5.救世主は出会い、
走って、走って、走って、走って………
身体が息切れに気がつく前に、走り抜け!私は魔力を極限まで使わないようにする為、魔法を使わずに走る。…でも、そもそもの体力が無さすぎて、辿り着く前に気を失いそうにな…
「だいじなのはかがくはんのう…、ほのおとさんそよひとつになれ…!」
そんなに大きくないけれど、しっかりと芯の通った声が…耳元に轟く。
前を見ると、青い火が…黒い怪物に一直線に向かっている所だった。何あの青い火…。火って赤いものじゃないの?あんな色、初めて見た…
しかも、驚いたことに…、その魔法?を放っていたのは、4、5歳の女の子。……そう、恐らくは…
「せらふぃーな・えんしゃんつ…」
「ふぇっ!?」
予想が的中したのだろう。何故かは知らないが、この子はなんらかの方法でこの怪物…いや、黒いモヤをまとったドラゴンね。ドラゴンが暴れていることを知り、止める為に一人で森に駆けていった…、そんなところかしら。
私が転生者だから、一概に“こんな小さいのにそこまで考えられる筈が無い”だなんて言えないのよね。
「あなた…さっきの…、なんでここに…!」
「それはこっちのせりふよ!みんなしんぱいしてたわ、」
「それはっ…その…ごめん、、でも、だからってむぼうだよ、なんできたの?」
「いのちしらずのへいみん、ってことにしといて」
「……なにそれ…」
少しおかしそうにふふっと笑い始めたセラフィーナさん。でも、生憎そんな暇はこれっぽっちも無い。
「わらってるひまがあるなら、あいつどうにかしないと」
「うえ?でも、さっきまほうで…」
「…ふかんぜんだったわ、…あのどらごんをたおすほどのいりょくもなかったし、」
「そんな………」
とりあえず、このドラゴンをなんとかしようと魔法を発動させようとする…んだけど、、これはマズい。…体力が無さすぎて、魔法を発動させるだけの魔力が底をついている。正確に言うと魔力と体力は少し違うんだけど、大元は同じ器に入っているようなものだから、どちらかが底をついたら、戻すにはかなり時間がかかる。
「どうしよう…わたし、さっきのがせいいっぱいで…」
慌てたようにそう呟くセラフィーナさん。
「こまったわね。わたし、たいりょくがなくていまはまほうがはなてないの、」
「どうしよう…せっかくアスタグランをすくえたとおもったのに…」
私の言葉に半分絶望しつつ、そう声を漏らしたセラフィーナさん。…アスタグランって何かしら、人だとしたら誰?聞いたことないけれど…
「って…そんなことより、」
考えている暇は一分足りとも無い。
私は慌てて俯くセラフィーナさんを尻目に、起き上がるドラゴンを見据える。…あの黒いモヤ…結構厄介ね。でも、今の体力ガバガバ4歳児の私では、どうすることも出来ない。……なら、
「セラフィーナ・エンシャンツ、」
「へ、あ、はい??」
セラフィーナさんに頑張ってもらう。…それしかないわ!!
「わたしがしじをだす、あなたはイメージをかさねて!」
「そんな…むりだよだってわたし、、さっきのみたでしょ!?わたしには、あれがげんかい…」
そうやって俯かれると困るのよ。…もう、人が死ぬ所は見たくなんかない。この村の人達を守りたい、その上で…ここにいるセラフィーナさんや公爵様、それに…このドラゴンさんを守りたいの!!
「まえをむきなさい!こころのひあいはまほうのみだれ、…もくひょうをもって!いまあなたはなにをしたい?なにができるかかんがえなさい!!」
「っっ…わたしが…やりたいこと、できること…」
セラフィーナさんは立ちながら考え始めた。…マズい、これは読めなかった。ここで立ちっぱなしはっっ…
「グォォオオオ」
「あぶないっっ!!!」「っ!?」
…ドラゴンに狙われるに決まってるじゃない。
なんとか私が突き飛ばし、間一髪で私も彼女も一命を取り留めたが、今度はそうも言っていられないだろう。
なんとか木々に隠れつつドラゴンから身を潜めるが、見つかるのも時間の問題ね。
「ひぞくせいのどらごんにひのまほうはあまりこうかはないの、」
「あれ…ひぞくせいなんだ…」
「そんなこともわからないの…!?」
「うっ…」
「なのにひとりでここにきたわけ…!?」
「……はい、」
呆れすぎてこれ以上何も言えない。この子、ほんとに何のために来たのよ。知ってたからだろうけど…逆になんで知ってたのよ…
「ひのまほうをつかったりゆうは?」
「かがくはんのうさせやすいなぁって…」
化学反応って何かしら。なんかの反応?うーん…よくわからないけれど、さっきの普通は赤い炎か青色になります〜みたいな感じかしら。
「わるいけど、いろがかわったところでいりょくは…」
「いろがかわるだけじゃありません!あかいろよりもあおいろのほうがおんどがたかいんですよ!」
「そ、そう…?」
「それからそれから、かがくはんのうっていうのは…」
