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無知少年は生きのびたい  作者: ゆきつき
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第一話

よろしくお願いします

 再来週から期末テストとかいう地獄が待っている。うちの学校は絶妙なラインで進学校に認定されてしまうので無駄に意識が高く、部活も休み(自主練は認められるが、1週間前になるとアウト)、なんなら帰宅部は勉強してから帰るように、とかいう悪い風習がある。

 なんだよふざけてるのか?なんで先生側が『帰宅部は部活を休みにしたら学校から帰れなくなるからね』とか言うんだよ。そういうのは生徒の悪ノリがあるからこそ笑えるのであって、そっちが言って来たら、それはもうただただうざい奴だよ。


 とまあ、そういう訳で、珍しく学校に残って勉強をして、帰宅部の自主練が始まったのだが、そこで事件は起きた。


「やっべ。財布忘れた」


 正直、財布の中身は大したこと無い。どれぐらい入っていたかは憶えてないけども、入っていても2000円だ。そもそも学校用に少額しか入れてないし。

 でもね。それでもね。バイトも碌にしていない学生は、その2000円が大きい。


「でも、なーんで財布を忘れるかな」


 学校に持って行ってる財布は、購買でパンを買うか自販機で飲み物を買う以外で使う時がない。にも関わらず財布がない。

 盗まれたか?って思いたいけど、めちゃくちゃ思い当たりがある。


「自主勉の時だな、ありゃ」


 普段ポケットに財布を入れてるが、何故だかそこから取り出した。いや何故だか、じゃあないな。帰りにどっか寄れないかな、なんて考え事をしていたからだ。滅茶苦茶自主勉をサボって、帰り道の事を考えていた。うーん帰宅部の鑑。


 とまあ、なんとなく場所がわかったので、帰宅部として恥ずべき事だが、学校に引き返す。






「そういう訳なんで、鍵を貸してください」

「どういう訳かわからんが、ほらよ。帰る時はちゃんと持って来いよ」

「ありがとうございます」


 無駄にマスターキーをゲットした。俺らの担任は無駄にノリが良いというか、そういうところがある。


「ああそれとな。お前のクラスだけまだ鍵が帰って来てないんだわ。様子を見てきてくれ。誰か残ってるならさっさと帰るように言っといてくれ」

「それって俺の仕事じゃないですよね」

「じゃあ頼んだぞ」


 無駄に仕事が増えた。俺らの担任は無駄にノリが良いというか、そういうところがある。


 ま、嫌だけど。嫌だけど、様子見だけならいいや。最悪人が居ても、大抵の人は話が分かる側なんで、まあ俺みたいな人間の話でも聞いてくれる。あ、自語りとかじゃなくてね?説明したらちゃんとわかってくれるって話。


「とりあえず財布が先だな」


 自主勉(先生が10人前後を教える)をした教室に向かう。そこにあると良いんだが。





 いやー、よかったよかった。中身もすられてなかったし。よかったよかった。


「で、問題の教室なんだけど」


 いやー。明らかに笑い声とかが聞こえてくる。びっくりするぐらい。

 しかもこれ、陽キャ軍団だよね。授業とか休憩時間によく聞く笑い声が聞こえてくるんだもん。笑い声だけで判断できちまうよ。笑い声で判断できる俺は笑い声マイスターになれそう。……。はぁ。

 はぁ、嫌だ嫌だ。嫌だけども、職員室に鍵を返しに行かないといけないので、仕事をしなかったらそれがバレてしまう。だからちゃんとやる。


「でさでさ。ケイ君センパイ、浮気バレたらしいんだよね」

「うっわぁ、最低すぎるんだけど」


 ものすっごい話の内容に興味があるが、残念ながら盗み聞きを続ける勇気が無かった。


「申し訳ないですが、そろそろ教室を閉める時間なんで」

「ん?なんでテッキ―が言いに来たんだ?」

「訳あって先生に頼まれた」

「なるほど、あのせんせーなら他人に任せるわ」

「じゃ、続きはサイゼで」

「り」


 よかったよかった。変に絡まれなくて。


「じゃ、鍵よろしくー」

「……、え?」


 いやあの俺はあくまで伝言を伝えに来ただけなんですけど。なんか面倒ごと押し付けられてない?あ、いや、どうせ俺は鍵を返しに行かないといけないから手間なんて何一つ増えてないのか。


