27.軽率少女は行動を起こす。
元来た道を戻るセラフィーナさんとロータスさんを見送ると、私は魔力感知の精度を高めるのに意識を集中させた。
周りに人がいると集中しにくいのよね…と思いつつ、やっていく…が、
「……」「あ?」
ここには私の他にもう一人いるのよね。
2人の方に行ってくれればよかったのだけれど、何故か彼はこの場に残っている。しかも、動こうとはしない。困るわ…これじゃあ元凶がどこにいるのか探索出来ない。
息子さんは言う。
「お前、公爵令嬢様と一緒に行かねぇわけ?それとも…怖気づいたん?」
そんなわけ無いじゃない!むしろそれは貴方の方でしょ!?と言いそうになるのをぐっと抑え、最低限なことを口にする。
「あなたはいかないんですか」
「行かねぇ、つーか、お前がいると感知が鈍るんだよバーカ」
「………」
すると、思わぬ答えが返ってきた。
…そういうことか…私と同じように、感知してから向かった方が早いと思っているらしい。確かに、闇雲に探すよりは遥かに効率が良いもの。
「わかったわ、ならはなれる」
それなら仕方無いわよね。そう思い、彼の元から少し離れる。これくらいなら測れるでしょ!私はお姉様だからね、お手柄は譲ってあげるわよ!と思い、彼の方をウキウキして見る。
すると…
「…いや、もっと離れろよ……」「え…」
そんな風に眉をひそめて言われてしまう。
何よそれ、私がいたらダメってこと?酷いんだから!もう良いわ、私が感知してやるんだから!!
私は手に魔力を込め、そのままこの辺り全体に視野を広げる。…彼がどんな顔をしているのかは分からないが、一瞬息を止めたのは事実だろう。そんな気配がした。
まあ、どちらにせよ……
「みつけた…」
元凶を見つけることができた。
ちなみに、場所的にはやっぱり魔力暴走の方に向かっていた。一緒に行けば良かったかも…いやでも、他にも一つ調べなきゃいけないことがあるし。
そう思うと、一人になっても良かったのかもしれない。
「あっちの2人がむかったほうにげんきょうがいます!あとはおねがいします、」
息子さんにそう言うと、そのまま私は…裏手側に向かおうと動き出した。
この人なら…魔力感知を得意としている?この人なら、向こうへ行けば何かをしてくれるかもしれない。彼だって外の魔力には気づいてたみたいだし、…結界内から結界外の魔力変化に気がつけるということは相当な実力の持ち主だ。…集中するのに距離が必要なのが難点だけれど、それ以外は十分戦力になる。きっとセラフィーナさんの役に立ってくれる。
そんなことを思いながら、元来た道とは反対を進んでいると…
「そっちに何の用があるんだよ、お前」
…息子さんもついてきていた。
思わず、「うぇ!?」といえ変な声を漏らしてしまう。
後ろを見ると、しっかり同じくらいのスピードで走ってきていたのだ。え、うそ…なんで!?!?
「ど、どうして…」
「いや、それこっちのセリフだから」
呆れたようにそう言ってくる息子さん。…いやいやいやいや、どう考えても私のセリフだし!それに、…いや、うん。…なんで!?
と、そんな感じで戸惑っている私を尻目に、息子さんは冷静に続ける。
「んで、お前は公爵令嬢様を裏切るんだ」
「はい???」
本気で何を言ってるのだろうか。眉を顰めて横目で凝視してしまう。
「わるいけど、じゃまするならどっかいって」
「は?お前こそうろちょろするなら親父のとこ行けよ、これは」
「これはあそびじゃないのよ」
「………」
間髪入れずに声を上げると、それだけで彼は押し黙ってしまった。……これは遊びじゃない、もしかしたら生命の危険があるかもしれない大事な作業。
……邪魔をするくらいなら、居ない方が良い。
私の本気が伝わったのか、それとも考えるのを止めただけか。どちらにせよ、目的地に着くまで全く喋らなかった息子さん。…まあ、結局着いてきてたけど。
「ついた…」
それから、数分で目的地には着いた。少し息を切らせ、見渡すと…キラキラ光り輝く森のような場所だった。教会の裏側にあった所で、…フルール村の森は黒っぽいオーラが漂っていたのに対し、この場所には白っぽいオーラが漂っている。
「ここになにがあるんだよ」
そう言ってくる彼の言葉を…申し訳無いとわかっていつつも無視をする。…後で謝るわ。だけど、今は時間がない。
前世で教会と森はセットだったから、ここにもあると思ったのよね。
一か八かだったけど…来てみて正解だったわ。そう思いながら…森の中に入ろうとする。
が、その前に息子さんが「待てよ」と止めてくる。もう、邪魔しないでって言ってるのに!そんな思いで彼を見てみると…
「そこには入れねぇよ」
「はあ、??」
入れないって…どういうこと?あ、神父さんの結界か、神父さんみたいな人の結界が張ってあるとか?だとしたら組み替えて書き換えを…とか色々思考していると、息子さんは続ける。
「精霊様の力がついてんだ、俺らじゃ太刀打ちできん」
「え…?それなら、まいにちのおみずやりは?」
「水やり?…この森に入ったことある奴なんてそうそういねぇ、少なくとも俺が知ってる限り」
嘘でしょ…?? 精霊様は清らかな水が好きな存在。それは火の精霊でも水の精霊でも変わらない。…だから、前世では毎日教会の人達や子供達が神殿にお水やりをしていた。
