14.無気力少女は紹介し、
「あれ〜?ティーアもう中にいたの?」
「って…リスク?!ここにいたのか!」
「鍵が空いてると思ったら…、」
「あ、兄さん!用事は大丈夫?」
「ああ、まあな」
それから、休憩だろうか、フランさん達4人が私達のいる所まで戻ってきてしまった。困ったわね、何も話せてない。そんなことは露知らず、4人は…見た目が大人だからだろう、キャンディさんに声を掛けた。
「あの…」
「はじめまして、キャンディ・ルーツと申します!」
「あっ…あの時の!レアン・アメーズです!セラフィーナ様…でしたっけ?見つかったみたいで良かったですね!」
「ありがとうございます…!」
自分の所為で…と考えたのか、若干苦笑いで応えるキャンディさん。……貴女の所為じゃないって皆わかってるわよ。
「えと…はじめまして…フラン・フレグラントです…!」
「はい、よろしくお願い致します!」
それから、フランさんまで敬語を使って自己紹介。凄い…こんなこと言ったら怒られるから言わないけど、なんか不思議な感覚だわ…!
「俺はロータス・アメーズと申します、妹や父がお世話になりました」
「いえそんな…」
ロータスさんはこれまた礼儀正しく自己紹介。ロータスさん、王都のどこで働いているのかしら、ちょっと気になるわね。
そして、最後に…
「俺はアスタ、よろしくな!」
「お馬鹿!敬語使いなさい敬語!!!」
「イデッッちょ、フラン!リスクもいるんだからな?!」
……安定のアスタさんとフランさんだった。なんだか安心したわ。
それからフランさんはリスクに向かって自己紹介を始めた。うーん、知っている私達からしたら侍女よりも貴族本人に敬語を使うべきなんだけど、そんなことちっとも知らないのであろうフランさんはそのまま敬語は使わず、子供を相手するような感覚で話しかけている。
リスクルビダさんが「うん!よろしくフランおねーたん」って言った時何故かアスタさんがピクッと反応してたのだけれど、気の所為かしら。
「それで…その方達は?」
「あっえと…私の知り合いの子です…!」
レアンさんがそう聞くと、キャンディさんがなんとか誤魔化してくれた。ふぅ…ここで“公爵令嬢と公爵子息です”なんて言ってたらどうなることやら…
「クリスです!」「グリムです、」
簡易的ながらも自己紹介をする2人。
フランさんやレアンさんはかわい〜って感じでキャッキャしながら頭を撫でまくる。セラフィーナさんは嬉しそうだったし、レオンハルトさんも満更でもない感じ。
ただ…そうね、アスタさんとロータスさんだけは何かに気がついたかのように反応するのだ。でも何も言わずに女子組を眺めているだけだった。
「そーいやぁ…そろそろ生誕祭のメインイベントだろ?」
「メインイベント??」
アスタさんが気がついたかのように話しかけてくれる。私は何のことか分からず思わず声を漏らしてしまった。
「あー、そうだったね、忘れてた」
「え?」
「フランってば嘘ばっかり〜!楽しみにしてたじゃん!」
「うっ…だって楽しみじゃん!」
「兄さんは?今年もお仕事??」
「いや、今年はレアン達と一緒に見るよ」
「ほんと!?やった!」
大人組は何やら知っている様子だった。
知らないの私だけなのかな…と思い皆の方を見渡すと、セラフィーナさんもレオンハルトさんもリスクルビダさんも、そしてキャンディさんもハテナを浮かべていた。良かった、私だけじゃなかったのね。
「メインイベントってなんですか?」
キャンディさんが代表して聞いてくれると、ハッとしたようにこちらを振り向く3人。代表して元々こっちを気にしてくれていたロータスさんが声を上げる。
「クリスティーナ生誕祭のメインイベント、毎年王族がここに来てくれているんです!あ、本物だってことは外部には漏らさないようにね」
「クリスティーナ様のようなお召し物でいらしてくれるんです、それを祭って更に盛り上がる、ってのが例年行われてるんです!きっと皆は王族じゃなくて、“似た人”だと思ってますね!」
へ〜そんなのがあるんだ。ロータスさんとレアンさんが解説してくれる中、感心したように見つめる私達子ども組とキャンディさん。