「とりあえず、忘れ物がないか確認しとくか」


 ついさっき財布を忘れてたので、なんか別のモノも忘れてそう。自分の記憶力を信用できないのでちゃんと確認しよう。

 ついでに教科書置いていこ。あんな重たい物、邪魔でしかない。


「ん?なんか暗くなった?」


 まだそんな時間じゃなかったと思うし、なんならそんな急に暗くなる事ないだろ。


「ま、なんか雷雲とかでも通りがかったんだろ。傘とか持ってないし、さっさと帰ろ」


 急いで教室をあとにする。


「……。ん?」


 後ろを振り返る。


「……、ん???」


 何が何だかわからないが、とりあえず深呼吸する。


「すーはー。いやいやいや、え?」


 ちなみに俺はパニックに陥ると独り言が増えて、現実から目を背ける。

 おかげでよくテスト前は漫画を読んでしまう。あと無駄に『いやありえないだろ!』みたいな独り言も増える。フィクション相手にありえないなんて通用しないのに、無駄に突っ込みを入れたくなってしまう。

 さて。現実逃避を挟んだところで、


「どこここー!」


 見渡す限りの平原。太陽がほぼ真上にあるが、遮るものが何もないので直射日光がキツイ。

 早いところ日陰に行きたい。引きこもりに太陽の光を長時間浴び続けるというのは、吸血鬼にニンニクをあげるレベルの嫌がらせだ。

 あと人も探したい。何があったのかわからないからこそ、最低限の情報が欲しい。それこそ、言葉が通じるのかどうかから。


「まあ日本じゃあないだろうし、言葉が通じるとは思わないけど」


 俺が知らないだけの可能性もあるが、日本にこんな場所があるとは思わない。

 あと普通に太陽の場所がおかしい。さっきまで夕暮れ時だったはずが、今は真昼。最低でも3時間ぐらいの差がある。流石に北海道と沖縄の時差よりも離れてるから、日本以外のどこかに飛ばされたのか、はたまたタイムスリップしたのか。


「にしても、一体全体どうなってんだよ」


 何が何だかわからないけど、更にわからないのは、自分のこの冷静さだ。パニックすぎて、逆に冷静になってる感、ありますね。自分の冷静さ、わかりました。


「あ、そうだ。スマホの確認」


 ここが日本だったとしても、こんな何もない平原だと電波なんて届いてないと思うけど。まあ色々と確かめられるし。


「とと、やっぱり電波は立ってない。電話は、……、やっぱりパニックに陥ってるな、俺は。電話帳に誰も登録してないなんて当然の事を忘れるなんて」


 つまり、スマホはちょっと重たいゴミになったと。


「あ。充電が切れた」


 愚痴ったからって、そんな充電が切れなくてもいいじゃないか。まるでスマホに意思があるかのようなナイスタイミングだったよ今の。


「っと、なんか丘の上になにか見えるぞ」


 今まで何もなかったので、なにか見えるだけでかなり嬉しい。








「しんど、あああああああああしんど!」


 かれこれ30分以上この坂道を歩いているのではなかろうか。ようやく頂上、なにかある場所に到着しそうです。


「ん?なんだこりゃ。ボロボロの、ログハウス?まあ休憩できるなら何でも良いや」


 まあね。俺は現代っ子のもやしっ子だけどね。そんなに贅沢は言いませんよ、ええ。虫がいなければいいですよ、ええ。あと雨漏れしてないのと、風をしのげるのと、できればベッドよりお布団の方が良いですね、ええ。


「誰だ」

「!?」


 このおんぼろ小屋から人が出てきた。斧を持って。

 見た目は、こう、皆が想像するような木こりの見た目から、清潔さと渋さを追加して、筋肉を引いた感じ。それはもう木こりから程遠い気もするが、こう、ひげの感じと言い、持ってる物と言い、服装と言い、それらの要素が木こり感満載だったからそれで例えた。


「見たところ、この辺りの人間じゃなさそうだな」


 あ、あ、あ。

 何を言っているのかは理解できる、できるぞ!

 でも別の問題が発生した。理解できてしまったせいで、逆に現状をどう切り抜ければ良いのかわからない。

 相手は凶器を持って、若干威圧してくる人。対する俺は凶器と呼べる物はスマホぐらいの子猫レベルでプルプル震えてる。


 頭を回せ。俺の足りない頭を使って、現状を切り抜ける方法を考えろッ!


「なんだ、言葉が通じないのか?まいったな、国際問題とかは御免だぞ」


 ヤバいよ、なんか物騒な事言ってるよ!

