30.皇主
「はぁ…………。」
いやね、シャーリィーちゃんを助けるっていうのは、あの夜にちゃんと決めたよ?
でもさ、皇主は別でしょ……皇主は……。
だって、捕まってただけでしょ、その人。
ならさ、関係なくない?
別に、捕まってた他の人でも良くない?
…………分かってるよ!
良くないよね!
だって、魔帝国と精皇国の戦争だもんねッ!!
そこの皇主なんだから、絶対何か知ってるもんねッ!!
…………あー、面倒だなぁ……。
「し、失礼します……。」
そうして部屋に入ると、二人の女騎士を背後に連れた一人の少女が、長椅子に腰を落ち着かせていた。
年齢は、多分私と同じくらい。
しかし、大人びた雰囲気とその存在感は、皇主の名に恥じないものだった。
「………………。」
少女は何も言わず、しかしその曇りなき眼光は、囚われていたとは思えないほどの圧を感じる。
「さて、初めましてかな?魔帝国の皇主よ。」
「…………えぇ、そうね。」
「私の名は、エレナ・モナンジュ。アトキンス騎士団の騎士団長をしている。」
「…………私は、リディア・ガルシア。ガルシア魔帝国の皇主よ。」
私ですら、エレナさんと初めて会った時は、例えそれが敵意でなかったとしても、多少の緊張はしていた。
しかし、この少女は私と同じくらいの年齢にも関わらず、緊張した様子を一切見せず、堂々とエレナさんの瞳を捉えている。
――これが、皇主か……。
昔、仲間に聞いた事がある。
魔帝国はその昔、皇帝の娘を「皇主」ではなく、「公主」と呼んでいたと。
しかし、今代の帝王になって、その呼び方は改められた。
その理由は一つ。
――今代の皇帝の娘が幼くして全員、王と呼ぶに相応しい存在であったためだ。
昔は、何それ?って思ってたけど、こうやって相対して見ると、それも納得だ。
力は私くらいだけど、それ以外の全ての要素は、王になるに相応しい存在であることは、疑いようもない。
「エレナ・モナンジュ殿。かの名高き英雄にお会いできて光栄よ。」
「私もだ。」
そうして、二人は軽く握手を交わす。
しかし、その全てが、わたしには形だけのもののように感じられた。
「さっそくだが、皇主よ。今の現状については、知っているか?」
「いいえ。…………まぁ、狙いは戦争でしょうけどね。」
「………………あぁ、そうだ。」
皇主は、何でもないことのようにそう言うと、呆れた様子で溜息を吐いた。
「本当に、無駄な争いよね……。」
「…………皇主ともあろうものが、それを口にしてもいいのか?」
「えぇ。だって、魔帝国は戦争を望んでいないもの。」
え?
「………………確かに、ダークエルフとエルフの因縁は深いわ。でも、それは過去の話。少なくとも、ダークエルフ達は戦争ではなく、関わりと断つことを望んでいる。」
「…………そうか。」
私の認識とは、だいぶ違うけど……。
皇主の言うことなのだがら、それは間違いないのだろう。
それに、よく良く考えればエルフとダークエルフの戦争はダークエルフだけではなく、魔帝国全体に影響を及ぼす。
いくら、ダークエルフを同じ民と思っている国民でも、これが何度も続けば厄介者と見てしまっても不思議では無いだろう。
だから、ダークエルフがそう思うのは納得だけど……。
「だが、精皇国は違うのだろう?」
「………………えぇ、勿論。今代皇王と、その周囲は戦争を望んではいないわ。ただ、一部の過激派がね……。」
その後の話によると、実は先代皇王の死去の後、皇帝自ら精皇国に訪れ、和解を申し出たと言う。
しかし、現皇王と、それを支える周囲はともかく、一部の過激派の貴族らがそれを認めなったという。
勿論、本来は過激派など黙らせればいい。
しかし、当時の皇王にはその力がなく、それによって起こりうる内乱を危惧していた。
だからこそ、皇王はその申し出を断ったという。
「あの時の判断は、間違ってはいない。そう、皇帝は仰っていたわ。」
「………………まぁ、そうだろうな。」
「…………ただ、正しくもない。とも仰っていたけどね。」
その後、皇帝と皇王は密かに情報交換に行いながら、なんとか戦争が起きないようにしてきたという。
しかし、その情報交換が、ある日突然途絶えた。
「理由は分からないわ。ただ、皇帝はこれを戦争の意思ありと見て、警戒を強めてきた。それに追い討ちをかけたのが……………………私の誘拐…………。」
「なるほどな。」
やはり、だから皇主を誘拐したエルフは、あえて場内の者達にその存在を見せつけたのだろう。
全ては、魔帝国の戦争意識を煽るために。
「精皇国ついては分からない。ただ、あっちでも似たようなことがあったのは、確かなようね。」
「…………つまり、何者かが、この戦争を仕組んでいると?」
「えぇ。」
もしそうだとしたら、やはりそれをしているのはエルフの過激派?
でも、たかが貴族がここまで出来るだろうか?
辛うじて、奴隷商や、あの医者などは動かせると思う。
しかし、あのメデューサ。
私達を欺き、サーシャちゃんを誘拐した元凶。
そして何より、聖獣の目を欺き、聖獣の子を誘拐した者。
これらの者達を、たかが貴族が雇うことなど、本当に出来るのだろうか?
「さて、今度はそちらの番よ。ここまで何があったか、あなた達の内情を含めて聞かせて。」
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