04.強者【2視点】
◆メラルダ視点◇
「おいおいっ!ここは見つからねぇ島なんじゃなかったのかよっ!」
「うるさいわねっ!愚痴愚痴言ってる暇があったら手を動かしてっ!」
甲板に出ると、海賊達が動揺しながらも、なんとか出航の準備をしている最中だった。
ここの周囲に他の海賊船はないから、比較するものはないけど、恐らくこの緊急事態の中でここまで動ける船はなかなかないと思う。
「あの人は誰ですか?」
「あの子はナタリア。この船の航海士さ。」
この緊急事態の中、適切な指示を出し、海賊達を動かしている一人の女性。
短髪の金髪に、鋭い瞳。
そして、全体を見渡す観察眼。
今、どこにどれくらい人が不足しているのか、今優先すべきものは何か。
そんな現状把握を、恐らく彼女は瞬間的に行っている。
「僕らも行くよ、まだ距離はあるみたいだけど、騎士団船は確実に近づいてるからね。」
「行くって、どこにですか?」
「あぁ、それは、偵察さ。」
「……………………。」
すっごく嫌な予感がする…………。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「騎士団だぁ!!!」
「殺せぇぇ!!!こんなところで、捕まってたまるかぁぁぁ!!!」
「………………戦場ですよね??」
「そりゃね。偵察ってそういうものでしょ?」
「普通事前に言いますけどねっ!!!」
あの後、直ぐに私の足元から淡い光が現れた。
その時点ですっごく嫌な予感がしたんだけど、なんとこれが転移魔法だったのだ。
そうして転移した先は草むらの中。
どこに転移してんのっ?!
と思いながら、立ち上がると、なんと目の前の海では戦闘真っ最中。
幸い海での戦闘だから気づかれることは無いと思うけど、それでもたまに陸まで魔法やら砲弾やらが被弾してくる。
――ドァァン!
ほら、こんな風に。
「幾ら陸の戦いでないとはいえ、ここまで近いと不味くないですか?!」
「いや、大丈夫だろう。だってあの海賊団、強いからね。」
「強いって……」
そうは言っても、流石にこれは無理でしょ……。
船一隻の海賊船に対し、騎士の船と思わしきのもは最低でも十隻。
いや、奥にもいるから十五隻か。
流石にこれほどの戦力差なら、いくら個が強くても船自体を潰されれば終わる。
――ドゴォォォォン!
しかし、私の予想を裏切るように、突如一つの敵船が大破した。
そして船は中心から、海に沈んでいく。
「え?」
「あそこ、見てごらん。」
そう言ってエルフくんが指した先。
沈む船から、別の船へ飛び移った人影。
――ドゴォォォン!
そして、その人影が飛び移った船がまた、先の船と同じように大破した。
「これは……。」
「こいつさ。」
すると、エルフくんはそう言って一つの紙を見せてきた。
それは、手配書。
その中央には大柄の不気味な笑みをした男が写っていた。
名前は、アートル・マグレブ。
懸賞金は………………白金貨一枚?!?!
「ば、化け物ですか……なんですか、この金額……。」
「お金に関する知識はあるんだね、君。」
「当然です、最低限の知識くらいはありますよっ!」
ん?
そういえばなんで私、そんなこと知ってるんだろう?
いや、今はそれどころじゃなくて!
――ドゴォォォン!
――ドゴォォォン!
――ドゴォォォン!
