そして認められる。
ドラゴンさんのいる方へと向かった私達。
中々見当たらないなぁと思い、手探りで探していく中、発生していた煙が薄れはじめていた。
「あの…もしかして、このこだったり…?」
そして、セラフィーナさんは私にそう伝えてくる。
彼女の方を見てみると、彼女は下にしゃがみ込んでおり、その目の前には…大人の顔サイズと同じかそれより少し大きいくらいの、トカゲに翼がついた黒っぽい動物?が倒れ込んでいた。…多分その子だわ。
「たぶん、…でもそうとうよわってるわね…」
「そんな…わたしがへたなまほうをうったから…?」
「うんん、もともとくろいもやをまとうのはたいりょくがひつようなのよ、あなたのせいじゃないわ」
本当は療治を使って治癒するのが、この子が元気になる為の1番手っ取り早い方法なのだけれど、セラフィーナさんも息切れしてるっぽいし、魔力も殆ど残っていない筈。
まあ、魔力は成長すればする程何もせずともある程度は上がっていくものだし、いくら生まれつき魔力が多かったとしても…同年代の子供と比較して多い、ってわけで、大人と比較すると大したこと無い…ってケースも多かったもの。
とにかく、ここは私の出番ね。さっきの戦いで少し体力も回復したし、この子の治癒くらいなら出来そう。
「あとはわたしにまかせて、」
何故か俯いて固まってたセラフィーナさんを片手で止めると、私はそのままドラゴンさんの目の前までやってくる。
「まっててね、すぐにらくにしてあげるから」
「ギュイ…」
そして、手を当てながら…頭の中でイメージを重ねる。
「まほうはいめーじ。…りょうちのちからよ、すべてをなぎはらういやしとなれ!」
療治の魔法を使い、ドラゴンさんの弱った部分…つまり羽ね。羽の部分についた傷を癒す。流石に完治させる程の魔力は残っていないからなんとも言えないけど、動ける程には回復してあげられる…筈。
「ふぅ…」「うわぁ…すっご……」
なんとか治癒を終えると、セラフィーナさんがそう言って再び目を輝かせた。……素直な子、私はすごく好きよ。
というのは置いておいて、これならドラゴンさんも動けるんじゃないかしら。
「ドラゴンさん、おかげんいかが?」
「?ドラゴンってしゃべれるの??」
私がドラゴンさんにそう聞くと、ドラゴンさんが答える前にセラフィーナさんが声を上げた。…この子、魔法のイメージも器も最高だし、行動力も子供とは思えないくらい優れているのに…なのに、こういう知識はまるっきり無いのね。…ほんと、呆れちゃうわ。
私はため息をつくと、そのまま声を上げる。
「ドラゴンさんはきゅいきゅい、ってなくけど、こころにはなしかけてくれるの、でもこころをよみとってもらえるわけじゃないから、わたしたちはこえにださないといけないけどね」
「へ〜」
私がそう話していると、、ドラゴンさんの方から声が聞こえてくる。
『ここ…どこ……?』「「………」」
少し弱々しく語られたその声は、どこか幼く…泣いた後の声のようだった。セラフィーナさんは何故か複雑そうな顔をしていたが、気の所為だろうか。
それはそうと、恐らくこの子はまだ小さい子供のドラゴンなのだろう。元々のサイズが顔くらいってことで結構小さめだっていうのは分かってたし、声からして幼い。
「…ここはもりのなかですよ、」
『もり…もり??』
そう教えてあげるも、ハテナを浮かべて小首を傾げる。…というか、子供のドラゴンがいるってことは、この近くに……
『もり!もりおん!!』「おーい、モリオーン?」
……ドラゴンがそう言うと、思った通り近くから誰かの声が聞こえてくる。
「え、なに、だれ…?」
「……やっぱり…」
「ねえ、やっぱりってなに、どういうこと…!?まさか、おって?だったらはやくかえっておとうさまのとこに…いやでも、このこをひとりぼっちには…」
焦っているのか、セラフィーナさんは再度あわあわし始め、早口で喋りながら辺りをウロウロし始める。この子、落ち着きなさすぎでしょ。もうちょっと大人しくできないのかしら…。
「おちつきなさい、…こどものドラゴンさんがいるなら、おやがいてもふしぎじゃないわ」
「なっ…るほど……、たしかに……?」
私がそう言うと、セラフィーナさんは納得の意を見せその場でピタッと止まる。私は手にドラゴンさんを乗せ、そのまま声のした方向を向き、木々が作り出す暗闇をじっと見つめると…
「モリオン…?そこにいるの??」
黒髪黒瞳の綺麗な女性が、森の中から現れた。
「「「………」」」『あっ!かあさん!!』
そして、固まる私達3人と、呑気な子供ドラゴンさん。…段々とセラフィーナさんとお母様は青ざめていき、私が話しかける間もなく2人の悲鳴が森全体に響き渡ったのだった。
ーーー
それから、何と言えば良いのでしょうか…
「なになにどう………、……わかん……なん…こ…に…!?」
混乱しまくっているセラフィーナさんは、全く使い物にならない程考え込んでしまっている。
「はじめまして、」
そして、私は仕方がなく一人で声を掛ける…のだが、、
「何々何々、なんで人間がここに…ってかモリオン…ちょ、えぇ…どうしましょ…」
……こっちもこっちで相当焦っているようである。
