そして公爵令嬢は提案する。
クリスティーナ様の事実にこの上なく驚き、受け入れてくれたことに涙が隠せなかった私。
ティーアちゃんの知り合いであろう人達も集まってきた中、ようやく涙を止められたは良いものの、……彼らが少しでも早くきていたらアウトだった。
それからキラキラした表情でクリスティーナ様について語り始める方々や、お兄様。そして、ゲームでは殆どのルートで最期を語られることのない少年が、亡くなる筈だった兄を見て楽しそうに笑っている。
私と恋仲になるよりも、遥かに幸せになってくれている。すごく笑顔で…ゲームのスチルより何倍も光り輝いている。これ以上の幸せは無いよ。
クリスティーナ様は幸せそうな彼らを見て、彼女も幸せそうに微笑んでいる。二重で見える伝説のその影に、思わず涙ぐんでしまいそうになった。
だってクリスティーナ様は…最推しがいる第三作目でも…、と思考がゲームに流れてしまいそうになるのをグッと抑え、私は空気を読みつつ佇まう。
と言っても、クリスティーナ様大好き同盟(?)に加わってるだけなのだけれど。だって、クリスティーナ様大好きだし。
私達が話している間、ティーアちゃんは頬を紅く染めてそっぽ向いていたけどね。そう言う所は可愛いなぁと思ってしまう。格好良いだけかと思っていた。
そして、語られる真実。
『クリスティーナ生誕祭のメインイベント、毎年王族がここに来てくれているんです!あ、本物だってことは外部には漏らさないようにね』
『クリスティーナ様のようなお召し物でいらしてくれるんです、それを祭って更に盛り上がる、ってのが例年行われてるんです!きっと皆は王族じゃなくて、“似た人”だと思ってますね!』
クリスティーナ生誕祭には王族も来てくれるんだってこと。
でも、私は一人で不思議に感じてしまう。1作目ではリスクの兄アスタさんが被害にあった、って感じでアッサリ終わっていた筈。そもそもリスクがここにいる時点でおかしい気もするけれど…。どちらにせよ、王族が被害に遭っていたならもっと大袈裟に語られていても不思議じゃ……
「実はな…元々この催しのメインイベントとしては王族が来てくれる筈だったんだ、」
さっきお二人が言っていたことを繰り返すように話す男性。そのまま彼は頭を抱えながら話を続けた。
「ただ…今日急にこれないと通達があってな…、今から代役を頼むにしろ頼める人がいないし、これじゃあ間に合わない……」
一難去ってまた一難。
男性は眉間のシワを伸ばすように手を当てるが、それでも中々直らない。それくらい濃くなるくらいシワを寄せまくっていた。曰く、こんなこと初めてらしい。毎年来てくれていたのに、何故今年に限って来てくれないのか…と。メインイベントまで時間が無い中、一体どうすれば…!と。
皆は悩み、ロータスさんだけ悔しそうに顔を歪める。どうかしたのだろうか。まさか知ってたとか?いや、まさかね。
どちらにせよ…
私はティーアちゃんをチラッと見た後、キャンディさんに声を掛ける。私が提案したら怪しまれそうだし、当分はキャンディさんに任せよう。
「キャンディさん…」
それから私は彼女に一つのアイディアを受け渡す。少し驚き眉を上げた後、不安げに私の方を見てきた。
「だいじょうぶだよ!くり…いや、ティーアちゃんならきっとだいじょうぶ!」
「……ふふっそれもそうですね、」
小さく会話をした後、キャンディさんに皆に話すよう促す。
「あのっ提案が……!!」
キャンディさんは皆に声を掛け、そして皆は彼女の方を向き、彼女の口が開くのを待つ。
……そして、
「代役なら、ティーア様にやっていただけたら良いかと…!」
それからキャンディさんは続ける。
「そのクリーム色の髪と赤色の瞳、それにそのワンピースなら…王族にも引けを取らないと思います!皆さん間近で見られる訳ではありませんし、そもそも王族の顔なんて皆様知りませんし、あ、そういえばこの前王女様が産まれていて…誤魔化せますし、だからその…」
あぁ…ごめんキャンディさん!アワアワとして下を向き、どんどん声が小さくなりつつある彼女にまたしても心中全力土下座をかます私。
私が提案したのに理由とか全部丸投げしちゃったし、言い訳とかも考えておけば良かったよね?!しかも、ティーアちゃんはやりたくないのか、彼女からは物凄い圧を感じる。キャンディさん…ごめん!ほんとごめん!!
ただ、村の皆さんには意外と好評らしく、良い反応をしてくれている。
「良いんじゃない?ティーアちゃんなら…」
「いやいやいや、私が徹夜でやったワンピースよ?全然貴族のやつと比べたら縫い目も粗いし、やっぱ止めた方が…」
「いーじゃん、遠目で見るんだしさ〜」
「アンタはそんなことないよ縫い目綺麗だよとか言えないの!?」
「だってほんとのこ…いたっいてて、耳引っ張んなフラン!」
「……ティーアちゃんか…」
……が、
「それならフィ…クリスがやった方がいいと思う!」
「お、お兄様……」
お兄様はそう言っている。…うん、ティーアちゃんさっきクリスティーナ様って勇気出して言っとったけど…信じてないのかな?だとしても、お兄様…ティーアちゃんのこと嫌いすぎない?!ゲームのお兄様にツンデレ属性なんてあったっけか?いや、無いよな??
私がお兄様に断りを入れまくっている中、ロータスさんが代表してティーアちゃんの目の前に歩き、しゃがんで彼女と目線を合わせていた。
「ティーアちゃん、…君が嫌ならやらなくても良い。…ただ…もし引き受けてくれるのなら、今日一日、クリスティーナ様としてお願い出来ないだろうか」
…何か言いたそうなティーアちゃんだったが、
「うんいーよぉ!なにやるのぉ??」
すぐに笑顔で返事をする。……子供らしさをアピールする為かな、さっきとは違う雰囲気だ。流石元王女。表情筋の使い手過ぎる。まあ、若干唇の端がピクピクしているから、あんまり慣れてないんだと思うけど。私もこの身体に慣れるまで1週間くらいは掛かったし、慣れるには個人差もあるのだろう。
それからトントン拍子に話が進む。ティーアちゃんは大人達に回収され、リスクもアスタさんについて回るようだった。
「これで良かったのでしょうか…」
そんな中、キャンディさんは私に声をかけてくれる。勿論、むしろありがとう!って声をかけると、少し嬉しそうに微笑んでくれるキャンディさん。
耳を傾けていると、メインイベントはもうすぐそこまで迫ってきているらしい。
……ゲーム本編でも王族が来られなかったから、彼は無事だったのかしら、と考え、まぁ病気とかもあるものね、と結論付けるが、それにしても何か引っかかる。本当に病気か何かなのだろうか…それとも………
「フィーナ、俺にとってのきゅーせーしゅはいつでもフィーナだから!」
小声でそう言ってくれるお兄様。
「ふふっありがとうございます!」
それが嬉しくて。言ってしまったからには後には引けない。……でも、引く必要もないのだと、そう思えた。
だからこそ、お兄様に甘えてばかりだった主人公セラフィーナ・エンシャンツはもう卒業。
これからは、お兄様に頼ってもらえるような心強い妹セラフィーナ・エンシャンツを目指してみせるよ!!




