番外編 燦然少女は手紙に記す。
“はっくしゅんっっ”
私は思わずクシャミをしてしまう。
今日は始業式があり、午前だけだった為、そのまま部屋に戻ってきた。
部屋の前に、一通の手紙が置いてあったので、それをゆっくり読む時間に当てようと思っている所。
魔法の技術を鈍らせないようにする為にも、私は打斬魔法で小さな小刀をイメージし、丁寧に封を切っていく。
前世を思い出した直後は全く操れなかった魔法も、最近ではだいぶ慣れてきたのよね。これが、セラフィーナさんが言っていた…【継続は力なり】って奴だろうか。
そんな他愛もないことを考えながら、…私は今日も、故郷からの手紙に目を通した。
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ティーアちゃんへ
「おはよ〜!」
「おはようフラン! 今日も来てくれたの?」
「当たり前でしょ? 今日くらいレアンも休みなよ!」
「そういうわけには行かないよ〜 でもありがと!助かる!」
元気にしていますか? 私達村の皆は、活気が溢れてとっても元気に過ごしています。
「いってらっしゃい!」
「「いってきま〜す!」」
それもこれも、ティーアちゃんのお陰なのかな。
毎年毎年、精霊の儀をこなしてくれてありがとう。
昔はただの義務としての行事だった精霊の儀も、今では誰もが認める恒例行事となりました。
「ガラハッド、任せたからね〜!」
「もちろんだよレアン姉ぇ!」
ティーアちゃんがどう思っているのかは分からないけれど、私達は村の代表として伝えたいです。ありがとう、って。
「次ティーアに会う時にはもっとすげぇもん見せてやるんだ! な、リリー!ローズ!」
「もちろん!」
「あたし、すっごいのおぼえるんだから!」
「わたしも!!!」
学園はつらいことも苦しいこともあるかもしれません、…そんな泣きたい時は、いつでも帰ってきてね。
「…………はぁ。」
私達は貴女の帰る場所を守り続けます。
だからどうか、貴女も頑張ってください。
レアン・アメーズ
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ティーアへ
「またため息ついて…、なにか合ったの?」
「いや、別に…」
最近、ガラハッドが体術にハマってるみたい。
ロータスさんや周りの大人達に披露してるの!けど、中々子供と大人の差っていうのは縮まない物で、そのたびに【まだまだこれからだから!】と言っています。
「そんなこといって〜! どうせ、今日もアスタが来てくれないなぁとかそんな所でしょ!」
「………」
「……え、あ、…本気???」
「…だったら悪い?」
「いやぁ、そのぉ……っっ〜〜」
リリーやローズも、ガラハッドより強くなりたいんだって。
先にティーアが村を出ちゃったから、追いかけたいって言ってるの。
「っっ〜〜…レアンのばか。」
「ご、ごめんって!そんな本気の反応されるとは思って無くて…!」
貴女は皆の憧れなんだ。……でもね。
「最近ホントに来てないからさ。…純粋に何があったのか心配だなって…」
「でも兄さんが言うには大丈夫なんでしょ?なら大丈夫でしょ!」
「まあ、そりゃロータスさんが言うなら大丈夫なんだろうけどさぁ…」
無理だけはしないで欲しい。
貴女が生きている現実には、多くの困難が待っていると思う。うまく行かないことだって、沢山待っていると思う。…それが、現実だから。
「…それでも心配?」
「…………うん、結構」
「そっか…笑」
だから、諦めないで。
何かあったら必ず言ってね。私が出来ることなら何でもやる。…私が出来なくても、皆で協力して、あんたのことを絶対助けてみせるから。
フラン・フレグラント
追記
最近アスタが全然来ないの!(●`ε´●)
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「1、2、3、4ー」
「「「「「5、6、7、8ー!!」」」」」
外からは、練習終わりの掛け声が聞こえてくる。
