そして決めきる。
数十分後ようやくここまで辿り着いたモーセ。
ザワザワとしている中、彼は息を切らしてはぁはぁと肩を震わしている。そんな中、お兄様は何も言わずに彼を見つめた。
「あー…モーセ?おはよう??」
「おう!」
そんなお兄様の視線なんて全く気にしていないのであろうモーセは、本当にお気楽なものだと。最早呆れを通り越して尊敬である。
「で、セラフィーナ・エンシャンツ!ついに俺と戦う気になったか?!」
「全く。」
「なっ…おい!次会う時までに準備しとけって言っ」
「それ、しばらく会わない人に言う時の決まり文句だし。というか、私許可してないよ」
次会う時までに準備しとけなんて、転校するとかそういう暫く会わないから元気にしとけよみたいなメッセージやんって思っちゃったし、そもそも許可してないものは許可してないのだ。
私が負けじとそう言い切ると、モーセは犬のようにしゅんっとした顔を見せる。心無しか耳と尻尾が見える気がした。
それを遠目から射抜くような視線で見ている人がいたということを、私達は知らない。
それから、モーセが落ち込んでいる中ようやくお兄様が口を開く。
「勝負…か、その気持ちは分からんでもない」
人前で勝負を申し込む等なんて無礼な…等と言うお咎めモードかと思いきや、まさかの肯定ムード。公爵子息様の意外な一言に、目の前で言われたモーセはもちろん、周りの子供達も若干驚いている。
「だが、お前自身の強さでは…セラフィーナには全く及ばないだろうな」
「え」「はい???」
ゲームのお兄様だったら、こんな時…「ならば俺が相手になる」的な感じだった気がするんだけど…。セラフィーナは俺が守るべきなんならかんたらって。思わず疑問形で呟いてしまう。
まさか…私の中身の強さ(?)を、お兄様は見抜いているということなのでは…!? 流石お兄様、抜け目ない…!
「なっなんでだよ!」
「セラフィーナは守る為に戦っている。お前に守りたいものはあるのか?」
お兄様にそう言われ、押し黙ってしまうモーセ。
そこに気づいてくれたことは純粋に嬉しいし、だからこそお兄様のことは全力で守りたいと思うんだよなぁと感じてしまう。
…同時に、ゲームでのお兄様のセリフにそっくりだなぁとか思いながら。
ということはつまり、それだけ私がゲームのセラフィーナ様に近づけたということだろうか。
「…あるよ、大事な子。ネーちゃん迎えに行くって決めてるから、俺はもっともっと強くなるんだ!」
なんとか絞り出してそう言い切るモーセ。
お姉さん居るんだ、知らなかった。そういえばモーセの苗字ってなんなんだろ、3年間全く気にならなかったわ。
「…そうか、ならまずは俺と勝負だな」
「わ…分かった!」
お兄様が手を差し出すと、モーセがそれを握り返す。
その言い方だと、お兄様に勝ったら次は私と勝負ってことになってる気がするけれど、お兄様と私だったらお兄様の方が断然強い気がする。全てのことにおいて。…シリーズ第一作目だったこともあり、主人公補正でなんとかなってた感が半端なかったもん。
「で、お前誰だ???」
「ん?」「えっ???」
綺麗に纏まりかけていた筈なのに、握手の後モーセはそう口を開く。笑顔で言い放ったその一言に、お兄様や私は固まってしまう。
「……レオンハルト・エンシャンツ、セラフィーナの兄だ」
「へ〜! よろしくな!レオンハルト・エンシャンツ!!!」
…やっぱ尊敬だなぁ。モーセがどの立場だったとしても、公爵子息…しかも次期公爵位継承者ほぼ確であるお兄様にタメだなんて…。
普通無理よ?簡単に言えば、公爵って王族の次の立場だからね??…幾ら平等学園だからといってもそれは流石過ぎるわ…。
「…年上なんだから、敬意くらい払いなさいよ…」
「え?なんで?? そんなに変わらねーじゃん!」
ケロッとした調子でそう言い放つモーセ。
公爵とか爵位とか全く分かってなさそうな雰囲気なので、その分だとイグニス様にも同じようなことやってそうだなと思い始める。
そして…
「あれ? フィーナ、君も来てたの?」
「おっ、よう! イグ!」
…結構ガチめにモーセとかいう奴の将来が心配になってきた。…入学式挨拶聞いてなかったんかコイツ。
「なんで皆して固まってんだ?」
「あはは…、多分君の所為だろうな、」
「俺なんもしてなくね!?」
王子に向かってタメ口利いている時点でやってるんだよ!
