17.救いは唐突に
◆???視点◇
「ったく、エルフならともかく、なーんで他の種族まで捕えねぇといけねぇんだよ!」
「仕方ねぇですよ、ボス。これが、あいつが出した条件なんっすから。」
「チッ!」
――カーン!
『ッ…………。』
そう言って、ボスと呼ばれた男が缶を蹴ると、周囲で男に奉仕していた女達は、ビックっと身体を震わせた。
「はぁ…………俺のお気に入りも、たったこんだけだったしな……。」
そう言って、男は自分の髪の毛を一本、自ら抜き取り、それを隣で飲み物を持っていた一人の女に向けた。
「飲めや。」
「ぇ…………。」
「俺と一つになりてぇんだろ?なら、飲めやぁ。」
男の性癖は変わっていた。
こうして、毎度毎度気に入った女が運ばれてきては、自分の髪を飲ませる。
「な…………なんで…………。」
「なんでって……。俺の細胞を体内に入れなきゃ、理解出来ねぇーだろ?俺の事をよォ。」
「ひっ……。」
そうして男はその場から立ち上がると、女の手首を掴み、その手に無理矢理自分の髪の毛をねじ込んだ。
「飲むよなぁ?」
「………………はい……。………………ッ。」
そうして、それを持たされた女は、涙目でその髪の毛を口に入れ、持っていた飲み物で、無理やり喉を通した。
「ゴホッ…ヴ…ゲホッゴホッゴホッ...……。」
そうして女が咽る中、突如男は、女の顔に自分の顔を近づけた。
「………………お前…………何故飲みほした?」
「………………ぇ………………。」
「水と混ざってしまえば、俺の髪を感じられないだろーがぁ。」
そう言って、男は再び女の手首を掴み、まるで物を運ぶかのように脇にそのまま抱えた。
「お前はそのまま奴隷共の管理を続けろ。俺は少し、こいつを躾てくる。」
「へい、ボス!」
「待ってぇ!!!ちゃんと!!ちゃんとやるからッ!!!髪の毛もっ!!ちゃんと飲むからッ!!!だがらばっでッ!!!」
女は泣き叫びながら、男に懇願する。
しかし、男は何も耳に入っていないかのように、女を連れてダンジョンの奥へ消えた。
『……………………。』
残された女達は、その姿を呆然と見つめていた。
次は自分かもしれないと、そんな恐怖を抱えながら。
「………………くだらないわね。」
毎日だ。
こんな光景を、私は毎日、この檻の中で見続けていた。
耳を塞いでも、目を閉じても、どうしても、あの悲しき人族やエルフ族の女達の光景が、頭から離れない。
「………………何故、助けて下さらないのですか……。」
残された女達が檻に戻るのを見届けながら、私はそんな疑問と、願望に満ちた声を漏らしていた。
都合のよすぎる事であることは分かっている。
あなたも、きっとこの男達に連れ去られてきた、私達と同じ被害者なのだから。
それでも、もしあなたに少しでもまだ慈悲の心があるのなら助けて欲しい。
せめて、まだここにいるかもしれない者達を。
私の国民だけても、助け出して欲しい。
しかし、そんな思いが届くことは無い。
私の元に届くのは、痛みや恐怖に震え、声を殺してなく者達の声のみ。
「………………なんで……。」
弱音なんて、出したくもない。
だが、それでも涙を堪えようとすると、どうしても弱音が口から漏れてしまう。
それは心が壊れないようにするための、身体の生存本能のようなものなのか。
それとも……。
「な、なんだよッ!!なんなんだよこいつッ!!!」
その時、突如ダンジョン内に、そんな男の叫び声が響き渡った。
「何事だ!!」
その声に、先程の女達を檻に戻していた男が、声を上げる。
すると、ダンジョンの奥から、一人の男が慌てた様子で走ってきた。
そうして男は、声を上げた男の前で立ち止まり、慌てた様子で叫んだ。
「大変ですッ!!突如、仲間の首がズレお……。」
しかし、その男の声は、不自然なタイミングで突如途切れた。
「?……おい、ズレおってなんだよ!」
中途半端に途切れた報告に苛立ち、男が突如無反応になった男を蹴る。
――――ボト。
すると、その男の首がズレ落ち、そのまま地に落下した。
「ひっっ!!!」
その光景に男は、そんな情けない悲鳴を漏らしながら、尻もちをついた。
「………………情けない…………。」
すると、突如上から、ポツリとそんな声が聞こえてきた。
「な、何者だっ!!」
その声に、別の男が声を荒らげつつ、その方向を向く。
――そこにいたのは、一人の少女だった。
小さな刃物を片手に持ち、まるでその少女だけ重力が逆に働いているかのように、平然と天井に立っている。
「…………奴隷商は………………もっと…………悪者であるべき………………尻もちなんて…………情けない。」
「う、うるせぇ!!!」
そんな少女の煽りとも言える言葉に、尻もちをついた男は顔を真っ赤にして、声を上げると、少女に向けて魔法を放った。
――ドゴォォン!!