「いやぁ〜ティーアちゃんを見た時は驚いたよ、最初メインイベント始まってんのかと思ってさ〜」
「もっと褒めて良いのよ?」
「なんでだよ」
「着付けしたのは私なんだから〜〜〜!」
アスタさんとフランさんはいつも通り。……え、私アスタさんが貴族なんて未だに信じられないのだけれど。
ちなみに、リスクルビダさんはニコニコと嬉しそうに見上げている。お兄ちゃん、見知らぬおねーたんに怒られまくってるけど、これで良いのかしら…
「ここの生誕祭、思ったより凄かったですね、」
アメーズ兄妹がそこから派生してクリスティーナについて意気揚々と語り始める中、キャンディさんが私達に呟いてくれる。
「ね、すごい…」
「ほんと、わたしもここでいきてたけどはじめてしったわ…」
私達は精神年齢が上である所為か、呆気にとられながら感嘆の息をつく。
「クリスティーナさま…!!」
そう呟くのはレオンハルトさん。本物ここにいるってさっき言ったのに、キラキラした目でアメーズ兄妹のことを見あげていた。
「少年、もしかしてクリスティーナ様のことが好きなの?」
レアンさんはレオンハルトさんにそう声を掛ける。
「しょ、少年…」「レアっ…、いや、なんでもない…」
特に他意は無く、単純に知りたかったのだろう。少年と呼ばれたレオンハルトさんはショックを受けたように固まり、ロータスさんはやらかした…という顔になりつつも言えない手前か誤魔化しながら咳払いした。
ロータスさん、貴族だって気がついてそうね。
「まあ…お父様やお母様に…色々聞いてて…」
ムスッとした顔になりつつもレアンさんの言葉に反応してくれるレオンハルトさん。
「えっと…わたしたちクリスティーナさまのファンなんですっ!!!」
それをフォローするようにセラフィーナさんも前のめりになりながら話す。だいぶ食い気味だった。
………いや、だから…ここに本物いますけど??
「そうなんだ〜私達とお揃いだね、兄さん!」
「いや、まぁ…うん、そうだな、確かに…」
クリスティーナ様大好き兄妹だ!と嬉しそうにはしゃぐレアンさん。あまりに嬉しそうだからか、ロータスさんは何も言えずに固まるばかりだった。貴族への言葉遣いも気にしなければならないが、それ以上に妹の反応が可愛かったのだろう。レアンさん普通に可愛いし。
すると…
「どうするよこれ…」
「うーむ…困ったな……、爺さんもきっと俺に任せるだろうからな…」
数人の男性が院の中に入ってきた。私達がその声の方へと顔を向けると、彼らもまたこちらに気がついたようだった。
「あ、父さん」「父さん!?」
「ロータス、それにレアンちゃん!?」
私も見たことある人、ロータスさんとレアンさんの御父上方だった。つまり、この家の主である。
「どうしたの?」
「いやぁ…レアンちゃん達が気にすることじゃないさ!」
「父さんそんなこと言って…また何かあったんでしょ、俺等も協力するから、話して」
子供扱いされたのが気に食わなかったのか、2人は御父上に向かって声を上げる。レアンさんとロータスさんの勢いに負けたのか、渋々話すことになった御父上。
流石のフランさん達も言い争いを止め、彼らの言葉に聞き入っていた。
「実はな…」
その言葉を聞いた途端、特に大人組が驚き、絶句するように顔色を変えた。
「どうにもこうにも難しいらしくてな、なんとかお願いしたんだが…」
「当日止めますってどういうつもりなの!?あり得ない!!!」
「………」
レアンさんが耐えきれずそう口にする。ロータスさんは何かを考えるようにして黙りこくってしまった。何かに気がつくと、すぐに悔しそうな表情をして。
うーん、窓の外を見てみると、住宅街にもぼちぼち人が溢れていた。この調子じゃ大広間は結構な人数がいる筈。この人達全員にがっかりしてほしくはないわ。……でも、私達に出来ることなんてないし…、と…なにやらキャンディさんに耳打ちをしているセラフィーナさんを尻目にそう考えていると、
「あのっ提案が……!!」
キャンディさんから、いや…恐らくセラフィーナさんから。他の人にとっては名案かもしれないけれど、私にとっては人生最大級に恐ろしい提案が語られたのだった。
……セラフィーナさん、そんなドヤ顔しないで頂戴。後で覚悟しておいてね???




