20.これから
――時は少し遡り、マイルズ達が奴隷商の拠点に到着した時刻。
「やっぱり、最悪聖獣との戦いになりますかね?」
「………………はい。……………………ですが、それでは四神同盟にも影響を与えかねません。」
「そうですよねぇ……。」
シャーリィーさんからこれを聞くのは、もう八度目。
いや、これでも私達はだいぶ頑張ってる!
この私達の前に置かれた紙の枚数を見てほしい!
十五枚よ?
それもびっしり書いてあるの!
私達頑張ってない?
頑張ってるよね?
……………………まぁ、そういう訳で長い時間苦悩している私達たけど、どういう案を出しても、最終的には聖獣との戦いは避けられないという結論になってしまう。
その理由は簡単で、私達にどれだけ理由があろうと、相手からすれば子供掻っ攫ったうえに、自己中心的な言い訳をしているクズにしか見えないからだ。
そりゃそうだよね。
私だってそう思う。
我ながら最悪なこと考えたよね…………。
ただ、今はそうも言ってられない。
というか、最悪奴隷商人が聖獣を掴まえていなかった場合、私達が自力で聖獣を探さなくてはならないかもしれない。
それくらい、今のサーシャちゃんは危ないのだ。
まぁ、私の渡した魔術のおかげで少しはマシになってると思うけど、それでももって一年。
それ以上経つと、多分魔術の放出量を、魔力の生成量が上回る。
そうなったら、結局今の状況に逆戻りだ。
それどころか、成長具合によっては、身体の限界がきて、最悪死んでしまうかもしれない。
まぁ、かと言って本当は私に手伝う義理はないんだけどね。
ほんと…………ないはずなんだけどなぁ……。
そして、この状況。
正直な話、この屋敷にいる使用人さん達&アトキンス騎士団の力があれば、多分聖獣相手でもいい勝負が出来ると思う。
まぁ、そもそも聖獣に会ったことないんだけどね。
でも、私をボロボロにしてくれたあの化け物。
正直、あいつ以上に強いとは流石に考えずらい。
だってあんなのポンポンいたら、世界終わっちゃうもん。
だから、多分どれだけ強くても、あの化け物よりかは弱いんじゃね?っていうのが私の予想。
ただ、ここで重要なのが、さっきシャーリーさんが言ってた四神同盟だ。
シャーリィーさんが言うには、神様達の治める国と、その他の国の同盟みたいなものらしい。
そうして、なんでこの四神同盟が厄介なのかと言うと、その神様達が、獣神だったり、龍神だったりと、何かと聖獣と縁のある種族らしいのだ。
ようするに、神様の眷属みたいな存在の聖獣もいるかもって話よ。
勿論、聖獣と言っても、ある程度の数はいる。
その中には、もちろん全然関係の無い姿の聖獣もいるから、そこはなんとも言えない。
ただ、それでも今回は完全に私達の身勝手な事情に聖獣を巻き込む形。
ただの誘拐だ。
それに正当性なんてないし、もちろんこれに関してもし神様方に追求されたら、言い逃れができない。
つまり、詰みであり、最悪この国が四神同盟から外される。
それだけは避けなければならないから、下手に聖獣と戦ってはいけないらしいのだ。
まぁ、要するに、罪のうえに罪を重ねるのは国的に不味いから、誘拐だけにしとこうねって話。
「………………でも、やっぱり聖獣との戦いは避けられないような気がします。」
「それは…………。」
「…………多分、この国を巻き込んででもシャーリィーさんを助けたいって思ってるんじゃないですか?マイルズさんは。」
エルフを利用して、精霊と契約させた後に救出する。
それは案に、精霊と契約させた後にこの国を巻き込んで精皇国と戦争をし、サーシャちゃんを取り返すという意味だ。
「殆ど勢いでここまで来ちゃいましたけど、今からやることは、ただの誘拐。そして、そこに正義なんてありません。」
「…………そう、ですよね。」
平和に解決できるのなら、確かにそれが一番なのかもしれない。
ただ、今の状況は、既にそんな悠長なことを言ってられないところまてきている。
この世の中、正義なんてものは存在しない。
大抵誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪なのだ。
「がっかりしましたか?」
「…………いえ。ただ、思うところはあります。」
「そうですか。」
普通なんだろうな、これが。
私は目覚めたときから、何故か大抵のことには慣れていた。
もちろん、感情はある。
それでも、シャーリィーさんのように、純粋な心は持っていない。
多分、私の魂は、転生前から汚れているのだろう。
「………………?」
「どうしました?」
「街の方に……何か…………。」
「街?」
「えぇ。あれは…………………………。ッ――。」
私が魔力探知をしようとした瞬間、突然シャーリィーさんが私にとびかかってきた。
「へ?…………うわっ!?」
そうしてシャーリィーさんに押し倒される形で、廊下まで飛んだ瞬間、今までいた部屋の壁が粉砕した。
――ドガァァァァン!!
