03.名前
「……と、いうわけです。」
「うん、どういうわけだい?」
「私に聞かないでください。」
あの後、私はこの人達の海賊船の一室に連れていかれた。
そうして、今は出されたパンを食べながら、今までの経緯を説明している最中である。
「記憶がないのに、なんで生まれ変わりだなんて分かるんだい?」
「私に聞かれても……。」
「いや、君にしか聞けないんだけどな……。」
それにしても、このパン美味しい!
さっきの蟹とはまた違った美味しさで、食べる手が止まらない!
あ、さっきの蟹を上にのせても美味しいかな?
とりあえず蟹を取り出して……。
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!!」
「……なんですか、その言い方。うけでも狙ってるなら親父臭いですよ。」
「いや、私に年齢は関係ないって、そうじゃなくて!!」
「うるさいです、食事中は静かに。」
「いや、それは、ごめん。」
ほんと、何を動揺しているんだろ。
っていうか、なんかみんな変な顔で固まってるけど……。
…………あ、やっぱり魔物の蟹はアウト?
常識的にまずい?
いやでもこっやって手ですぱっと切って、ぱくっと。
…………わぁ、すっごく美味しい!!!……。
「…………シュヴァリエ、僕は何から突っ込んだらいいかな?」
「……………………俺に聞くな。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、一旦その場はお開きとなった。
なんかエルフくんは頭を抱えていたから、相当お疲れだったんだろう。
そしてなんと、今日私はこの部屋を使っていいらしい。
この部屋はお客さん?が来た人ようの部屋らしく、長椅子もとても心地かった。
流石にベッドまではないけど、外で寝ることも覚悟していた私にとっては、この長椅子があるだけでも大満足だ。
「っていうか、もうこんな時間…………。」
すでに日は暮れており、祭りも終わったのか部屋の外が騒がしくなったような気する。
明日はこの船も、どこかへ向かうのだろうな~。
私は…………流石に乗せてもらうのは無理か。
仕方ない。
明日はここを出て、どこか仕事の受けられる場所でもさがそう。
――コンコン。
その時、突然扉が軽く叩かれた。
私の部屋?
さっきのエルフくんかな?
「どうぞ〜。」
「こんばんは、………………えーと、名前ないのよね。」
入ってきたのは、カリーナちゃんのお母さんだった。
「こ、こんばんは。どうかされましたか?」
なんだろう、凄く緊張する。
「うん、少しお話したいな~って。」
そういって、カリーナさんのお母さんは私の隣に座った。
見た目に反して積極的だ。
「そ、そうですか。」
「えぇ。あなた、生前の記憶をもっているのでしょう?」
「は、はい。ただ、これが本当に生前の記憶なのかは、分かりませんが。」
「そうね。私も信じられないけど、でも、同時にそうなのかなって気もするの。」
「へ?」
何でだろう?
私、今までそんなことを思われるようなことしたかな?
カリーナちゃんをお姫様抱っこしたこと?
でも、あれで感じるかなぁ?
「あなたには、わたしと近いものを感じるの。」
「近い?」
「うーん、母性?みたいな。そんな感じのもの。」
…………え?
もしかして、カリーナちゃんを可愛いと感じたのは母性?
つまり私、子供いる!?
「…………いや、流石にそれはないですよ。」
「え?なんで?」
「私が男に恋するなんて、想像もつきませんから。」
別に、男が嫌いなわけじゃない。
ただ、同時に自分が男を好きになることもない。
何故か、私にはその確信があった。
「ですから、残念ですが子供はいないと思います。」
「そう。あなたがいうなら、そうなのでしょうね。」
それから、私達はいろんなことを話した。
私は、ダンジョンでの話。
――と言っても語ったのはせいぜい蟹が美味しかったという話だけだけど……。
そして、カリーナちゃんのお母さんからは、今までの旅の話を聞いた。
その話はどれも新鮮で、本の読み聞かせされるかのように、気づけば私はその話に夢中になっていた。
「こんな感じかな。他にも色々あるけど、話しちゃいけないことも多いから。」
「いえ、とでも楽しかったです。」
「………………あのね、もしよかったらなんだけど。」
「なんでしょう?」
「あなたの仮の名前を、私がつけてもいいかしら?」
「……………………へ?」
確かに、私に名前がないけど…。
でも、そんな自分の子供でもない私が、そこまでしてもらってもいいのかな?
「いいんですか?」
「えぇ。あなたさえ良ければ。実はもう考えてあるのよ?」
「………………それなら、その……、ありがとうございます。」
なんというか、不思議な気分だ。
目の前で自分の名前を言われることなんて、普通ないことだし…。
あーーー、なんかすごい緊張してきたぁぁぁ!!!
