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08.予測

「………………あの、一つよろしいでしょうか。」

「……なんでしょう?」


 部屋に戻った後、車椅子からベッドに移動した私に、シャーリィーさんは気まづそうに声をかけてきた。

 

「…………どうして、教えて下さったのですか?」

「え?」

「だって、メラルダ様には関係のないことではないですか。」


 ………………まぁね。

 それに、実はマイルズさんの考えは、この屋敷の使用人全員で行えば、不可能ではない話だった。

 

 でも、別にあの時私が言っていたことが嘘だったわけでもない。

 確かに、マイルズさんは精皇国を舐めてた。

 その考えを、撤回する気はない。


 しかし、それはあくまで()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 仮にマイルズさんが、使用人はもちろん、国を巻き込んででもサーシャちゃんを取り返すという意思で行っていたのであれば、多分成功するだろう。

 それくらい、この屋敷の使用人達は強いと思う。


 それでも、私がマイルズさんを否定したのは……。

 

「気に食わなかったのかも…………しれないですね。」

「気に食わなかった、ですか?」

「はい。」


 国はまだいい。

 ただ、身内を犠牲にするという覚悟が、気に食わなかった。

 

「サーシャちゃんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……………………。」


 オリビアさんを見た時、なんとなくエリーヌと似た雰囲気を感じた。

 だから、無意識のうちにサーシャちゃんと、()()()()()()を重ねてしまっていたのかもしれない。


「マイルズさんにその覚悟があるのは分かります。それでも、覚悟のない子供に誰かの死を背負わせるのは、死以上に残酷なことではないでしょうか?」

「…………そうかも、しれましせんね。」


 そう言って、シャーリィーさんは俯いた。

 彼女も、思うところがあるのだろう。

 何せ、実の兄がマイルズさんに加担していたのだから。


「…………私からも、一つ聞いてもいいですか?」

「……はい。」

「フォルジュさんが私に怒鳴った時、ただそれだけのためにと言っていました。」


 ――ただそのためだけに娘を苦しめるしかなかったマイルズ様の気持ちがッ!!!


「あれは、精霊との契約のことですか?」


 フォルジュさんの怒声にも驚いたけど、それ以上に驚いたのはこの言葉だった。

 この言い方では、まるで上位精霊との契約が簡単なように聞こえる。

 でも、そもそも精霊との契約は、それ自体が難しいとすら言われている。

 精霊が上位なら、猶更だ。

 

「…………はい。」

「ですが、精霊との契約は、とても難しいはずですよね?」

「おっしゃる通りでございます。しかし、このお屋敷だけは例外なのです。」

「はい?」


 例外?

 え、そんなのあるの?


「メラルダ様も先程ご覧になったかと思いますが、このお屋敷には、多くの種族が使用人としては働いています。」

「…………あ!エルフ!」

「はい。」


 そうか!

 この屋敷には、精霊使いのエレナさんがいる!


 それなら、精霊との契約も、別に精皇国を通す必要はないんじゃ……。


「ですので、本来、エレナ様の精霊を通じて精霊と契約し、魔力過多症を抑えるつもりでした。」

「つもり?」

「はい。ですがそこに、精皇国の貴族の妨害が入ったのです。」


 そこからの話は、とでも酷い内容だった。

 

 そもそも、シャーリィーさんが言うには、このアトキンス家は、魔力の多く、強い者が生まれる家系らしい。

 もちろん、その血は世界中から狙われ、求婚してくる者が後を絶たない。

 それでもアトキンス家は、昔からそれを拒否し、子の意思を尊重していた。


 ただ、シャーリィーちゃんの魔力量は、歴代でも有数の量だったみたい。

 それこそ、()()()()()()()()()()()だったんだって。


 だから、サーシャちゃんの具合が悪くなって、魔力過多症だって判明した後、大変だったんだって。

 魔物と契約するにも、そんなのSランクくらいの魔物じゃないと意味ないって話になるしね。

 

 そして、ある日突然サーシャちゃんに聖属性が発現した。

 まぁ、あの医者のせいなんだけど。


 そんな中で、エレナさんが提案したのが、精霊との契約だった。

 流石に自分の精霊の譲渡はできないけど、精霊との契約の手助けはできるってね。

 

 ただ、精霊と会うには、精皇国にある精霊の森っていう、精霊の領域に繋がる転移門を通るしかない。

 それで、エレナさんがそれを使っていいか、精皇国に交渉しに行ったんだって。

 もちろん、ちゃんとしたお礼金とかもあるんだよ?


