Ⅰ14.尽力令嬢は呆気にとられ、
どうしよう…。
とりあえずお兄様のことはティーアちゃんに任せるとして、問題は私達、だよね。
「これ、迷宮魔法掛けられてますよね…」
「迷宮…魔法…?!」
「…セラフィーナ様、ご存知なのですね!」
私が迷宮魔法と言えば、ネフェルちゃんが不思議そうに、そして驚いたように口を開いた。
すると、キャンディさんが一言口を開く。
…うん、下級中級上級は知らなかったけど、そこは分かるんだ、なんかごめん。
やっぱ私、ゲームの知識のみに偏ってるよなぁ…。気をつけなければ。
「なるほど…どうりで。…こんな高度な魔法を使える人がまだ残っているだなんて…」
迷信だと思ってました、と一言添えてくれるネフェルちゃん。
そういけば、使ったら「え?」だったっけ。
…まあ、ティーアちゃんが伝説級の魔法をバンバン使ってたり、私も化学反応的な科学をバンバン使ってるからあんまり実感はないけども…
迷宮魔法っていうのは、その場所を迷宮にしてしまう、っていう至ってシンプルながら強敵とも言える魔法。ゲームでは選択難易度を変えることが出来てたから、作る人によって難易度を変えることが出来るのだろう。簡単であれば普通の迷路だが、難しくなると攻略も難しくなる。
迷路っぽくなってるから迷宮魔法かなって思って行ってみただけという勘の元だったけれど、…間違っては居なさそうなのでホッとする。
えっと…第二作目だっけ。
学園が迷宮にされて…っていうエピソードが合ったんだよね。ボーナスイベントたっぷりだったから結構記憶に新しい。随一の胸キュン体験エピソード。
…いっちゃん昔の記憶なんだけど、多分合ってる…よね?
「てことは、…僕達全員やっぱり迷ってる…?」
リスクのその言葉に全員が黙りこくる。同じ場所ぐるぐるしていた訳だし、その説は大いに高そうだった。
そんな感じで私達が話し合っていると、リスクが押さえつけてくれているモヤシが暴れ始める。まだ口をモゴモゴさせていた。
…あ、私がShut up!って言った所為か…忘れてた。
「えっと…解除??」
「!?セラフィーナ!?」「何故解除されるのです!?」
リスクとキャンディさんに詰め寄られてしまう。
…え、まあ…息できないのは辛いだろうし、最悪もっかい出来るし…と言い訳じみたことを言おうとする私だったが、その前にモヤシが大声をあげる。
「へっ今頃気づいたかテメェら!だがもう遅い!」
「はぁ、?」
またShut up!しようとする私だったが、…もう遅いってどういうことだろうか。リスクに押さえつけられているモヤシは、そのままやっと解放された、とでも言うような感じで大口を叩く。
「もう直この洞窟は崩れるのさ!あの方の気まぐれでな」
口だけは達者だな…と言いそうになってしまうが、その前にモヤシが気になることを言ってくるから中々Shut upの機会がない。
「どういうことか答えなさい、…さもなくば…撃つ」
指鉄砲のカタチをしてモヤシに向かってそう言い放つ。…全然撃つつもりは無いけど!でも、脅しにはなると思う。このモヤシは私の水鉄砲はここに転がっている大男にも十分通用した、ってことを見ている筈だから。
それから、とても流暢に喋り始めてくれるモヤシ。
…どうやら、あの方と呼ばれる人がここを迷路にしたらしい。その人は“特別な誰か”を探しているらしく、違うと分かればここに放り出しているのだそう。
…恐らく、それを利用して奴隷商を行っているのだろう。
その人の目的は奴隷じゃないらしいから、モヤシ達にいいように使われているその人が哀れで仕方がないが、幾ら会いたい人がいるとは言えこのやり方は気に食わない。
その人を捕まれば一発で仕留められそう、と思うが、更にモヤシはこう言ってくる。
「もうその方は別の地に行ってるだろうよ!」
「………」
なんでそんなことが分かるのか…そう聞けば、それ以上は答えてくれない。
…ただのデタラメである可能性もあるけど、…迷宮魔法を掛けた本人が場所を移動するって…かなりマズいことになるかもしれない。
私は顔を青く染めてしまうが、皆はイマイチピンと来ていないみたいだった。
迷宮魔法を掛けた本人がその場から居なくなった場合、そこは迷宮じゃなくなる。普通の場所に戻るのだ。
……第二作目、そのイベントでバッドエンド…とまでは行かずとも良くない方を選択すれば、迷宮魔法を掛けた子が興味を無くして、そのまま学園から去ってしまう。
そして、その効力を失った学園は…
「ほうかい…」
…無理やり迷宮に仕立て上げられたことによる反動によって、学園が崩壊するのだ。
うぅ…厳しい、非常に厳しい。
このモヤシの言う通りだとしたら、かなりマズいってことになる。私の一言で皆がピリピリとした雰囲気になる。心無しかこの場の人数以上の圧を感じた。
「リスク、ティーアちゃんにもっかい繋げられないかな…?」
「…やろうとしてる、…けど、……ごめん、全然繋がらない。多分もう……」
青ざめてそう言い切るリスク。
…まさか、もう迷宮に入ってきちゃった…? 嘘、…幾らティーアちゃんでもここまでたどり着く…のは出来るかもしれないけど、ここから脱出するのにどれだけ時間が掛かるか…。まだ連れ去られた人もモーセも見つけてないっていうのに!
