皆に届いて欲しい
一回目のお披露目が無事に終わった。
待合室に戻っていると師匠から背中を杖でトンと押された。
「よー、さっきのなんだよ。ヘンリーが言ったやつ。魔女や魔法使いがどうのこうのって。ロゼッタ知ってたのか?」
「はい、師匠。陛下と話をした時に言われました。魔女や、魔法使いを争いに行かせないって文だったんですけど、私達が望んだ時は戦う一文を付け加えて貰いました。誰が相手でもボコボコにしますよ。師匠にも連絡来ている筈ですよ?」
歩きながら話すと、振り向いた時に師匠からゴツンと杖で頭を叩かれた。
痛い。
「百年早えよ。まあ、いいか。もう、書いちまった物はしょうがない。お前らはいいのか?連絡来たか?」
「うんいいよ、僕らに悪い事は無いからね。陛下から魔鳩届いたよ。ホグマイヤー様にも来てたんじゃない?僕らも必要ならボコボコだよ。ねーゼン?」
ベンさんが言うと皆が頷かれる。
「あれ?じゃあ、私の所にも来てたのか?海に行ったり、ウロウロしてたからな。まあ、お前らがいいなら、いいか。若い奴の好きにさせるか、年寄りは責任だけとるさ」
「ホグマイヤー様、陛下からの魔鳩が届いた時に、いいぞ、と言ってましたよ。私が陛下に報告しますか?と聞いたら、おー、と言われましたが。責任なら私も一緒に取りますよ。パパは年寄り仲間に入れて貰いましょう」
クリスさんが優しく笑って師匠に言うと、師匠は、ジジイとババアの使い所だな、とカラカラ笑われた。
待合室に着くと、師匠が、「ロゼッタ、茶」と言った。
「皆さん果物入りのお茶で良いですか?」
私はウェルちゃんに水を出して貰って、魔法陣でお茶を作る。
「あー、それいいね。今度僕もしてみよう、ロゼッタちゃん、どうしてるの?」
ベンさんが魔法陣をのぞき込んで聞いてきた。
「いいでしょう?魔法陣は小さく少しだけ魔力を溢れさせ、底に火魔法と土魔法を合わせる感じです。風を合わせたら大変な事になりましたから止めた方が良いですよ。ゆっくり温まっていいですよ。出来上がったら、火魔法だけ止めれば暫く暖かいですし」
「成程ねー。コレ、水魔法と土や風を混ぜたら夏なんかいいんじゃない?きっと涼しいよね」
「ああ、今度試してみます。今は止めた方がいいですよね?応用も色々出来そうですね」
ベンさんと話していると水が辺り一面にまき散らされた。
「・・・・・ごめん・・・・・」
「ヒヒヒ。ほら、乾かせ」
師匠がゼンさんを風魔法で乾かした。
「いいね、なんだか皆が家族みたいだよ。ロゼッタさん。魔女や魔法使いは仲間だ。一つの家族と一緒だよ。これからもなんでも言ってきて欲しい。パパって呼んでいいからね」
クリスさんが言うと師匠が杖をクリスさんにふるった。
「っち。避けるなよ。クリスはなかなか瘤が出来んな。お前は立派なジジイだろ、まあ、お前らが仲良いのはいいな。ガキは皆仲良く遊べ」
「・・・・・・・」
「ロゼッタちゃん、美味しいチョコケーキのお店を教えてよ、今度美味しいタルトのお店に一緒に行こう」
「いいですね。行きましょう。ランさんは誘っても来ないかな。ゼンさんはどうですか?チョコケーキのお店は大通り沿いのお店なのですぐに分かりますよ。今日はお店、開いてますかね?ウェルちゃんで注文出来たら便利ですよねえ」
こくりとゼンさんは頷き、フォルちゃんを撫でていた。
「じゃあ、ゼンと三人で行こうよ。ランちゃんも一緒なら楽しいね。転移出来ないの?僕らの魔力を練れるのに?不思議だねえ」
「そうだ。お前、早く転移を覚えろ。へんな所で不器用だな」
煙草に火を点けながら師匠は杖を振り回す。危ないのでやめて欲しい。
「お金のかかる契約者さんからもアホロゼッタって呼ばれてますよ、失礼ですよね。師匠、今度新しい本何か下さい。勉強代が高くついてるんですよ」
皆が自由に話していると、二回目のお披露目に呼ばれた。
「ヒヒヒ。さあ、野郎ども。皆の目に焼き付けてやろうなア。王都と言わず、隣国迄届くような物をしてやろう。ぶっ放すぞ」
「そうでした。もう一つお披露目でした。師匠、王宮、壊さないで下さいね?」
「・・・・頑張る・・・・」
ゼンさんが師匠の言葉に頷き、クリスさんが口を挟む。
