Ⅰ12.尽力令嬢は生を決意し、
洞窟に入った私達だったが、洞窟自体が迷路になっているのか、それとも何らかの力が働いているのか、誰も見つけることが出来ない。
少し前にモーセが行ったばかりだから追いつけるかなぁとか思ったけれど、全然だ。
ここは主人公補正で目的地まで辿り着いたりしないかなぁとか思う私だったが、そんな物当然ある筈が無い。恐らく、私が前世の記憶を取り戻した代償だろう。ぴえん。
「いってて…」
「歩きにくいよねこの道、気をつけてね」
なーんてやり取りを毎回やっている気がする。
目印として置いておいた手袋を見つけてしまったのが何よりの証拠だった。
「どうしよ…」「完全に迷いましたね…」
分かれ道とかも無く、只管真っ直ぐ進んできたつもりだったんだけど、モーセどころか攫われた人達すら見つけられなかった。
どういうことだろう。
ここに居ないのかな?いやでも、だとしたらあんなに大勢で見張る必要無かっただろうし、やっぱりこの洞窟には何かありそう。そう思いつつも、何も出来ないので進むしか無い。
「せめて上級風魔法が使えれば…」
ネフェルちゃんがそう呟いた。上級風魔法…ってなだろ?
「上級風魔法?」
私が聞き返せば、知らないんですか?と返される。うーん、普通の風魔法と何が違うんだろう。というか、私自身未だによく分かってないんだよね。
魔法はイメージってゲームでも行ってたし、ティーアちゃんもそう言ってたからイメージで良いのかな、とか思ってたけど、魔法の段階にも色々種類があるみたいだった。
簡単に、ってことで光系統だけ。
光系統から派生した火風水土は下級、通常、上級、特級の4つのレベルに分かれている。
風魔法を例に挙げれば、下級はそよ風程度で、通常だと軽い物を浮かせる程度、上級は最早台風だそう。そして、特級は今の所設定してあるだけとのことだ。
ただし、歴史上の偉人は何人かそれを成し得ている者も居るらしい。身近な所で誰なのかを聞いてみれば、ネフェルちゃんは1000年前の国王や2000年程前の勇者等を挙げてくれた。
…転生してから知ったことだが、クリスティーナ様の1個前世代的な感じで勇者様にも結構な人気があるらしく、現在は二大巨頭とも言われている程。…そんな2人の時代で使われていたとなれば、気になってしまうのも無理はないだろう。
「セラフィーナ様や皆様には関係ないかもしれませんが、ギルドへの登録の際や冒険者には重要になってきます」
「へぇ〜!」
一気にファンタジーっぽさが増してくる説明に、思わずネフェルちゃんに詰め寄ってしまう。
ネフェルちゃん物知り!しかも、ギルドってことは一気に第三作目っぽいよ!? いや、パーティーとかは第一作目でもあったけど!でも、圧倒的に第三作目感が増してくる。ネフェルちゃんみたいな子は居なかった気がするけど…どうだったっけか。
私が詰め寄りすぎたからか、ネフェルちゃんは若干目を開く。
…しまった、初めて会った時みたいにまた怖がらせてしまった…。心の中で反省しつつ、体制を整える。
「えっと、つまり…」
通常と上級の間の圧倒的差に驚かされつつも、私はネフェルちゃんの言葉の意味について考える。
上級魔法を使うことができれば…台風使って洞窟爆破…!?
いやいやいやいやいやいや、待て私。
待つんだ。よく考えろ、ネフェルちゃんがそんなこと提案するわけ無いじゃん。だって捕らわれてる人がいるわけだし!
だったら…と考えて、第三作目の設定を思い出す。確か、第三作目の主人公一行はギルド登録する。
その後アニメでは勝手に進んでいたけど、ゲームなら1個ずつレベルを上げていくっていう仕組みになる。レベルを上げていけば威力が高く技術が必要な魔法が解禁されていった。その最高ランクの魔法が上級魔法か特級魔法って事だろうか。
だとすれば、確か…ダンジョンに入って、風で敵の居場所を把握するって言う時が合った気がする。
ネフェルちゃんが言ってたのは恐らくこっちか…
「ちょっとやってみる!」
「え?やってみるって何を?」
そりゃ、風で人の気配を確認する奴だよ!