その轟音ともに、敵船は次から次へと大破していく。
しかし、それに対し、海賊船の方はどれだけ魔法や大砲を受けてもビクともしない。
まるで、見えない何かに守られているような……。
「………………結界?」
「そう。魔法使いが防御結界を張り、その隙にアートルが暴れる。個の怪物がいるからこそ出来る戦い方だよ。」
「怪物…………。」
確かに、敵船を一撃で破壊して周れば、反撃も少なく、効率よく敵船を落とせる。
ましてやあのアートルとかいう男は恐らく飛び移る勢いのまま船を破壊してる。
それなら、恐らく相手側は反撃の機会すらないだろう。
それどころか、反撃しようにも防がれて、そのままあの破壊力を直に食らって死ぬ。
でも……。
「エルフくん、あの人、大丈夫でしょうか?」
「…………エルフくんって、僕のことかい?」
「他にいないでしょう。自己紹介すらしてないエルフ君が悪いです。」
「それもそうだね。それで、何を心配しているんだい?」
「あの人、いつか死にますよ?。」
あの男は、確かに接近戦においては最強とも言っていい。
その拳から放たれる破壊力は、そう誰でも受け止められるものじゃない。
でも、逆に言えばそれさえなんとかなれば、どうにでもなる相手だ。
「…………流石だね。カリーナからも聞いていたけど、確かに戦闘の才能は一級品だ。」
「それ、失礼ですよ。だからモテないんですよエルフくん。」
「な、そ、そんなことないさ!僕だって女性の一人や二人。」
「それなら、今エルフくんが頑張って見ている、あの海賊船の胸の大きい女の人のことはどう説明しましょう?」
「ぐぅ……。」
「エロフくん、偵察ならしっかりしましょうね。」
「わ、分かってるよ!!」
まったく、男というのは……。
それだけ魔力があるのに、その魔力を女の胸を見るために目に注ぐとか、エロフくん欲求不満なのだろうか。
これは、エリーヌさんに相談しなければ。
――ゾクッ!!!
「――っ。」
突然、強烈な悪寒が全身に走った。
これが何かは、分からない。
でも、本能というべき何かが、ここは危険だと告げていた。
今すぐここを離れなければ、命はないと。
「………………、エロフくん。」
「誰がエロフだ!…………って、どうしたんだい?」
「今すぐここから離れましょう。」
「ん?」
「早くッ!!!」
「っ、分かった。行こう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆U視点◇
「逃げましたね。」
「………………そうか。それで、やれるのか?」
「えぇ。もちろん。」
騎士達の船の中の、とある一隻。
その甲板にて、長い黒髪の男がそう問いかけた。
それに対し、青髪の青年はそう応じると、一人船から飛び出す。
その先には一隻の船。
そしてそれはまさに、今暴れまわっている海賊、アートルの次の標的となっている船であった。
「アートルが来るぞッ!!」
「備えろッ!!絶対に船に近づけるなッ!!!」
「いや、皆さんは中に避難を。」
騎士達の声が飛び交う中、その船へ着地した青年の声が魔法のように響いた。
「フェオドール様っ!!」
「ここに居ても構いませんが、少しだけ船が揺れますから、念のため中に避難を。」
「畏まりました。お前らッ!中に走れっ!!」
一人の男の声に、騎士達は船内へと駆けだした。
端から見れば、ただの敵前逃亡。
しかし彼らは、それが今できる最善であることを十分に承知していた。
「さて、やりますか。」
そうして青年が持ったのは、一本の木剣。
彼はそれを軽く振ると、そのまま一気に船をかけ、飛んだ。
「はっ!馬鹿がッ!!まとめてぶっ壊してやるぜッ!!!!」
アートルがそう叫びながら上空で拳を振りかざす。
先程から、この拳で何隻もの船が犠牲になった。
「はっ!」
しかし、その声とともに青年の振った木剣は、その拳を粉砕した。
鈍い音とともに、男の拳が木剣の形にへこみ、大量の血が溢れ出す。
「ふんッ!」
そして、男が激痛を感じるよりも早く、青年は一回転し、そのまま真上から脳天に足を振り下ろす。
――…………ドッシャヤヤ!!
アートルは何も言えぬまま高速で落下し、海に叩きつけられる。
その反動で波が大きく揺れ、大きな水柱が上がった。
「さて。」
そう言って青年が落下中に身を翻し、空中を蹴ると、まるで壁でもあるかのように角度を変え、その方向へと飛翔した。
その先は、アートルの海賊船。
「ふっ。」
――バリ―ン。
そして青年が海賊船の手前で木剣を振るうと、そこに貼られていた結界は、木端微塵に粉砕した。
「さて、大人しく投降してください。」
「な、何もんだよッ!!あんたっ!!」
海賊達が動揺する中、一人の海賊が青年に叫ぶ。
それに対し、青年は困ったように頬をかいた。
「僕はまだ名乗るほどの男ではないのですが……そうですね。覚えておいてください。」
そう言うと、青年は木剣を鞘にしまい、腰に下げていたもう一つの剣を抜いた。
それは、先の木剣とは異なる、真剣。
青年はそれを海賊達に向けると、恐怖すら感じるほどの笑顔で言った。
「私の名はフェオドール・ドルレアク。未来の王の剣となる男です。」
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