12.不審者
「ぉ…………ぉ…………。」
「ぅ…………ん?」
うるさいな〜。
私、今寝てるんだけど……。
「…………ん…………もうちょっと寝かせてよ…………カリーナ……。」
「カリーナとは、お主の仲間の名か?」
「……………………?…………っ?!」
その声を聴いた瞬間、私は反射的にベットから飛び退いた。
え?
誰?
誰の声?!
っていうか男っ?!
聞き覚えのない、男の声。
マイルズさんでも、フォルジュさんでもない。
そうして距離をとりつつその方向を見ると、そこには金髪の男がいた。
金髪の髪に、同色の髭を生やし、高そうな服を着た男。
年齢は…………四十代くらいだろうか?
「…………誰?」
「うむ、流石に寝ている娘の部屋に勝手に入るのはよくなかったか。」
「………………。」
殺気や戦意のようなものは感じられない。
それに、アトキンス家の人達に比べれば、全然強くないけど……。
「………………フォルジュさんは?」
「あの娘なら、今頃焦ってこちらに向かっておるころだろうな。」
「……走って?」
何故?
私が寝るまで、確かにフォルジュさんはこの部屋にいた。
そんなフォルジュさんが慌ててこちらに向かっている?
そもそも、あの人が勝手にどこかに行ったりする?
いや、あの性格からして、それはないと思う。
なら、どうして今この場にいないのか…………。
――――この男が、何かした?
「…………あなたが、フォルジュさんを?」
「何もしておらんよ。ただ、ちょっと我が早く着きすぎてしまっただけのこと。」
「答えになってない。」
早く着いた?
まるで、誰かを約束をしてたみたいな言い方だけど…………。
………………でも、そんなことは有り得ない。
そもそも、私達が王都に来たのだって予定していたことじゃない。
たまたま私がアトキンス家に捕まって、それがたまたま王家が会いたい人物だったってだけ。
いつ見つかるかもわからないんだから、もちろんいつ王都に向かうかも分かるはずがない。
それに、仮に昨日マイルズ達が何かしらの方法で私のことを王家に伝えたのなら、私が今ここにいるのはおかしい。
だってアトキンス夫婦は、謁見の日程調整のために王城まで向かったんだ。
もし事前に王家がそれを知っていれば、日程調整だって手紙越しにでも行われていたわはず。
そうなれば、私達は今頃王城にいるはずだ。
「………………目的は何?。」
「お主だ。」
私?
だとしたら、目的はなんだろう?
殺し?
いや、そうだとしたら、私が寝ている間にしているはず。
それは、誘拐にしても同じ。
それに、仮に何かの事情で本当に私に会いに来たとして、フォルジュさんがいない理由にはならない。
うーん。
「…………敵。」
「む……。」
「知らない人が、勝手に女子の部屋に入ってきた。つまり、敵だよね?」
「うむ…………うむ…………いや、確かにそうなのだが」
とりあえず、拘束しよう。
その後は、フォルジュさんに任せれば、多分何とかしてくれるはず。
フォルジュさん達のおかげで、身体もだいぶ回復した。
まぁ、流石に今まで通りとまではいかないけど、数分間なら戦える。
「いや、その……我はいちおう」
「言い訳なら、後で聞くよ。」
そう言って、私は男の腹に拳を放った。
身体強化までは使えないけど、この男を気絶されるくらいなら、これくらいで十分っ!
――ドンッ!!
「…………へぇ。強いんだ。」
しかし、その拳は、一本の剣によって受け止められた。
「い、一応剣術は一通りマスターしておるからな……。」
「剣術……ねぇ……」
見えはした。
多分、次は確実に当てられる。
でも、あの剣術は何だろう?
今まで、見たことのない剣術だ。
それに、なんか動きが綺麗すぎる気がする。
「そんな剣術で、戦えるの?」
「………………。」
「まぁ、答えなんて期待してないけどさ。」
そうして、次は拳に軽く魔法をかける。
――バン!!
そうして再び殴りかかろうとしたその時、突然強く部屋の扉が開いた。
「メラルダッ!!!」
「…………フォルジュさん?……って、わっ!」
そうして開け放った本人であるフォルジュさんが慌ててこちらに寄ると、立っていた私を半場強引にベッドに座らせた。
「大丈夫ですか!?お怪我は!?」
「ない……けど、どうしたの?」
「はい。突然そこの男を部屋まで案内して欲しいと、旅館の者が訪れたのですが……。」
フォルジュさんにしては珍しく、混乱した様子で男を見やる。
すると、扉の向こうに、もう一つの気配を感じた。
「陛下が勝手に部屋まで行ってしまいましてな、フォルジュ殿と入れ違いになってしまったのです。」
落ち着きのある、優雅な声。
「失礼致します。」
扉の方を見ると、扉の向こうには、一人の男がいた。
その立ち振る舞いは隙が無く、まるでフォルジュさんやシャーリィーさんのような、綺麗一礼をして、その男は部屋に入ってきた。
「私は近衛騎士団団長を務めております、ギョーム・ドルレアクと申します。本日は陛下の無礼な振る舞い、本人に代わりまして深くお詫びも仕上げます。」
「頭をお上げください、ギョーム殿。あなたの不手際ではないことは、私も存じております。」
フォルジュは頭を下げるギョームさんそう言うと、いつの間にか部屋の隅で気まずそうにしていた、この件の元凶である男を見た。
「さて、どういうおつもりですか?陛下。」
「陛下?」
え?