それ自体に名前とか無くて、攻略対象者の一人が使ってたんだよね…、頭脳派の子。
なんなら強いし頭良いしで最強だった。
黒髪短髪ではじめましての時は騎士系かなって印象だったのにまさかの頭脳派ルートで前作前々作ではそう云う濃い髪系は二人とも騎士系だからびっくりしたのはもちろんなんだけど、そこにプラス種族と年齢不詳っていうのが追加されてて、マジで…
「……あの、セラフィーナ様???」
何考えてるんですか?という冷静な言葉に意識を取り戻す。わ、ごめん!全っ然集中できてなかった。
「やることないなら進みますよ」と言いながら歩き始めようとするネフェルちゃん。今度は大丈夫だから!と思いながら少し待ってもらう。
渋々止まってくれるネフェルちゃんを横目で確認してから、意識を集中させる。
アニメのモーションでは細部まで追加されてたんだよね。
両手を広げ、大きく吸って、大きく吐く。風魔法をイメージして、洞窟全体に風が行き渡るように。
そして、風から気配を察知して、誰がどこにいるのか、…そこまでは分からなくても、せめて…他の人が居る場所を。
最悪奴隷商人達でも。
…大事な物を見張るのが人間という物。捕らえた人を商品として大事にしているであろうから、奴隷商人が居るということは、その先に捕らわれた人達が居る可能性も高い。
「………あった…」
そして、見つけた。
複数の気配がする場所を見つけたのだ。更に、一人だけその場所に向かっていく気配も感じられる。奴隷商人達の交代の時間、なのだろうか。それとも…と考え始めるが、今はそんなこと考えている余裕は無い。
半信半疑のネフェルちゃんと共に、私達はその場所へと向かった。
「…さっきと同じ場所では?」
その場所…というのはさっき通った道と全く同じ場所の先にあった。
さっきと同じように、その場に到達するのは容易に出来た。けれど、…人が一人も見当たらない。
「でも、この辺りに…」
風魔法を使って感じ取った限りだと、確かにここにいるのだ。3、4、5、…いや、もっと居る。なのに、一人も居ない…?
前には通路、後ろにも通路。…そして、ランプによって灯される私達の影。
その影に少しだけ違和感を感じてしまう。
けれど、その違和感という物が分からない。この世界物理法則ガン無視の法則があるから、関係ないのかな?いや、だとしても…とそんなことを思っている間に、…複数の足音が聞こえてくる。
「っっ…」
私達が来た方からだ、ってことは、氷漬けにした人達が起きてきた?それにしては気づかなすぎた。どうする?戦う?戦える?…いや、戦おう。
ネフェルちゃんを後ろに隠す。そのまま、前を見つめた。
トクトクトクトクという心臓の規則正しい音と共に、手には魔力を溜めておく。何か合った時に対応できるように。…そして、……
「っっとうけ…!」「〈貫け、古よりつた…〉…っっ」
その魔力を一気に解放しようとした瞬間、なんとか踏み止まる。
…あっぶなかった…ギリギリセーフ。
マジで、本気でギリギリだった。相手側も突っ込んできた体制だったのをなんとか空中で翻し、地面に転がり込んで受け身の姿勢を取る。あぁ、良かったぁ。
私が傷つけたらどうしようかと思ったよ…。ヘナっと膝から崩れ落ちる。
「お、脅かさないでよリスクぅ…!」
私がそう口を開けば、「君こそ!」と言いながら起き上がるリスク。
やっぱり…と、この洞窟の壁に違和感を抱きつつも、リスクが来てくれた方を見上げる。すると、すぐに視界が半分になってしまった。
「え、ちょ、キャンディさん?!」
キャンディさんに抱き抱えられてしまい、思うように動けない。
リスクは苦笑しながらこちらを見つめている。2人が来てくれたということはティーアちゃんも…と思うけれど、その後ろに人影は見当たらない。
「セラフィーナ様…っ、お一人で危険に飛び込まないでくださいと言ったではありませんかっ!」
「あはは…ごめんごめん…でもこんな所で死ぬつもりないし、ちゃんと生きるつもりだから…」
「つもりだけでは安心できません!!!」
涙声鼻声でそう言ってくれるキャンディさん。相当心配をかけたのだろう。素直にごめんなさいとしか言いようがなく、私は眉を垂らして謝ることしかできない。
…あれ、そういえば…モーセとお兄様はどうして離れていたのかな。というか、お兄様は一体どこに…?
