9.元JKは委ねられ、
「おはよう、フィーナ」
扉を開く。昨日のことがまるで夢だったかのように思えるほど、爽やかな朝だった。
「おはようございます、おとうさま」
でも、身体の節々が少し痛い。恐らく昨日の筋肉痛だろう…と思いながら、それを堪えるように言い切った。
「…それじゃあ、また朝食で会おう」
「はい」
お父様も色々言いたいこともあるのだろうが…、あの後すぐに魔力の枯渇による転倒を起こした…のであろう私には、余り言ってこなかった。それよりも休んでほしいという計らいだろう。
うん、流石に慣れてないのに魔力を使いすぎた。しかも、ゲームのセラフィーナも…初めて本格的に使うって時は枯渇気味だった気がするし。
あれ、そういえばこの前一緒だった私のお付きの侍女は…?
「おとうさま、まって…!」
私の身の回りのことを任されていたということは、私が変な所に行かないようにとも頼まれていた筈…。なのに、私が勝手に森に行った所為で…!?!!
部屋から出る前に私の元に来てくれるお父様。表情がわからない。怒ってる…のだろうか。…今の私にはわからないけれど…
「あの…えと…きのういっしょだったじじょさんは?」
…私が怒られるのは良い。そんなの百も承知だ。でも、関係無い人が巻き込まれるのはダメ。私が勝手にやったことなのに、その所為で解雇だなんて…ダメに決まってる!
「…それなら……」
お父様は気まずそうに目を逸らした。……うぅ…やっぱり罰を受けることになるんだ…
「ダメです!ぜんぶわたしのせきにんなんです!わたしがかってにぬけだしたから!…だから、おねがいっ…そのひと、ばっしちゃっだめっっ…!!」
「…フィーナ…お前は優しいな」
違う!優しいとかじゃない!人として当然…というか、人として最悪なことをしてしまっている。責任転換なんて酷すぎる!…お父様が目に手を添えてくれ、ようやく自分が涙を流しているということに気がつく。…あぁ…貴族にとっての普通って…この世界での普通って…一体何?何が正解なの…??
「お前がそこまで言うなら考えを改めよう、とりあえず今は朝食だ」
「……はい…」
なんとか涙は止められたものの、涙声になってしまっている気がする。…侍女さん、まだ中高生くらいの年齢だった。この年でもう働きに出てるんだなぁと感心してしまうくらいには。そうだな、ティーアちゃんに抱きついていた女の子と同じくらいの年齢だった気がする。少なくとも私の前世よりかは年齢が低いんじゃないかな…?私、18歳だったんだし。…あれ、精神年齢相当高くない?それなのにこんなに泣くとか…子供の姿に抗えなかったわ。
「フィーナ!!!!!!」
「…おにい…さま…」
そして、お父様と共に朝食の席に着くと、お兄様がそう声を上げてくれた。
「こら、ハルト、端ないですよ」
そして、その言葉に反応したのはお母様。
「うっ…すみません、お母様」
「わかれば良いのです。さあフィーナも席にお着きなさい?」
「はい…!」と返事をしながらも、2人のことを見てしまう。お兄様もお母様も、いつも通りだけど…どこか白々しい。昨日のこと、どこからどこまで知っているのだろうか。
お父様と私も席に着くと、朝食が運ばれてきてご飯となる。お兄様が学園の話を進めてくれる中、私は昨日のことに想いを馳せ…、………
「………」
「?フィーナ?どうかした?僕の顔に何かついてる?」
「……い…え………」
今、私…学園って…いや、でも…学園って確か、2作目じゃ…あれ、え…1作目だった?…うぅ…ここで思い出せそうなのに、何かが引っ掛かって思い出せない。
「だいじょうぶです、ちょっとしょくじがおいしすぎて…」と当たり障り無い本当のことを言っておきつつ誤魔化すが、お母様の視線が痛い。お兄様は「そっか!」って納得してくれたし、お父様も納得はしてくれたっぽいけど…。何か勘付かれたのかな…。
「それより、これからキャンディさんの元に行くが…フィーナも来るか?」
「キャンディさん?」
そんな人…聞いたことないのだけれど。そう思い聞き返すと、お父様は昨日の侍女のことだよ、と教えてくれた。
「もちろんいかせてくださいッ」と食い気味に答えると、ここまでだとは思わなかったのか、お父様は少し仰け反るように苦笑いになってしまった。
これはこれで失礼なんじゃ…って思うけれど、私が入ったことで言動が軽くなってるのかもしれない。気をつけないと…
「それから、この後すぐにティーアさんとも会う予定だからね、」
へ…嘘…マジか。お父様ナイスすぎる。…こんな言葉貴族となった今は到底言えないので心の中に仕舞っておくが、有難すぎて感謝すぎる。…聞きたいこと、いっぱいあったし。