何言ってんの?フォルジュさん。
マイルズさん達は、その陛下との謁見のために王城までいったんだよ?
なのに当の本人がここにいるとか、普通に笑えないよ?
「うむ、マイルズらが王都に来たという報告を受けてな。」
「はい。」
「だから来たのだ。」
「何故そうなるのですか……。」
「フォルジュ殿のおっしゃる通りでございます。それとも陛下は、アトキンス家との戦争をお望みなのですかな?
フォルジュさんがため息を吐くと、先程の雰囲気とは打って変わって、怒りを滲ませた表情のギョームさんが、そう言って男の手首を掴んだ。
「いや、そういうつもりじゃ……。」
「そうなっても仕方のないことであると言っているのです。」
ギョームさんの声は、表情の割に、声は荒立っておらず、私はそれが逆にそれが恐ろしく感じた。
「陛下、旦那様は今どちらに?」
「あぁ、それなら今頃戻ってきておる頃であろうな。王都一体は転移できぬゆえ、少々時間はかかるであろうが。」
うわー。
こんな忙し時に、なんて面倒くさいことしてくれやがるでしょうねこの男。
「陛下、一旦別のお部屋へ参りましょう。」
「うむ、そうだな。ではな、諸君。」
そういうと、二人は部屋を出て言った。
その後、戻ってきたマイルズさんが呆れながら陛下の部屋に向かったのは、言うまでもない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「話はつけてきた。陛下はもう一度お前と会いたいと言っていたが、今回は陛下のせいで時間を無駄にしたのでな。また次の機会にと言っておいたぞ。」
「ありがとうございます。」
うわ、マイルズさんが疲れてる……。
めっちゃ頑張ってくれたんだろうな。
あの人、面倒くさそうだったし……。
「安心してメラルダ。今回の件は、今度きっちり王妃様に御報告するわ。」
「え…………あ…………はい。」
すっっごい怒ってるなぁ、オリビアさん。
何があったらこんなに怒るんだろ……。
いや、多分あの陛下のことだから、「暇だったから娘の部屋にお邪魔していたのだ!」とか言ったんだろうな……。
「それで、これからどうする?」
「まずは奴隷商の拠点を叩きます。そしてそこに聖獣の子供がいればよし、いなければ次です。まぁ、そもそもここまで私の予想で動いてるんですけどね。」
まぁ、多分いるけどね、聖獣。
どうやって拐ったのかは分からないけど、ぶっちゃけそれくらいしないと相手さんは割に合わないだろうし。
だから、多分聖獣はいる。
ただ、問題はどこにいるかなんだけど……。
「あとは、シャーリィーさん次第ですね。」
「シャーリィーに頼んでいた、あれですか?」
「知っていたんですね。」
「はい。シャーリィーが屋敷を出ていったのは知っておりましたので。」
まぁ、こんな時に買い物なんてするわけないもんね。
そう考えたら、私のお願いすることなんて一つしかない。
「何の話だ?」
「シャーリィーさんに、その医者の捕縛と、奴隷商の拠点の特定をお願いしています。」
「なるほどな。」
「もうそろそろ…………来たみたいですね。」
――コンコンコン。
ちょうどその時、扉が軽く叩かれた。
「入れ。」
「失礼致します。」
そうして部屋に入ってきたのは、シャーリィーだった。
いやぁ、当ってて良かったぁ……。
最近私の魔力探知不調なんだよね……まぁ、多分体調のせいなんだけど。
これでシャーリィーさんじゃなかったら、もう気まずいなんてものじゃなかった。
「………………えっと…………メラルダ様は…………どちらに?」
「え、私ここですけど?」
「………………うっそ……。」
うっそではありませんー!
そんなに違うかな?
髪の色が変わっただけなのに。
「それで、どうです?いましたか?」
「あ…………はい。失礼ですが、正直ここまでメラルダ様の仰る通りだとは思っておりませんでした。」
そうして寄ってきたシャーリィーは、一つの大きな紙を私に差し出した。
「こちらが、その拠点を記した地図でございます。」
「ありがとう。」
そうして私は、それを広げた。
うん、全く分からん!
「やはり、私の領内だったか。」
「はい。」
あ、ここアトキンス家の領内なのね。
「ここは……封鎖したダンジョンのある場所だな。」
「はい。拠点は、その付近と、ダンジョン中層にあるようです。」
え、ダンジョンの中なの!?
まぁ、私が目覚めたのもダンジョンだし、意外と大丈夫なのかな?
「しかし、一つ問題が。」
「なんだ?」
「はい。どうやらその拠点には、多くの種族が捕らわれているようです。」
「人族だけではないと?」
「はい。エルフやドワーフ、ダークエルフ、そして巨人と思われる種族もいるようです。」
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次回の投稿は2025年1月18日を予定しております。
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