16.潜入
◆エレナ視点◇
「ダンジョンの中…………か。」
「あぁ。」
目的のダンジョンの付近にて。
私達は広げられたアトキンス領の地図に書かれた、一つの星の目印を注視していた。
ただ、一人を除いて。
「まさか、あのエレナ様のお力をお借りできるとは、思っても見ませんでした!」
「そうか。」
「本日は、私達にお力をお貸し頂けるとのこと。心から、感謝申し上げます。」
「あぁ。」
そう言って、男は緊迫した場の中で一人、私の前に跪いていた。
こいつの主である国王がいる場で、私にだ。
「ヤカ、陛下の御前だぞッ!」
痺れを切らしたギョームが声を荒らげると、ヤカと呼ばれた男は、苛立った様子で立ち上がった。
「ですが、騎士団長。王家とアトキンス英爵家は対等な立場にあります。そして、そのアトキンス英爵家を支えていらっしゃるお方こそ、こちらのエレナ様でございます。だからこそ、このように膝を折るのは至極当然のことかと。」
「限度があると言っておるのだッ!陛下の御前で、そう長々と陛下以外に膝を折るなッ!」
ギョームの言う通り、確かにこいつが天幕に入ってすぐに、私に対して膝を折ったことに関しては、誰も咎めることはなかった。
それが、国王だけではなく、私と共に入ってきたマイルズを差し置いた行為であったとしてもだ。
「………………ヤカ、下がっておれ。」
「……かしこまりました。」
しかし、国王の一言で、男はまるで人が変わったかのように、素直に国王の背後に控えた。
「さて。ではこれより、本任務の概要を説明する。」
そうして国王に変わり、ギョームの口から話されたのは、ここに来る前に王都でマイルズと国王が考えたもの。
内容としては、まずアトキンス騎士団と王国騎士団混合の少数精鋭が先行し、制圧。
その後、残りの騎士達がダンジョンに突入し、奴隷商を捕縛、囚われていた者達を保護するというものだった。
「一つ、よろしいでしょうか?」
話が終わると、老年の一人の騎士が、そう言って片手を上げた。
「言ってみろ。」
「はっ。…………何故、最初に突入するのは少数精鋭なのでしょうか。このような制圧戦なら、数で押しきればよろしいのでは?」
「あぁ、普通なら、お前の言う通りだ。」
ギョームはその騎士の発言を肯定すると、「しかし」と言ってから、話を続けた。
「今回の場合は、別だ。」
「別、とおっしゃいますと?」
「相手の戦力が想定できないのだ。人族だけならばともかく、今回はエルフ族やダークエルフ族、巨人族までも拘束されてると聞く。」
「き、巨人族ですかッ!?」
場に衝撃が走る。
彼だけでは無い。
この場でそれを知らなかった者は全員、想定外の種族に動揺を隠せずにいた。
かく言う私も、これを聞いた時は驚いた。
まさか、戦闘においてあの巨人族が遅れをとったなど、それが例えエルフであっても、想像がつかないからだ。
「あぁ。つまり、それほどの力を持った者がいても、おかしくないという事だ。」
誰もが、想定していなかった事態に、場に緊張が走る。
「だからこそ、エレナ殿を含む、少数精鋭で突入し、制圧する。その方がエレナ殿も動きやすいからな。」
「…………承知しました。」
老年の騎士は、呆然とした様子で頭を下げた。
「エレナ。」
すると、突然マイルズが、私の名を呼んだ。
「なんだ?」
「今回の任務は、お前が中心で行われる。」
「あぁ、そうだな。」
「………………だが、サーシャの容態が厳しいのなら、そちらに注視しても構わない。」
「あぁ、そこは安心しろ。」
マイルズ達が王都に立った後、私はロラと共にサーシャの治療に尽力していた。
今までは、私ですらお手上げだったほどに重い魔力過多症だったが、メラルダの魔術により、ロラは順調に回復。
また、ロラ自身が私より何倍も回復魔術に詳しく、かつサーシャ自体の身体にも詳しかったことで、今のサーシャはここ数年の中で一番良い状態になっていた。
だからこそ、マイルズに呼び出された時、ロラにすべてを任せて転移してきたのだ。
「そうか。」
「あぁ。だが、ここ聖獣を引き当てられなければ、これもすべて無駄に終わるぞ。」
「…………分かっている。」
これは、賭けだ。
一応ここまでは、メラルダの予想通り。
だが、ここから先も、その予想が的中するとは限らない。
