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イラスト部(仮)の雨宮さんはペンが持てない~ワケアリ美少女部長はやたら距離が近い~  作者: 川上とむ
第一部~スキンシップ多めの幽霊部長と部活を立ち上げる話~

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第24話 顧問探し、難航中!


 その後も定期的に話し合いの場を設けたものの、顧問探しは特に進展しないまま、6月を迎えた。

 まだ梅雨入り宣言はされていないが、今日も昼過ぎから雲が出てきて、時折雨がぱらついている。


「数学と現国の先生も無理だってさー。あれだけ雑用押し付けてくるくせに、顧問の話になると、頑なにやりたがらないんだよね」

「化学の担当教師も考えるとは言ってくれたが、ありゃ脈なしだな」


 現状報告をしてくれたあと、汐見(しおみ)さんと翔也(しょうや)は全く同じ動作で頬杖をつき、大きく息を吐いた。


 朝倉(あさくら)先輩にも手伝ってもらっているけど、結果は似たようなものらしい。

 俺たちの心情も、外の景色と同じように灰色だった。


「先生だってたくさんいるんだから、誰か一人くらいやってくれそうだけど……なかなか巡り会えないなぁ」


 口元に手を当てながら、雨宮(あまみや)部長は俺の後ろを行ったり来たりしている。

 焦る気持ちはわかるけど、なかなかうまく事が運ばない。


「そういえば内川君、そろそろ梅雨が近いけど、ここの画材は大丈夫?」


 思わず天井を見上げていると、朝倉先輩からそんな声が飛んできた。


「画材ですか?」

「ええ、一部の画材は湿気が大敵よ」

「あー、さっちゃんの言う通りかも。画用紙なんて湿気でやばそう」


 その言葉を受けて、部長が棚にしまわれた画用紙に視線を送る。

 さっちゃん……一瞬誰のことかと思ったけど、どうやら朝倉先輩のことらしい。


「湿気とか、この時期はしょうがないんじゃないですか?」

「実を言うと、美術科の教室や美術室は冷暖房完備の上、湿度も管理されてるの」


 棚へ向かい、ぱらぱらと画用紙の束をめくって風通しをする汐見さんに対し、先輩があっけらかんと言う。


「除湿機があるってことっすか。さすが美術科。金のかけ方が違うっすね」


 同じ画材を扱う部活としての扱いの差に、翔也が顔をひきつらせる。


「除湿機かぁ……うちにもほしいねぇ。どこか余ってないのかな」


 その一方で、部長は目を輝かせていた。

 部活動に格上げされたら部費で買ってもいいかな……なんて一瞬考えるも、この調子だといつになるかわからない。


「画材もそうだけど、わたしたちもどうにかなりそう。今日も蒸し暑いのに、この天気じゃ窓も開けられないし」


 胸元に風を送りながら、汐見さんがうらめしそうに窓の外を見る。

 6月に入って俺たちも夏服になったけど、この湿度はなかなかに辛いものがある。

 汐見さんにつられるように外へ視線を向けると、雲行きが怪しくなっていた。


「また雨が降りそうだし、今日のところは解散にする?」

「……だな。今朝は晴れてたせいで、傘持ってきてないしな」

「わたしもー。早く帰らなきゃ」


 空模様を見た俺がそんな提案をすると、皆も同じ気持ちだったのか、すぐに賛同してくれた。

 やがて帰り支度を済ませると、続々と部室をあとにしていく。


「それじゃ、内川君、また明日ね」

「はい。おつかれさまでした」

「……(まもる)くん、ちょっといい?」


 最後に朝倉先輩を見送った直後、部長から声をかけられた。


「部長、どうかしたんですか?」


「ちょっと図書室に行かない? 例の本の続きが読みたくて」


 例の本……とは、愛読している恋愛小説のことだろう。先日二巻を読み終わったと言っていたし、早く続きを読みたいのかもしれない。


「いいですよ。二巻も返さないといけないですし、一緒に行きましょうか」

「やた」


 俺は返却用の本を手にすると、顔を綻ばせた部長と並んで図書室へと向かった。


 ◇


 かなり遅い時間ということもあり、受付の先生以外に人の姿はなかった。


「……あれ、ない」


 俺が返却手続きをしていると、一足早く書架に向かった部長が声を上げる。


「借りられちゃってるみたいですね……どうします?」


 その手続きが終わってから、彼女に近づいて小声で話しかける。


「ぐぬぬ……続き、気になる。返却されてないか聞いてみて。お願い」


 心底悔しそうに言う部長から実際に背中を押されながら、俺は受付カウンターへ足を向ける。


「あの、さっき返却した本の続き、借りられちゃってて……戻ってきてないですか?」

「あら、そうだった? 確か返ってきたはず……ちょっと待ってねー」


 俺が尋ねると、先生は眼鏡の位置を整えてから、カウンターの奥を調べてくれる。

 これまで気にしてなかったけど、図書室の受付にはいつもこの先生が座っている気がする。


「あったわよー。これでしょ?」


 そんなことを考えていると、彼女は積み上げられた本の中から、一冊の本を抜き出してくれた。


「それそれ! 三巻目!」

「それです。借りたいんですが、いいですか?」

「いいわよー。男の子なのに、この作品が好きなのね。珍しい」

「え、どういうことですか?」

「これ、女性目線から見た恋愛小説なのよ。男性の読者は初めてかも」


 貸出カードに記入してくれながら、彼女は含み笑いを浮かべる。

 それを見ていると、なんとも言えない気恥ずかしさが襲ってきた。俺は本を受け取ると、そそくさとその場から立ち去った。


「……男性の読者は初めてかも」

「部長、それ、何度も言わなくていいですから」


 正面玄関へ向けて廊下を進んでいると、隣を歩く部長がどこか楽しげな声で言う。


「せっかくだし、護くんも読んでみなよ。面白いよ?」

「でも、これって続き物なんですよね? 一旦返却した本をまた借りるというのも変な話でしょう?」

「私は気にしないけどなぁ」

「俺は気にするんです……ところで部長、今日も俺の家に来るんですか?」

「うん。借りた本、ゆっくりと読みたいし」


 まるで天使のような笑みを向けられ、俺は何も言えなくなる。

 まあ、部長が俺の部屋に入り浸るのは今に始まったことじゃないし、俺としてもだいぶ慣れてきた気がする。


 そう考えながら正面玄関にたどり着いた時、俺は目を疑った。

 いつの間にか、昇降口の向こうの景色が霞むほどの強い雨が降っていたのだ。


「……ありゃ、雨だね」


 それこそ、隣に立つ部長の呟き声が聞こえにくいくらいの雨音だった。


「さっきまで降ってなかったのに……」


 そう嘆くも、雨が止む気配はまったくない。俺は呆然とその場に立ち尽くしたのだった。



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