27.喪失
『………………。』
………………。
さて、どうしましょうかこの状況。
え?
何が起きたかって?
いやね、なんというかさ…………攫われちゃったんだって、サーシャちゃん。
いや、もう私も意味が分からないんだけどね?
というかそもそも、神でも魔物でのないただのエルフが、この人達を騙せると思う?普通。
無理だよッ!!
絶対無理ッ!!
…………と、言いたいところなんだけど……。
騙されちゃったらしいんだよねぇ……みんな。
何故こんなことが起こったかと言うと、まずシャーリィーさんはこの御屋敷に侵入者がいることには気づいた時。
そう、私と会話してたあの時。
そうして、あの後シャーリィーさんが部屋を出てると、一つだった気配がいつの間にか三つに増えていたらしい。
でも、シャーリィーさんは、その中に本物はいないと直感して、人通りの少なく、サーシャちゃんの部屋に繋がる道で待ち伏せてたんだって。
そうしたら、なんと大当たり!
その通路から本命と思われるエルフが現れた。
ただ、実際にはそのエルフも偽物で、本物は既にロラさんに致命傷を負わせ、サーシャちゃんを連れて逃走していたらしい。
ただ、ここでおかしな事がある。
それは、どうしてエレナさん達は侵入者に気づけなかったのか。
メイドさん達はともかく、シャーリィーさんが気づけたのなら、マイルズさんやエレナさんなら気づけてもおかしくない。
それに、仮にシャーリィーさんが気づけたのが妖精族だったからという理由だとしても、少し前の襲撃の時とは違って、この御屋敷にはフォルジュさんもいた。
にも関わらず、フォルジュさんも侵入者には全く気づけなかったらしい。
そうして、今回サーシャちゃんが攫われた最大の要因であるシャーリィーさんの偽物による念話。
あれによって、マイルズさんは聖獣の保護に動かざる得ない状況になってしまった。
こんなところで聖獣を戦わせたら、被害が想像できないからね。
ちなみに、なんと一部のメイドさん達は、念話に違和感を持ってたらしい。
ただ、状況が状況なだけに、そこまで考えが及ばなかったんだってさ。
エレナさんも同じく違和感があったらしいけど、流石にロラさんの戦闘の気配を感じた後だったから、それどころじゃなかったみたい。
まるで合わせたかのように、ロラさんの戦闘の気配と二つ目の念話は、ほぼ同時に起こったみたいだから。
さて、このようにこの侵入者には多くの謎がある。
ただ、やっぱり重要なの問題は、
なぜ終始侵入者の気配を探知出来なかったのか。
そして、何故シャーリィーさんだけが偽物の気配に気づけたのか。
多分、この二つが今後あの侵入者を捕まえるにあたって重要になってくる。
んで、この問題について色々私なりにも考えたんだけどね?
まぁ、正直に言って、私にはどちらも分からない。
特に後者のやつなんて、殆ど幻術とか、洗脳に近いものだからね。
気配も、船を襲ったあいつでさえ、完全に消してはいなかった。
まぁ、あれはわざとかもしれないけどね……。
そうして、今はこれらの情報を踏まえて今後についての議論が行われているところだ。
私がここに参加できているのは、マイルズさんが私に事情を説明したうえで参加して欲しいと言ってきたから。
「はぁ…………、とりあえず、今日は解散にしよう。」
「…………いいのか?」
疲れきったエレナさんに、陛下が遠慮がちに疑問を投げる。
「…………もう夜も遅い。確かにサーシャが攫われたのは一大事だが、ここにいる誰もが、朝からほとんど休息をとっていないんだ。それに、今何か出来るわけでもない。」
「………………そうだな。」
確かに、サーシャちゃんが攫われた後、王国騎士団、アトキンス騎士団、そしてメイドさん達まで総動員して捜索したみたいだけど、結局サーシャちゃんと侵入者の痕跡は一つも見つけることが出来なかった。
それだけじゃない。
あの侵入者の多くの謎について、私が分からなかったように、エレナさんやマイルズさんですらほとんど分からなかった。
ただ、あの念話の介入についてのみ、そのような魔法が存在しているらしい。
まぁ、魔法というよりは魔術に近いみたいだけどね。
「………………。」
「…………。オリビア、大丈夫か?」
エレナさんが、先程から呆然と天井を見上げているオリビアさんに優しく声をかけた。
「………………えぇ。」
「……………………そうか。」
しかし、この返事もどこか上の空で、まるで魂のない人形のようだ。
ただ、これも無理のないことで、もうここにいる私以外のみんなは限界をとうに越しているんだと思う。
何せ、マイルズさんの秘密を暴いたこと、王都へ行ったこと、聖獣や奴隷商、そしてサーシャちゃんの誘拐。
そんな、本来一年に一つ起こるか起こらないかというような大きな出来事が一日にこうも複数同時に重なったのだ。
これで、疲れてないという方おかしな話だと思う。
他の騎士達も、それは同じだ。
それにエレナさんに至っては、この会議に参加しながらも、並行してロラさんの治療も続けているらしい。
そして相手は、恐らく一筋縄ではいかない強者。
仮にこんな疲弊した状況で、今無理に戦力を動かしたところで、状況を悪化させるだけだろう。
「悪いな、二人とも。」
そう言って、エレナさんはマイルズさん達を気遣うように、そっと肩に手を置いた。
「アトキンス領内と、国全域の出入りは既に封鎖した。明日、本格的に捜索を開始しよう。」
「…………あぁ。…………すまない。」
マイルズさんも、まるで別人かのように覇気がない。
「それでは、また明日。」
エレナさんが最後にそう言って、この会議は終了した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日が完全に沈み、月が照らす深夜。
――コンコン。
扉を軽く叩き、返事を待つ。
「……………………どうぞ。」
「失礼します。」
帰ってきたかすれた声を受け、私は扉をゆっくりと開けた。
「メラルダちゃん?」
「はい。」
オリビアさんは、椅子に座り、外を見ていたようだった。
その目元は腫れ、弱った様子の彼女に、私はゆっくりと近寄り、羽織っていたものをそっと彼女に羽織らせた。
「風引きますよ。」
「…………そうね。」
この様子では、お風呂どころか、夕飯すら食べていないのだろう。
「………………一つ、お聞きしてもいいですか?」
「……何かしら?」
「……………………家族とは、どのようなものですか?」
「え?」
何を言っているのか分からないといった様子で、彼女は私を見た。
私はそんな彼女を横目に窓まで近づくと、ゆっくりとその質問の意味を語った。
「私には、家族のような人達はいます。今は離れ離れですが、私が意識を取り戻してから今まで、多くの時間をともにしてきた、大切な仲間が。」
「…………。」
「ですが、彼らは本当の家族ではない。私は本当の家族の名前も、顔も知りません。」
「…………。」
「だから、分からないんです。家族とは、どういうものなのか。」
私は、あの時、仲間達を助けるために自身を犠牲にした。
ただ、その後、今日までの間。
私は彼女のような喪失感や絶望を彼女ほどは感じてこなかった。
もしかしたらそれは、彼らは真の家族ではなかったからかもしれない。
だから、私は知りたい。
果たして家族とは、どのようなものなのか。
「…………私にも、分からないわ。」
「ぇ?」
そういうと、彼女はゆっくりと椅子から立ち上がり、私の横に並んだ。
「私も長く生きている方だけど、ここまでの喪失感は、初めて。」
「………………。」
「だから、今家族とは何かと聞かれても、正しい答えは上げられないかもしれない。…………それでもいい?」
「はい。」
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