26.不意打ち
◆シャーリィー◇
「……?」
「?…………どうかしました?」
「……………………いえ…………。」
その時、一瞬感じたのは、あの時メデューサが襲撃してきた時と似たような違和感。
しかし、あの時とは違い、どちらかというとその部分だけ空白なのではなく、魔力が薄いといった感じ。
それに、あのメデューサは今も石化されているし、ミッテランの魔眼による石化を解除出来るほどの力があるとも思えない。
なら、新たな侵入者?
でも、あの時と違って今は、エレナ様も旦那様もいる。
それに、お兄様だって。
そんな中、誰にも気付かれずに御屋敷に侵入するなんて、流石に不可能…………なはず……。
しかし、その違和感は既に御屋敷の中で発生していた。
「…………シャーリィーさん。」
「っ…………!は、はい。」
「何かありましたか?」
「え……?」
私は、そんな分かりやすく顔に出していただろうか?
いや、表面上は平静を装っていたはず……。
「もし、何かあったのなら、そちらを優先して下さい。」
「………………。」
今まで、そもそもこの御屋敷に侵入した者自体ほとんどいなかった。
「……………………分かりました。」
しかし、この違和感を野放しにするのはまずいと、私の本能が告げていた。
もしかしたら、陛下の関係者かもしれない。
この広大な御屋敷で迷っているだけかもしれない。
それなら、この場は他の子達に任せて、私はメラルダ様の護衛をするべきだ。
でも、お兄様は今旦那様のお傍にいるし、そもそもこの気配に気づけていない子達を向かわせても、隠れられたら気づけない可能性がある。
となると、やっぱり私が行くしかない……。
「直ぐに戻りますので。」
「お気おつけて。」
他に何かを告げた訳でもない。
しかし、その一言には、何故か勇気付けられるような不思議な力があるように感じた。
「…………はい!」
部屋を出て、改めてその気配を確認する。
「これは………………何?」
ずっと、探知をしていたはずだった。
しかし、いつの間にか一つだった気配がまるで初めからそうであったかのように三つに増え、その気配はどれもまるで同一人物かのように気配が酷似していた。
「これは、流石に確定ね……。」
侵入者であることは、間違いない。
そして、これが魔法の類なら、流石に私一人では対処出来ない可能性がある。
気づけなくとも、牽制くらいにはなるわよね……。
『侵入者を確認したわ!気配は多分…………分からないかもしれない。だから、今から私の言う場所に向かって!』
そうして、その気配を感じる三箇所をみんなに伝える。
『この三箇所よ。念の為、一箇所につき二名。残りは引き続き警戒を続けて!』
『了解っ!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………なぜ分かった?」
「なぜだと思う?」
「………………さぁな。」
目の前にいるエルフの男を見据え、淡々と男の質問に答える。
身体は、私の倍以上はある巨体で、服越しでも分かるほどの筋肉を持ったエルフ。
どれも、魔法を得意とするエルフには珍しい特徴ね。
「魔力探知の対策はしたはずだ。」
「それくらいで、私を誤魔化せるとでも?」
あの時、確かに御屋敷に感じた気配は三つだった。
しかし、その中に最初と全く同じ気配は一つもなかった。
「魔力探知は、魔力だけを感じ取る魔法ではないわ。」
「………………なるほどな。」
この男がこの場に来た時点で、旦那様やお兄様にはご報告した。
「仮にあなたがこの先に行けたとしても、そこには旦那様やお兄様、エレナ様もいらっしゃるわ。もう詰みよ、諦めなさい。」
「それは、確かに面倒だな。」
面倒って……。
なんでこんなに他人事なの?
この男……。
「……もう、話はいいのか?」
「………………えぇ、もういいわ。」
何を考えているのかは分からないけど、油断の出来ない男であることは間違いない。
「そうか……。」
その瞬間、男の姿が掻き消えた。
ように見えた。
――パァァァン!!
