2.救世主は目を覚ます。
……全てが上手くいっていただなんて言わないわ。
それでも、私の生活はそれなりに充実していた筈だった。
王女として生まれ、“聖”の器を持ってして生まれ、人より少し魔力があって、人より少し聖魔法をうまく扱えた。その力で誰よりも世界の平和を願ったし、誰よりも全力を尽くしてきた。そして、鼻歌交じりに王堂の角を曲がった瞬間。
暗殺でもされたのだろうか。背後からの気配に気が付かず、私の人生は呆気なく終わった。
……そんな前世の記憶を今、思い出してしまった。
「ね〜ね〜!来週はクリスティーナ生誕祭なんだよね!?」
「ねねね!もう今から祭りの準備が……!」
そう語られる周りの言葉を軽く耳で流しながら、頭を抱えた私は、膝から崩れ落ちるようにその場で意識を手放す。
「ちょっとティーアちゃん?」
「この辺とかど〜?」
「これから大事な時なんだから、退いときなさいよ……って、アンタ大丈夫!?たおれっ……」
私の名前はティーア。
4歳にしてこの街で育ってきた、根っからの孤児である。本当にこの街で育ってきた。
周りの人達が優しすぎて、こうやって援助をしてくれたりしてくれたおかげで、今の今まで生きてこられたのである。
目を覚ました私は、案の定ベッドの上だった。
ぼやけた視界が段々と鮮明さを取り戻す中、あたりを見回すと、見慣れた部屋の中である模様。絢爛豪華とはとても言い切れないが、それでも思い出深く、こじんまりとしながらもとても良い雰囲気を漂わせる。……私は、この部屋を知っている。
「あれ、ティーア?アンタ起きたの!?」
バタンッと音が響いたと思えば、先程声をかけてきた人が扉を開けて入ってきていた。
「フランさん……」
この部屋の主であるフランさん。昔から私のことをよく気にかけてくれてる人で、事あるごとに声をかけてくれる。私にとっては1番身近な年上の女の人で、時にはしっかり頼れる存在だった。ちなみに14歳で、もうすぐ結婚できる年齢。
「大丈夫?」
「うん、きゅうにずつうが……」
「……急に饒舌に喋るようになったね、診療所行っとく?」
診療所とは、おそらくよく行く近くの場所だろう。……というかよく考えたら、そんなふうに言われるのも仕方がないのかもしれない。……今まで何も喋らない子供だったから、急に前世通り喋ったら変人に当たるのね。気をつけないと…
「ねえフランさん…」
ん、どうした?と、私が起きたことに安心したのか、寝ている私を尻目に台所に向かおうとするフランさんを目だけで捉える。
「わたし、クリスティーナについてしりたい」
「!?」
そう、私は“クリスティーナ”について知らなければならない。何故この世までその名が知れ渡っているのか、何故生誕祭等というモノが作られているのか、そして、何故、こんなにも奉られているのか。…………だって、
私の前世こそが、皆が奉っている張本人、“クリスティーナ・ラグジュアル・サンスベリア”なのだから。
前世の記憶を取り戻したばかりの私は、まだこの発言の重大さに気づいてはいなかったのだった。