01.バッティアートが邪魔
「あの、だ、大丈夫ですか?」
「気にするな。この間も任務をすっぽかして女と遊び歩いていた男だ。」
バッティアートが連行された後、隣の部屋から、無数の轟音と、バッティアートのものと思わしき悲鳴が聞こえてきた。
これには、流石のトラウマくんも真っ青で、「戻ろうかな……。」とか零してた。
もちろん、私も同じである。
え、トラウマくんが誰かって?
フェオドール以外にいないでしょっ!!
そうして戻ってきたバッティアートは、全身ボロボロの、ぼこぼこ状態。
一体何度殴られたんだろ…………。
「それで、この娘の件だが。」
「あ、はい。」
「そもそも、私達にこいつをどうこうする権利はない。」
「はい?」
え、なんで?
あなたさっき、「いいわけないだろ」って言ってたよね?
「法も、あいつの前には無力だということだ。」
「ど、どういうことでしょう?」
トラウマくんが困惑したようにそういうと、エレナさんは懐から一枚の紙を取り出した。
「これを見ろ。」
そう言って、エレナさんは、なんでもないかのように、その紙とトラウマくんに渡す。
「これは…………王命状!?」
…………は?
王命状?
王命状って多分王命が書かれた紙のことだったよね……。
え?
なんで封筒とかに入ってないの??
そうして、その内容を一読したトラウマくんは、驚いた様子でエレナさんを見た。
「これは…………本当ですか?」
「あぁ。私も最初に娘を見た時は驚いたが、外見的特徴は一致している。」
「………………そうですね。それに、大鎌を所持している娘など、彼女しかいません。」
大鎌?
確かに、海賊で大鎌を使ってる人は少ないけど……。
え?
なんで王命状にそんなこと書いてあるの?
「そういうわけだ。この娘の身柄は、私達がもらう。」
「…………分かりました。王命であるというのであれば、仕方ありません。」
そう言うと、トラウマくんは、「せっかく会えたのに残念だよ。」と言い残し、部屋を出て行った。
「あの、どういうことです?」
全く意味分からないんですけど……。
私、王命を出されてまで、王族に探されてるの?
そんな王族の恨みを買うようなことした?
「そうだな。まず、少し前、騎士団の記録にお前に関するものがあったと言ったな。」
あの海の聖女ってやつね。
「…………は、はい。」
「それは嘘だ。」
「………………はい?」
は?
………………いや、まぁ、そりゃ納得はいくけど。
流石に海の聖女とかないわーとは思ってたし。
「本当は騎士団の記録ではなく、王命状に書かれていた。」
そっちかよっ!!!
………………ん?
待てよ?
つまりそれって……もしかして……。
「つまり、お前が今まで助けた船の一つに、王族が乗っていたということだ。」
…………つまり私は、王族の船に乗り込んでしまったと。
んん!?
だとしたら、これ結構まずくない!?
得物横取りしたかっただけなんてばれたら、即刻死刑よねこれ!?
「………………じゃ、じゃあ、海の聖女は?」
「それは助けられた騎士達が、そう呼んでいたという話だろう。」
マジか……。
ならもっとマシな名前にしてくれないかな……。
聖女っていえば教会でしょ?
私狙われない?
大丈夫?
「まぁ、これフェオドールに言っていないが、これはアトキンス家のみに渡された極秘の王命だ。」
「極秘?」
「あぁ。そもそも、海賊を城に上げるなんて本来は論外だ。だから、身分を隠して連れてくるようにと、ここにも書かれている。」
まぁ、それはそうだよね。
いくら指名手配されてなくても、海賊に王族が会うなんて、他の貴族が許すわないし。
「つまり、変装して行くってことですか?」
「あぁ、そういうことだ。」
なんか、よく分からないことになってきた。
そもそも、なんで私が海賊って知ってたんでしょうね。
たまたま感出してるけど、本当に偶然なら身分隠せとか言わないよね、普通。
あれ?
でも、これもしかして……。
私、助かりそう?
「それに、お前は今まで騎士は殺していないと言っていたな?」
「え?はい。」
「先も言ったが、私に嘘は通じない。つまり、お前は少しだけ、私の信用を得たというわけだ。」
なるほど。
確かに自国の、しかも自分の部下を殺した人間を、王族の前に連れて行くわけないよね。
「ちなみに、もし殺していたら?」
「もちろん事情にもよるが、王命状には即処刑でも構わないと書かれているな。」
「ぇ………………。」
あっぶなっ!!
これは流石にエロフに感謝かな!!
だって、もし普通に殺してたら、私今頃あの世行きだったんでしょ!?
正直何度もやっていい?
とか聞いてたけど、堪えてよかった!!
