28 .足りないもの【2視点】
◆オリビア◇
まさか、彼女がこんなことを聞いてくるなんて、想像もしていなかった。
初めて会った時の彼女は、純粋で、好奇心旺盛な年相応な子供。
ただ、それとは裏腹に、年に似合わぬ冷静さも持ち合わせていた。
そんな子供が私に今、家族について問うてきている。
――ほんと、不思議ね。
「私はね、家族っていうのは、絵と同じだと思ってる。」
「絵…………ですか?」
「そうよ。」
そうして、私は絵師に描いてもらった一つの絵画を指した。
「あそこに飾ってあるの、何だか分かる?」
「あれは…………家族の絵?」
「そうよ。ただ、あれには私の家族の人数の色。つまり、五色しか使われていないの。」
本当に、そうとは思えないけれどね。
「なるほど……。」
「もし、あの絵から、一つの色を抜いたら、どうなると思う?」
「それは…………やはり、違和感が生まれるのではないでしょうか?」
「そうね。」
例えば、あの絵から紫をとった場合、私の髪の色は白色になる。
かといって黒をとってしまえば、マイルズの特徴が失われてしまう。
「でも、もしこの絵が、初めから二色で書かれていたら、どうかしら?」
「………………きっと、違和感のない絵になります。」
「えぇ。」
絵は、初めから二色で描こうと思って描けば、腕のある絵師ならば、良い絵が描ける。
ただ、その逆は別。
「元からある絵画に、色を加えても、きっとそれは素晴らしい作品になるわ。でも、抜くことは別。」
「………………抜いて生まれた空白は、それ以外の何色にも埋めることはできない。」
「…………えぇ、そうよ。」
そうして、私はその絵画に近づき、そっと、サーシャの顔が描かれた部分を撫でた。
「家族も、それと同じ。家族が産まれて増えることはあっても、決して減ることは無い。」
「………………。」
「だから、家族とは、替えのきかない大切なものなのよ。」
もしかしたら、この答えは彼女の求めるものとは違っていたかもしれない。
「…………そう……ですね。」
しかし、彼女は憑き物が晴れたかのような様子で頷くと、そっと私を抱きしめた。
「ぇ……。」
「大丈夫です。私が必ず、サーシャちゃんを連れ戻します。」
――大丈夫よ。私が必ず守るわ。
「ぁ…………。」
それだけ言うと、彼女は私から離れ、そのまま部屋を出ていった。
「…………不思議な子。」
彼女は一様海賊なのに。
でも、よく良く考えれば、彼女と初めて会ってして使用人にと誘った時から、心のどこかで感じていたのかもしれない。
「ほんと、あの容姿は反則よね……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆メラルダ◇
「やっぱり、違ったのかぁ……。」
自分の部屋に戻り、倒れるようにベッドに横になる。
オリビアさんの話を聞いて、やっぱりカリーナ達は仲間であって、家族ではないのだと、そう思い知らされた。
多分、私にはカリーナ達では代用が効かない程に大切な、ちゃんとした家族がいる。
だから、あの時、オリビアさんほどの悲しみを覚えなかったのかも知らない。
「まぁ、私が薄情なだけかもしれないけど……。」
ただ、それでもオリビアさんの話を聞いて、私も力になりたいと、初めて心から思えた気がした。
今までの、これからの平和のためとか、エレナさんへの貸しとか、サーシャちゃんとカリーナが重なったからとか、そんなんじゃない。
今の私は、純粋にサーシャちゃんを助けたいと、そう思えている。
「でも……。」
あの船で、私があの怪物を殴り飛ばした時、私はあの一瞬だけ自分の限界を越えられた気がした。
「そう考えると、やっぱりカリーナ達も、私の家族ってことでいいのかな?」
今考えても、答えは出ない。
そうして、返してくれる人もいない。
ただ、否定だらけの関係に、少しでも肯定が生まれた事が、少しだけ、嬉しかった。
「さて、これからどうしよっかな〜。」
とはいえ、何から始めればいいか、自分でも分からない。
あの時、一度私は侵入者の手口に、分からないという答えを出した。
にも関わらず、今急に分かった!なんて奇跡、起こるはずもない。
「とりあえず、相手の目的かなぁ……。」
やっぱり、戦争だろうか……。
いやでも、例えそうだとして、それまでどこにサーシャちゃんを隠すんだろう?
