元へと向かい、私が説明したものを、リディアがより詳しく説明してくれた。
「…………エレナ殿、一つ聞いてもいいかしら?」
「あぁ、なんだ?」
「何故、これを私達は見逃していたのかしら?」
それは、純粋な疑問だった。
考えたところで答えはなく、「気づかなかったから。」と言えば、そこまでの質問。
しかし、その問いを受けたエレナさんの表情は、険しいものになった。
「………………それは、私達が無意識のうちに、禁忌認定された魔法を除外していたからだ。」
え……。
「あぁ、メラルダは魔法には詳しくないのよね。説明してあげる。」
「そもそも、禁忌魔法っていうのは、四神同盟の四柱が禁忌と認定した魔法のことよ。特に無くても問題がなく、しかし、存在するだけで害をもたらす魔法や魔術のこと。例えば、さっきの魂移術などね。」
「だから、これらの魔法は魔法協会が管理しているの。勿論、魔法も魔術の想像力だけど、何を想像するかが具体的に分からないと、使いようがないでしょ?」
「それに、仮に禁忌魔法を使用すると、四神同盟の脱退の可能性はもちろん、四柱のいずれかの国から、その者に制裁が下る。これは、避けようとしても避けられないことよ。」
「それに、こんな魔法はハイエルフでさえも一部のものしか知らないものだ。シャーリィーもそうだな?」
「はい。」
「つまり、この魔法を使用する策なのであれば、恐らくその知恵を授けた者がいる。」
授けた者?
それって……。
「まぁ、この件は今はいいだろう。私からも、お前達に伝えておかなければならないことがある。今回の件、その裏に暗殺者ギルドの存在を確認した。」
「暗殺者ギルド…………。」
暗殺者ギルド?
それって確か、数百年前に壊滅したと言われている、あれのことかな?
「あのメデューサの情報だ。魔法でその情報だけ封印されていてな。これまで気づかなかった。」
確かに、自害する手段すら持たず、重要な記憶も持っているなんて、そんな都合のいいことはないだろうなとは思ってたけど……まさか本人の記憶そのものを封印してたなんて……。
「仕方ないわ。記憶の封印と言っても、ただの封印ではないのでしょう?あなたが今まで気づかなかったのだから、他の者がやっても、同じことだわ。」
確かに、そもそもこの魔法を使える人自体、この屋敷でも数人しかいないらしい。
その中でも、一番腕のあるエレナさんがやってこうなったのだから、他の人がやっても似たようなことになるのは、目に見えて明らかだ。
「慰めは不要だ。それに、他の情報はほとんど消されていてな、これくらいしか分からなかった。」
「なるほど……。」
でも、なんで暗殺者ギルドという情報だけは覚えてたんだろう?
情報を消すなら、その情報も消してしまえば良かったはずなのに……。
「とりあえず、これで黒幕は判明したわね。」
「…………っていうことは、サーシャちゃんの身体を乗っ取ろうとしているのも、暗殺者ギルドの人?」
「いや、それはないだろう。もし仮にそうだとすれば、このような戦争を仕向ける意味はないからな。」
え……でもそれなら、暗殺者ギルドの目的は何?
それに、最初からサーシャちゃんを攫うのが目的なら、聖獣の子を攫う意味はなかったはず……。
「話はここまでだ。私はこれから、ロラを見に行かねばらならないからな。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、この件を踏まえた会議により、魂移術は戦争中に行われる可能性が高いことが明らかになった。
その根拠は、魂移術に必要な魔力の量だ。
魂移術には、莫大な魔力量を必要とし、その量は、エレナさんでも負担しきれない程の量だという。
そんな魔力量を負担できる一個人など、そういるはずもない。
そして、それに必要な魔力を集める方法が、死者を作ること。
人は死ぬと、体内の魔力が体外に放出される。
その魔力を利用して、魂移術をしようとしてるというのが、マイルズさん達の出した結論だった。
「そうして、私達はその戦争を止める。」
「そんなこと、本当にできるのかな?」
先程マイルズさんが教えてくれたことを整理しつつ、私はリディアに素直な疑問を吐いた。
「魔帝国は大丈夫でしょう。何せ私が出向けばいいだけですもの。」
まぁ、確かに皇主が戦争を止めろと言ったら、辞めるしかないだろうけど……。
「でも、戦意のある人達を、そう簡単に止められる?」
「止める止めないじゃない、止めなきゃいけないの。こんな無駄な戦争で、民の命を失うわけにはいかない。」
これが、王族なのだろうか……。
私には良くわかないけど、こんな小さいのに、言ってることは下手な大人よりも、よっぽどしっかりしてる。
――皇主か……。
「…………今私が魔帝国に行けたら……。」
「…………。」
「分かってるわ。今私が下手に動けば、サーシャさんの安否がより不安定なものになる。だから、分かってる。」
これは、決して誰かがお願いしたことではない。
命を救われた恩を返す為と、彼女は自ら帰国するのを耐えているのだ。
今帰国すれば、少なくとも自国の民の命くらいは、守れるかもしれないのに……。
「今日はもう遅いわ。また明日、話しましょう。」
「そうだね……。」
部屋を出ると、そこには外に控えていた王国騎士団の方々が待機していた。
リディアは王族だから、こうしていつも彼らを連れて、王城から来てくれている。
「それじゃ、また。」
「えぇ、おやすみなさい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
「………………何の用だ。」
「………………私と、取引をしないか?」
「取引だと?」
メデューサが私を睨めつける中、私は淡々と話を続ける。
「お前の事情は大方理解した。…………だが、同情はしない。」
「………………そうか。」
「だが、利用することはできる。」
そうして、私は懐から一つの指輪を取り出した。
「これは、奴属の指輪だ。」
「………………。」
「お前にはこれで、とある少女を守って欲しい。」
「守る?」
まぁ、そういう反応になるだろうな。
私も、おかしくなってしまったのだろうか。
貴重な捕虜を、こんなことに使うなんて……。
「お前には、メラルダという少女の護衛をしてもらう。」
「待って下さいッ!!」
そのとき、ふいに大声が室内に響いた。
「なんだ?」
声は、私の背後に控えていたシャーリィーのものだった。
「メラルダ様には、私がついております。そんな男の護衛など、不要ですッ!」
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次回の投稿は2025年2月11日を予定しております。
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