18.聖獣【2視点】
◆エレナ◇
「終わったか。」
「うん…………後は、…………この奥…………だけ。」
「分かった。」
そう言ってエリが指したのは、来た道とは反対の通路だった。
「そうか。」
そうして、私は後のことをサラに任せ、通路の奥へ進んだ。
その道は、常人ならば魔法を使わなければ先が見えないほどに暗い道だった。
「…………魔物が…………いない?」
先程から何度周辺を探知しても、ダンジョンとは思えないほどに魔物がいない。
それに、何かに阻害されているからか、探知魔法自体も上手く作用しなかった。
「…………や…………………こ……………………。」
「………………。」
その時、何者かの声が、僅かに耳に入った。
――嫌な予感がする。
進む速度を上げ、身体強化に、風魔法を上乗せする。
そもそも、何故この商会のボスが、ここまで商会が壊滅しているというのに、何の動きを見せないのか。
もう逃げたのなら、まだいい。
それなら、幾らでも捕まえる方法はあるからだ。
だが、もしそいつが、商品に手を出しているとしたら?
もちろん、商品である以上、そのようなことをする商人は少数派ではあるが……。
すると、程なくして通路の奥に、明らかに人工的な巨大な壁が見えてきた。
「ダンジョンに壁?」
しかし、中を探知しようにも、この壁が探知を阻害しており、中の様子を伺うことはできない。
そうして、壁に手を添えると、微かに魔力が流れているのを感じた。
「まさか……。」
試しに魔力の流れを読み、そこに自然に自分の魔力も混ぜ、もう一度その流れを見る。
「なるほど。…………隠し扉か……。」
どうやら、この壁に記録されている魔力を流すと、自然と扉が出現するという仕組みのようだ。
とはいえ、これしきの隠し扉など、どうとでもなる。
「さぁ……!…………交わろうぜぇぇぇ!!」
――ッ!!
しかし、その声を聞いた瞬間、私は考えるのを止め、乱暴に正面の壁を破壊した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エリ◇
団長が先に進んでから程なくして、外で待機していた騎士達が合流し、捕らえられていた人達は騎士達に保護された。
「さて、俺達も行くっすか。」
「…………うん。………………行こう。」
とは言うものの、正直凄く行きたくない。
何故なら、先程保護されていった人達が、何やら気になることを言っていたのだ。
――女の子が…………あの奥にッ!!
――まだ、奥に一人いるんですよ!!
つまり、あの奥には、この商会のボスと共に、もう一人奴隷と思われる女の子がいるということだ。
正直、これほど多くの奴隷と、それを維持する資金を保有するほどの商会なのであれば、もう少しマシなボスであると思っていた。
しかし、先程の話を聞き、私が探知した時には、既に手遅れ。
懸念していたことが、考えうる限り最悪な形で実現した。
「………………トレヴァー………………覚悟…………出来てる?」
「覚悟っすか?」
「多分、凄いことになってる。」
その時以来、私はその後の光景から目を逸らすように、あえて探知をしていない。
正直このまま、先輩達にも知らなかったで通そうかなとすら思っている。
まぁ、直ぐにバレるだろうけど……。
そうして、トレヴァーとともに団長の行った通路を進んでいくと、明らかに厳重そうな壁が、まるで隕石が横に降ってきたかのように抉れていた。
「………………エリさん?」
「…………何も………………言わないで。」
そうして、その壁を抜けると、そこにはダンジョンとは思えないほど広い部屋が広がっていた。
その両端には、三つずつ、別室へと繋がっているであろう扉が並んでいる。
「…………これは……。」
「…………トレヴァー…………………………あれ。」
そうして私は、その扉の中の一つ。
いや、正確には、扉とはもう言えないほどに木っ端微塵に破壊された一つの部屋の入口を指した。
「この先…………ですね。」
「…………うん。」
――――ゴクリ。
そうして、私達はゆっくりとその部屋に近づき、まるで覗きでもするかのように、破壊された入口から中を覗き見た。
「ッ――――。」
その光景に、トレヴァーは絶句した。
まぁ、始めて見たのなら、この反応も当然かもしれない。
まず目につくのは、そのボスのものと思われる、無数の血痕。
そうして、大きなベットの端で顔を真っ青にして怯える、人族の女性と、私達に背を向けて固まっている団長。
「………………やっちゃった……かぁ……。」
私の方向からは見えない。
というか見たくないんだけど…………まぁ、このままにしておくわけにもいかないしなぁ……。
「………………トレヴァー……。」
「………………。」
「…………トレヴァー!」
「は、はいっす!」
すると、トレヴァーは自分の股を押えつつ、顔を真っ青にしてこちらに振り返った。
「…………あの子………………連れてって」
「は、はっす!!」
そうして、トレヴァーは、珍しく怯えるように団長を警戒しながら、そそくさと女の子に周囲にあった布を羽織らせ、部屋の外に連れ出した。
「はぁ………………団長……。」
「…………なんだ?」
「…………怒ってるのは………………分かるけど………………やりずぎ。」
「………………。」
すると、団長は無言でこちらを向くと、そのまま部屋を去っていった。
「怖…………。」
奴隷商自体最近見なかったから、このような団長を見るのも久しぶりだ。
だからかな?
