14.偵察
◆シャーリィー視点◇
「あったわ、これよぉ。」
そう言って、ティファンヌは男の懐から一枚の紙を取り出した。
「これは?」
「奴隷商の拠点の地図よぉ。」
そうして、ティファンヌから渡された地図を広げると、幸か不幸か、その場所はアトキンス領の中だった。
「アマンド。」
「あぁ。私も一度だけ行ったことあるぜ。ここは。」
「そう、なら行きましょうか。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そうして、私達は地図に記された拠点より少し離れた場所に転移した。
「まさか、こんなところにあるとはなぁ。」
「えぇ。でも、何かを隠すならピッタリの場所ねぇ。」
そこは、アトキンス領に二つあるダンジョンのうちの一つだった。
昔はここも冒険者で賑わっていたが、とある事件をきっかけに、ダンジョンが封鎖され、今ではたまに新人の騎士が魔物狩りをする程度の場所になってしまった。
「とりあえず、周囲を一通り探してみましょう。」
「「了解。」」
そうして、私達は気配を消し、ダンジョンの周囲を探索して回った。
しかし、ダンジョンの周辺は今や、誰も寄り付かない廃墟と化しており、人どころか、動物一匹見当たらなかった。
「やっぱり、いないわね。」
「あぁ、そうだな。」
人の寄り付かない廃墟となれば、奴隷商にとっては絶好の場所かもと思ったけど……。
「もう一度、探してみましょう。」
「「了解。」」
そうして、私達は範囲を広げてもう一度周辺を見て回ったが、やはり人の気配は一つも感じられなかった。
「チッ、この地図、本当にあってんのかぁ?」
「うるさいわねえ、黒顔。」
二人がそう言って睨みあっている中、私はもう一度地図を広げ、その目印の示す位置を確認した。
「…………もしかして……。」
「ん?なんだ、メイド長。何か分かったのか?」
そうして、私は目の前にあるダンジョンの入り口を見た。
「………………これ、ダンジョンの中なんじゃないかしら?」
すると、二人は一瞬驚き、そうして納得した様子で頷いた。
「…………まぁ、結界でも張れば不可能じゃねぇしな。」
「えぇ。それに、ダンジョンの影響で、気配も隠せますからねぇ。」
となれば、あるとすれば中層あたりだろうか?
あそこなら、騎士も滅多に近づかないし、魔物もそこまで強くない。
「なら、行くか!」
「今回はあくまで偵察よ、戦うわけじゃないわ。」
殺る気満々のアマンドを嗜め、私達はダンジョンに足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もうすぐか?」
「えぇ。」
そんな話をしつつ、高速でダンジョンを駆ける。
私達が気配を消しているため、魔物もこちらに気づくことない。
「もうすぐ中層よ、注意して。」
「「了解。」」
そうしてい中層へ下りる階段の直前、私は足を止めた。
「「………………。」」
遅れて二人のその気配にはに気づき、頷く。
この階段の下。
そこから、複数の気配を感じた。
「おいッ、何やってんだテメェ!!」
「す、すみません!すみません!」
男の怒声と、怯えた声で謝る女の子の声。
他にも複数、そのような声がダンジョン内に響いていた。
何故、商品であるはずの奴隷がこのようなことに?
普通の奴隷商なら、檻に入れて放置するようなことはあっても、このように威圧することはないはずだけど……。
「ったくよぉ、これだからエルフはッ!」
「「「!?」」」
エルフ?
今、エルフって言ったの?