乾いた音が、廊下に響く。
「さっきの男もそうだけど、やっぱり私、舐められているのかしら……。」
お腹に向かって放たれた大きな拳を、私は片手の掌で受け止めた。
「………………。」
男は驚愕した表情で距離を置き、自身の拳を見つめた。
「まさか、止められるとはな……。」
「これくらいできなきゃ、メイド長は務まらないわ。」
「………………。」
しかし、不気味なことに男に焦っている様子は見られない。
「余裕そうね。」
「そうなことない。」
ほんと、不思議な感じ。
この男からは、焦りも恐怖も感じない。
まだあのメデューサの男の方が、生き物らしいと思えるほどに。
次は、こっちから仕掛けみよう……。
瞬間転移で男の背後を取り、風魔法で作りだした風刃を男の背に突き刺す。
しかし……。
「………………なるほど……。」
「流石だな……。」
風刃は、寸分違わず男の胸を貫いた。
――しかし。
男からは、一滴の血も滴ることなく、貫いた感触も不自然なほどに手応えがなかった。
「これも、分身体?」
「そう直ぐに見破られると、面白みにかけるな。」
「――――ッ!!」
風刃を男から離し、素早く後退する。
もし、これがこの男の気配を感じとれる者達への囮だとしたら……。
まさか……本物はもう……。
「不味いわね……。」
相手を侮っていた。
まさか、探知を誤魔化せるほどの者がいたなんてッ!!
「目的はサーシャ様?」
「あぁ。だが、もう終わった。」
「――――――ッ!!」
全力の重力魔法で、男を押し潰す。
――ぐちゃ……。
しかし、男はこの魔法に抵抗もせず、ニヤリと笑うと、魔法に押しつぶされた。
それを途中まで見届けて、私はすぐに背後の通路の先にあるサーシャ様の部屋へと転移した。
「サーシャ様ッ!!ロラッ!!」
しかし、そこに広がっていたのはのは、無数の鮮血。
サーシャ様の部屋から廊下の至る所まで飛び散った無数の血が、ここで何があったのかを鮮明に告げていた。
そして……。
「シャーリィーッ!!私の部屋から杖を持ってこいッ!!」
片足が切断され、全身血に染まり、ボロボロになったロラの姿があった。
「ろ………………ロラ…………。」
「早くしろッ!!!」
止まった脳に、エレナ様の声が響く。
よく見ると、ロラの周りには大きな魔法陣が浮かび上がり、膨大な魔力が作用していた。
「…………は、はいッ!!」
止まりそうな脳を無理やり回転させ、エレナ様の部屋へ転移し、杖を持って戻る。
「杖ですッ!!」
すると、エレナ様は奪い取るように、杖を私の手から強引に取ると、その魔法陣の数を更に増やしていく。
「サーシャ!!」
「お、お兄様ッ!!」
すると、私のきた方向から走ってきたお兄様が、そのまま私を抱き寄せる。
「…………お前は、何も悪くない。」
「……ぇ?」
何を言っているのか分からず、ふと顔を横に向けると、そこには指示を出していたメイド達がみな、汚れ一つなく申し訳なさそうに壁沿いに立っていた。
「………………?」
みんな、あの男の分身体を倒したの?
でも、あれは分身体とは言え、そこそこの強さはあった。
それでも負けることはないだろうけど……。
「シャーリィー。」
すると、サーシャ様の部屋から現れた旦那様が、珍しく怒りに満ちた様子で私に告げた。
「お前は、確かに侵入者の情報を私に伝えた、そうだな?」
「はい。」
あの時、私は確かに旦那様とお兄様に念話を送った。
そうして、侵入者の居場所、そして予想できる目的地を伝え、サーシャ様の部屋で待機して欲しいという旨を伝えた。
「だが、その後お前から、もう一度念話が届いたんだ。」
「え?」
何を言っているの分からない。
ただ、一つ確かなことは、その念話のせいでこの事態になっているということ。
「ここからは、私が説明するわ。」
そうして、旦那様の横にいた奥様が、私を落ち着かせるように背中をさすりながら、呆然とする私にその内容を説明して下さった。
曰く、
私が念話を行った後、メイド達と旦那様方には、このような内容の念話が送られてきたという。
――侵入者の目的は聖獣の子ですッ!!なんとしても、聖獣の子を保護してください!!
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回の投稿は2025年2月17日を予定しております。
また、誤字報告も合わせてお願いいたします。