団長のあの怒りに満ちた顔を見た瞬間から、汗が止まらない……。
「………………運が悪かったね………………あなたも…………。」
そうして、私はその奴隷商会のボスであったものを見る。
服は勿論破り捨てられ、身体もどうなっているのか分からない程にねじ曲がっている。
そして、何より驚きなのは、そんな致命傷になりうる状態にもかかわらず、生きているということ。
「ぁ………………ぁ…………。」
まぁ、死にかけではあるけれど。
そして、さっきトレヴァーが顔を真っ青にしていた理由は、これ。
この見事にスパッと切られた、男のあれである。
それが今、こいつの口にねじ込まれているのだ。
これはもう、男女関係なく、誰が見ても気持ち悪すぎる作品である。
そうして、私はこの男を捕えるために、これからこの作品を最低限元に戻さなければならない。
「はぁ………………なんで……このタイミングで……………………こんな事………………したの……!」
せめて私達が来る前にやってくれたのなら、こんなことにならずに済んだし、私がこんな汚いものに触らずに済んだのに。
「………………まぁ………………後で繋げればいっか……。」
「………………ぅ……………………ぁ………………。」
「………………仕方ない………………これしか………………ない。」
そうして、私は大きめの剣を取りだした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆エレナ◇
――気分が悪い。
まるで、過去がフラッシュバックしたかのような……そんな感覚だ。
「エレナ騎士団長!」
「………………お前は…………王国騎士か?」
「はい!トレヴァー副騎士団長より、本日の騎士団の指揮を任されておりますっ!」
「それで……どうした?」
正直、今は誰とも話したくないのだが……。
「先程、魔物と思われる生物が捕らわれている部屋を発見!ご報告に参りました!」
「魔物………………そうか。」
そういえば、私は聖獣を探しに来たんだったな。
「案内しろ。」
「はっ!」
そうして、この騎士に案内されたのは、出口の通路でも、先程私が行った通路でもない、巧妙に隠されたもう一つの通路だった。
「こちらです。」
そこは、奴隷のいる檻で上手く隠されており、確かに普通なら奴隷に目がいき、気づかないであろう場所だった。
そうして、通路を進むと、先程と似た扉のある壁があった。
「こちらの奥です。」
「そうか。」
――ドガァァン!!
先程の怒りをぶるけるように壁をぶち抜き、部屋に入る。
すると、先程とは違い、そこに広がっていたのは、先程のような大きな部屋ではなく、何もいないように見える巨大な檻だった。
「なッ!!先程までは確かにここに竜が……。」
竜……。
「………………いるな。」
「?」
確かに、ここにいるのだろう。
しかし、それは竜ではない。
『やはり、分かるのですね。』
すると、何もなかった場所から、唐突に濃い霧が現れ、部屋を満たした。
「なっ!!」
「落ち着け。」
そうして、濃い霧が、ゆっくりと晴れ、先程まで何もいなかった檻の中に、竜のような巨大な影が浮かび上がる。
「やはり!」
「いや、あれは竜ではない。」
そうして、霧が晴れると、そこには白い全身をゆらゆらと揺らす、巨大な聖獣がいた。
「…………竜ではないとは?」
「あれは…………龍だよ。」
そこいたのは、竜ではなく、龍。
そうして、メラルダの言う通り、確かに聖獣の子供だった。
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次回の投稿は2025年1月29日を予定しております。
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