表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサガオくんと、眠れなくなる謎  作者: 隙名こと
序章 ~限界な私と、ゆるゆるのアサガオくん~
2/11

0-2 直線で結べる因果関係

 

 ……で、だ。

 彼からの返信は、待つまでもなく速かった。

 

-------------------------------------------------

は~い、とーっても緊急のようですね~。

まずは、ファミレスかどこか、他の人も

いる場所でお会いしてみましょ~う。


ファミレスで熟睡しちゃうかもなので、

お店のご迷惑にならないように

なるべく空いてる時間帯にしましょう~。

可能であれば、枕もご持参ください~~~。

--------------------------------------------------


 この人は「~」を多用しないと、死ぬ病気なのか。


 そんな、ゆるゆる~の返事。

 優しげなのか、いい加減なのか、判断に迷ってしまう。


(というか「ファミレスで熟睡」って、どういう意味……?)

 

 ご飯を食べて満腹になったら眠れるような、そんなヤワな不眠じゃない。

 私の不眠は、なんちゃって不眠じゃなく、ガチのガチの不眠だ。


 もし仮に、お店でこっそり、飲み物に薬を入れられたとしても……私にはさほど効かないだろう。そこんじょそこらの薬やサプリは、あれこれ飲んで、お試し済みだ!

 誇れることじゃないけど。


 そんな私に、さらに追加で送信されてきたのは、スタンプのような画像。


 可愛い動物のイラストに「よろしくです~」と文字が添えられている。

 体が黒と白のツートンカラーのその動物は、昔テレビで見たことがあった。


(マレーバクだ。バクって確か、悪夢を食べるんだっけ……)


 可愛らしい動物のイラストは、こんな状況でも心を和ませてくれる。

 また、向こうから「ファミレス」を提案されたことは、ほんの少しだけ気をラクにしてくれた。「事務所に来て」とかは怖すぎて最悪だもんね。


 あと「枕もご持参」は、使ってる寝具をチェックしたいってことかな。何か売りつけたいとか? これは無視しよ。


(とにかく――警戒心は手放すものか。油断は禁物)


 そんなことを思いつつ、慎重に待ち合わせ場所と日時を決めた。

 で。その日時が――本日。あと1時間後のこと。

 だからそろそろ、家を出て出発しないと。


 不安感が、無いわけじゃない。

 見かけたレビューも、手の込んだ偽装かもしれないし。


 いつだって世の中は、最悪すぎるニュースに溢れている。

 犯人の男が、SNSでターゲットを物色し、出会った女子学生を惨殺する事件もあった。明日は我が身だ……。いや「今日」会うんだけど! ああ、護身用のスタンガンでも用意しときゃ良かったかな。


 でも………………まぁ、いっか。

 そう。別に、どうでもいいよ。もし無事に帰ってこれなかったとしても。

 

 3LDKのファミリー向けのマンションの一室。

 床にうっすら埃が溜まり、少し荒れたリビングに佇んで、思う。


(だってもう、この家で……私の帰りを待ってる人は、存在しない)

 

「おはよう」「おやすみ」「いってらっしゃい」「おかえり」「ご飯できたよ~!」「早く寝なさーい!」などを、私に言ってくれる人たちは――あの日から、いなくなってしまった。


 原因は、父の()()()()()。同乗していた母も犠牲に。

 そして私は、眠れなくなった。

 分かりやす過ぎる、直線で結べる因果関係。


 そりゃーもう、どうしようもないね。眠れなくもなるよ!

 深夜の単独事故で、他に誰も巻き込まなかったことだけは救い。

 

 悲しみの記憶さえ、眠気に覆われぼんやり霧がかってるけど……。



 ――そういえば。

 眠れなくて読み漁った本の中に、海外のことわざがあった。

 日本では「溺れる者はわらをも掴む」だけど、ユダヤのことわざでは「溺れる者は刀をも掴んでしがみつく」だそうだ。掴めば掴むほど、血が流れる。傷つけられる。追い詰められた人間の末路は、残酷だな、と。


 ……私も今、限界まで追い詰められている。

 あと一押しで、この世にまるごと諦めがつきそうなぐらいに。


 最後まで足掻あがくけど、この手にあるのは、藁? 刀?

 まあ、どうだっていいか。


「自暴自棄」は、痛い目に遭う「自業自得www」と繋がっているかもしれない。

「怪しげな男性にすがって、会いに行く」なんて、きっと愚かなこと。


 だけど、とにかく眠りたいんだ。しっかり眠らないと、何も始まらない。


 ――さて。ヤケ気味の覚悟はできて、身支度も終わった。

 手で掴んだトートバッグの中にあるのは、藁でも刀でもなくて、家の鍵と財布とスマホ。


 それだけ持って……私は『アサガオくん』に会いに行ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