13.医者【2視点】
◆シャーリィー視点◇
メラルダ様に頼まれたのは、サーシャ様を見て下さっているお医者様の捕縛と奴隷商拠点を見つけ出すこと。
お医者様を見つけ出すのは、とても簡単だった。
もともと今日はこの御屋敷に来る予定だったし、あのお医者様がどこに住んているのかも知ってる。
だから、やること自体は簡単なんだけど……。
「それでぇ?なんで私達が必要なのかしらぁ?」
「あの医者の捕縛くらい、あんただけで十分だろ。」
ティファンヌとアマンドが、不満そうな声を上げる。
「グマエス自体は問題ないわ。問題は、一緒にいた者達よ。」
私がそう言うと、ティファンヌとアマンドは驚いた様子で互いの顔を見た。
実はメラルダ様にお願いされた後、私は一度一人でお医者の自宅まで向かった。
もちろん、気配を消して。
しかし、自宅から少し離れた場合から中の様子を伺うと、明らかにお医者様ではない、かつ、人族ではない者の気配を感じたのだ。
「あなたがそこまで言うほどなのぉ?」
「制圧自体は問題ないの。でも、周囲の目が……ね。」
「なるほどなぁ。」
濁すように私がそう言うと、二人は納得した様子で頷いた。
「まぁ、サーシャ様の為だしぃ?そこの黒顔とやるのは不服だけど、いいわよぉ、私は。」
「ふん!私だって白顔とやんのはごめんだっ!まぁ、だが今回ばかりは仕方ねぇ、やってやるよ。」
もう少し仲良くなってくれればいいのだけれど……。
まぁ、そこは因縁だからしかないかぁ。
エルフとダークエルフの因縁なんて、今に始まったことでもないのだし。
「ありがとう、二人とも。それじゃ、行きましょうか。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気配を消し、民家の屋根上を走る。
お屋敷からこの街までは転移で移動したけど、街の中は魔法を使うとバレてしまう恐れがあるから走るしかない。
まぁ、お兄様ほどの技量があれば別だけど……。
そうして目的地付近に到着し、手で二人に合図を送る。
すると、二人は素早く目的の家の屋根上へと移動した。
そうして私が、手で開始の合図をする。
すると二人は、まるで穴でもあったかのように屋根をすり抜けて中に入っていった。
そうして数秒、少しだけした物音も、すぐに止んだ。
街の住民にも、バレてはいないようだ。
すると、その家の扉が開き、中からティファンヌが完了の合図をしてくる。
私はそれに頷き、その家の屋根から家の中に入った。
中は家具一つ破損しておらず、中には気絶したエルフとダークエルフが二名ずつ。
そして、今回の目的であるお医者様は無力化された状態で、口にはテープ状の魔道具を張られていた。
「二人とも、ありがとう。」
私がそう言うと、二人は呆然と倒れた四人のエルフとダークエルフを見つめていた。
「………………まさかエルフとダークエルフが協力しているとわねぇ。」
「…………………あぁ。メイド長の話を聞いた時はまさかとは思ったが、実際にこの目で見るまでは信じられなかったぜ。」
今回、私が二人を連れて来た理由は、万が一の時に周囲に差別意識を持たせないため。
この領地では、多くの種族が生活している。
もちろん、エルフやダークエルフも。
だからこそ、私が万が一エルフとダークエルフを捕られたところを見られた場合、差別による不当なものだと思われる可能性があった。
ましてや、私は単なる使用人。
騎士でもなければ、憲兵でもない。
それに今の時間帯は昼間で、多くの住民で街が賑わっており、万が一戦闘にでもなった場合、住民の目は誤魔化せない。
だから、彼らと同じ種族である、二人を連れて来たのだ。
「まぁ、とりあえず運びましょうか。」
呆然としている二人の背中を軽く叩き、そう声をかける。
「えぇ、そうね……。」
「…………チッ!ダークエルフの恥晒しが……!」
ティファンヌはエルフに向けて悲しそうに、アマンドはダークエルフに向けて憤りを隠すことなくそう言うと、二人はそれぞれの同胞を抱えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後、私達は転移で御屋敷の地下まで移動し、手錠をかけた状態でエルフ達を適当な牢に閉じ込めた。
そして、先程から怯えた目つきでこちらを見ているお医者を見る。
エルフ達を入れるまでの間、ずっと端に放置していたのもあり、余計恐怖が増したのだろう。
「アマンド。お医者様のお口のテープをとって差しあげて。」
「了解だ。」
そうして、グマエスが口のテープを乱暴に剥がすと、お医者様は怯えながらも口を開いた。
「お、お前達はッ!!あ、あ、アトキンス家の使用人だな?!」
「はい。」
「な、なんでこんなことをするッ!!!わ、わ、私にこんなことをすればどうなるか、わ、分かっているのかッ!!!」
相変わらず、傲慢で、愚かなお方。
まさか、この場を見てなお助かると思っているなんて。
「ま、マイルズ様はどうしたッ!!!あの方を呼べッ!!覚えてろよッ!!お前などすぐにクビにしてやるわッ!!!」
お医者様…………いや、愚かな男はそう叫ぶと、何かを思いついたのか、ニヤニヤと下卑た表情を私達に向けた。
「そ、そうだ!そうだぞ!!!これは立派な契約違反っ!!ほ、本来、シャーリィー様の治療も中止だっ!!」
そうして、男は私達の胸部に不快な視線を向けた。
「だ、だが、そ、そうだなっ!!も、もしお前達が私に奉仕したいというのなら、ゆ、許してやらんこともない!も、もちろん、よ、よる」
しかし、男の言葉は最後まで続くことはなかった。
『口を閉じなさい。』
ティファンヌの言葉で、何かを言おうとしていた男の口は、強制的に閉ざされた。
「珍しくいい働きするじゃねぇか、白いの。」
そうして、アマンドが怒りを隠すことなく、男に詰め寄った。
「なぁ、ゴミ屑。お前、今の状況分かってんのか?」
この男は、ある意味幸運だったのかもしれない。
「な、何を……。」
「分かんねぇなら、見せてやるよ。」
――パチン!
