そして火竜と出会う。
それから私は、噴水広場とは反対側にある森にやってきた。
噴水広場に偉そうにみえる人達が沢山集まってたから、不幸中の幸いって所なのかな、お父様もそこにいるのかも。見張ってなかったし。油断したなお父様。私だってやる時はやるのよ!!
そんな感じで思いながらも、森から視点は外さない。なんだか…嫌な予感がするのは気の所為だろうか。嫌な予感って言うのは大袈裟なんだけど…なんだか、ちょっと怖い。…転生したてだからこの身体にもあまり馴染んでないし、何より上手く魔法を使う自分が想像出来ない。…ッダメだ、しっかりしないと、こんなんじゃ誰も助けられないじゃない…落ち着いて私、せっかく攻略対象者達を救える過去にいるのよ?魔法はイメージ。高度でなくても正確な魔法を…主人公らしい凄い魔法を…!
「あっ…」
そんなことを考えて無我夢中で走っていると…、そこら辺にあった普通の石に躓き、そのままバランスを崩してしまう。
「ふぁっ!?」
しかも、不運なことに…ウェーブクリーム髪に赤い瞳を持つ少女が、私の前にいて…
「きゃっっ!!」
そのまま衝突。私はその少女の上に倒れ込むようにコケ、私達は2人共ズサーッと森の手前で倒れ込んでしまった。
「いってて…」
なんでこんな所に女の子が…。いや、人のこと言えないけどさ。
「いったぁ…」
思わず声を漏らしてしまう。流石の私でもこれは痛い。そもそも一応貴族だし、こんなコケ方普通はしない筈なのよ。まあ、生まれてから一度も経験したことが無いと言えば嘘になるけど…。記憶から推測するに、私が倒れた原因だったみたいだし。
にしても、そんなこと考えている余裕はないのよ。
でも、今のコケ方でわかったことがあるわ。
「ごめんなさい」
と声を零し、そのまま森の中へと急ぐ。
今わかったこと。それは、物理系の攻撃も効くんじゃないか…ってこと。コケた時に感じた痛みは本物だった。ゲームをしている時は、魔法で治癒出来るから楽勝楽勝とか思ってたけど、ここはゲームじゃない。普通に生き、普通に暮らす人達がいる。その人達にとってここは、普通の世界。
つまり、魔法以外にも物理攻撃だって効く、…筈。違うかもしれないけど…、でも、このゲーム元々物理化学がよく使われてたし、例えば後々のシリーズで出てくる、赤い炎から青い炎にします、的なこと。酸素を集中させるってイメージをすれば出来るってことだよね…!?と思えば、自分でも不思議なくらい魔法を扱うイメージが湧き始めてきた。すると…
「…まって、わたしもいくわ」
既に起き上がっていた少女は、真剣な表情っぽいような真顔っぽいような顔でそう言った。
「えっ…だ、だめですわ!」
直ぐ様そう応える。だって、あまりにも危険すぎるよ!私は転生者で、精神年齢が5歳プラス18歳だから良いけど…この子はまだ4、5歳でしょう?ダメ、絶対危険だし…親が悲しむもの。
「とにかく、わたしはこのもりにいかなくちゃですけど、あなたはくれぐれもこないでくださいね!」
私がそう言うと、その少女は少し驚いたように立ち止まり…そのまま駆け出そうとしていた足を止め、両足をストンとおろした。…良かった、素直な子で。
それから、少女が住宅街へ足を運び始めたのを尻目に、私は森の中へと急いだのだった。
―――
それから私は、嫌な気配がする方向へと走る。
これが…ゲームのセリフであった、“きっとこっちよ!なんだか嫌な気配がするの、…勘だけど…でも、凄い嫌な予感だわ”って奴か。ご都合展開かと思ってたけど、ほんとに嫌な気配感じるし…あながち間違えじゃなかったのかも。そして…
「グォォオオオ!!!」
「っ!?」
やっぱり…ゲームの説明の通りだわ。
強い風が吹き、その風に吹き飛ばされぬように立つも、一瞬で膝をついてしまう。瞑ってしまう目をなんとか開けようと踏ん張り、その正体を見た途端…
ー「ここは俺に任せて先に行け、」
ー「だめよ、貴方を置いていくだなんて…!」
ー「…アイツは俺の…僕の兄さんの敵…!!」
ー「っ!?…リスク……」
ー「ここであったのが運の尽きだったな、この憎きドラゴン!ここでお前を………」
記憶の扉が、少しだけ開いたような気がした。
最終章、シーズン1の最終章で合ったスチル。最後の場所に行くまでに段々と削られていき、最後に残るのはどのルートでも主人公と選ばれた攻略対象者、そして隠しルートのリスクルビダ・カモミート。そして…リスクは主人公と攻略対象者に………
「グオォォオオ!!」
ダメダメ、ゲームの展開を思い出すことも大事だけど、今はアイツを倒すことに集中しないと!
