32.仮説
――サーシャちゃん誘拐から一ヶ月がたった。
しかし、その間特に大きな進展があったわけではなく、強いていうのであれば、私とマイルズさんが正式に協力関係になったことくらい。
――コンコン。
「…………いいで…………ゴホン。いいよ。」
「失礼致します。」
部屋に入ってきたのは、最近ますます仲良くなったシャーリィー。
「皇主様がお待ちです。」
「うん、分かった。」
ただ、いつも通り真面目なシャーリィーは、基本私の前でも仕事モードを崩さない。
だから…………。
「ねぇ、シャーリィー。」
「…………なんでしょう?」
「私ね、この間サマダさんのお店のケーキを買ったんだけど…………一緒にどう?」
「是非ッ!!!……………………はっ!」
まぁ、こんな風に、シャーリィーは甘いものに目がないのだ。
いつも通り、顔を真っ赤にするシャーリィーを見て癒されつつ、わざと私は意地の悪い笑みを浮かべた。
「その変わり、その時くらいは敬語なしね?」
「うっ……………………わ、わかりました……。」
「うん!楽しみにしてる!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………………メラルダ…………あなた、またシャーリィーを引っ掛けたわね……。」
シャーリィーを連れて目的の部屋に入ると、早々にリディアが呆れ気味にそう言ってきた。
「引っ掛けてないもん!釣っただけだもーん!」
「同じよ、それ…………。」
「もう!リディア、嫉妬してるの?」
「なっ……!……そ、そんなわけないじゃないっ!」
昔はしっかりしてるなーと思っていた皇主も、四週間も経てばこの通り。
私の立場がしっかりと定まったことで、関係を築いてもいいと判断したのか、なんとリディアから私の部屋に訪れてくれたのだ!
いやー、あの時はビビったねぇ〜。
私なんかした?
って、すっごいドキドキしたもん!
でも、話してみると意外と面白いもんで、ちょっとコツを掴むとこの通り、コロコロと表情を変える可愛い少女に大変身。
いやー、お姉さん感動しちゃった!
このキュン度はカリーナちゃん以来かなー。
もうね、可愛いッ!
って感じ!
「そうだねぇ〜、可愛いねぇ〜リディア。」
「子供扱いしないでッ!」
ぷいっ!
っと、効果音がつきそうな怒り方をするリディア。
うん、可愛い……。
「………………ゴホン。そろそろよろしいですか?メラルダ様。」
「いや〜、久々だからつい……。」
まぁ、こんな風に話せるのも、この御屋敷じゃあ、もう私達くらいだもんね……。
「……………………アトキンス夫妻の様子は?」
「………………マイルズさんは…………元から感情の読みづらい人だから、分からない。………………でも、オリビアさんは、だいぶ衰弱してる。」
「………………そう。」
あの日から、マイルズさん達はできる限りの手を尽くした。
騎士団を国外にまで回したり、ギルドに依頼して指名手配をかけたり。
他にも、捕まえたメデューサの脳内を覗き込むことまでした。
しかし、何をやってもサーシャちゃんを攫ったあの侵入者達については何も分からず、とうとう両国の戦争も、まじかに迫っていた。
「あの手口は暴けたのに……。」
「そうだね……。」
魔法に詳しいリディアの手を借り、私達はなんとかして、一つを除き、あの日の謎は全て理解した。
しかし、その結果分かったのは、魔術に長けた者が相手にいるということのみ。
次も同じ魔術を使ってくれる保証もない以上、これを喜んでいいのかと言われれば、私にも分からない。
「………………それで、私を呼んだということは、何か用があるのよね?」
「…………うん。一緒に考えて欲しいことがあるの。」
「考えて欲しいこと?」
そう言って首を傾げるリディアに、私は手で一を作った。
「何故、サーシャちゃんが必要なのかだよ!」
「…………………………。」
いや、言いたいことは分かる。
「今更そんな質問?」「そんなこと、とっくの昔に結論が出てるじゃない。」とか言いたいのだろう。
「…………今更そんな質問?そんなこと、とっくの昔に結論が出てるじゃない。」
ほらね……。
確かに、だいぶ前にマイルズさん達はこの問題に対し、複数の精霊と契約をさせ、戦争にかり出すためという結論を出した。