 でも、その交渉は破綻した。

 その理由は、この件を皇王から一任された貴族が、あまりにも欲深かったから。


 その時に出された条件がね、もう気持ち悪いし、ほんと反吐が出る内容だった。

 大まかにいうと、


 一、そいつをサーシャちゃんの旦那にすること。

 二、白金貨一千枚。

 三、エレナさんがそいつの奴隷になること。


 だってさ。


 どう思う?

 マジ死ねって感じじゃない?

 私はそう思うよ。


 それで、精霊との契約は断念するしかなくなった。

 いくらマイルズさんでも、二つ目の条件は吞めなかったみたい。


 かと言って、何処にあるかも分からない精霊の森を探すのも無理がある。

 誰も発見したことのない場所らしいからね。


 だから結局、医者の薬を飲んで現状を維持しつつ、解決策を探るしかなかったらしい。

 

「…………私達も、この薬が現状維持の効果しかないことは知っていました。ですがそれでも、サーシャ様の延命には、この薬が不可欠だったのです。」


 確かに、フレカメ草が入ってることは味で何となく分かったけど、こんな薬に使われているなんて知らなかったし。

 私が飲んだ時は風邪薬の効果しかなかったし。


 まぁ、味に癖があるから分かったけど、多分この薬の効果自体は別の薬草によるものなんだろうな~。

 

 副作用だけどね。

 それでも、こんな薬を出されれば、やっぱり医者に従うしかないか。


「…………あれ?」

「どうかなされましたか?」

「…………いや、…………なんでその医者は、エレナさんが精皇国に行くのを止めなかったんだろうって……おも……って…………!」


 いや、違う。

 もしかして、()()()()()()()()()()()()()


 確かに、エレナさんならいずれ、精霊なら契約ができることに気づくはず。

 だからエレナさんに、精霊との契約は無理だと思わせる必要があったのだとしたら?


 いや、でもそれはないか。

 だって精皇国から転移門を使わせてもらえなくなったってだけで、エレナさんが諦めるとは思えない。

 なんなら、自力で精霊の森を探すくらいのことは、してもおかしくないと思う。


 あれ?

 待って。

 そもそも、エルフはどうやってサーシャちゃんと精霊を契約させようとしてるんだろう?


 昔のサーシャちゃんはともかく、今のサーシャちゃんは寝たきり状態だし。

 エレナさんなら、サーシャちゃんをまじかに見てきた精霊を通じて交渉はできそうだけど。

 サーシャちゃんのことを何も知らないエルフが、果たして寝たきり状態のサーシャちゃんを、精霊と契約させられるだろうか?


 いや、無理だ。

 というか、それで契約できるなら、精霊使いが稀少なのはおかしい。

 多分、精霊と会ったうえで、その精霊に認められない限り、契約なんてできないと思う。


 それに、そもそも上位精霊との契約なら、ハイエルフなら不可能じゃなくない?

 それなら、特段戦力にもならないし、サーシャちゃんを欲する理由にもならないんじゃないかな?


 いや、まぁ、最上位なら分かるけど……。

 それなら猶更、今のサーシャちゃんには無理だと思うし…………。


「………………シャーリィーさん。」

「はい。」

「精霊以外で、サーシャちゃんと契約できる種族っていますか?」

「精霊以外…………ですか?」

「はい。」


 それでも、精霊の雫には、きっと意味があったはずだ。

 サーシャちゃんを聖属性にした意味が。


「………………いるには、います。」

「それは?」

()()()()。」


 ……………………マジ?


 聖獣?

 いきなり凄いの出てきたな。


「はい。前例が少ないので何とも言えませんが、聖獣なら可能かもしれません。」


 確かに、もし”契約(コントラクト)”が聖獣にも作用するのなら、いけるかもしれない。

 それに、聖獣が消費する魔力なんて、想像もつかない。

 もしかしから、顕現しているだけでも魔力を使うのかもしれないしね。


 まぁ、確か魔力枯渇気味になるかもしれないけど…………。

 

 ………………ん?


 ()()()()


「………………………………っ。シャーリィーさん!」

「は、はい!」

「一つ、確認してきて欲しいことがありますッ!」

ここまでお読みいただきありがとうございました。


次回の投稿は2025年1月8日を予定しております。


また、誤字報告も合わせてお願いいたします。

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