ましてや、私達が求めているのは、あの聖獣の子供。
本来は聖獣が守っており、攫うどころが、その姿を拝むことすら難しいとされる、希少な存在だ。
そんな存在が、こんなダンジョンの中に捕らわれているなど、想像もつかない。
だが、それでもここに居てもらわなければ、これまで苦痛に耐えてきたサーシャの時間の大半は、無意味に終わる。
それに、仮にもう一度奴隷商の拠点を探し、聖獣の子供を見つけたとしても、その時にサーシャの様態がどうなっているのかは分からない。
――最悪の場合、手遅れになるかもしれない。
「安心しろ、エレナ。」
すると、マイルズは、私の肩に手を置くと、怪しげな笑みを私に向けた。
「聖獣の子供は、この中にいる。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
暗がりの中、私を先頭に、騎士達がダンジョンをかける。
「…………団長…………この先、階段。」
「分かった。」
そうして、速度を落とすことなく、階段を下りると、突然、前方から複数の気配が現れた。
「…………?…………前方に…………魔物…………出現?…………でも……なんで……?」
突然現れた魔物にエリが戸惑う中、高速で走りつつ、私は思考を巡らせた。
しかし、どう考えても、私とエリの魔力探知から魔物を隠蔽する方法を考えつくことは出来なかった。
「トレヴァー、お前はどう思う?」
「どうって言われても、こんなこと、俺も初めてっすからねぇ。」
今回、私と共に同行しているのは四人。
アトキンス騎士団からは、私とエリ。
そして、王国騎士団からは、副団長であるトレヴァーと、第一班隊長だ。
人数として少ないが、これだけでも、軽いスタンピードくらいなら抑えられるほどの戦力はある、正真正銘の少数精鋭だ。
「仮に隠蔽魔法をかけていたとして、エリさんが見破れないとは思えねぇし。だとしたら、やっぱりダンジョンの自然効果としか考えられないっすねぇ。」
「………………でも、…………それは…………都合が…………良すぎる。」
「そうなんっすよねぇ……。」
未だ視認は出来ないが、その魔物達は、普通の魔物のようにうろついているのではなく、仲良く私達の進行方向を塞ぐように待機していた。
「考えても仕方がない、突破するぞ。」
「「「了解!」」」
そうして、魔物を視認するなり、トレヴァーが速度を上げ、一気に魔物に迫る。
「ふっ!」
そうして、腰に収めていた剣を抜き、一線。
――ボロボロボロボロ……。
その動きだけで、周囲にいた魔物を細かな肉片に変えた。
「…………団長、………………あれ、魔物?」
「エリ、あれは人だ。」
見事な剣捌き。
その動きだけなら、エリの言う通り魔物じみた人外の速さだ。
「…………副団長、今日は張り切ってますね。」
「あぁ!!今日はエレナさん達に見てもらえる日っすからねっ!」
トレヴァーに追いつき、部下がそう彼に声をかけると、彼は子供のような純粋な表情でそう言った。
「………………私達の魔物…………残ってない……。」
「まぁ、そういうな。」
対して、魔物を全部トレヴァーに奪われ、落ち込んだ様子のエリに、慰めの声をかける。
「………………?………………この先の…………階段下。……………………何か………………いる。」
その時、唐突にエリがそう言って、先の方向を指す。
「なるほど、この下か。」
「そうっすね。」
そうして、私達がその方向へ走り出すと、先程まで感じなかった気配も、次第に探知できるようになっていった。
「………………敵…………六十。…………種族………………複数?」
「複数だと?」
階段付近で足を止め、エリが下を確認すると、彼女はそう言って首を傾げた。
「…………はい。………………エルフ…………ダークエルフ……………人間………………巨人?」
「まさか、捕らえられている種族と同じ種族が、敵にもいるってことっすかね?」
「あぁ、そうだろうな。」
それなら、これほどの種族がいることにも説明がつく。
「どちらにしろ、やることは変わらない。」
そうして、私は階段に足を踏み入れた。
「殲滅だ。」
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