まぁ、騎士以外は普通にやってるけどね。
「だが、今のお前が潔白というわけでもない。一応は海賊だからな。」
「一応じゃなくて、海賊ですよ!」
「………………普通そこで意地になるか?お前、死ぬぞ?」
「はっ…………!」
「はぁ……。取り敢えず、船が着くまではこの部屋で大人しくしていろ。」
「はい。」
まぁ、どうせ逃げようとしても無理だし。
それに、治してもらったとはいえ、まだ痛い。
多分、しばらくまともに歩けない。
「ではな、何かあればそこのバッティアートに言え。お前、まだ歩けないだろ。」
「だ、団長っ。俺だってやることがだな。」
「少しは子守でもして反省しろ。」
そう言うと、エレナさんは部屋を出て行った。
………………うん。
――なんでバッティアート置いてった?
邪魔っ!
邪魔過ぎなんだけどっ?!
女の子の部屋に男置いてくとか、何?え?さっきこいつぼこぼこにしてたのはなんだったのー?!
「………………。」
「………………。」
静寂が、部屋を満たす。
うん、気まずい。
寝たいけど、寝れないし、何かしようにもこいつ邪魔すぎだ。
「はぁ―。まぁ、その……なんだ。すまなかったな。」
「え?」
いや、急にいい人感出されても困る。
私の中ではもうお前はエロフと同じだよ?
いや、信用がないぶんそれ以下か。
「いや、なんでもねぇ。」
「?」
「………………。」
「………………。」
また、部屋に静寂が訪れる。
ほんと、こいつなんなの――?
あと、なんなのさっきの会話っ!?
残っててごめんってかっ!?
なら出てけよッ!!!
はぁ……もうここから逃げたい。
いろんな意味で。
せめて外にいてくれないかな~。
気が利かないなーこいつ。
「…………お前、いつから海賊になったんだ?」
「え?……えーと。四年くらい前です。」
「四年?お前、年は?」
「身体年齢は十二歳です。」
「身体年齢?」
「はい。私、自分の年知らないので。」
まぁ、目が覚めた時にはダンジョンだったしね。
そして自分に関する情報も、ほとんどなかった。
年齢どころか、親すら知りませんですよ、はい。
そう考えると、よく生き残れたよねぇ~ほんとに。
「年を知らねえって、お前。何年生まれかも知らねぇのか?」
「はい、四年前以前の記憶がありませんから。」
「………………そうか。ってことは…………まぁ、そうなっても仕方ないか。」
「はい?」
何が「仕方ないか。」だよ!!
勝手に納得するな!!
あと、早く出てけ!!!
でーて―け!
あそれ、でーてーけ!
「お前、出て行って欲しいのか?」
お?
これは遂に察したか!?
「はい。」
「はいって、そこは遠慮しろよ。」
いや、遠慮するのはそっちでしょ?
いつまで異性の部屋にいるのさ!
子守はいいから、早く出てって!!!
「じゃ、最後に一つ質問だ。」
「?、なんでしょう?」
「………………今までの人生に、後悔はあるか?」
なにそれ?
子供にそんな思いはなしする普通?
………………確かに、もっとみんなといたかったとか、そういうことならあるけど。
でもきっと、こいつが聞きたいのは、そういうことじゃないんだろうな。
後悔か~。
確かに、何度か普通の家族というものに憧れたことはあった。
両親に連れられて、普通のお出かけをする。
そんな当たり前の人生が、私にもあったらなって。
でも、海賊の方が、私には合ってたとも思う。
実際みんなとの旅は楽しかったし。
だから、悔いはない。
「…………ありません。」
「………………そうか。」
そういうと、バッティアートは部屋を出た。
まぁ、外にはいるんだろうけど。
エレナさんに言われている以上、それは仕方ないだろう。
「なーんか。私、冒険してるなぁ~。」
ダンジョンで目を覚まし、成り行きで海賊になり、そして今は王族に会うためにマイルズさんってお偉いさんのところへ向かってる。
これだけでも、本の一つや二つは書けそそうだ。
「はぁ……どうなるのなぁ~。」
王族に会うまでは、多分大丈夫。
だけど、その後私がどうなるかは、まるで想像ができない。
「どうしよっかな~。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「冒険者もいいし、どこかの使用人とかもいいな~。」
「………………。」
「でも、ここはやっぱり料理人?それとも商売とかしてみようかな!」
「…………何をしている?」
「…………へ?」
あれ、エレナさんいつの間にいたの?
まったく気配なかった、というか、私が集中してただけか。
「呑気なものだな。」
「将来は大切ですから。」
仮に自由の身になれたとしても、流石にどこにいるかも分からないアルヴィエ海賊団のもとに戻るのは、現実的じゃない。
それに、みんなには悪いけど、新しい人生を歩んでみたいっていう気持ちもある。
どうせ戻ろうとしても、すぐには戻れないんだ。
なら、せっかくの転生だし、新しい生を謳歌するのもいいよね?
っていうわけで、とりあえず、全力で王族に媚び売って、そんで、そのまま自由になろう!
お国のために冒険者になりたいですっ!
とか言って認めてもらったら、実質自由の身になるしね!
「…………お前、一応海賊だったんだぞ?」
「はい。だけど、上手くいけば、自由になれるかなって。」
「………………まぁ、それはいい。下船の準備をしろ。」
「……ってことは。」
「あぁ、着いたぞ。」
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