「おいッ!」
「安心しろッ!あれは商品じゃねぇ!」
男達は、既にあの少女の安否のみを気にしていた。
見た目に騙され、あの魔法に耐えられるはずがないと。
確かに、あの魔法は火属性の中でも中級にあたる魔法。
それに、相手は私と同じくらいの身体の人族の少女だ。
そんな少女に対してあの魔法は、本来なら過剰とすら言えるだろう。
「………………やっぱり…………男はせっかち…………。」
しかし、黒煙が晴れると、そこには先程と全く同じ光景が広がっていた。
「なっ!」
「むっ、無傷だとッ?!中級魔法だぞッ!!」
少女は傷一つなく、何事も無かったかのように、同じ状態のまま、男達を見すえていた。
「………………エルフ…………変装?」
「っ…………。な、なんで分かったァ!!」
少女がポツリと呟くと、魔法を使った男はそう叫んだ。
「慌てるなッ!!たかが餓鬼一人だッ!!」
「だ、だが!!あいつ!俺の変装を見破りやがったぞ!!ただもんじゃねぇ!!」
「ってことは、あいつも人族じゃねぇってことかッ!!」
そう言って少女を警戒しつつ、もう一人の男も腰の剣を抜き、その先を少女に向けた。
「っていうか、お前、一体どこから入って来たんだよッ!!」
「……………………?」
「とぼけるなッ!!ここまでに、多くの種族の仲間達がいたはずだッ!!」
実力差も分からない、哀れな者とは、このような者のことを言うのだろう。
「まさか、奴隷に紛れてきたのか?だが、単身なら騎士ではないなッ!なら、待ってろッ!直ぐに巨人族の仲間が来て、お前をボコボコに」
「あー、えっと、巨人族って、こいつっすか?」
突如響いた、男の声。
その声は、上層に通ずる道から響いたものだった。
そして、足音が徐々に迫り、声の主の姿が浮き彫りになる。
「ダメっすよ。巨人族をダンジョン内で戦わせちゃ。本来の力の八割ほどしか出せてなかったっすよ?」
そうして現れたのは、無邪気そうな青年。
しかし、その右手には、彼の身体を超える大きな男の生首が握られていた。
「「なっ…………。」」
二人の男は絶句し、他の仲間達も、呆然とその光景を見つめる。
それを一言で言えば、異様だった。
この青年は、どこからどう見ても人族。
それに年齢もだいぶ若く、学生と思われても不思議では無い見た目をしていた。
しかし、その男の片手には、巨人族の生首が握られている。
これだけでも、十分に異様なことだ。
でも、それ以上異常なのは、この青年には、血が一滴も着いていないということだ。
これはつまり、自分のはもちろん、巨人族の血すら浴びず、この巨人族に勝利したということになる。
それも、ただの勝利ではない。
圧倒的な実力差での勝利だ。
「…………もう…………いい?」
「はい。三層に数人、そしてこの奥にボスと思われる者がいるみたいっすからね。」
少女の声に、青年はそう頷くと、少女はここに来て初めて、天井を蹴り、地に足をつけた。
そうして少女は、ポツリとこうつぶやいた。
「…………分かった。」
そうして、少女は何かを引くように片手を後ろに引く。
――プシャ!!
そうして作られたのは、血の嵐。
この場にいた全ての奴隷商の首が落ち、胴体たら噴水のように血が吹き荒れる。
そんな、その場に捕らえられている誰もが夢見ていた光景だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年1月28日を予定しております。
また、誤字報告も合わせてお願いいたします。




