11.無気力少女はおめかしする。
“ドンドンカッカッ”という太鼓の音と、大勢の人達の歓声が耳に流れ込んでくる。
「てぃーあ〜!やく!やく!!」
「ろーず…りりー…まってっ……!」
もうすぐ、生誕祭の始まりが告がれる。
そんな中私は、同じように孤児として村長さんの家で過ごしていたローズとリリーに早く早くと急かされている真っ最中だった。
「お〜い?入るわよ〜」
部屋の中で忙しく動き回っていると、フランさんとレアンさんが中に入ってきた。まあ、私一人じゃどうにもならなかったからありがたい。
「……リリー、あんたね……」
「なぁに??」
「まぁまぁフラン、まだたったの2歳だよ?それくらい良いじゃん!」
「まあ……」
何を話しているのかは知らないが、それよりも助けてほしい。
クリスティーナ生誕祭はもうすぐそこなのだ。あれから何か知れる機会があったというわけでもなく、直ぐに時は流れてゆき、いつの間にやら当日になってしまった。フランさんのお手伝いが楽しかった所為でもある。
そして私は今、孤児の皆と共にクリスティーナ生誕祭の為のお洋服を2人に着せてあげようと奮闘している最中だった。でも2人が想像以上に我慢出来ないのか暴れ回るものだから、私一人では着替えさせてあげることができない。
そんな感じでフランさん達を見つめると、流石にわかったのか「私達がローズとリリーを着替えさせるから、ティーアも」って感じの目で返してくれる。よし、ありがたい。
「よいしょっと…」
「ちょちょちょ、ティーア?」
「ふえ??」
私は一人で着替えろってことだと思ったのだけれど、違ったらしい。はて??
「アンタは私が着替えさせるから、そっちはお願いね」
「りょーかい!ローズ〜私が着替えさせてあげる!兄さんはリリーをお願いね!」
「ったく…仕方ないな…、ほらリリー、来い!」
「は〜い!またねろーず!」
「うん!りりーまたあとで!」
中には入ってこず外から話しかけるロータスさん。そのままリリーは部屋の外へと出てしまう。
「えと…」
私はドギマギしながらフランさんを見上げると、フランさんはなんだか…とっても楽しそうに目をキラキラさせていた。え、なんか怖い……
「一度やってみたかったんだよね〜ティーアのおめかし♪」
「フラーン、あんまりはしゃぎすぎないでよ〜」
「わかってるわかってる!」
本当にわかっているのだろうか、正直嫌な予感しかしない。テキパキとローズを着替えさせていくレアンさんを尻目に、私はきゅっと縮こまることしか出来ない。なんて無力な。
それから色々着替えさせられたり着替えさせられたり着替えさせられたりその他諸々の整え、あとほんの少しのお化粧をされたりする。フランさん張り切り過ぎなのでは。レアンさんが呆れながら見ている中、さらに髪の毛とかも凝り始めたフランさん。
いつの間にかローズは終わり外に出ていったっぽい。リリーと合流だろうか。まあ、ロータスさんがいるから安心だけれど。
されるがままに留まること数分、鏡を見た私は…
「………」
余りの想像の斜め上の自身の姿に、驚きと困惑を隠せない。……フランさん、これ流石にわざとですよね????
「ここにある服じゃなくて…」
「家から持ってきたんだ〜」
「フラン、貴女ね……」
「だって!仕方ない!やりたくなるって!!」
そう会話をする2人。それを見兼ねてロータスさんも入ってくると、彼も感嘆の息をつく。……そこに立っていたのは、
「あはは…」
前世の格好と似たような雰囲気に仕上がった私だった。
伸びていた前髪もバッサリ切られ、真っ赤な瞳が姿を現していた。後ろ髪も綺麗にとかされ、前世のような艶を取り戻しており、ドレスっぽいワンピースを纏う。もちろん色は赤色で、ところどころに黄色の刺繍が施されている。
うん、フランさん???このワンピースどうした?
「張り切り過ぎだって…」
「だいじょーぶ!それより、屋台!そろそろお忍び貴族も来る頃なんじゃない?」
お忍び貴族っていうのはその名の通りお忍びでやってくる貴族のこと。なんでも、そう言う方々が少なからずいるからそう呼ばれだしたらしい。まあ、貴族だってこういうお祭りは来たいわよね。私も前世ではよくお忍び王女やってたし。
というか、このワンピースの話に戻るけれど……前世のドレスと引けを取らないくらい凝った形に繊細なこの刺繍。フランさん、ありがたいけれど、一体どれだけ私にお金掛けてるのかしら。まあ、貰ったものは貰う主義だし、フランさんも「汚しても大丈夫!思いっきり楽しみな!」って言ってくれたからお言葉に甘える。汚さないように努力はするわ。
「じゃあ、私はケーキの方見てくるから〜」
「ん、あ…兄さんは?」
「俺はちょっと用事がな…、レアンは?」
「私は特に…」
「というか、あいつはどこ行ったのよ?最近見てないけど」
「アスタのこと?」
「うん、」
フランさん達の会話が気になり暫くその場にいた所そんな話が聞こえてきた。フランさん、アスタさんのことが気になってるのね。言われてみれば最近全く見ない。
フランさんは、「あいつが屋台始めてみろよとか行ったから今年ケーキ始めてみたってのに…」と呟いた。気持ちはお察しします、みたいな感じで目と目を合わせ、それから微笑み合うアメーズ兄妹。あ、アメーズ兄妹って言うのは、ロータス・アメーズとレアン・アメーズの2人のこと。
それから、そういえばセラフィーナさん達は来るのかしら…と思い出す。先程まで忘れていたけれど、「来たら分かります」的なことを言ったのは私の方だったわ。仕方が無い、私も2人きりで話したいし、こっちでも探してみましょう。
そう思いながら、談笑する村の人達の間を通りながら、お祭りの屋台がある端から端を回ることにしたのだった。