「精皇国にでも行けたら、話が早いんだけどなぁ……。」
でもまぁ、無理ですよねぇ……。
そんなに相手も甘くありませんよ、はい。
「まぁ、とりあえずあの石に話を聞くのは確定として……。」
もしかして、捕らわれた人達の種族を調べれば、その傾向くらいは分かるかも?
そこから何かヒントを得られればいいんだけど……。
あれ、そう言えば、皇主様って、人質にはしないんだよね?
――え、人質にしないんですか?
――はい。エルフの目的はあくまで、エルフがダークエルフよりも優れている事を証明するためでしょうから。
なら、皇主様ってどこいった?
もし仮に、もう皇主様があいつらにとって不要な存在なのだとしたら、少しでも良い活用方法を見出すはず……。
「あれ、もしかして……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お前…………本気で言っているのか……?」
「はい。」
翌日、私は早朝からエレナさんの部屋に訪れ、昨日考えたことを話した。
昨日の夜もそうだけど、今はリハビリを兼ねて、車椅子には乗っていない。
まぁ、少し辛いけどね。
「誘拐された魔帝国の皇主が、あの奴隷の中にいるなど、普通考えんぞ……。」
「まぁ、そうですよね……。」
いや、私も思いついた時は流石にないでしょ〜とは思った。
ただ、少し奴隷商の話をエレナさんから聞くと、もしかしたら有り得るんじゃね?と思い、この話をした。
だってさ、まさかの奴隷商のトップが商品に手を出すとかいう信用問題にも当たりそうなことしちゃってるんだよ?
だからさ、もしかしたら、奴隷商のオーナーをしている人達はあまり頭が良くないのかなって思って。
それに、皇主様って、あくまできっかけ作りの意味しかないんでしょ?
なら、もうその後は不要ってことだし、それなら奴隷にして売った方が有益だと思う。
そして、もしここで頭のいい奴隷商のオーナーだったら、危険を減らすため、適当な賊にさっさと売ってしまうだろう。
賊になら、万が一魔帝国にバレても、私達は関係ないって言えば割と信用してもらえる。
だって賊だしね。
ただ、今回の奴隷商のオーナーは馬鹿。
だから、もしかしたらって思ったんだけど。
やっぱり、こういう反応になるよね普通。
「仮に皇主が奴隷になっていたとして、もう売られているだろう。」
ほらね。
「………………ただ、調べる価値はあるな。」
「え?」
まさか、そう言ってくれるなんて思わなかった。
だから、次の会議でもう一度言うつもりでいたのに……。
「何故真に受けたんだ、と言った表情だな。」
「…………。」
いや、もうそこまで分かるのはおかしいでしょ。
心読んでるよね、絶対。
「まぁ、その理由だがな。奴隷商の取引履歴を調べた時、面白いものが見つかった。」
そうして、彼女は指を三つ立てた。
「?」
「白金貨三万枚。」
「え……。」
三万枚って、だいたい国全体が持つお金の半分以上の量だよね!?
「それほどの取引が一度にされている履歴が残ってた。半分は聖獣だろうが、もう半分は、なんだと思う?」
彼女の言い方からして、恐らく奴隷商はこれだけの金額を受け取っている。
恐らく半分は聖獣を一時的に預かる代金。
けど、なら残り半分は?
流石に、それだけの商品を抱えていたとは思えないし……。
だとしたら……。
「持っていて、リスクのあるものを売られた?」
「そうなるな。」
そう言って、エレナさんはニヤリと笑みを浮かべた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年2月22日を予定しております。
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