4.救世主は確認する。
「あっ……」「??」
私の方に倒れ込もうとしている少女。
なんだか動きがゆっくりに見えてくる。敵の戦いでは、王女としてではなく聖女として、割と最前列にいた方だったからかしら……と関係ないことを思いながら、
「ふぁっ!?」「きゃっっ!!」
私に覆いかぶさるようにして転けてしまったその女の子に、私自身も巻き込まれるようにして転けてしまった。
「いったた……」
ゆっくりに見えたのに、何故避けきれなかったのかしら、と思いながらも、そういえば私に体力は無かったのだわ……と思い直す。……これからはしっかり体力をつけていかないと。
あ、それから、魔法はどうなってるのかしら…それも調べてみなくちゃね。
「いったぁ……」
転けた女の子の方を見てみると、なんというか…簡単に言うと、裏業者みたいな子だった。
紺色のマントで前までしっかり隠しており、その隙間からは、前世の私の金髪と同じ様にウェーブがかかってるっぽいピンク髪が垣間見える。そして、マントの下からは白いレースがついたピンク色のスカートがはみ出ていた。
……なんというか、、、凄く貴族っぽい。
私がそんなふうに思っていると、当の本人は、ごめんなさい、と言いながら森の方へと駆けようとする。
「……まって、わたしもいくわ」
そう声をかけると、足を止め、少し驚いた顔で固まり、こちらを見つめた。
「えっ……だ、だめですわ!」
黄金の瞳がその姿を現した。
やっぱり貴族だったのね…とか思いつつも、それなら何故この森に…しかも一人で行きたがるのかしら、と疑問に思う。
「とにかく、わたしはこのもりにいかなくちゃですけど、あなたはくれぐれもこないでくださいね!」
そう言われると行きたくなるのが、人間としての本能であろう。……でも、そう言われてしまったからには素直に従うしか無いのだとも思った。
貴族ってよくわからない……と思いながら、パタパタと森の中に駆け寄っていく女の子の陰を目で追う。……あれ、私前世は王女だったのに。いやまあ、貴族と王女は違うものね!とかと思いつつも、何より私には今世で生きてきた価値観も備わってるから……つまり、今の私には王族としての感覚と庶民的感覚はある。……ただし、貴族としての感覚は除く!って感じなのかもしれないと自己完結しておく。全くのこじつけだけれど。
そんな感じで、とりあえず森にも行けなくなってしまった為、噴水と森に挟まれてしまっており、どうにも出来ない。暇になってしまったので、フランさんの所に行くか……とか思い始める。しかし……
「セラフィーナ様〜」
「フィーナよ……戻ってきなさ〜い!」
「お嬢様〜!?!!」
……なんだか、聞いてはいけない言葉を聞いてしまった気がする。
予定通りとりあえずフランさんの所に戻ってみると、、、
「ティーア!無事だったのね良かった……」
間髪入れずにそう呟き、私にぎゅっと抱きつくフランさん。……なんだかちょっと苦しい。力強すぎる……なんでよ!?!!
まあ、怪しまれない程度に、苦しい的な感じの趣旨を伝えると、つい……って感じで離してくれたフランさん。ついって……こっちはこれまでに無いくらい……生まれてから始めてこんなにも強い攻撃食らったわって感じの力の強さだったのだけれど……?!
「フランはティーアちゃんを心配してたの、大目に見てあげな」
「そーそー、フランちゃんってば可愛いとこあるぅ!」
「へえ…まるで私が普段は可愛くないみたいな言い方ねぇ?」
「いや、そんなこと言ってねえから!!悪かったってフランっっ!!」
つまり、フランさんは私を心配してくれていて……、レアンさんやアスタさんも心配してついてきてくれた、という所だろうか。
「とりあえず、フランもアスタも落ち着け、」
「兄さん……!?」
オマケに、レアンさんのお兄様のロータスさんまで駆け付けてくる始末。……一体何があったって言うのかしら。
「どうして兄さんまで?」
「クリスティーナ生誕祭には帰ってくると伝えただろ、それに……今日は仕事が早めに終わったからな、」
ロータスさんはなんと王都の何処かで働く衛兵さんなのである。素晴らしい。何処の家で働いているのかは知らないけど、王都で働ける時点で凄いわよね。
そんな思いでロータスさんを見上げると、ロータスさんはさっきまでの真顔から少しだけ微笑ましそうに笑い、私の頭を撫でてくれる。
そして、フランさん達を見ながら続けた。
「で、これはなんの騒ぎなんだ?」
それ、ほんとにそれよ。
私も聞きたいので、ロータスさんの手の中に収まりつつ、フランさん達を見上げる。すると、フランさん達はキョロキョロし、誰もいないことを確認してから続けた。
「なんか……公爵令嬢様がいなくなったんだって!」
「さっきまでウチにいたらしいんだけど……目を離したらすぐどっか行っちゃったっぽくて……」
「んで、俺等は住宅街から追い出されて家も捜索されてる、ってわけ」
「………」
「家……まさかウチもか?」
「うん、そのまさか。エンシャンツ公爵家……悪評は聞かないけどそれでも怖いよね、家探されるの。」
「……公爵令嬢が失踪……か、、」
それから、フランさん、アスタさん、レアンさん、ロータスさんの4人で話し合うのを聞きながら、私は少しだけ嫌な予感が迸る。……以降の会話から推測するに、公爵令嬢様は4、5歳程の子らしい。今日は白いフリルを基調としたピンクのワンピースを着ており、外見としては…ピンク色のウェーブがかった髪に、トパーズのような黄金の瞳を持っているらしかった。
……そして、さっきの少女も……
「っっ……」
気がつくと私は、さっきの少女が向かっていた森の中へと全速力で駆けていったのだった。……お願い、間に合って……!
いつにも増して心に願いつつ、私はこの短い足と少ない体力で暗闇へと向かう。……森からは、なんだか良くない気配がした。