19.マイルズ
◆マイルズ◇
「まさか、こんなことになるとはな。」
「…………あの娘、なかなかやるな。」
「あぁ、そうだな。」
ダンジョンの前にて。
そこで私は、陛下ことマクシムと、その入口を見据える。
既に、エレナらの合図を受け、騎士団を中へ突入させた。
あとは、その結果を待つだけだ。
「我の計画は、あんな子供にすら見抜かれるほど、粗末なものだったというわけか。」
「それでも結果は変わらない。むしろ私は娘を道具にしようとした奴らを捕まえられたんだ。特した気分さ。」
今回の計画において、メラルダの推理には、いくつか誤りがあった。
そもそも、私はエルフやハイエルフの交渉だけでは精霊と契約できないことも、このまま行けば、サーシャが精皇国の道具となることも全て、最初から知っていた。
その上で私は、あえてあの医者の思惑を利用し、メイド達の中で一番未熟であったロラを専属にしたのだ。
そしてなにより、この計画を発案したのは私では無い。
このマクシムだ。
マクシムの立てた計画とは、精皇国にある精霊の雫と薬を利用して、聖属性になったサーシャの魔力保有量を極限まで高めたうえで、奴らが連れてくるであろう聖獣の子供と契約させるというものだった。
もちろん、マクシムに聖獣の子供とサーシャを契約させるなんて話を聞いた時は、私も耳を疑った。
だが、それでも信じたのは、こいつの持っている固有スキルがあったからだ。
こいつの固有スキル《予知夢》は、未来の光景の一部を夢に見るという能力がある。
これでマクシムは、聖獣の子が謎のエルフに捕らえられる光景を見たという。
もちろん、こんなことを言っても、信じるものは少ないだろう。
そもそも、固有スキルなんて物自体、夢物語のような力だ。
だからこそ、無駄な混乱を避けるためこのことは私とマクシムしか知らない。
フォルジュにも詳細は話しておらず、シャーリィーのために精皇国のエルフ達を利用するとしか伝えていない。
「それにしても、まさか本当に聖獣の子供を捕まえているとはな。」
「まだ分からんぞ?何せ、我がそれを確認する前に、あの娘が見つけよったからな。」
「そうだな。だが、そのおかげでこうも早く動けた。」
精霊の雫、エルフの持つ魔力保有量増加薬、そして、魔法に関するあの異常なまでの知識。
メラルダは全て海賊に教えてもらったというような話をしていたが、果たしてそれだけでこうも詳しく話せるものか?
あいつは、記憶をなくしたと言っていたが……果たして……。
「マイルズ、出てきたぞ。」
「っ……。想像以上に早かったな。」
すると、ダンジョンの入り口から複数の騎士団の姿と、捕まっていたであろう無数の種族の者達が出てきた。
中には報告に聞いた種族以外にも多数の種族が見られ、その様子から、相当過酷な環境で監禁されていたのであろうことが伺えた。
そして……。
「あれか。」
「あぁ……。」
「子供とは思えんな、あれは。」
騎士達が歩く列の最後尾。
そこに、それはいた。
多少は弱りつつも、圧倒的な強者の風格を纏い、それでいて確かな神聖さのようなものを感じさせる龍。
それが今、エレナにその檻ごと、徐々にこちらへと運ばれてくる。
「今更だが、危険度Zランクの大聖獣の子供など、本当に契約できるのか?」
「我に言うでないわ。我も夢に見た姿より大きいことに、少し腰が引けておるところよ。」
最低でもSランク。
いや、もしかしたら既にZランクに近しい存在かもしれない。
それほどの龍と、私は今から交渉しなければならない。
「よくあんな化け物を捕獲できたな、エルフは。」
「全くじゃ、英雄再誕かのぅ。」
マクシムはそう皮肉を言いながら、「はぁ……。」と膨大なため息をついた。
「…………マイルズ、来たぞ。」
『人族ですか…………。』
「――――っ。」
突然頭に響く声に、マクシムが驚愕した様子で一歩後ずさった。
予想はしていたが、既に話せるのか、この聖獣は。
「?…………何を驚いている。聖獣だぞ?話すに決まっているだろう。」
「エレナよ。それを経験したことのあるやつは、この場ではお主とマイルズだけだ。」
「…………お前らは、それすら知らずにいたのか?」
そのマクシムの態度に、あからさまに機嫌を悪くするエレナ。
恐らく、ダンジョンの中で嫌な光景でも見たのだろう。