というか、ティーアちゃんやスピリット様なら気づきそうなのに、迷宮魔法って。
「………あれ…?」
それから、一つ…モヤシの言葉に違和感を感じた私は、そのままモヤシに向かって口を開く。
「モヤシ、すぐに答えて」
「ハァ!?おい待ておまっ、モヤシってな…」
「うるさい、質問に答えて、…このままだとアンタも死ぬよ?」
「ッッッ……」
え、気づいてなかったの?え、全然馬鹿じゃんコイツ。
なんだこのガリガリモヤシ。
よくモーセを持っていけたよな…ってくらいガリガリだからモヤシって呼ばせてもらってるけど、ほんとにモヤシだよ、改名するべき。…名前知らんけど。
というか、モヤシが知ってることは全部教えてもらお。
「っっ…クソッ、で?なんだよ」
「ここに放り出してる、って言ったよね?モーセや他の皆を何処へやったの?」
「俺も知らねぇよ、つーか、ソイツが運んでたんだ、この近くにでも居るンじゃねぇの?」
「なんでアンタが知らないわけ!?」
「俺は生きてンだよ!ソイツとは違ってな!!!!!」
え…?という呟きに反応もせず、ペラペラと喋りまくるモヤシ。モヤシは生きてる、それは分かるよ。…ってことは、裏を返せばこの人は…
「コイツら元々死んでンだよ、あの方が連れてきた奴は皆な!」
…、……何も言えず固まってしまう。つまり、屍兵だったってことだ。
「じゃあ、モーセ達は………?」
…落ち着け私。
この大男、…今主が操りを放棄している屍兵がここにいるということは、恐らく最低でも2択考えられる。
私達がここにいることを悟って追ってきたか、モーセを連れてきたからか。
そしてとりあえず分かるのは、操っている人は既に別の場所に移動していて危険だってこと。
前者であれば、…実はこの人も生きていて自分の意思で私達を追ってきたということになり、このモヤシの言葉が嘘。
後者であれば、…その“あの方”って人が操ってここに連れた本物の屍兵か。…後者であると仮定すれば、ソイツを叩けば一発KOな筈だが、そもそも既にここには居ないわけで…居ないってことはダメージを与えた所で手綱を手放している可能性もあるので、あの方に打撃を与えることは不可能。つまり詰んでる。ほぼ詰み状態。
…いっそ洞窟壊しちゃうとか…って本物のセラフィーナ様なら言うかもしれないが、私はそんな非現実的なことを考えられない。…爆発威力も抑え込まれてしまうのがオチだ。
それでも、ぶっ壊してでも早く追いかけなければならない。今から行けばまだ間に合うかもしれないんだし。いやでも、連れ去られた人助けないといけないこともあるわけでして…。あぁもう!どうすれば…!!!
「っっ見つけた!」
…すると、来た方向…もうどっちかも忘れた!忘れたけど、片方から幾つかの足音と知っている声が聞こえてきた。
振り向けば、そこに居たのは……
「っッフィーナ!後ろ!!」
お兄様とティーアちゃんと、あと…精霊王!なんだけど、お兄様が後ろって…。
何も考えず急いで振り返れば、…さっきリスクがワンパンチで再起不能にしてた筈の大男…もう亡くなってる方なんだっけ、屍兵が動き出していた。
え、これヤバくね…と思った私だったが、その時には既にお兄様が私と大男の間に走り込んできていた。
お兄様は持っている剣を振り翳すも、大男は余裕で素手で受け止めている。タラリと赤い血が垂れてきた。
息を切らしながら走り込んできたティーアちゃん。
その手にはミニドラゴンが乗っかっている。その子はリスクを見つけるなりすぐにティーアちゃんの手から離れていき、そのままリスクに抱きついた。
…この子がアボイド、なのかな…? なんでリスクの元に居るのか聞きたい所ではあるけれど、その前に屍兵とお兄様、だよね。
リスクはモヤシを逃さない為にも手放せないし、何よりアボイドがくっつきまくっていて中々離れない。キャンディさんはネフェルちゃんを庇っている。これだと助太刀は無理だろう。
ならば、私が…!!
「え…?」
と思い、屍兵に水鉄砲をしようとした。
…けれど、その前に、隣にいた筈の精霊王…スピリット様が物凄い蹴りをその屍兵に入れていた。洞窟が揺れ動くくらい強烈な物で、一瞬身動きが取れなくなる。
「君には悪いけど、おれは皆程優しくないよ」
そう言い放つスピリット様に対し、鬼畜すぎ!!!って思うけど、ゲームで出てきた精霊王もそんな感じだった気がする。
見た目はこんなにも具体的な人間態では無かったけどね。
「獣人如きがおれに逆らえると思うな?」
不気味なくらい白い羽根が辺りに舞い散る。
後ろではティーアちゃんが頭を抱えてため息をついていた。
そういえばこの前ティーアちゃんから、初めて会った時スピリット様はお兄様のこと見捨てようとしてたんだと思う、って言われたんだよね。……うん!やっぱ鬼畜!!!