それなのに、それをやってないって……
「だからこんなことに…?」
魔力感知に引っかかった正体と、その理由が分かった今では…最早心配よりも呆れが勝ってしまう。……根本から常識が変わってしまったのかしら。
精霊様に力を借りようと思ってここまで来たのに、…作戦変更ね。
「って…だからお前!そこから先は入れねぇって!」
そう言って止めてくる息子さん。しかも、「天罰が下るかもしれねぇぞ!神聖な域だぞ!?」と言い、「入れないってことは認められてない」だから「無理に入るな」と続ける。
……分かってる。ここは神聖な場所、無理に入ったら精霊様の怒りに触れる。………でも……、………
「それなら、あなたはそこであきらめるの?」
「………」
諦めることなんか出来ない。今、セラフィーナさんは頑張ってる、…多分レオンハルトさんも、ロータスさんもキャンディさんも皆皆皆皆。「貴女のお父様だってそうでしょ?」と声を出し、そのまま目の前の森を見据える。
「できないからってにげてたら、いっしょうまえにはすすめない。あきらめたら…なにもかわらないよ、じぶんのいしでこうどうしないと!」
こんな所で立ち止まっていたら、前に進むことなんか出来ない。“入れない”から、何もせずに諦める…そんなことでは…現実は変わらない。
変える為には、自分で行動しなければ。
そう言い放ち、私は森に踏み込む。
息子さんがどんな顔をしているのか、どんな風に感じたのかは分からない。けど、私は私にしかできない事をやる。
……例え、周りから…そして、精霊様からどんな風に思われたとしても。
「まうはよいやみ、しんきろう…、せいれいのひかりよ、そのすがたをわれに!」
しっかり体力をつけ始めていたから、初めての時よりはちゃんと魔法を使える。私は…両手を翳しながら、“精霊光強制召喚術”の呪文を唱えた。
精霊の儀のセリフが同じだったのだ。…きっとこの呪文だって変わっていない筈。
そう思った瞬間、白っぽいオーラが更に光を増し、そのまま耐えきれないくらいの輝きを放つのだった。
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
「おにいちゃま〜〜〜!!!」
ぽふっと、俺が広げた両手には、最愛の妹が飛び込んでくる。
「おはようティーナ、…早速だけど、これはどういうことかな?」
「これ、おにいちゃまです!」
ドヤ顔で礼拝堂の落描きを指し示すクリスティーナ。…あ、これ俺か。…じゃなくて!!!!
「ダメじゃないかティーナ!勝手に落描きなんてしちゃ」
「だって…しんぷちゃんいいよってゆったもん!」
ぷくぅっと頬を膨らましながらそう言い切るティーナ。…また神父か…、しかも、しんぷちゃんってことは恐らくその息子だな。
ティーナの場合、神父のことはしんぷどの、息子のことはしんぷちゃんと呼ぶ。
どうやら最近仲が良いらしく、礼拝堂に落描きなどの悪戯をしているらしい。神父や聖職者の皆はそれでも構わないと言い、可愛いもんですよ!と笑いながら許してくれているが、これが父上や母上の耳に入ったらどうなることか。
それに、お互い初恋を奪っていないかも心配だ。
「…じゃ、父上や母上には内緒にしておくから、行こうか」
「あーい!」
手を繋いで馬車へと向かっていく。
まあ、今までのことだって神父達から父上や母上には伝わってるだろうし、そこまで気にする必要も無いか。
皆ティーナに甘いんだから…と思いつつ、自分もそうであることを自覚しながら、てくてくと歩くティーナを見下ろす。
膨らんでいた頬はいつの間にかいつも通りの丸さ加減に戻っており、ニコニコと楽しそうに微笑んでいた。
「きょーはね!ティーナもおみずやりをしたの!」
「そうか、ティーナは凄いね」
それでね!精霊様に会ってね!!と話してくれるティーナ。…ごめんなティーナ、実は俺もう既に契約してる精霊王ガイストから聞いてんだわ、とは絶対に言えない状況。俺は相槌を打ちながら、会話をしてくれるティーナを見つめた。
「それじゃあ、今日は父上と母上にも話さないとね」
「かえってくりゅの?」
「あぁ、もうすぐ王城に帰ってくると思うよ、」
今回の遠征は外国人やエルフ、ドワーフや獣人等々…結構な梯子を伴う条約制定の為の遠征だったからな…と。ただ、今日はようやく帰ってくるのだ。
父上はよく言っていた、「自分から行動しなければ変わらないのだ」と。
周りからどう思われたって関係ない、自分から動かなければ変われない。条約制定の為、自ら動かなければならない。…そう言って、少数の騎士達やメラナイト、それに宰相を連れて、外交に行ってしまった。
…ホント、その行動力は尊敬するよ。
でも、父上は同時に俺の婚約者も探してるみたいだからな…。
そこはありがた迷惑。…正直まだ結婚はしたくないし、するとしてもティーナのことや精霊のこと、あとは国のこととかをちゃんと理解してくれる人が良い。…まぁ、父上がそこを考えてないとは思えないけど。
だって母上と父上は恋愛結婚なんだし。
「おにーちゃま?」
「…なんでもないよ、今日の夕食は何だろうね」
「たのちみだね〜!」
ま、今はそんなことよりも。
…隣にいるティーナが少しでも幸せでいてくれると言うのなら、俺はそれで十分幸せかな。




