02.アトキンス領
「わぁ……。」
「凄いだろう?アトキンス領の港は。」
「えぇ。凄いです。」
今まで、こうした表だった港には来ることはなかった。
いつも私達が行っていたのは、裏業者の集まるような怪しい港。
殺人や強盗はもちろん、騎士団に見つからない位置にあるため、なんでもありの荒れた港だった。
でも、ここは違う。
多く商人が集まり、港付近の露店では、ちゃんとした硬貨の取引が当たり前のように行われてる。
もちろん、何かあっても対応できるよう、憲兵も多く配置されている。
誰が見ても治安のよい、賑やかな港だ。
「ここには、世界中の商人が多く集まってくるんだ。」
「へぇー。」
確かに、ここには多くの人が集まってる。
冒険者っぽい人もいれば、子連れの人もいて、その誰もが楽しそうに、商人の開く店を見ていた。
「……湊は初めてか?」
「いえ。…………ですが、少なくとも、これだけ気を抜ける場所ではありませんでしたね。」
「…………そうか。では、行くぞ。」
車椅子がゆっくりと押され、人通りの中を進む。
今の私は車椅子に乗り、フード付きのマントを目深く被っている。
車椅子は、下船の前にエレナさんに言われて準備をしようとした所、立ち上がろうにも力が入らず、そのまま倒れてしまったのだ。
だから今は大人しく車椅子に乗り、バッティアートが押してくれている。
マントに関しては、念の為だそうだ。
貴族は王族を責められない。
それは、誰もが知っている常識だ。
だから、万が一私が何かしらの問題を引き起こした場合、例えそれが王命であったとしても、他の貴族はアトキンス家を非難するだろう。
王族なんて、そんなものだ。
「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな。」
「あ、はい。メラルダです。」
「そうか。私はエレナ・モナンジュだ。覚えておけ。」
「は、はい。」
素っ気ない態度であるけど、なんとなく気を使ってくれているのだというのは分かった。
これも私が子供だからなぁ〜。
なら、もう一生子供の方が楽じゃね?って気もしてくる。
ちなみに、今私といるのはエレナさんとバッティアートだけ。
他の騎士達は、王国騎士団という別の騎士団らしく、私達を見届けた後、そのまま出港している。
まぁ、だからといって逃げるチャンスかというとそんなはずがなく、エレナさんどころか、私はこのバッティアートにすら勝てないだろう。
あぁ、私って強い方だと思ったんだけどなぁ〜。
あの化け物に会ってまで一度もなかったのに。
「はぁ……。」
「なんだぁ?流石に貴族様の領内は憂鬱か?」
「うるさいです。」
「お前、俺にだけはなんでそんなに強気なんだよ。」
お前が変態だからだよ。
エロフより危険なんだぞお前!!
自覚ある??
「強気ではないです。ただ苦手なだけで。」
「…………俺だって傷つくんだぞ?」
知るか。
子供の個人情報見たがる変態とか、救いようもないわ!
「メラルダ、もっと言ってやれ。こいつはもっと反省するべきだ。」
「だ、団長っ?!」
「ですよね。私もそう思います。」
なんか、こんな感じの会話を昔もしたな。
確か、エロフがナタリアの裸を見ちゃった時だっけ?
あの時のナタリア、すっごい機嫌悪かったもんなぁ〜。
でも、まぁ、確かに一度見たら癖になる身体ではある。
あんな大きいものを二つも持ってるくせに、スタイルのいいナタリアが悪いと言えばその通りだ。
うん、ナタリアもギルティ!!
――だから、私がいつもお風呂で見ちゃってたのも仕方ない!!
「………………お前の仲間は、いいやつらだったんだな。」
「え?」
「記憶のないものが笑えることなど、そう多くない。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから、私達は港を出でて、そこからは用意されていた馬車で移動した。
どれくらい移動したかは分からないけど、港にいた頃は昇っていた太陽も、着いた時にはすっかり沈んでいた。
「ここが、アトキンス家ですか……。」
馬車を降り、車椅子に乗ったところで、私は呆然とそう呟いた。
視界に入り切らないほどの大きな屋敷。
闇夜でもはっきり見えるほどふんだんに使われた魔石。
船が十隻は入りそうなほどに大きな敷地。
そうして入口と思われる大きな扉まで導くように左右に咲く、何種類もの綺麗な花。
今まで見た事のない、あまりに現実離れした景色に、思わず頭がくらつく。
「凄いだろう?」
「……はい、とっても。」
私が素直に頷くと、エレナさんは懐から一つの手錠を取りだした。
「悪いが、ここからはこれを嵌めてもらう。まぁ、正直無くても問題ないが、形式上ってやつだ。直ぐに外せる。」
問題ないって……。
まぁ、そりゃ私が何をしても、簡単に抑えられちゃうだろうけどさぁ……。
「まぁ、使用人もいるからな。お前が海賊だってことは知らねぇが、不安にさせないためだ。」
「なるほど。」
確かに、これほどの屋敷なら使用人もいるか!