それに軽く落とされてはいるが、鎧のあちこちに血が付着している。
となると、恐らくあれだな……。
「…………まぁいい。こいつは子供だが、準Zランク相当の強さはあるだろう。交渉をするのなら慎重にな。」
『交渉ですか。なるほど、それで私を解放しなかったのですね。』
「当然だろう。ただで助けてやるほど、人族はお人好してはない。」
聖獣を相手に、エレナは物怖じせずにそう言うと、あとはお前達でやれと言わんばかりに、そのまま聖獣の檻に背を預け、目を瞑った。
「…………聖獣よ。」
『なんでしょう。』
「単刀直入に言おう、私の娘と契約してもらいたい。」
『……………………それは、私をこのまま奴隷として扱いたいと?』
子供とは思えない冷静な質問に、思わず息を飲む。
そんな質問、大人の人間でも、そう平然とは言えないだろう。
「………………それは違う。あくまで対等な関係でいて欲しいだけだ。私の娘は、魔力過多症なんだ。」
「……………………なるほど。」
すると、聖獣はこれだけの説明て全てを察した様子で目を閉じた。
そうしてその場を静寂が包む。
『…………………………いいでしょう。』
「なに?」
『良いと言っているのです。条件付きではありますが、これを飲めるのであれば、契約をしてあげましょう。』
「条件はなんだ。」
『条件は三つです。
一つ、契約を、私の意思で破棄出来るようにすること。
二つ、私が実際にその娘に会い、私と契約するに足る資格があるのかを判断すること。
三つ、契約をした場合、どんな時でも私の行動を制限しないこと。』
「なるほどな。」
――何かがおかしい。
聖獣と契約をする以上、どんな無理難題を吹っ掛けられても受けるつもりでいたが、この条件では拍子抜けにも程がある。
三つ目に関しては、多少厄介ではあるが、今はサーシャの魔力を受け止める器があればいい。
だが、本当にこれだけか?
この世界に、聖獣と契約した者は数人しかいない。
その理由は、それだけ聖獣との契約は難しいからだ。
それが、こうも簡単に行くものか?
「一つ良いか、聖獣よ。」
『なんでしょう。』
「お主、それだけで契約を結ぶつもりか?」
『私からは、それだけです。』
私からはか。
つまり、こいつ以外に条件を出される可能性はあるわけだな。
そして、そんな条件を出せるものなど、この世に一体しかいない。
その時、慌てた様子で一人の騎士が駆けてきた。
「た、大変ですっ!」
「何事だ。」
「ど、ドラゴンですっ!アトキンス領内に、無数のドラゴンが現れましたっ!!」
その瞬間、場が凍りついた。
この状況でドラゴンの出現。
そうして脳によぎる、最悪の光景。
「…………お主、それは本当なドラゴンなのかッ!?」
「はいっ!」
「確定だな。」
この騎士はドラゴンと言っているが、恐らくそれは竜だろう。
竜は、基本的に自然に生息する個体の少ない希少種だ。
それこそ、聖獣の庇護下か、龍王国でしか見ないほどに。
だからこそ、例え騎士であっても、普通に生活していれば、竜を一度も見ることなく生を終えることも少なくない。
そして、その竜が大量に押し寄せてきた。
つまりそれは、保護者様のお出ましというわけだ。
当たり前だが、その理由はこの聖獣の子供を取り返しに来たのだろう。
そして、もしそうなれば、目的地はここか。
「動きはどうなっている?」
「そ、それが……。」
「なんだ、さっさと言えっ!」
エレナが言い淀む騎士に喝を入れる。
「は、はいっ!このままですと、一時間以内にアトキンス英爵家の御屋敷に到着すると思われますっ!」
「「「なっ!?」」」
――何故だ。
子を取り返しにここに来るのなら、まだ分かる。
だが、何故屋敷に向かう?
屋敷に、大聖獣を引きつけるものなど何も無い。
強いて上げるなら、サーシャだが……。
「エレナッ!!!」
「あぁ、時間が無い。転移で送るぞ。」
「我は残ろう。行ってやれることなどないのでな。」
そう言って、マクシムは聖獣を見た。
『私は行きますよ?』
「だろうな。だが、契約条件を出した以上、勝手に居なくなるなんてことは許さんぞ。」
『えぇ、もちろん。』
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回の投稿は2024年2月1日を予定しております。
また、誤字報告も合わせてお願いいたします。