そういえば、このくらいの時間にはもう騎士専攻の練習は終わるのよね。そう思い、手紙から顔を上げて窓の外を見てみれば、夕日が差し込んでいた。
自分でも思った以上に読み込んでいたのかしら。
「……ほんと、」
ほんと、お人好しなお姉様達。
そんなことを思いながら、私は手紙を戸棚の小箱にしまい込む。これは、今までの手紙が全て保管されている、私にとって大事な大事な宝物だった。どれだけお金を積まれようとも、取引きすることは出来ないと思う。
それくらい、沢山の想いが詰まっている物だから。
「…それにしても、アスタさん…」
フランさんがこれだけ心配しているのに、いくら何でもフルール村に行かなさ過ぎでしょうが。
…忙しいのは分かるけれど、もう少し来てくれても良いのに、って思ってしまう。そんなに融通が聞かないのかな。
それにしても、アスタさんとフルール村との出会いが気になるわね。
最近は私もアスタさんと会えないし、今度リスクと会った時にでも聞いてみようかしら。
そんなことを考えながら、私は今日もペンを走らせる。
…届く筈が無いけれど、大切な人への手紙を綴る為に。私の想いを込めた、大事な1枚を、書き上げる為に。
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大好きなあなた方へ
お元気ですか。
私は今までいろんなことがありましたが、その度にあなた方の偉大さを実感しています。
きっと、私の噂を広めたのは貴方達でしょう。伝わらずとも伝わります。私には分かる。
貴女は私に、その行動が、多くの人を動かすのだ、と言った時がありましたね。
その言葉、そっくりお返しいたします。…貴女達の行動が、世界を変えた。貴女達のやったことが、今の世界を作っている。…本当に尊敬です。私はやろうと思っても中々行動に移せないから。誰かが、目標がなければ何も出来ない。…自分でも分かっています。
貴方は、そんな私をずっとずっと見守ってくれましたね。
生まれた時から、ずっと傍にいてくれた。憶えていないけれど、私にとっては大切な時間です。ありがとう。あの日々は、宝物です。もちろん、今のこの時間もですけれど。私にとって生きる希望でした。目標になってくれてありがとう、先に進んでくれてありがとう。貴方を追いかけられて、私はとても幸せでした。
貴方達のことが遺されていないことが、私は悔しい。
私よりもずっと凄かった筈なのに、って思ってしまいます。
クリスティーナ伝説と言う物を耳にする度、嬉しさと悔しさが入り混じる。…貴方方には一生分からないでしょうね。
けれど、それでも良いのです。私は、ちゃんと覚えていますから。
私は頑張ります。
この運命には、きっと理由がある。
私が転生したことには、そして、セラフィーナさんと出会ったことには、…何か、理由がある筈だから。
だから、見守っててくださいね。
愛を込めて、ティーア
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「…ほんと、律儀なティーナだよ。」
目を落として、カラカラとした声を吐く。…彼は、今にも泣きそうだった。
そう、彼女がそこにいるのには、“理由がある”。
もう一人の女の子は分からないけれど、少なくともティーアちゃんには、明確な理由があるのだ。
それを、私達が手伝うことは出来ない。今、そのチャンスを使うわけには行かないから。タイミングを見て、その時に向かわなければならない。
…それが、どんなに辛いことか。
行く手段はあるのに、助けに行くことはままならない。行きたいのに、…生きたいのに、出来ない。
彼は私よりもずっとその悲しみを感じているのだろう。彼女が彼を、私達を思う度にそう感じている。どんなに些細なことでも、それは未練として、心に残り続ける。
「………」
「…そんな顔するな、俺は大丈夫だ。それに…」
顔を上げ、窓の外を見上げた。
…そうよね、助けに行く前に、原因を止めれば良い。彼に思い出してもらえば良い。
そうすれば、彼女達も大丈夫だから。
もう一度、何度でも、止めに行きましょう。
その声が、彼の心に響くまで。私達は今日も、歩き続ける。