「わかった、わかったからおちつきなさい!そんなことしてたら…」
こんな喋るとは思わないじゃない!冷や汗を流しながら嫌な予感を元に後ろを振り返ると…
「グォォォォォオオオオ!!!!!」
「「ギャァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!」」
「やっぱり!だからいったじゃない!!」と叫び気味に叫ぶと、「ごめんなざいぃぃぃぃいいい」という叫び声が返ってくる。
そして、私達ドラゴンから逃げまくる…のだが、ふと思った。
「……」
「ちょ、なにたちどまって…」
だって、私この村守りたいんだよ?大切な人守りたいんだよ??……こんな所で逃げまくっててもしょうがないじゃんか。
「セラフィーナさん、いけるわね?」
私が覚悟を決めた顔で振り返り、セラフィーナさんの方を向く。…………すると、セラフィーナさんも、
「…もちろん、だって…おとうさまについてくときめたのは、わたしなんだもん!」
少し震え…でも、確かな表情で頷き、そして真っ直ぐ見つめ返してくれる。…後で色々聞きたいことがいっぱいある。でも、今は…他にやるべきことがある。
「グォォオオオ!!!」
「みぎ、ひだり!うえ、ッッ」
とりあえず避けながら、ドラゴンさんの動きを計算する。
…大丈夫、前世で何度だってドラゴン退治とかやってきたじゃない。それに、死んだのは恐らく人の所為だったから、…正直ドラゴンよりも人間の方が怖いわよ。
「いい、よくきいて!ひによわいのはみず、こおりでかためなさい!」
「はいっ!っっ…こおり…、ぁ…どらいあいす!……、よし、にさんかたんそ、あつまって!ドラゴンのまわりをかためちゃえ…!!」
なんだか長々しい詠唱ね。まあ、詠唱は個人個人の問題だから別に良いのだけれど、戦いには向いてないかも。…まあ、戦いなんてそんな物騒なことやらせたくはないけども…。
どちらにせよ、彼女の魔法の威力は中々の腕前ね。特にこの年代の子達からしたら…上の上に入るんじゃないかしら。4、5歳でこれは凄いわよ、イメージもバッチリだわ。
「なんとかとめられた…あいしょうってだいじなんですね…」
「そうね、…でもまだおわってないわ、」
感心していたセラフィーナさんだったが、私の言葉にハテナを浮かべた。
「えっと…」
わかっていないセラフィーナさん。…まあ、戦闘慣れしてないから当然よね。むしろこのまましてほしくはないわ。でも、今は緊急だし…
「ドラゴンさんはそんなにわるいこじゃないわ、…このくろいもやでこころがあくにそまっているの、」
「…ってことは、このくろいもやをとりのぞけば…!」
理解が早くて助かる。私はセラフィーナさんの言葉に頷くと、そのまま言葉を続けた。
「こういうのはやみまほうのぶるいね、…ちなみにセラフィーナさんのうつわは?ひもこおりもつかってたみたいだけど…」
大方“光”なんだろうけど…と思いながら見つめると、彼女は少し気まずそうに目を逸らしながら応えてくれる。
「…かくしょうはまだないです、らいげつはかるよていだから…。でも、げーむのせつめいではせいまほうでした!」
「…、つまり、?」
「せいまほうです!!」
来月測る…ということは5歳なのだろうか。でも、げーむの説明?ってなんなのかしら。しかもなんでそんな自信満々に?…といくつか疑問が残るが、立ち止まる間は無い。
「じゃあ、いめーじして、…くろいもやをとりのぞくには、やみまほうのどれをつかう?」
「えっと…ぶつりはむり、あたまのかいてんもだめ、ちゆは…わからない、なら…!!」
「なら?」
「ゆうじゅ…?」
「うん、せいかい。しくみをりかいすれば、あのくろいもやもとりのぞけるはずよ!」
これだけイメージできる力がある彼女なら、きっと…少しのヒントで習得できる。それに何より、このドラゴンさんについている黒いモヤはそこまで強い束縛力は無い。恐らく、自然に発生したと考えるのが妥当ね…
「…めにはめを、はにははを、…やみにはやみを!くろいもやをとりのぞけ…!」
彼女がそう言うと、透き通った黒い霧が充満し、そのままドラゴンさんに突撃する。…少しだけ粗さが目立つのは…初めての魔法ってことで目を瞑りましょうか。というか、この年で魔法を使おうとすること自体、ちょっと変わってるわよね。まあ、この時代の常識を知らないからなんとも言えないのだけれど…。
そう思いながら後ろを振り返ると、いつの間にかドラゴンさんの攻撃は収まっていた。
「や、やった…?」
ぽかんとしながら隣で立ち尽くすセラフィーナさん。…ドラゴンさんの所からは2つのモヤと霧が衝突した時に発生した白い煙があるから、ドラゴンさんがどうなってるのかはわからないけれど、少なくとも攻撃は止んでそう。
「いってみましょ、」「うん…!」
それから私達は、ドラゴンさんのいる方へと向かったのだった。