だから別に、私が弱いって訳じゃないよねっ!!
え?
流石に無理がある?
それくらい分かってるよちくしょ!!!!
「付けるぞ。」
「あ、はい。」
そうして、エレナさんが私の手に手錠をはめた。
――カチャリ。
「え?」
その瞬間、体から突如力が抜けた。
まるで、力を吸い取られるように、車椅子から崩れ落ちそうになる。
「大丈夫か?」
それを受け止めてくれたのは、エレナさんだった。
いつの間にかしゃがみこみ、倒れそうになった私を受け止めてくれている。
「すまない。言い忘れていたが、これは力を制限する効果がある。」
「力を?」
「あぁ。深くは言えないが、簡単に言うとそういうことだ。」
なるほど。
確かに、力が抜けた感覚はある。
でも、これって、魔力だけじゃないよね?
まるで、身体の機能そのものが制限されたような、そんな感覚。
「…………バッティアート、こいつを支えるのは本来、お前の役目だぞ。」
「そうは言っても、俺が動く前に動いてたでしょ?団長」
「お前が遅いんだ。」
「……無茶苦茶言いなさる。」
え、いや、バッティアートに受け止められるとか嫌だよ?
誰がこんな変態おっさんに触られたいんだよッ!!
私の身体に触れて、少しでもニヤついたら多分殺しちゃう。
なんか、謎の力に目覚めて殺しちゃう。
それくらい嫌!
「…………そんなにバッティアートが嫌いか?」
「え?どうして分かったんですか?」
「そんなごみを見るような目をしていたら、誰でも分かる。」
「…………本人の前でそれいうか?普通。」
そうしてぼそぼそと何かを言いながら、バッティアートは再び車椅子を押し始めた。
エレナさんも、私を気にしながら隣を歩いてくれている。
ちなみに、エレナさんすっごくいい匂いでした!!
ありがとうございますっ!!!
そうして大きな扉の前に着くと、そこにはいつの間にか二人の使用人が立っていた。
まるで絵から出てきたかのような、綺麗な紫髪の二人の女性。
二人共似てるから、姉妹かな?
でも、片方は男性服だし……男装かな?
「「おかえりなさいませ。エレナ・モナンジュ様、バッディアート様。」」
「あぁ。マイルズに用がある。」
「はい、既に私室にて、お二人をお待ちです。」
男装をしている方の使用人がそう言うと、二人は合図でもしたかのように、同時に扉を開けた。
「うわっ……中も凄い……。」
大きな玄関?が、無数の装飾で彩られてる。
絨毯も綺麗に敷かれてるし、あのシャンデリアとか、宝石みたいに綺麗!
ってか、玄関にしては豪華すぎない?
それとも、これが貴族の普通?
「こちらの方は、お客様ですか?」
「あぁ。そのようなものだ。」
「それでは、ここからは私にお任せ下さい。」
男装した女性がそう言うと、二人はこちらにやってきて、綺麗な姿勢で一礼した。
「ようこそお越しくださいました。私はフォルジュと申します。主にこの御屋敷で全体の管理を任されております。」
「シャーリィーと申します。この御屋敷で、メイド長をさせて頂いております。」
「は、はじめまして。メラルダと、も、申します。」
…………なんか、凄い。
同じ人族の筈なのに、お辞儀も話し方も凄い丁寧。
それでいて、全く違和感も感じない……。
完璧な人族っていうのは、こういう人達のことなんだろうな……。
「こいつは立てないからな。階段のサポートはまかせるぞ。」
「畏まりました。では、こちらへ。」
その後、シャーリィ―さんと変わったバッティアートは、そそくさと屋敷を出て行ってしまった。
シャーリィーさんが私を押し、フォルジュさんが私達を先導する。
その歩く姿はとても洗礼されており、道中の装飾など気にならないほどに思わず見入ってしまった。
そして行けるか不安だった階段だけど、なんとシャーリィーさんが魔法で車椅子ごと浮かせてくれたのだ。
いや、車椅子ごとって何?!
今までそんなの見た事もないんだけど?!
などと思いつつも、流石にそんなことを言えるはずもなく……。
そうして、次は当たり前のようにすごい事をやって見せたシャーリィーさんに興奮していると、気づけば目的の部屋まで到着していた。
廊下に並ぶ、いくつもの扉。
その一室に止まり、フォルジュさんが扉を叩く。
――コン、コン、コン。
「失礼致します。エレナ様方をお連れ致しました。」
「…………入れ。」
すると、扉の奥から男のように低く、それでいて、女のように透き通った声が帰ってきた。
男だとは思うんだけど、女っぽくも聞こえるような不思議な声。
思わず男かな?って思っちゃうけど……。
でも、流石に男だよね?
旦那様だし。
「どうぞ、お入り下さい。」
そう言ってフォルジュさんは、ゆっくりとその扉を開けた。
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次回の投稿は2024年12月26日を予定しております。
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