勿論、どうやって寝ているサーシャちゃんと契約されるのかは分からない。
しかし、複数の精霊との契約は、実際にエレナさんも出来ている以上、サーシャちゃんにも不可能なことでないという。
そして、これについて私が疑問に思っていた、そもそも今のシャーリィーちゃんは精霊と契約できるの?という問題についてだけど…………。
――結論、できないことはない。
ただ、これに関しては本当に精霊次第となり、可能性はかなり低いらしい。
更に、複数の精霊と契約するには一夫多妻のように、精霊達の仲がある程度良好でなくてはならない。
そして、サーシャちゃんがその精霊達全員からの信用を勝ち取る必要もあるという、かなり難しさ。
とりあえず、サーシャちゃんが目覚めなければ始まらない条件ばかりである。
しかし、ロラさんに聞いた話では、現在のサーシャちゃんは、補助なしで目覚めることが難しいらしく、仮に補助なしで目覚めさせた場合、痛みと苦痛から、生命にも関わる可能性が高いとか……。
要するに、普通に考えて相手に聖獣がいない今の現状で、シャーリィーちゃんを戦争に借り出すのは不可能なのだ。
でも、だからと言って相手に何も策がないとは、私には到底思えなかった。
「…………でも、それが無理矢理な答えだってことくらい、分かってるでしょ?」
「…………それは……。」
「確かに、ハイエルフならその方法くらいは知ってるかもしれないけど、それよりも他の方法があると考える方が、まだ現実味のある話じゃない?」
「…………でも、マイルズ殿や、他にも魔法に長けた者達がこの屋敷には多くいる。そんな彼らの知識を持ってでさえ、その方法以外考えられなかったのよ?」
何も、その件に関してはマイルズさん達だけで結論を出した訳では無い。
アトキンス家の関係者はもちろん、王族や王国騎士団。
それに信頼できる一部の魔法に長けた貴族すら招いて、この件について議論した。
しかし、博識な彼らの知識を持ってでさえ、このような結論しか出なかったのだ。
「………………もし」
「前も言ったけど、もし、なんて曖昧な例え話をしても、状態をややこしくするだけよ。」
確かに、「もし」なんて例え話、上げたところできりがない。
それに、魔法について詳しくない私の考える仮説なんて、他の人もとっくの昔に思いついているはずだ。
「分かってる。だから、この話は私とリディア、そしてシャーリィーの三人だけにしか話さない。だから、ね?」
「………………またなの?」
「お願い!」
現状の結論とほぼ同じくらいに滅茶苦茶な仮説であることは分かってる。
だからこそ、みんなには言わずに、二人にだけ聞かせている。
ちなみに、これでもう十回目だ。
「…………私にもケーキね……。」
「勿論っ!」
まぁ、こんな感じで、なんやかんや言ってリディアは私の話に耳を貸してくれる。
その上、この後三人でお茶会が出来るのだから、私にとっては万々歳だ!
「…………それで、今回はどんな空論を聞かせてくれるのかしら?」
「うん!それはね、サーシャちゃんの身体を乗っ取る方法があるんじゃないかって!」
「……………………ごめん、なんて?」
ポカンとした様子でききかえしてくるリディアに、私はもう一度自信を持って答えた。
「だから、サーシャちゃんの身体を乗っ取ることがてきれば……。」
「待って。今まで沢山の仮説を聞いてきたけど、これが一番現実味がない話よ?」
「えっと……。」
「だって、そもそもサーシャさんは、起きれば激痛が走る程の魔力過多症を抱えているのでしょう?そんなもの、いくら膨大な魔力を得られるからって、進んでなりたい人なんていないわ。それに、他人の身体を乗っ取る魔法なんて、禁忌中の禁忌よ?そう用意に習得できるものではないわ!」
「もう、もったく……」とため息を吐くリディアの迫力に圧倒されつつも、私は申し訳程度に付け加えた。
「その…………もし精霊と契約している人が乗っ取ることができれば、不可じゃないかなって……。」
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次回の投稿は2025年3月7日を予定しております。
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