その後もキャンディさんから軽いお説教を食らう私だったが、その事が気になりまくってしまう。お兄様に何か合ったんじゃないか、…そう思わずには居られなかった。
特に、お兄様には魔力量という糧兼枷があ…
「キャぁぁああっっっ」
「!?!!」
…そんな事を思っている暇は無いみたいだ。
声がした方を振り向けば、ネフェルちゃんが大男に捕まっている。
さっきのモーセを連れて行った奴とは違い、生気を感じられないような目をしているその人は、そのままネフェルちゃんの首を掴んで持ち上げていた。
え…待って待って待って待って…? ネフェルちゃんを持ち上げること自体がおかしい。けど、それ以上に…確か、第一作目の最終決戦で…
「っっ〜…ネフェル嬢から手を離せ!」
リスクは直ぐ様は大男のそのお腹に蹴りを入れ、ようやく解放されるネフェルちゃん。ギリギリの所でキャンディさんがキャッチしてくれた。
「っっ一回離れよ!」
「待ってくれ、…兄さんの…人の気配がこの辺りからするんだ、ここで逃げたら多分また迷うことになる」
私はそう提案するけれど、リスクがそう言ってくる。
それは分かってるけど!ここにいることは分かってるし、迷うことになるだろうってことも分かってるけど!でも、このままじゃ……
「っぅ…」
しかも、モーセを連れてった人が反対側から合流してきた。挟み撃ちにされていない所が救いだけど、どちらにせよ積んでいる。
ここで大乱闘でも起こったら、一瞬で洞窟が壊れるだろう。正直私自身魔法の練習は簡単にできるような環境ではなかった為調節できないということを考えれば、やりすぎる可能性も無くはないのだ。
『…、!………!!』
それから、頭の中にも何か妙な声が聞こえてくる。
今はこちらに集中したいのに、もう何をしたら良いのか分からなくなってくる。リスク達がここにいるということはティーアちゃんも来てる?ティーアちゃん来てるってことはお兄様の所にいる??イグニス様やルイス様はどうした?モーセは無事?あとは、攻略対象者達は?ゲームは?…第一作目のラスボスは今どこまで…
『大変なんだ!レオンハルトが!!』
「え、だ、うぇあぁ!?!!」
突然頭に響いてくる焦ったような声。リスク達にも聞こえているみたい。
「あの時の声…?」
リスクはその声を知っているみたいだった。
ということは、キャンディさんも知っている筈。
一人ハテナを浮かべるネフェルちゃんに心の中で謝りつつ、一応誰だと思ったのか聞いてみると、どうやらここまで連れてきてくれた人、らしかった。
ティーアちゃんが瞬間移動を使えた、ということは、彼も使えるのかもしれない。瞬間移動がどういう部類の魔法に入るのかはよく分からないけれど、簡単に言えばそういうことだろう。
「って…どういうこと!?お兄様が…!」
「へっテメェらもあン中閉じ込めてやンよ!!!」
セラフィーナ!セラフィーナ様危ない!!という声が聞こえてくる。
…うるさいな、今精霊王と会話してるんだから、ただの人間如きが邪魔しないで欲しい。…ごめん言い過ぎた、ただの奴隷商人風情が。皆が心配してくれるのは嬉しいし、別にうるさいわけじゃない。
「死ねェェェェェェエエエエエッッッ!!!!!」
…ただ、お前は駄目だ。
奴隷という制度に関わっていること自体がもう駄目。例え如何なる理由があろうとも、これから生きる術を失おうとも、これまでの生き方の全てを否定されようとも、…それでも犯罪は良くないことだと、私はそう思える。
…それは恐らく前世の記憶があるからで、然るべき教育を受けているから。…幸せと喪失を知っているから。
ゲームでも、生まれた環境の所為で何も知らず悪に手を染めた人はいた。だからその気持ちを全て知らないわけじゃない。…もし貴方が、ゲームの彼らのようにその権利を侵害され、その先入観を持っておらず、…今関わっていることは犯罪で、犯罪は良くないことだ、…と知らないというのならば、…これから私が教えてあげる。
…遅くなってごめんなさい、貴方の過去は知らないけど、もっと早く気づいていればって、もしものことを考えてしまう。…全てが終わったら、世の中をもっと良くしたい。
でも、…だからこそ、私はこんな所でアンタ如きに殺されるわけには行かないの。
…私は主人公として生きなければならないの。
「ちょっと黙っててよモヤシ、〈Shut up〉!」
男に向かって勢いのまま睨みつければ、次の瞬間彼の口は開かなくなっていたみたいだった。
…ごめんなさい。私は今ここで死ぬわけには行かない。
私は皆の…家族の為にも、最期まで幸せに生きなければならないから。…そう、誓ったのだから。