言っておくが、お母様とセラフィーナさんと私、少なくとも私が1番年下なのだけれど。…まあ、前世合わせたらとんでもないことになるし…そこは今は考えないようにしておきましょう。
それよりも、この子のことよ。このドラゴンさんがどんな性格なのか分からない上に、私もセラフィーナさんも魔力が殆ど無くなった。しかも、さっきのダブル悲鳴でもしかしたら公爵様達が殆どここに来てしまうかもしれないってことを考えると…、とりあえずなるべく迅速に対応すべきよね。
「わるいけど、ふたりともおちついてくれる?」
「でも、だって…ここにこのひとが…!」
「人間が何言って…ってか、何者!?あと、その…うん、人間ってそんな小さい時から落ち着いてる物だった!?」
「だってだってだってだって、とにかくこのひと…あなたはしらないかもしだけど、わたしにとってこのひとは…!」
「おちついてくれる???」
「「ヒッッ」」
私が2度言うと、ようやく落ち着いてくれた。
素直なのは良いことだわ。そう思い、まずはドラゴンさんの元に近づき、手に乗っているモリオンさん?を差し出した。
「このこ、のろいにかかってましたよ」
「ッッ…へ…??」
「え、まってのろい?さっきののろい…?うそ…」
さっきの黒いモヤは間違えなく呪いであろう。闇魔法の幽呪を悪用された、ってところかしら。自然発生か…それとも誰かにやられたか…。どちらにせよ、お母様と逸れた?後で起こったのかもしれないのだろう。
あと、セラフィーナさんは本当によくわからない。
「モリオン、っていうんですね。のろいはかいじょできましたし、はねもなおってるとおもいます。かのじょにかんしゃしてください、」
「!?いやいやいやいや、なおしたのはあなたでしょ?わたしはとくになにも…それに、わたしのまほうがつうじたのは、あなたのアドバイスのおかげだよ?!」
セラフィーナさんは私の言葉が終わる前に直ぐ様声を上げた。…確かに私はタイミングを教えたけど、それはそれ、これはこれ。魔法のイメージが凄かったのは彼女自身の力なのだし、魔力だって彼女の力。私よりセラフィーナさんに感謝すべきだわ。
そんな感じで私達がお互い功績を押し付け合っていると、
「ぷっっ」
お母様ドラゴンさんの方から…吹き出したような笑い声が聞こえてきた。
「………」「なっ…なんでわらうんですか…!」
私達はお互い顔を見合わせた後、グインとお母様ドラゴンさんの方を見る。お母様ドラゴンさんはお上品に笑っていた。
「ごめんごめん、2人共仲がいいのね、」
そう言われ、私達は再び目を見ながら顔を見合わせる。セラフィーナさんは目を大きく見開いていた。……私達、さっき初めて会ったばかりなのだけれど。
「それより、モリオンを救ってくれてありがとう」
なんとか笑いを止め、その後ふわっと笑いながらそう言ってくれた。ニッコリと笑みを浮かべる彼女は、少女のようにも見えるし…大人のようにも見える。でも、お母様って言うくらいだし…身長もフランさんくらい?それ以上?はしっかりある。こう見えても大人なのだろう。ドラゴンさんと人間の人生の周期は違うから、若々しく見えても不思議じゃない。
「とんでもないです、わたしぐうぜんここにきただけなので!」
「………」
セラフィーナさんはそう言うが、私は知っている。明らかに、“偶然”では無かったと言うことを。
セラフィーナさん、一体何を隠しているのかしら…。
まあ、聞いても教えてくれなさそうだし、それに何より…そろそろ街の皆も駆けつけてきそうなのよね。人の気配が増えてきたもの。
「こんな子達ばっかりだったら良かったのに…」
「っっ…」「??」
お母様ドラゴンさんはそう呟いた。どういうことだろう。…気になったので聞こうとするが、お母様ドラゴンさんは気を取り直し、モリオンさんを私の手から持ち上げ、抱き抱えながら話し始めた。
「今日は本当にありがとうね、また会いましょう?」
『ばいばい、おねーたんたち!』
「あと、このことは内緒にしておいてくれる?」
「も、もちろんです…!」
「………ええ、わかった」
なんで内緒にしてほしいのかはわからないけれど、彼女の悲しそうな顔を見るに…なにか事情があるのだろう。あまり詮索は出来ない。
私達の言葉を聞くと、お母様ドラゴンさんは来た道を戻るように暗闇の中へと消えていったのだった。
「……それで…」
「……ききたいことが…」
「わかる、わたしもまじでききたいことおおすぎて…あときもちのせいりがおいつかん…」
…なんか聞き慣れない言葉遣いをされる。異国の言葉?この時代の言葉?貴族の言葉なの??それとも…
「いせかい…」
「…………………」
なんか……私が声を漏らした途端、目が死んだようになり…スッと真顔になってしまった。……うん、なんか…謝った方が良いかな…。
そんな感じで今度は私があわあわしていると、お母様ドラゴンさんが帰っていった逆の方…つまり、私達が来た方向から、何人かの足音が聞こえてきた。
大方、公爵様か…フランさん達か。
そう思い、私は顔を上げると、セラフィーナさんもハッとして同じように顔を上げた。
そのまま暫し待っていると、案の定………
「フィーナ!」「ティーア!!!」
森の中からは、知らない人達半分、顔馴染みの人達半分が…、私達以上に焦った顔で登場したのだった。