7.元JKは思い出し、
なんとかお父様はフルール村へ行く許可をくれた。
けど、絶対一人で変な所に行ったり、知らない人について行ったりしないこと、って念押しされちゃった。まあ、私5歳の子供だからしょうがないといえばしょうがないんだけれども…、でも、そこまで念押ししなくても…ってレベルだった。
ちなみに、破る可能性大。ツッコミはしないで。
フルール村までは少し離れているので、馬車で向かっている私達。その間私は、前世の記憶に思いを巡らせていた。
【オトチカ】の記念すべき第一作目。
舞台はここ、ソレイユ王国。この世界には魔法が存在しており、イメージと各々の魔力、器、技術と…ほんの少しの運で生き抜いていく。
そして、1作目の主人公である私、セラフィーナ・エンシャンツは、古の乙女ことクリスティーナ・ラグジュアル・サンスベリアの生まれ変わり…ってことになっている。まあ、実際は普通の女子高生の魂が入っちゃったんだけど…、だとするとこれ、どうなるんだ…?
そもそも、絶対的にクリスティーナ様の生まれ変わりです!!って描写も無かったし、真相はわかってないんだよね。ファンブックや公式でも「生まれ変わりだと言われている」って感じだったし。
それで、それぞれのシリーズで攻略対象者が4、5人いて、その中に隠しキャラ…即ち、全てのキャラを攻略しないと進めないルート、って言うのがあった筈。
まあ、ラブストーリーの方は甘々系が苦手な人は全スキップ出来る機能付きだったし、公式様は戦闘シーンに力を入れてたのかもしれない。アニメ化した時の戦闘シーン、超作画気合い入っててめっちゃ機敏に動いてたし。
あぁ…やばい、どうしてもアニメ化の3作目に頭がいく…。待つんだ私、落ち着こう。
ってことはつまり、だから…その…今私が思い出すべきなのは、オトチカシリーズ第一作目、セラフィーナ・エンシャンツが主人公の物語。お父様やお母様が原作でどうだったのかは置いておいて、お兄様はいた。というか、攻略対象者を思い出さないと先へ進めないのよね。
一人はもちろん覚えてるわ。1番初めに出てくる正規ルート的な扱いだったもの。そして、もう一人…さっきのお父様の言葉、私達が今向かっているフルール村のことで思い出した。彼は、最後の攻略対象者だった。つまり、隠しルートキャラ。
……ほんとに、思い出せて良かったわ。そこに居るであろう彼のお兄様を救えば、きっと彼は…幸せに暮らせる。原作では私がその傷を癒す…みたいな流れだったと思うけれど、そんな年月待つことなんて出来ない。
今、目の前で悲劇が起こり始めている。それなら私は、力の限りを尽くして…それを止めるだけだ。
とりあえずフルール村に行って、これから起こるであろう出来事を止める。その為には…
「フィーナ、着いたよ」
自分でも思っていた以上に考え込んでいたらしい。
お父様に言われ、顔を上げると、お父様が優しい笑みで私の方を覗いていた。顔に何かついてるかな…と思い、馬車の窓に映る自分の顔を見た途端、固まり立ち止まる。
「………」
「どうしたんだい?」
どうしたもこうしたもないよ!!ヨダレ!めっちゃヨダレ垂らしてるじゃん!!貴族として…っていうか普通に女子高生として、人として恥ずかしすぎるんですけど!?!?
そう思い、顔を紅く染めてしまう。まあ、お父様はまだ5歳だから…とか思ってるんだろうけど、こっちは精神年齢的に成人済みなのよ!?恥ずかしすぎるってば!!!
そんな恥ずかしさなんて微塵も感じ取っていないのだろう、お父様はそのまま馬車の扉を開けさせるように命じた。…私も、こうなったら行き当たりばったりだ精神を見せ、意を決して馬車の外に降り立った。
「おぉ…」
村を見ると、思わず声を漏らしてしまう。この光景、ゲームのスチルと…噂の隠しキャラの言葉通りだわ。凄い綺麗。お祭りはお祭りなんだけど、日本の祭…って感じでも、海外の祭…って感じでもない。それでも、なんだか魅了される。これがクリスティーナの…うんん、クリスティーナ様の魅力、なの…?