 考えろ、今までの知恵すべて振り絞って考えろ。

 逃げるのは不味い。そもそも逃げるというのは、何かしら逃げないといけない理由があるという事になる。でも現状だけで考えれば十分逃げてもいい気がするが、そもそも体力がほぼ空っぽの状況での追いかけっこ。全く自信がない。

 交戦も、100億%ない。何がなんだかわかっていないが、天地がひっくりかえったとしても、俺の喧嘩経験は変わらない。タコ殴りにされるのがオチだ。俺がガチギレしても、記憶を無くして血の池の真ん中に倒れてるのはけんか相手じゃなくて自分自身だろう。戦っても勝てるはずがない。


 残るは交渉。これしかない。

 これしかないのだが、一体どう交渉すれば良いのかわかるはずもない。なんてったって、社会人でも無ければ、国語すらまともに勉強してない人間の交渉術なんてクソだ。そんなクソな交渉なんてしたところで、うまくいくはずがない。

 なら、命乞いならどうだろう。そもそも交渉は、こっちも何かしらの対価が無ければ成り立たない。ならもう残るのはお願いだけだ。


「あなた、様は、強い人ですよね?」

「お、なんだ。ちゃんと言葉が通じてるじゃねえか」


 相手の機嫌を損ねる事なく、尚且つ俺の願いを伝える。


「何を言っているのかわからないと思う、のですが、気が付いたらここにいて、多分ワープとかそんな感じの、瞬間移動みたいなあれで、とにかく今まで居た場所とは遠く離れた場所にいて、ここがどこかもわからないんです。なので助けて欲しいんです。あー、具体的に何をどう助けて欲しいのかわからないレベルで分かってないので、とにかく助けて欲しいんです」


 自分でもびっくりするぐらいぐちゃぐちゃな文章だったけど、とりあえず伝えたい事は伝えられたはずだ。


「うーむ。要は、生き残りたいって事か?」

「!! そうですその通り」

「なるほどな」


 絶妙な空気が漂う。


「そうだな。じゃ、こっちの質問に答えてもらおうか。じゃないと人となりがわからねえからな。どう見ても迷子のガキだが、盗賊って可能性もなくはないからな」


 かなり疑われている事と、盗賊が当たり前のようにいるという事が判明した。いや、後者は恐らくそうだろう、って話だけども。それでも盗賊がいるような場所で、30分以上もうろちょろしてたけどポップしなかったのは普通に幸運なのでは?


「と、スラキチ、『待て』だ。そいつは()()お客だぞ」

「!!」


 ものすごくびっくりした。

 音もなく、気が付けば半透明のスライムのような性質を持つソレはいた。

 こいつが一体何をするのかできるのか判断できないが、今までで一番命を危機を感じた。なにかわからない得体のしれない物が音もなく忍び寄る。滅茶苦茶怖い。


「と、失礼した。で、質問だが、どうして俺が強いと思った?」


 ……。


「色々と理由はある、ありますが、一番はこんな何もない場所に一人で住んでいるから、ですかね。このような得体のしれない生き物が闊歩するような環境で、他人と協力することなく一人で生きていけるという事は、いろんな意味で力がある人間である証明になるはずです。あとは、見た目、ですかね?」

「がははは!良いね、真面目さとイカレ具合、その両方がわかるイイ答えだ」


 ど、どうやらお気に召す回答ができたらしい。


「だが、隠し事はいただけない。その答えだけじゃないだろ。それも、ちゃんと隠したい話とみた。ん?話せないのか?」


 これは、ちゃんと答えるべきかな?でもあれは流石に不味い気がするんだよ。

 いや、俺は死にたくないから、ちゃんと答えるべきだな。誠実さをアピールするためにも。まあ不誠実のアピールになりかねないけど。


「あとは、機嫌を取るためです。たとえどんな人間でも、褒められると気分がよくなる。豚も煽てりゃ木に登るって言葉もあるぐらい、とりあえず褒めておけばいいと思いました」

「ぶ、ぶははははは!ああ、最高だ、お前、最高だ!普通、そう言った本音は隠すもんだが、お前はすべて語った。最高にイカれてる。そんで、生への執着の強さ。はは、ああ、すまねえ、まだ笑いが、がはははは」


 どうやら、お眼鏡に適ったようだ。


「ようし、わかった。約束しよう。この俺、アルファが、お前の安全を保障すると。で、お前の名は」

官能荻也かんのう てきや。よろしくおねがいします」

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