「じゃあ、言うわね。あなたの名前は………………メラルダよ。」
「………………メラルダ……。」
「そう、この世界の幻の花と同じ名前。誰にも、そして誰の手にも渡らない、孤高の花なの。」
――メラルダ。
それが、私の名前。
そして、世界で幻の、孤高の花の名前!
「…………はい、ありがとうございます!」
「どういたしまして。あ、そうだ!私、自己紹介してなったわね!」
「あ、はい。そういえば。」
「私はエリーヌ。この船で航海士をしているわ。よろしくね!メラルダ!」
「……はい!」
嬉しい!
どうしようもなく、嬉しい!!
でも、なんでだろう?
まさかここまで嬉しいなんて、思ってなかった!!
まるで、憧れの人になれたかのような、そんな気持ちっ!
「名前、気に入ってもらえたみたいね。」
「はい、本当に、ありがとうございます!」
「喜んでもらってよかったわ。それじゃ、私はカリーナの様子を見に行くから。お休み、メラルダ。」
「はい、おやすみさない。」
そうして、エリーヌさんは部屋を出ていった。
「ふぅ…………」
なるんでだろ、凄い緊張したけど、凄い楽しかった。
同じ女だから?
でも、カリーナちゃんと会った時とはまた違う楽しさだった気がする……。
やっぱり、大人だから?
私も、同じくらいの年だった?
うーん…………。
その後は特に何事もなく、私は眠りに落ちた。
特に護衛がいるわけでもなく、この部屋が危険でないとは言えないことは私も分かってる。
ただ、何故かエリーヌさんと話してからは、そんなことを考えなくなっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……ぉ……………………ぁ。」
「んぅ………………ん?」
なんだろう、朝っぱらからうるさい。
………………あ、もうそろそろ出航かな?
なら、もう起きないとかぁ……。
にしても早いなぁ……。
まだ眠気が取れな。
――バン!
「起きてるかッ?!メラルダっ!」
「……………………へ?」
突然の大きな音に、思わず目が覚める。
扉の方を向くと、そのにはあの時のエルフくん。
なんか、この人に名前を呼ばれるのは不思議な気分だ。
――――それにしても……。
「…………………………変態。」
「言ってる場合かっ!」
本当に、 その人は中身が残念なエルフだ。
見た目は良いのだから、中身さえ良ければ完璧だというのに。
いや、それでも私は無理だけど。
「なんですか、女の子の部屋に押し入って、………………朝っぱらから夜這い?」
「違うって!!……敵襲だ。」
「あー、今日も祭りですか?」
「海賊じゃない、騎士だ!」
「……………………はい?」
――きし………………騎士?!
「海賊の祭りなんでしょ?!なんで騎士がいるの?!」
「ここは本来、特殊な方法じゃないと近寄れないんだ。だけど、どうやら今回はそれがバレてしまったようでね。」
「えぇ……。」
特殊な方法って、普通は見つからないから特殊なんじゃないの?
騎士団に見つかるとか、それもう特殊でもなんでもないじゃん!!
「とにかく、私達はすぐに出航するけど…………君はどうする?」
「……………………。」
「乗っていくなら、それ相応の働きはしてもらうよ?」
あー、カリーナちゃんから色々聞いてるのか。
つまり、私がある程度戦えることを分かって言ってるなこのエルフくん。
やっぱり腹黒だ。
騎士団なんて、多分今の私じゃ敵わない。
そして、ここが海賊島っていう島なら、逃げるにも海を渡らないといけない。
――つまり、私はこの誘いを断れない。
「…………いいんですか?自分で言うのもあれですけど、私、怪しいですよ?」
「まぁ、それはそうだけど。ここで放り出すとエリーヌとカリーナとエリーヌが怒るからね。それに君、見た目通りの女の子じゃないんだろ?」
うわ、もしかして転生したとか言わなければ普通に乗れてたっ!?
やったわ……。
完全にやってしまった……。
まぁ、でもやってしまったものは仕方ないか……。
「……分かりましたよ。ただ、身体はカリーナちゃんと同じなので、無理は出来ませんよ?」
「…………そこまでは望んでないさ。」
はい、この腹黒顔は嘘ですー!!
嘘確定ですー!!
もう、こうなったらやけくそだこらぁ!!
騎士が何だ、騎士がっ!!
全部殴って、絶対に生き残ってやるっ!!
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次回の投稿は2024年12月13日を予定しております。