「うそ…………。」
「誰っ?!」
そうして、私を守るようにシャーリィーさんが前に出る。
「今のを避けるか。」
そうして現れたのは、人族…………?
………………じゃないな。
この魔力の感じは多分、メドゥーサ。
敵に回すと厄介な、《魔眼》のスキルを持つ種族だ。
まぁ、種族スキルなんてもの自体、人族は持ってないから無縁なんだけどね。
いいなー、種族スキル。
私もほしぃー!
「……………………お客様ですか?」
「…………違うな。」
「そうですよね。」
フードを目深く被っているから、顔までは分からない。
ただ、その立ち姿から、相当強いでろうことは見て取れた。
「何故、このようなところに?」
「…………俺に聞くな。このような地獄に、好き好んで来るか。」
「そうですか。」
地獄…………。
まぁ、そうだよねぇ……。
騎士団どころか、使用人すら強いとか、反則だよね。
分かるよ、私も心折れかけたもん。
自分強いって思ってた昔、懐かしいなぁ……。
「………………おい。」
「……………………え?私?」
「そうだ。…………随分と、余裕そうじゃねぇか。」
いや、ぜっっんぜん!!
だって勝てないもん、絶対ッ!!
普通に逃げたいけど?
ただ、ここで取り乱すとそこに付け込まれる可能性もある。
だから、冷静に……冷静に……。
「……………………そんなことないよ。あなた強いもん。」
「………………そうか。」
いや、本当に。
それにさ、お兄さん。
なーんか、あの化け物と似た雰囲気あるんだよねー。
まぁ、強さは全然違うんだけど。
異質な雰囲気というか、そんな感じのやつ。
「………………あなた、白黒の人型の化け物に心当たりとない?」
「……………………知っている。だが、お前が知る必要はない。」
その瞬間、男の姿がぶれた。
――キーン。
「……………ぇ……。」
いつ間にか手に持った短剣による、視認するのがやっとの速さの攻撃。
しかし、それをシャーリィーさんは、難なく魔法で受け止めた。
「メラルダ様を狙ったようだけど……私を前にして、よくその態度でいられるわね。」
「防御魔法か、厄介な。」
そう言って、男はその場から距離をとる。
「大人しく投降しなさい。もうすぐ、他のメイド達も到着するわ。」
シャーリィーさんの言う通り、探知を屋敷に巡らせると、びっくりするような速さで屋敷のメイド達がこちらに走ってきていた。
恐らく、一分も耐えれば、人数差で勝てるだろう。
「なら、その前に終わらせよう……。」
すると、男の足が変形し、蛇のような足になった。
他にも、肌の鱗の範囲も増えている。
「《魔化》ですか。」
「その通り。」
その瞬間、男が消えた。
「とった。」
「舐めないで。」
――ドガァァンッ!
「………………え?」
何があった?
男が消えて、かと思えば吹っ飛んで壁にめり込んでるし……。
え……え?
「嘘だろ……。」
「ふん。その程度の速さで、私が遅れをとるとでも?」
うわ、シャーリィーさんかっこいい!
っていうか、え?
もしかして、私狙われてた?
「ちっ。時間か、仕方ない。」
「逃がすと思う?」
「逃げるくらいならできるさ。」
そう言って、男は私の部屋に入った。
そのまま、自分の壊した壁から逃げるつもりなのだろう。
「っ、逃がすかっ!」
そう言って、シャーリィーさんが後を追う。
しかし、そうして部屋に入ったシャーリィーさんは少ししてから、何故か部屋に放置していた車椅子を押して、部屋から出てきた。
凄く、悔しそうに。
「流石に、逃げられちゃいましたか?」
「いえ、捕まえたのですが……。」
そうして、私が車椅子に乗って部屋に戻ると、破壊された壁の外には、何故か石像があった。
…………いや、比喩とかじゃない。
本当にあるの、石像。
しかも、さっきまで戦ってた男に似てるやつ。
「いじけないのっ!あなた逃がしそうだったのよ?これくら我慢しなさいっ!」
すると、石像の裏から、そう言って一人のメイドさんが姿を見せた。
頭にサングラスをした、灰色髪の女性。
「…………いじけてないっ!」
「嘘おっしゃい!」
「いてっ……。」
そうしてシャーリィーさんが痛そうに指で弾かれたおでこをさする中、そのメイドさんは私を見て丁寧に一礼した。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はミッテラン・ラトール。この御屋敷で副メイド長を任せられております。」
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