…あの時はお兄様の生命も危なかったし、どこで考えを変えて救ってくださったのかは分からないけれど、少なくともお兄様自身やティーアちゃんの助けが合ったからこそなんだろうなぁと思う。
「それより、捕らわれた人達やモーセさんは?」
「それが…この辺りに沢山人の気配がするんですけど、全然見つけられなくて…」
「兄さんの気配もあるから間違えないと思う」
この時点でリスクがアスタさんのことを話してるって時点で神演出。
ただでさえ、始めの頃は兄弟…特に兄の話は地雷だったのに!と心が躍るのをグッと堪え、考え始めるティーアちゃんの方を見つめる。
「あっちはスピリット様とレオンハルトさんに任せて、私達は救出に向かいましょう。セラフィーナさん魔力はどのくらい使った?」
魔力の消費量、か…。
確か、ステータス画面とかで確認できたよね。ゲームでは+ボタンで見れた筈なんだけど、正直今の私に分かるわけ無い。
「分かりません!!!」
「……………そう。」
落ち着いて応えてくれるティーアちゃん。やっぱ正直言うべきだよね、これで思ったより無かった、とかおしまいすぎる。
ステータス画面見ることが出来る系の漫画やアニメ、小説は見たことある。でも、転生直後何度か試してみたけど、私には全然無理だった。
「なら、アレは出来る? 転移か移動」
「うーん……やってるのは見たことあるし、なんならさっきやってくれたのは見たけど…」
でも出来るかなぁそんな非科学的なこと。
某猫型ロボット達になら出来るかもしれないけれど、私だしなぁ。
いや、行けるか…?某猫型ロボット達は未来から来てるんだもんな、魔法より科学的な科学の賜物だもんな。かが…いや、一つは妖怪的力?でもでも、幽呪の力ならまだしも私が扱えるとは思えな…。いわ、ワンチャン…?
…いやいやいやいや、落ち着け、無理だろ、よく考えて私。
絶対無理でしょ!オトチカでやってる子いたけど!あの子最早人間じゃないし!!
「…だいぶ弱ってるだろうから一気に逃がしたかったのだけれど、難しそうね」
そう一言述べた後、ティーアちゃんはスピリット様に向かって口を開く。
お兄様の方を見てみれば、屍兵を仕留めている所だった。…かと思いきや復活している、…全然倒せない…やっぱり、第一作目のラスボスはもう動き始めてるのかな…?
というか、サラッと流してたんだけど…お兄様さっきまでボロボロだった筈だよね!?なんでこんな動けてるの!?!? 胸骨圧迫後の運動はどう考えても危険だし、普通なら立ち上がることすらままならない筈なのに…!
「スピリット様!やはり2個目の作戦で参りましょう」
「りょーかいっっ、っと、一番近いのはね……」
そんでもって、ジャンプをして当然のごとく浮いているスピリット様に頭が追いつかない。何かを調べているのか、手を挙げて目を瞑り始めた。手のひらが光り始める。
ティーアちゃん、そんな当然みたいな顔しないで!皆驚いてるから!なんならこの時代に精霊様が姿を現してるって時点で異常なことだから!…貴女が亡くなったと同時に人間界との繋がりが弱くなったって設定!
帰ってきたからって尽く無視してますね!?もうありがとうございます!!?!!!
「水だ、水精霊ウンディーネ!」
…今から何が起こるんだ…?という不安と共に、期待の念が籠もってしまう。
…精霊王と救世主なら、ピンチをチャンスに変えられるんじゃないか、って。
2人は今の一瞬で見つめ合い、そして再び口を開く。
「行けますか?」
「無理!」
「私も!!!」
………じゃあ諦めますか!と語られる言葉に、思わず瞬きを忘れてしまう。
「じゃあ、やはり強行突破の3個目で、」
「ん、」
…え、え???
凄い、なんか簡単に物事が進んでいく!今の時代なら天地がひっくり返る筈なのに、2人からしたらそうでもないのだろう。
ティーアちゃんは常識が1000年前の王族だし、スピリット様も常識が精霊レベルなのよ、2人ともベクトルが違いすぎて…。
…最早前世異世界っていうベクトルが霞むってば。
全然ありがたいけど、それでも…いや、だからこそティーアちゃんの平穏な生活をどうやったら守れるのか…と思ってしまい、現在目の前眼行われていることを呆気にとられながらぼーっと眺めることしかできない。
「…それで、終わりました?」
「当たり前、完璧。そこだね、」
最後に一蹴りをしたスピリット様は、ティーアちゃんの方を振り向きグッとポーズをした後洞窟を指差す。
そして更に「レオンハルトが頑張ってくれて〜」と自慢話に入りそうになるけれど、ティーアちゃんは全く聞かずに壁に向かって何かを書き始めたのだった。




