期待しても無駄じゃったか。
師匠視点です。
堪忍袋の尾が切れてしまい、愛弟子たちを追い出してしまった。
いや、前々から旅に出させようと思っておった。だけれど成人してもなお行かせていなかった。
会えばすぐ喧嘩をするような二人じゃ。外に出したら街が一つ滅ぶ。
修行の一貫でドラゴン討伐をさせたことがあるが、ドラゴン倒した後、二人はどっちが足を引っ張ったとかで喧嘩をして、山が半分無くなったことがある。
その山は鉄鉱石が取れる王国所有の山だったので、依頼で受けたのに逆に慰謝料を払うことになってしまったわい。本当にバカ弟子たちは病気だ。
それもお互いの対抗心からなのだろうが、やはり一番の原因は成長期や反抗期からなのだろう。
ブレイドはわしから見てもメイベルに恋心を持っているだろう。
だが、どう接すれば良いかわからず、ちょっかいを出している。
好きな子にちょっかいを出してしまう男の子ってやつなのだろうな。
だが、それが喧嘩から本気の喧嘩になるのはおかしい。
なんでこう育ってしまったのだか……わしの教育が悪かったのだな。
ひどいことをしたと思った。
わしもあの時のことを考えたらやりすぎだと思った。
だが、何年も住んでいる家を壊してまで喧嘩したバカ弟子たちが悪いと思う。
怒りに任せ、呪印魔法を使ってまで喧嘩を止めさせ、反省させるために旅立たせた。二人の喧嘩によって送られてきた請求書を持たせて。
どうなるかと二人への心配、自分への後悔しながらも見守ることにした。
だが、結果は出た。
呪印魔法はかけた術者にしか解けない。
また、発動したら術者にもわかるようになっている。
旅立って一月で一度発動したが、それ以降は一度も発動しなかった。
わしは歓喜した。
あの二人が喧嘩をしていないと。
だから、弟子たちの成長を見たい、人として成長を促すため、手紙を一通送った。
《魔剣武闘大会》に出場するように。
二人組の大会だ。
その大会は歴史が深く、わしが幼い頃からあった。トーナメントを勝ち上がるには二人の意気のあったコンビネーションをしなければいけない。
この大会に出れば勉強になるだろう。
そんな期待を込めてやったことなのだが。
わしは2人に甘すぎた。
浮かれていて失念していた。
バカ弟子たちの病気の重症性について。
「期待したワシが愚かであった」
大会当日。歴史ある大会のため、観客は多い。ワシはお忍びで会場にいた。
どんな戦いを見せてくれるのだろうと思っていたが、蓋を開けてみれば、あーやっぱりかと思ってしまう。
表面上の喧嘩はやっていない。だが、バカ弟子たちがやっていることは喧嘩と変わらない。
きっかけはブレイドが相手に放った斬撃が偶々メイベルに飛んでしまったのが原因だろう。
ブレイドに悪気はなくても、受け取り方はメイベル次第。
わざとだと思い、それから始まったのだ。
戦闘中、自分の戦闘に支障出ない程度に魔法や斬撃を飛ばし合うという、なんとも反応し難いことを。
目の前の相手の対処をしながら、喧嘩相手の動きを意識、お互いタイミングを見て妨害し合う。
相手も相応の実力者にも関わらず、それをする余裕がある。
バカ弟子たちは2人は毎日喧嘩と言う名の実戦を続けたことにより、技が洗練されていった。
「……だが、次で負けるのぉ」
順調に勝ち進んでも歴史ある大会、そんな簡単に勝ち進めるわけがない。
この大会の勝敗の行方は相方とのコンビネーションに左右される。
相方を蹴落とそうと嫌がらせをし合っている時点で勝てるほど甘くはないのだ。
男2人大柄と小柄のペア。見た目は悪く口調も悪い。どこか盗賊らしい装備をしている。だが、相当実戦からはしているようで、相手の弱点をつくのがうまい。
大型の方は大楯に大きな大剣、小柄の方は片手に魔導杖に短剣。
前者は圧倒的な防御力と一発の攻撃力が高く、後者は他を寄せ付けない速さを軸に相手の妨害と牽制をする。
まさに理想の関係じゃろう。
次の相手はお互いの長所を伸ばして短所を補う理想、バカ弟子たちに欠落している要素。
「……いい勉強になるじゃろうな」
もともとそれが目的だ。
あとは、敗北知ってもらうため。
ブレイドとメイベルは身内以外に負けたことがない。
そのため負けたことで己の糧にできるかもしれないと思った。
2人に驕りはない一切ない。だが、今回は勝てない。敗北により、学べることも多いはずじゃしな。
『おい!役割果たせよ!』
『あなたがわるいんでしょ!』
結果は予想通りであった。
バカ弟子たちは対戦相手に翻弄されていた。
ブレイドの得意の気を使った戦法は通じない。
大型の戦士には攻め込んでも盾で全て避けられ、その隙をついて小柄の男に一撃離脱で妨害される。
ブレイドは一対多の戦闘に慣れていないため、攻撃する暇なく追い詰められる。
メイベルは魔法を放つも、攻撃は大柄の男には盾で防がれ、小柄の男にはそもそも早すぎて当たらない。
小柄の男の魔法杖による牽制もあり威力のある魔法を放とうとするも、それをさせてくれない。
そもそも早すぎて魔法が当たらない。
大柄の男の振るう大剣の一撃は重く早い。
常に警戒をしながらも、小柄の男の対処もしないといけない。
ブレイドもメイベルも防戦一方じゃ。
「まぁ、それだけではないがの」
『どうした?その程度か?……さっきまでの威勢はどうした腰抜け』
小柄の男は物理だけでなく口撃でブレイドとメイベルを煽り、怒らせる。そのせいで二人とも冷静な判断ができず実力を発揮できない悪循環。
いい勉強になったじゃろう。
もう後は二人の負けを見届ける。師匠として、見届ける義務がある。
ブレイドとメイベルの二人はすでに一箇所に追い詰められ、肩で息をしていた。
相手の方が格上じゃな。
もう……勝負有りじゃ。
そう結論づけ、どこまで足掻けるか見ていると。
『お前ら弱すぎぃ。どうせ才能任せで大した修行してないんだろ?宝の持ち腐れだな!お前ら大したことないし、どうせ親も大した奴じゃないんだろぉ?』
『ちげぇねぇ。親の教育が悪いからお前らのような才能の芽が潰れるんだよなぁ』
相手優勢であったのに流れが変わったのは小柄の男と大柄の男が言った言葉。
『『………は?』』
小柄の男の煽り言葉によってメイベルは魔力を、ブレイドは闘気を周囲に放出していた。
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