「凄いだろフィーナ、これが今年のクリスティーナ生誕祭の準備だよ。私は村長達に挨拶に向かうが、フィーナもしっかりついてくるように、」
「はい、おとうさま」
そう答えるも、意識は別の場所に向いていた。ここは、噴水広場だった。奥には住宅街が広がっており、お祭りもそっち側で行われるらしい。…でも、住宅街のさらに奥側を見てみると………
「…あれか……」
少し暗い感じの森があった。
ゲームの展開を頭の隅から引っ張り出す。
確か、主人公と同じ班で行動するようになった彼は、元々はひ弱で頭脳キャラ。どんな相手が来ようとも…自身では戦わず、後ろに隠れているだけのキャラだった。まあ、はじめは「こいつモブやな、それか筆頭もっぶ☆」って感じ。でも、次第に心を開いて行くようになり、描写も多くなる。そして、遂に主人公に過去を明かしたの。しかし、終盤辺りは既にスピード勝負。その次のイベントで、最憎の敵と出会ってしまう。目立たないひ弱キャラだったのにも関わらず、終盤で選んだ攻略対象者と主人公に「ここは任せて先に行け」という見事なフラグを立て、兄の敵を討とうと立ち上がるのだ。彼のルート以外だと彼がどうなったのかは明かされない。で、逆に言えば…彼のルート…つまり隠しルートだと、そもそも選んだ攻略対象者が彼なので、主人公も一緒に敵を討ち、最後まで共に戦う…という流れ。
えっと…名前が出てこないな…ここまで出てきてるのに。しかも、思ったけど…彼の兄の顔、全く知らないわ。ゲームでも黒塗りされてるタイプだったし。攻略対象者の兄にそれはどうよ、って思った記憶がある。
…どちらにせよ、彼曰く村は全滅だった…って聞いたから、全部を救わないといけないのよね。
そして、このゲームのキャッチコピーの一つに、「魔法はイメージ♪頭で想像して、自分だけのイマジネーションを生み出そう!」って感じのがあった筈。
なら、今の私でも使えるかもしれない。使ったことないし舐めプかもだけど、やってみないとわからないんだし…!!
にしても問題は、どうやってお父様や衛兵の目を抜け出すか、なのよね。お父様は絶対目を離してくれないだろうし、衛兵も衛兵で仕事だし。それに、森に行くだなんて危険だと、誰もが思うことだろう。
お父様と手を繋ぎ歩くと…森が近づいてくる。でも、行かせてはもらえないよね。確か、事件が起こったのはクリスティーナ生誕祭当日、って言ってたし、まだ大丈夫なんだろうけど、それとこれは別だもん。私というイレギュラーな存在がいる以上、絶対生誕祭当日、だなんて言い切れない。
「ティーアちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫っしょ、あいつ丈夫だし」
「いや、心配になるでしょ!フランが付き添ってたけどさ…」
「ならレアンも行けよ、」
「だったらアスタがいけば?」
「……だって、フランいるし…」
「…心配なら心配って言えばいいのに、」
お父様は御心が広いので、周りが煩くても何も言わない。というかむしろ、いつもの光景がみたいからそのままにしてくれ、ってお願いしているらしい。
それから、村長のお宅であろう所に着いた。別に他の家々とあまり変わらないが、少しだけ広く作られているらしい。中では子供達が遊んでおり、孤児院のような活動とかしてるのかもしれない。
というか…アスタって人、なんか引っかかる…何処かで名前を聞いたことがある…気が…、……
「ぁ…」
ー「…ああ、ここで俺の…、アスタグランは……」
「セラフィーナ様?」
お付きの侍女が心配の声を上げてくれるが、今は生憎それどころではない。だいじょうぶ、と声をかけ、再び瞑想する。そうだ、彼の兄はアスタグラン、アスタグラン・カモミート。そして彼の名前は…リスクルビダ・カモミート。カモミート伯爵家の長男次男だよ!!…なのに、長男の方がなんでここに…!?
急いで顔を上げ、アスタと呼ばれた人を探すも、もう既に見つからない…、あ、でも…レアンさん、って呼ばれてる人ならいた。…フランさん、って言う人も気になるしな…とりあえずここにいても仕方がないので、思い切って声をかけてみることに。
「あにょ…」
「!?へ…あ、はい!?」
私が声をかけたレアンさんは、なんだかとっても驚いたように私を見つめていた。あぁそうだ、私今公爵令嬢だったわ。ってことは、お父様の話を聞くだろうし…この方に手伝っていただくのは無理ね。それなら…!
「…おとうさま、わたし、ここのみなさんとあそびたいでふ!」
最終手段。
ここの子供達に紛れて遊びつつ、頃合いを見計らって抜け出す。その作戦で行こう!!
「あぁ、但し、このローブを着ていきなさい、くれぐれも変な所までは行かないようにね」
「はーい!」
お父様が意外と単純で良かった。私はお父様に渡された紺色のローブをワンピースの上から羽織ると、そのまま子供達の所に行った。
子供は子供で初めて来た私に戸惑ったのか、初めは避けられてる気もしたが…、ローブのお陰で貴族オーラが薄れたのか、それともそもそも私に貴族オーラが無いのか。子供達は段々私に接してくれるようになった。
「あたし、りりー!」
「わたしはろーずだよ、よろしく!」
「えと…わたしは…わたしはふぃーな、よろしく!」
前世は普通の女子高生と称したが、普通なだけあって友達も程々だった。しかも自分で話しかけるなんてことは無かったから、今話しかけてもらえてめちゃくちゃ嬉しい。はっきり言って生まれて初めて嬉しいくらい。
「っと…」
でも、こんな所で油を売っている余裕は無いんだよね。
アスタさん、って呼ばれていた人を探して…リスクことリスクルビダ・カモミートと少しでも似てるところがあれば本人なんだろうし、違ったら違ったで、この村全部を救えば良い。
せっかく良くしてくれたリリーとローズにお礼を言い、またね、という声をかけてから。私は秘技気配を消すの術、つまりは存在感を大いに無くし、そそくさと村長の家…孤児院?を出ていったのだった。
途中で3歳くらいの黒髪の男の子に声を掛けられたんだけど、黙っときなさいまし!!とか言って念押ししといたから大丈夫、多分。