10.トラウマくん
「そうですか……。その、ありがとうございます。」
「気にしなくていい。これは、私の気まぐれだ。」
あの後、力を使い果たした私を拾ってくれたのは、なんと今まで敵対していた騎士団だった。
うん、なんでってなるよね。
私もなった。
しかもここ、なんと檻の中でも何でもない綺麗な部屋。
私が寝てるのも、そこにあるふかふかのベットだ。
あの身勝手な理由で襲ってくる騎士達とは大違いである。
そして、なんでこうなったのか。
正直なところ、私は瀕死状態だったから、全く分からない。
ただ起きたら、あの大怪我も全部綺麗さっぱり治ってたのだ。
もちろん、まだ痛みはするけどね。
そして今は、ベットで横になりながら、このエルフの女騎士からあの後の話を聞き終わったところである。
情報量多すぎて、殆ど頭に入ってないけどね。
っていうか、私なんで海賊なのにこんな待遇なの?
「でも……私は海賊なのに……いいんですか?」
「いいわけあるか。」
「そ……そうですよね……。」
ですよねー。
まぁ、流石にそう都合のいいことはないか。
今ここに居られてるのは、多分治療のためかな?
あと、私が子供だから?
子供効果きた感じかな?
「言っておくが、逃げようとしても無駄だからな。」
いや、まぁ、そうでしょうね。
だってあなた、あの化け物追い返したんでしょ?
なんかさらっと言ってたけど、私からしたら大問題よ?
だってあの化け物、めっちゃ強かったもん。
それを追い返した騎士から逃げ切るとか、仮にエロフがいても厳しいと思う。
それに加えて、この部屋の外にも騎士が数人。
流石にこの女騎士ほど強くないけど、それでも今の私なら普通に死ねる。
「では、今度は私の質問に答えてもらおう。」
「…………別に私、質問してませんけど?」
「嘘をついても無駄だからな。」
無視したね。
完全に無視したねっ!!
まぁ、海賊だから仕方ないけど。
騎士なんて、こんなものだし。
「最初の質問だ。お前は今まで、何人の騎士を殺してきた?」
「ゼロ人ですね。」
「は?」
「はい?」
いや、ゼロ人ですけど?
というか、何故かいつも子供扱いされて、カリーナと見張り台で周囲の警戒という名の見学ばっかりでしたけど!?
まぁ、これもエロフの善意なんだけどね。
もし私が一回でも騎士を殺したら、普通の人生には戻れなくなるから。
だから、私は魔物討伐や海賊同士の殺し合いでもない限り、殆ど出番はなかった。
「………………お前、本当に海賊だったのか?」
「それ言っちゃいます?」
いや、別に私誰かを殺したくて海賊入ったわけじゃないからね!?
どちらかと言えば、成り行きだし。
しかも、別に殺しをしない海賊がいてもいいと思いますッ!!
――――まぁ、騎士以外なら結構やってるけどね……。
「拾われたんです。ダンジョンで。」
「ダンジョン?」
まぁ、嘘が通じないなら仕方ないよね。
それに、別に仲間のことじゃないし。
「…………私、四年前より昔の記憶が無いんです。」
「………………それ以前も、海賊だったのか?」
「分かりません。私が目を覚ました時には、ダンジョンの中でしたから。」
「…………そうか。」
すると、騎士は少し考えた素振りを見せた後、「少し待っていろ」と言い残すと、部屋を出ていった。
部屋の中が、静寂に包まれる。
「………………生きてるって、言えるのかなぁ……。」
あの時、間違いなく私は死んでもおかしくないほどの重症だった。
実際、別に捕まえなくとも、そのまま放っておいても、普通に死んでいたはずだ。
それをわざわざ助けて、治療する理由なんて、普通に考えたら一つしかない。
――尋問。
いや、もう拷問って言った方がいいのかな。
仲間の情報を聞き出すなら、確かに子供の方がやりやすい。
何故なら子供は、良くも悪くも素直だからだ。
拷問って言葉と出すだけで、大抵の子供は頭が真っ白になって色々と話してしまうだろう。
でも、流石に私はそこまで子供じゃない。
転生者だし、私だって海賊だ。
仲間の情報を渡すくらいなら、死ぬ覚悟だってないこともない。
…………でも、もしかしたら、誰もが最初は、私みたいに思ってるのかもしれないな。
――死ぬのは怖い。
もし、実際に拷問なんて受けたら、私は仲間のことを思えるだろうか?
それでも仲間のためにって、痛みに耐えて、いつ終わるかも分からない地獄を味わう。
そんな悪夢に、果たして私は耐えられるだろうか。
その時、ふと脳裏に過ぎったのは、今まで当たり前のように一緒にいた、仲間達の姿。
「エリーヌ、無事かな……」
重症ではあった。
でも、エロフなら、なんとか治してくれるはずだ。
「待たせたな。」
すると、あの女騎士がいつの間にか部屋に戻ってきていた。
まさか、扉を開ける音にも気づけないなんて…………。
「お前のことを少し調べたが、手配書一つなかった。それどころかお前、海の聖女なんて呼ばれてないか?」
「………………はい?」
人がしんみりしてる時に何言ってんの?
海の聖女?
海賊がそんな綺麗な二つ名付けられるわけないじゃんっ!!
「騎士団の記録に書かれていてな。海の巨大な魔物から、何度も助けられたらしい。」
「えー。」
何それ……。
確かに、何度かエロフにお願いされて巨大な魔物を狩ったことはあるけど。
それは魔物はお金になるし、金欠の時にはこれが一番早いからだ。
だから、そんなお金にもならないことを私がするはずが………………あ。
「………………ぁ。」
「心当たりがあるようだな。」
「………………。」
…………いや、あったわ。
でも、微妙に違う。
助けたのではなく、奪ったのだ。
そもそも、巨大な魔物なんてそう簡単に見つかるものではない。
それがランクの高い魔物なら、猶更だ。
そうほいほいいたら、世界終わるしね?