「ゼン、頑張りすぎないようにね。竜巻は止めたほうがいい。吹っ飛んだら大惨事だ」
「私は何をするかなア。土と光にするか。ロゼッタ、お前は闇でいけ」
「はい、師匠」
「楽しいね。ホグマイヤー様。こうやって皆で集まるのもいいね。これから、ちょくちょく薬局に顔をだそう。今日のパーティもわくわくするね」
ベンさんが嬉しそうに話しゼンさんが頷く。
「・・・・・・・」
「お。ゼンもか。じゃあ、私もたまには顔を出しに行くよ。パパは仲間外れは寂しいからね」
勝手にしろ、と師匠は言ってたけど、嬉しそうだった。皆でわいわい話しているとバルコニーの前に着いた。緊張感なんて誰も持ってない。バルコニーに出るのは魔女と魔法使い達だけだ。
私達が来る前に、国王陛下と司教はバルコニーで話を終えている。
待つのが面倒な師匠が、「ギリギリで呼べ」と言い、私達が到着すると、王室の方と教会の方がバルコニーから室内に入られて私達を待っていた。
「じゃあ、行くか。まずはクリス。ベン、ゼン、私、ロゼッタの順だ。良いな」
ニコリとクリスさんが私の方を向かれ微笑まれた。
「ロゼッタさん、君は不思議な人だね。君は人を結ばせる事が出来るのかな。惹きつけられるとは少し違う。でもとても魅力的だ、君の名付け親になれて光栄だよ」
クリスさんはそう言い、私の頭を優しく触るとバルコニーに出て行った。
凄い歓声が聞こえる。風魔法で拡大したクリスさんの声が響く。
「灰茶の魔法使いは宵闇の魔女の名付け親となった。ここに祝福を授ける。慈愛の雨、大地を潤せ。国を富ませよ」
ベンさんが私の手に可愛い包みにくるまれた飴玉を握らせた。
「ロゼッタちゃん、クリスが言ったのは僕も思う。きっと君は特別だよ。ホグマイヤー様と似ているね。僕には分かる。だって君の保護者だから」
ベンさんは、私にウインクをしてバルコニーに出た。
「白群の魔法使いは宵闇の魔女を保護する者。ここに祝福を授ける。災いを退け、苦難を燃やせ。国を守れ」
ゼンさんは私の方を向き、フードを外して頷いた。
「・・・・・・・・」
ゼンさんは私の頭を撫でると頬をぷにぷにと触り、もう一度頷きバルコニーに出た。
「・・・暗緑の魔法使いは・・・宵闇の魔女の兄となる・・・ここに祝福を授ける・・・癒せ風よ、恵みを与えろ。国に愛を」
「ヒヒヒ。いいねエ。ロゼッタ。お前は魅力的だってよ。特別だってよ。なんでだ?分かるか?まあ、まだ分からんだろうなア。ああ、私の弟子だからじゃないぞ。私が凄いのは当たり前だ」
うむ、と頷き、師匠がバルコニーに出て行く。
「白金の魔女は宵闇の魔女の師。我が娘に祝福を授ける。道を照らせ、大地よ芽吹け。国よ輝け」
私は深呼吸を一つすると、バルコニーに出た。私が出て行くと一際歓声が大きくなった。
「宵闇の魔女は白金の魔女の娘にして灰茶の魔法使いを親に持つ。白群の魔法使いの保護を受け、暗緑の魔法使いを兄に持つ。皆に祝福を授ける。闇を恐れるな、優しく包み込め。国に祝福を」
一斉に皆が杖を振り、巨大な魔法陣を出す。私も特大の魔法陣を出し、使い魔の三匹も力を合わせ辺りに思い思いの魔法を飛ばす。きっとランさんも見てくれてる。
皆に届いて欲しい。
皆が杖を上げ、一斉に魔法を出すと、西の空に火の花が咲いた。燃えるタイムの花が綺麗に咲いている。東の空に水のアル、フォル、ウェルが踊り、虹色に輝いていた。南の空に色のついた緑色の風が彩った。優しくゆっくりとツタが空を彩り南の空に伸びていく。北の空は色とりどりの大輪の花が咲き乱れ、光の花弁がひらひらと空から降ってきた。私は青空をゆっくりと魔力で覆い、紺色にしていき、空を揺らした。空は徐々に暗くなり、辺りを夜にし光を降らせた。私の魔力はキラキラして綺麗だと言ってくれたから。
魔法が空を彩った瞬間は辺りが一瞬静かになった。でも、次の瞬間、空気を震わす歓声がバルコニー迄届いた。
暫くすると、魔法は消え、私はバルコニーの前に出て礼をすると、皆でもう一度礼をし、お披露目を終えた。
歓声は私達がバルコニーからいなくなっても暫く続き、このお披露目は今までで一番だったと、近隣諸国でも話題になった。