「えぇ…てことは、僕は今日フィーナと遊べないの?」
お兄様が残念そうな顔でそう放った。不貞腐れているのか、頬は膨れていた。
お父様と私が「そうだな」、「ごめんなさい!」と謝るが、それでもお兄様の頬は収まらない。むしろ、大きくなっていくばかりだ。「せっかく学園が休みだから、一緒に遊ぼうと思ったのに…」という言葉を聞くと、それだけで本当に仲良しの兄妹だったんだなと伺える。
私なら学校が休みだった暁には閉じこもってゲームしかしないだろう。あぁ…凄く健康に悪い。
「あら、それならハルトも連れていけばよろしいのでは無くて?」
お母様はそう提案してくれる。その言葉にお兄様はキラキラと目を輝かせるが、私やお父様は顔面蒼白だった。…お父様が顔面蒼白な理由は知らないけれど、私からしたら…お兄様にはなるべく変な知識を植え付けたくない!なんか…ゲームのお兄様に余計なことを植え付けると、…更に完璧になっちゃいそうで怖いわ…
でも、私のそんな想いは見事粉砕。お母様に言いくるめられたお父様はお兄様の同行を許可してしまう。…なるほど、お父様はお母様に弱いのね。
「フィーナ!何をするかは知らないけど、終わったら遊ぼう!僕昨日凄いの覚えたんだ!」
朝食を終えた後、そう言ってくれるお兄様。…私、前世では一人っ子だったから、慣れてないんだよね…。でも、兄がいるってちょっと嬉しいかも…!
「もちろんです!」と話しながら、お父様の後を追う。そして、お父様は一つの部屋に辿り着いた。この部屋は…客間だろうか。コンコンコンという規則正しいノックをすると、中から衛兵が開けてくれた。
見るからに高級品であろう中の椅子に座っていたのは、昨日のティーアちゃんと、キャンディさん。
「やあ、よく来てくれたね」
堂々と座るティーアちゃんに対し、キャンディさんは…さっきのお父様以上に顔面蒼白だった。
「…一人一つ座っててくれても良かったのだが?」
…今は、カタカタと震えるキャンディさんの手を、ティーアちゃんがそっと包みこんでいる所で…、ティーアちゃんはキャンディさんの足の上に座っていた。
だからお父様は一人一つ座って良かったのに…と言っているのだろうか。でも、どちらにせよ…
「セラフィーナ…様………」
この子は…私の所為で昨日と今日、肩みの狭い思いをしてきたのだろう。目の前に来れば、それだけ申し訳無さが込み上げてきた。
「っ…申しわ」「ごめんなさいッッッ」
キャンディさんが謝ろうとする前に、私が大きく声をあげる。そして、しっかり90°で礼をした。…貴族がどうとか、侍女だからどうとか関係無い。お父様やお兄様、キャンディさんやティーアちゃん、そして衛兵がどんな表情をしているのかはわからない。…でも、
「ぜんぶ…わたしがひとりでやったの!もりにいったのも、ぬけだしたのもわたしのいし!」
言わなきゃ。事実を。
…例え疑われても、我が身可愛さにこの人に罪を擦り付けることは出来ない。しちゃいけないの。
「だからおねがいっ…おとうさま!…このひとをかいこしないで!おねがいっ…しますっ…」
「フィーナ……」
お父様。私は本気だよ。そう思いお父様を見上げる。
まだ涙は乾いていないけれど。…こんな顔を見せるだなんて、私ってば、貴族失格だよね。
ここでは泣けない。さっきは泣き出しちゃったけど、今は我慢しないと。私なんかより、この人の方がずっと辛い筈なんだもん。
「…なら、この者の措置はフィーナに任せる、」
「え…」
お父様はそう言い、部屋を出ようとする。え、私が?私まだ5歳だよ??…実質解放宣言しちゃってるようなものだと思うんだけど…
「もちろん、最近勉学に励んでいるハルトの力も借りてな、…終わったら次はティーアさんと共に私の元へ来なさい、」
そう言い残し、お父様はでていってしまった。
部屋には、私とお兄様、ティーアちゃん、キャンディさん、そして衛兵が残っている。
「えっと…」
措置ってなんだろう、…ごめんなさい言えば終わりだと思ってたけど、違うか…。そうだよね、貴族だし、異世界だし。というか、昨日のティーアさんの「いせかい…」って呟きも気になるんだけど…
「ティーア、措置任せられたけど、どうするの?」
少し鋭い目線でキャンディさんを見るお兄様。聞きたいこといっぱいあるんだろうに、とりあえず目の前のことを見据える。うーん、有能。
「…キャンディさん、」
「っ…はい…」
私はキャンディさんに声を掛ける。皆が見守ってくれる中、私は一つの案を出した。
……よし、こうなったら…!!!
「貴女はどうしたいですか?」
「へ…??」
こう言葉を繋げた途端、部屋は静寂に満ちたのだった。