大半の同級生は小学校高学年レベルなので流石に王子だと分かってはいるのだろう、眉を上げてモーセの方を見るし、上級生もイグニス様の高貴なオーラを感じ取っているのか、変な目線でモーセを見つめている。
「…とりあえず君は別の所に行ったらどうだ…、まだ体育学しか着てないだろう。」
お兄様が疲れたような声を絞り出すと、ようやく「そうだな!」と言いながら、私に向かって再度宣戦布告をし、その後今度は家庭学のエリアへと去っていく。
周りからは、「男なのに家庭学に…」等と言う声が聞こえてくるが、体育学に私が来てる時点でおかしくはないんじゃないかなとは思う。そういう男女の境も気になる所だ。
「…彼、君に対してもいつもあんな感じなのかい?」
「一応…、まあ3年間フルシカトしてたんですけど…」
「………しか…?」
「あっすみません…、無視してました、って意味です…!」
ナチュラルに話しかけてくる王子に対して、こちらもナチュラルな対応を取ってしまった。これじゃあさっきのモーセとほぼ変わらない。
心の中で反省しつつ、改めてイグニス様の方を見上げる。少しだけ私より身長が高いけれど、お兄様にはまだまだ届かないくらいの身長だった。
それにしても、口調に気をつけないと。公爵令嬢に恥じない佇まいを、ってお母様にも言われてるんだし。
「フィーナはもう全部回ったのかい?」
「いえ! これからここと家庭学を見に行く予定です」
イグニスにそう聞かれ、即座に応える。
それから、その言葉を聞いてそうか…と呟いたお兄様は、そのまま口を開く。
「まさか、ここでフィーナやイグに出会えるとはな、イグもまだここだけだろう、家庭学には2人で一緒に行ってきたらどうだ?」
イグニス様はなんとなく察したような感じで頷くけれど、私としては何故…という疑問が浮かんでくる。自分1人で行けるし、なんなら私はさっきまでネフェルちゃんと…って、そうだよ!ネフェルちゃん!!
行ってきたら?と言われてここに来たけれど、元はと言えば私から誘ったのだから、ここで別行動は無責任すぎるだろう。
「どうする?もう少しここを見てから…」
イグニス様は前向きに検討を進めるけれど、私はキョロキョロと辺りを見回してしまう。そして、ネフェルちゃんが近くの柱の隣でずっと立ちながら向こうの家庭学側の方を向いて固まっているのを遠目で見つけた。
…家庭学に行きたいのだろうか、そう見当づけ、イグニス様とお兄様に少し待っててくださいと一言入れる。
「ネフェルちゃん!」
そして、ネフェルちゃんの所まで。ちなみに、周りのギャラリーは…と言われれば、騒動の原因であるモーセが居なくなったことで興味が半減したのか、残っているのは雑談をしているお兄様とイグニス様のファン?らしき人達のみ。
なんたって第一作目の王道イケメンと正統派イケメンですからね。ファンがいるのは当然ですとも。…あれ、王道と正統派は同じ意味か…? まあ、いっか。
「…セラフィーナ様。王子殿下と回らないのですか?」
そう言ってくるネフェルちゃんだったけれど、流石にそれは不謹慎過ぎる。自分の言葉に責任を持つという意味も込めて、彼女と最後まで一緒に回りたいし、あわよくばお友達になりたいと思っている。
「私はネフェルちゃんと回りたいから!」
そう言い切れば、ネフェルちゃんは少しだけ片眉を上げる。…何か変なこと言ったかな、とか…怒らせたかな…!?とか思ってしまうけれど、問いかける前にネフェルちゃんが口を開く。
「分かりました。ですが、幾ら公爵令嬢様であっても、公爵子息様や王子殿下の話を無視するのは如何なものかと思いますが。私と回ったって何の得にもなりませんし」
そんなこと無いからッッッと食い気味に答えたい気持ちをぐっと抑え、常識範囲内で「そんなこと無いです!」と言い切る。胡散臭さが増してる自覚はあるけれど…。
「まあ、何でも良いですけど。それより、回るなら回りましょう。時間もなくなってしまいます」
「りょ、了解…!!」
言われてみればその通り。
結局、何故かイグニス様と私とネフェルちゃんの3人で回ることになった。いや、二人共気まずない…?って思うけど、二人共頑なに「早く行こう」という主張は辞めない。え、何?イグニス様とネフェルちゃん、お互い一目惚れした?応援するよ??
そんなことを思いつつ、体育学を少しだけぐるりと回った後、すぐに最後の家庭学へ向かった。
先に向かっていた筈のモーセと出会わなかったことから、彼は既に魔法学へ行っているのだと推測出来た。私達がゆっくり歩いてたからだろうか。
家庭学を一通り見て、イグニス様がまだ回っていない魔法学へと足を運んだ。
ネフェルちゃんもイグニス様も一言も喋らなかったので、やっぱ気まずかったよねぇとか思いつつも、真ん中の私は2人の共通の話題が見つからずただ歩いているだけだった。ごめん。
「…結局、モーセとは会いませんでしたね」
なんとかそう口を開けば、イグニス様は「そうだな」と少し疲れたような顔で言い切る。逆にネフェルちゃんは少し落胆しているかのような感じだった気がした。…気の所為かな?でも、本人に聞いてみてもはぐらかされるだろうし…とか思いつつ、私達は魔法学の教室の廊下でそれぞれ解散したのだった。
ちなみに私は何が何でも魔法学専攻に決めた。
だって、前世では魔法がないんだから、その分魔法極めたいもん。




