表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサガオくんと、眠れなくなる謎  作者: 隙名こと
序章 ~限界な私と、ゆるゆるのアサガオくん~
7/11

0-7 『謎』めいたこと


 さて。「雑談しよーよー」と言っていたアサガオくんは、そう言っただけあって、あれこれと自分のこともよく話してくれた。

 

 あの眠らせボイスの他にも、得意なものが色々あって。

 料理なんかも、かなーり好きらしい。


 それらのスキルを活かしつつ、【眠らせ屋&目覚まし屋さん】のお仕事を行っているんだとか。


 ――あるときは、誰かの眠れない夜に寄り添う。


 ――また別のあるときは、誰かの朝を晴れやかに彩る。


 仕事内容は色々だけど、わかりやすい例を挙げると……「心と身体に染み渡る美味しい夜食」や「まるでお洒落カフェのように素敵な朝食」をお届けしたりもするそうで。まるで、スパダリそのものだ。


「小さな幸せを配ってるみたいで、楽しいんだよね~~」


 そんな彼の言葉には、ちょっぴり本気で羨ましくなった。配る方も、配られる方も幸せそうで。いいな。


 ただ、アサガオくんは、折り曲げた指を顎にあてて。宙を見ながら、悩ましげにこんなことも言っていた。


「このお仕事をしてるとね~、たまに『謎』めいたことがあるんだよ」

「……謎……?」

 オウム返しの私の相づちに、アサガオくんはコクンと頷く。


「うん。なんだかちょっと変わった奇妙な依頼とか、お客さんが何か隠しごとをしてるっぽいな~、とか」

「へぇーーー」と言いつつ、とても興味を持った。


 そういうのって――眠れない夜に読んでた小説みたい。

 ちょっとお仕事モノの、いわゆる【日常の謎】なミステリー。


 殺人などは起きず、日常にひそむ謎を扱うジャンルだ。文芸部でも、そういう本について語り合ったことがある。

 もっと詳しく謎の内容を聞きたかったけど、アサガオくんの言葉の方が早かった。


「それでね、そういう謎が気になって、夜によく眠れなかったりもするんだ~。気にしなきゃいいんだけど、僕いつまでも考えちゃうんだよね~~……」


 そう言って苦笑する彼の顔色が、確かにいつもより優れない気がする。

「あの、アサガオくん、もしかして目の下……」


「そう! 2匹の茶色いクマさんが出現してるよね~~…。自分で自分のことは眠らせられなくって……。でも、僕の睡眠不足なんて、たいしたことないから」


 そう言いながらアサガオくんは、わしづかみの手の形を作って。「がおー」とクマの真似をしている。イケメンだからって、何でも許されると思わないで欲しい。許すけど。


 それより……どうして今まで気付かなかったんだろう。

 彼を見ながら、急に不安に囚われ、胸の辺りが冷えてくる。


(……そっか。「この可能性」は考えてなかったな……)


 万が一、アサガオくんが深刻に眠れなくなり、体調不良になって、ひどい風邪でもひいて【あの声】が出なくなったら……どうしよう。

 そうしたら私は再び、あの重度の不眠生活に逆戻り……? それは、やだよ……。


 普通に高校に通ってさ、たとえ、あの家に独りぼっちでも……それでも夜にちゃんと寝て、朝に起きる生活をしたいんだよ。

 一人でも頑張るから、これ以上、私から「普通」を奪わないでよ……。


 周りの人たちを、また心配させるのも、本当にもう嫌だ……。 

 不眠生活の再来なんて、絶対に避けたい。


 そうだ。そうならないように、アサガオくんの【眠れなくなる謎】を解き明かす手伝いができればいい……のかな。


 つまり、私は――【あの声】を継続して安定的に得たいから、アサガオくんの健康を望むのだ。

 まるで、いつまでもお年玉が欲しいから、ジジババに長生きして欲しい孫みたいに。


 要するに、自分のため。利己的。自己中心的。

 でもさ、人間ってみんな多少は……そうなんじゃないのかな?


 一度ひどい体験をしたからこそ、安心とか安全を二度と手放さないために、必死になっちゃうこともあるんじゃないかな……。


 そんなことを考えながら、心をザラつかせながら、ちらちらとアサガオくんの様子を観察していた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