「ッ――!落ち着け、白いの!」
「っ!」
その声を聞いて振り返ると、そこには階段の下に手をかざすティファンヌと、その手を掴むアマンドの姿があった。
「気持ちは分かるが、今はダメだ!」
「でもっ……!」
「分かってる、白いの!だが、ここで万が一奴らを一人でも逃がしたら、大変なことになりかねないっ!」
「っ………………。」
アマンドがそう言うと、ティファンヌは怒りを抑えるよるように、アマンドの手を振りほどいた。
「それにしても、何故エルフが……。」
「…………………………!?…………ッ。それだけじゃねぇ。」
「え?」
「ダークエルフもだッ!」
「「!?」」
アマンドの言葉を受け、一瞬だけ探知の精度を上げると、確かに、ダークエルフのような魔力を感じた。
しかし……。
「それだけじゃないわね……。」
「なに?」
「人族はもちろん、エルフ、ダークエルフ。そして、メデューサにドワーフ、他にも複数の種族がいるはね。…………巨人族もいるみたい。」
「巨人族だと?!」
アマンドがそう叫ぶと、ティファンヌが慌ててその口を抑えた。
「黒いの、幾ら結界を張ってるからって、叫ばないで。」
「………………分かってる、だが……。」
今の私達は、相手に魔力探知がバレないよう、最低限の魔力で行っている。
だから精度も低く、誰が何処にいるかは分かっても、それがどの種族かまでは判別できない。
二人がそれぞれ同胞に気づいたのは、馴染みのある魔力だったためだろう。
「どうして分かるのぉ?」
「一瞬だけ、魔力探知の精度を上げたのよ。」
「一瞬って、私らですら気づかなかったぞ……。」
まぁ、昔から、そういう細いことは得意なのよね。
「それで、聖獣はいるか?」
「…………分からないわ。ただ、奥に他とは別格の気配は感じる。」
いくら私でも、聖獣はともかく、聖獣の子供の魔力までは判別できない。
というより、そんな希少な存在は見たこともない。
だけど、あの巨人族と別格となれば、多分聖獣か、それと同等の存在なのは間違いないと思う。
「一旦帰るわよ。」
「「………………。」」
「ティファンヌ、アマンダ。あなた達には申し訳ないけど、我慢して。」
エルフとダークエルフは、これまでの長い歴史の中で、特に奴隷として狙われた種族。
その理由は、容姿が美しく、寿命の長いことにあり、これらの理由で高値で取引されていた。
そして、もちろん二人は、そんな歴史を歩んだ。
だから、仲間や友人が突然攫われ、奴隷のように扱われている光景は、何度も見てきたはず。
そんな二人に、こんなことを言うのは酷だけど……。
「大丈夫だ。エレナ様が、必ず殺って下さる。」
「えぇ、そうね。」
二人はそう言って、拳を強く握りしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ダンジョンを出ると、傾いていた太陽は、すっかり頂上に昇っていた。
「もう昼かよ。」
「お腹空いたわぁ……。」
「メラルダ様も頑張ってるのよ?もう少し我慢して。」
とは言っても、流石に私も疲れたわ。
こんな仕事、朝からするもんじゃないわね。
すると、何故か二人が珍しくきょとんとした様子で私を見つめていた。
「…………?二人とも、どうかした?」
「いや…………その……、メイド長、なんでそんなにメラルダ様を慕ってるんだ?」
「え?」
「だってよ、メラルダ様って今は客人だが、一応海賊だぜ?」
その言葉に賛同するように、ティファンヌもコクコクと頷く。
「なのにメイド長は、まるで主かのように接してる。流石におかしいだろ。」
「………………そんなつもりは…………なかったのだけど……。」
でも、言われてみれば、確かにお客人と言うより、主として接していたような気がする。
「………………旦那様に頼まれたお客様だから?」
「なんで疑問形なんだよ……。」
「そんなこと言われても……。」
今まで自覚もなかったわけだし……。
正直、この接し方にそんなに違和感も感じてないのよねぇ……。
でも、確かに主でもない人にこのような接し方は良くなかったかもしれない。
私はメイド長なのだから。
「…………そうね、気をつけるわ。」
「いや、珍しいなと思っただけだ。別に非難してる訳じゃねぇよ。」
「そう…………なの?」
「あぁ。それより、これからどうする?」
そう言ってアマンドの表情が、真剣なものに戻る。
「…………そうね、アマンドとティファンヌは騎士団がここに到着までここで待機。奴隷商が逃げるような素振りを見せたら、できる範囲で妨害して。」
「生死はぁ?」
「奴隷とされている人達以外は、問わないわ。」
「了解よぉ。」
そうして、私は二人を残して王都へ転移した。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2025年1月22日を予定しております。
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