そう言ってアマンドが指を鳴らすと、先程檻の中に入れたのエルフ達が、私達の背後に現れた。
「おい、お前ら。もしこの場で私らに一撃でも攻撃を当てたれたら、この場から解放してやる。」
「………………ほ、本当だな?」
「あぁ、二言はねぇ。」
既に、手首にはめていた手錠も消失していた。
流石に武器まではないが、それでもエルフ達はそんなアマンドに不適な笑みを向けると、その場から消失した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆医者視点◇
一時はどうなるかと思ったが、これは幸運だな。
こいつらは、このエルフどもを舐めている。
案の定、エルフどもが姿を消しても、彼女らは余裕な表情を変えることもない。
だがな、こいつらはただのエルフとダークエルフではない。
あの暗殺者ギルドから遣わされた、正真正銘殺しのプロだ。
いくらアトキンス家の使用人とはいえ、たかがメイド風情が、勝てる相手ではないッ!!
そうすれば、あとは子のメイド達を盾にして逃げればいいだけよッ!!
そうだな……その後はこの女達を一人ずつ……。
すると、次の瞬間、ダークエルフのメイドの首付近で何かが光った。
その瞬間、男はこの勝負の勝利を確信した。
この男の予想通り、エルフ達は一時の勝利など望んでいなかった。
目的は、この場にいるメイドの抹殺。
もし、この場にいるメイド達が、ただのメイドであったのなら、それも通用していたのかもしれない。
だが、男と、エルフ達は失念していた。
この屋敷がアトキンス家の屋敷であるということを。
「もういいかしら?」
「あぁ、いいぞ。」
すると、突然エルフのメイドが呆れたようにそう言った。
ふん、無駄なことを。
…………だが、変だな?
さっきダークエルフのメイドの首元で、確かにナイフのようなものが光ったが……。
何故、このダークエルフは死んでいないのだ?
『死になさい。』
はっ!!
何を言うかと思えば!
そんな言葉を、素直に聞くはずが……。
しかし、その瞬間、突然姿を消していたエルフ達が一斉に姿を現した。
その首を、自ら刃物で貫いて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◆シャーリィー視点◇
突然エルフ達が自害したことが信じられないのか、男は呆然とその光景を眺めていた。
「お前は気づかなかったと思うが、こいつら、この数分で何度も私らを殺そうとしてたんだぜ?」
「は?」
アマンドが不適に笑うと、男の前にしゃがみ込んだ。
「でもな、誰も死んでねぇだろ?」
「な、何故………………何故だっ!!!あいつらは、あの暗殺者ギルドの者達だぞッ!!!!」
「弱すぎたのよ。」
「なっ。」
「弱すぎたって言ってるの。」
ティファンヌが男の疑問に呆れながら返す。
確かに、あのエルフ達は強かった。
この数分で、何度も私達を攻撃できるくらいには。
でも、それだけ。
「一つ、教えてやるよ、お医者様。」
そう言って、アマンドは体内に隠していた魔力を解き放った。
濃密な魔力が、地下全体に満ちる。
「攻撃ってのはな、通用しなきゃ意味ねぇんだよ。」
そう。
エルフ達も攻撃は、確かに多かった。
しかし、そのどれもが、私達が常時纏っている結界で防げてしまう程度でしかなかったのだ。
「さぁ、頼りのお仲間も死んで、旦那様の助けも見込めねぇ。」
「な、何故………………そんな………………い、いや、あの薬は私にしか」
「もう、あんなゴミみてぇな効果しかない薬は必要ねぇんだよ。」
「な、なんでそれを知っているっ?!ま、まさかっ!!の、飲んだのかっ?!」
もう、完全に自白したわね。
本人は、気づいていないのでしょうけど。
「あ、あれは俺のせいじゃないっ!!お、俺は、た、た、た、ただ、言われた通りにっ!!」
「ほぅ。ならそれを誰に言われたのか。吐いてもらうか。」
「ひぃぃ!!」
メラルダ様には、思い違いかもしれないから慎重に、と言われていたけど、ここまでくると確実ね。
「そうね。あと、奴隷商についても吐いてもらうわ。」
そう言って、ティファンヌは前に出ると、グエマスの顔を両手で優しく包んだ。
「な、な、何を……。」
「安心して、痛いことはなぁんにもないわ。ただ、少しお眠ねんねするだけよ?」
「いや…………いや…………いや…………ガァァァ゛!!!!」
その瞬間、男は電撃が走ったかのように一瞬痙攣すると、そのまま糸が切れたかのように動かなくなった。
「………………白いの。お前、マジでエグいよな。」
「うるさいわね、黒いの。私だってこういう魔法は専門じゃないのよ?」
私からすれば、使えるだけで二人とも相当あれなんだけど……。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回の投稿は2024年1月20日を予定しております。
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