それで、ランクの高い魔物がなかなかいなかった時、エロフの「騎士団の船をつけて、横取りしよう!」という発想悪魔的な発想のもと、何度かエロフの転移で騎士の船に忍び込んだことがある。
ほら、騎士ってよく任務で魔物討伐とかするから。
そこを横取りして、さくっと殺して、ささっと転移で逃げるっていうね?
まぁ、つまり、全く善意のない行為なわけですよ。
それにこれを言うと、同時に騎士の船に忍びこんだこともバレるわけで…………。
「あー、えーと、たまたまです。またまた。」
「………………。まさか、魔物を横取りしようとした、とかではないだろうな?」
「えっ!?、いや、そんなわけないです!」
「図星なのか……。」
なんで全部分かるのこの騎士?!
いや、そういえば嘘は通じないって言ってたっけ!?
ずるいぞ!!
「まぁ、とりあえず、だ。お前には、一度マイルズと会ってもらう。」
「マイルズ?」
「私の雇い主のようなものだ。まさか、マイルズを知らないのか?」
「はい。」
「…………そうか。」
誰?
マイルズさん?
なんか優しそうな名前たげど、女の人かな?
でも、この女騎士を雇ってるということは、相当凄い人なんだろう。
「まぁ、知らないならそれでいい。とりあえず、お前にはこのままアトキンス家に……。」
「それは納得致しかねます、エレナ様。」
すると、女騎士の背後、扉の外から、男の声が聞こえた。
というか、この女騎士、自己紹介とかなかったけど、エレナって名前なんだ。
そうして、部屋の扉から現れたのは、一人の青年騎士。
って、待てよ?
「あなた……もしかして……。」
「四年ぶりだね、会えて嬉しいよ。」
私は全然嬉しくありませんッ!!!
お帰り下さい、さぁ!!!
「あれ?もしかして、歓迎されてないのかな?」
あったり前でしょ!?
四年前感じた、あの悪寒。
あの化け物ほどじゃないけど、当時の私が初めて勝てないと逃げ出した人物。
まぁ、要するに、私のトラウマだ。
それにこいつ、さっきあえて魔力出したよね!?
私に思い出させるだめにさぁ!!!
「どういうことだ、フェオドール。」
「どういうことも何も、これはあくまで国王騎士団の任務です。海賊の身柄まで渡すわけにはいきません。」
「それならお前らだけでやればよかっただろう。この場に私がいる時点で、その理屈は通らん。」
「なぁ?言っただろう?俺も反対だが、団長は一度行ったら聞かないんだ。諦めな。」
そう言って、青年騎士ことフェオドールの背後にいた大柄のおじさんが、そう言って彼の肩を叩いた。
なんか、お父さんと息子みたい。
って、ん?
今、団長って言った?
え、この人、この騎士団の団長なのっ!?
――いや、まぁ、言われてみれば当然か。
あんな化け物と同じくらいの騎士が、そうポンポンいるわけないよね。
もしそうだったら、とっくに海賊全滅ですよ。
「だがな、団長。俺だってこいつを信用するのは反対だ。餓鬼とはいえ、海賊やってたんだからな。」
「ふんっ、お前の意見など知るか。」
「はぁ――。まぁ、そうだよな。」
おじさん弱すぎない!?
そこはもう少し粘ろうよ!?
見た目と合ってないよ?
なんか、小物感出ちゃってるよ!?
すると、おじさんは私の前までやってきて、その瞳に私を映した。
なんだろう。
まるで見透かされているような…………そんな、変な感じがする。
そう、それはまるで……。
「………………変態。」
「あぁ?」
「変態!」
「はぁ!?」
「…………お前、ここで死にたいようだな?」
「はぁ!?おま、ちょ、ちょっと待てよッ!!!」
そう言ってエレナさんが剣に手を添えると、おじさんは慌てて目を離し、両手を上げた。
なんで私がいきなり変態って言ったかというと、このおじさんに見られた時、エロフがよく女海賊を見ている時と似た感じがしたのだ。
あくまで感覚的なものなんだけどね。
まぁ、でもそんなエロフと似たものを感じるってことは、よからぬことに違いないわけですよ。
「お前、ついに子供にまで手を出し始めたか。」
「ついにって何だ、ついにって!!いや、そうじゃなくてだな、俺はいつも通り鑑定魔法を。」
「鑑定魔法?」
その言葉に、思わず首を傾げた。
いや、聞いたことはある。
あるんだけど、どんな魔法だっけ?
「鑑定魔法ってのは、相手の情報を見る魔法だ。」
「……………………相手の情報?」
「あ、いや、そういう意図はないぞ?」
「……………………やっぱり変態。」
反射的に、両手で身体を隠す。
情報って、なんの情報っ!?
え、エロフが見る情報って、やっぱり胸!?胸なのかっ!!
ってかこのおじさん、こんな未成熟の私に何を期待してるのっ!?
「海賊とはいえ、無断で女性にやることではありませんね。」
「おま、フェオドール!!」
「来い、バッティアート。お前には一度、きちんとお灸を据えてやる必要があるようだ。」
「ちょ、団長っ!き、きいてくれっ!て、おいっ!!!」
そうしておじさんこと、バッティアートの抵抗も空しく、エレナさんはバッティアートの首を強引に掴んで、部屋を出て行った。
なんというか、いい年のおじさんがお姉さんに叱られ、連行される不思議な絵図らだった。
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