とりあえず、うーん…魔法を放とうとするけれど、なんだかんだで良い案が思い浮かばない。そうモタモタしているうちに、ドラゴンの様子がおかしくなり…苦しそうな声を上げ始めた。あぁ…もしかしたら、この子も被害者なのかもしれない。本当は村を襲う子じゃないのかもしれない。一方的に悪だと決めつけるのは良くないよね…、でも、攻略対象者を助ける為…この世界を守る為には………
「っっ…ごめんね…」
「グゥ…」
「…いこう、だいじなのはかがくはんのう…、ほのおとさんそよひとつになれ…!」
そう言いながら、炎が酸素と一つになり、青い炎になる様子をイメージする。…水素で爆発の方が良かったかもしれないけれど、やっぱ初めての魔法だもん。温度変化による色の変化は触れておきたい。
気がつくと、ドラゴンへ炎が渡っていた。これなら、いけるかもしれな…
「せらふぃーな・えんしゃんつ…」
「ふぇっ!?」
突然聞こえた芯のある少女の声に、思わず声を上げてしまう。振り返ると、さっきの少女が少し息を切らしながら走ってきていた。…嘘でしょ、一人でここに走ってきたってこと…!?なんでそこまでここに拘るのよ……
「あなた…さっきの…、なんでここに…!」
私は気になりそう聞くと、少女も言葉を続けた。
「それはこっちのせりふよ!みんなしんぱいしてたわ、」
「それはっ…その…ごめん、、でも、だからってむぼうだよ、なんできたの?」
「いのちしらずのへいみん、ってことにしといて」
「……なにそれ…」
命知らずの平民…、十分平民とは思えない程の考え方と言葉遣いなんですけど…と、思わず笑ってしまう。でも、笑ってしまった私とは対照的に、彼女は私の後ろ…ドラゴンの方を見ていた。見たことないのだろうか、まぁ当然よね。私もゲームアニメで見たことはあっても、生で見るのは初めてだし。
でも、彼女が発した言葉は予想とは少し違い…
「わらってるひまがあるなら、あいつどうにかしないと」
「うえ?でも、さっきまほうで…」
「…ふかんぜんだったわ、…あのどらごんをたおすほどのいりょくもなかったし、」
「そんな………」
……なんだか、大人のような雰囲気を感じる。私だって一応大人なんですけど…、っていうか、なんでそんなことまでわかるわけ…!?まだ同じくらいの年齢よね?!
というか、彼女の言うことが本当なのだとしたら、ドラゴンはまだ倒せていないというわけでして…
「どうしよう…わたし、さっきのがせいいっぱいで…」
本当は炎と水素って手もあるんだけど、如何せん想像力が足りないのだ。受験で鈍ってしまったのかもしれない。それから、成長した所為で子供の時のような感覚が…、……
「こまったわね。わたし、たいりょくがなくていまはまほうがはなてないの、」
いや、今はそんな悲しいこと考えるのはやめよう。私今子供なんだし。それよりも…
「どうしよう…せっかくアスタグランをすくえたとおもったのに…」
アスタグランさん含めたフロール村の人達を救えたと思ったのに、これじゃあここに来た意味が無いじゃない。…どうしよう、せっかく思い出せたのに、振り出しでズッコケるわけ…?それじゃあ、私、何も思い出さない方が…この世界の為だったのかもしれな…
「セラフィーナ・エンシャンツ、」
「へ、あ、はい??」
凄く覚悟を決めたような少女の言葉に、ハッと目を覚ます。それから、彼女と目と目を合わせながら会話を始めた。
「わたしがしじをだす、あなたはイメージをかさねて!」
「そんな…むりだよだってわたし、、さっきのみたでしょ!?わたしには、あれがげんかい…」
私はアレが限界なんだよ?アレが全く効いていないのなら、炎と水素でもダメじゃん。塩酸でもぶっかける?…ダメ、多分意味ない。
「まえをむきなさい!こころのひあいはまほうのみだれ、…もくひょうをもって!いまあなたはなにをしたい?なにができるかかんがえなさい!!」
「っっ…わたしが…やりたいこと、できること…」
こんな小さい少女にお説教される女子高生って…私、ダメダメだな…。乾いたような笑いしか出てこず、少女に悟られたくないこともあってか…下を向いて唇を噛む。そりゃあ、やりたいことやりたいよ、救いたい。救えるのなら。…でも、私なんかの想像力じゃ…
「グォォオオオ」
「あぶないっっ!!!」「っ!?」
ああ、また助けられちゃった。少女は私をドラゴンからの攻撃から守ってくれた。私に覆い被さっているその少女は…一瞬だけ苦痛そうな表情を見せる。ほんの一瞬だけど。それから横腹を庇うように立ち上がったことから…横腹を怪我してるんじゃないかな、って思った。
それから、私達は2人で森を逃げ回ることに。動く私達が目障りなのか…ドラゴンも付いてきている。
「ひぞくせいのどらごんにひのまほうはあまりこうかはないの、」
「あれ…ひぞくせいなんだ…」
「そんなこともわからないの…!?」
「うっ…」
「なのにひとりでここにきたわけ…!?」
「……はい、」
本当に少女には見えない。私と同じように転生してる?…それにしてはこの世界のこと詳しすぎだし…。だとしたら、前世の記憶がある転生系の異世界バージョンじゃなくて過去バージョン的な?…まさかね。
「ひのまほうをつかったりゆうは?」
「かがくはんのうさせやすいなぁって…」
その質問に思わず即答で答えた。うん、化学反応は魔法の基礎中の基礎だと思っている私。これから先この世界で生きていけるかな。
「わるいけど、いろがかわったところでいりょくは…」
少女は何を勘違いしているのか、複雑そうな顔で眉を顰めながらそう言った。だがしかし、勘違いしてもらっては困る。
「いろがかわるだけじゃありません!あかいろよりもあおいろのほうがおんどがたかいんですよ!」
「そ、そう…?」
「それからそれから、かがくはんのうっていうのは…」
「わかった、わかったからおちつきなさい!そんなことしてたら…」
やらかした…化学のことだと思ってつい話し込んでしまった。少女は青ざめながら走っている後ろを振り返る。…そして、
「グォォォォォオオオオ!!!!!」
「「ギャァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」」
ドラゴンと少女、さらに私の悲鳴が…森全体に響き渡ったのだった。