お披露目前夜の魔法使い達 2
「これです。三つ程書かれていました。紫紺、青藍、金青です。目を瞑って指さして決めようかと思ってました」
私が国王陛下からの手紙を見せると師匠はふむ、と頷いた。
「凝った名前ばかりだな。青か紺でいいじゃないか。どれも、悪くはないがなア、金青は止めとけ。金が入っている。あれ?ロゼッタの髪の色、変わったな」
「師匠、気づくの遅いですよ。そして手紙でも知らせましたよ。師匠のせいですよ。悪りいって返事も貰いましたよ。それも忘れてましたね?」
私がジロリと師匠を見ると、師匠はお菓子をパクリと食べ、ケラケラ笑った。
「そうだったなア。でも、金が混じったか。お前はやっぱり面白いなア、まあとにかく金青は駄目だな」
クリスさんも頷く。
「君の瞳の色が入っている。止めた方がいい。紫紺か青藍、光の当たり方で髪は色が変わる。どちらでも悪くはない。でも、二色は魔女も魔法使いでも聞いた事はないな」
顎に手をあて考えられたクリスさんを見て、ベンさんがお菓子を食べながら頷く。
「でもホグマイヤー様のお弟子さんだし、珍しくてもいいんじゃない?ロゼッタちゃん、似合ってるよ。クリスさんは名はご自身で決められたんだよね?陛下からの候補は何だったの?僕は師匠が決めてくれたけど」
「そうだな。考えても仕方がないか。私の師匠はお披露目の前に亡くなってしまったからね。陛下は若かったから、先代が案を出されたが胡桃、茶、薄茶だったんだよ。胡桃は無いだろ。薄茶も嫌だ。茶だけでは寂しい。だから灰茶にしたんだよ。私の師匠が灰青の魔法使いだったからな。師匠の名から一字貰ったんだ」
「成程ね。うーん、どれがいいかなあ」
ベンさんが腕を組み考え出した所で、アルちゃんが影から出てきて私の肩に乗った。
「あ、早いですね。玉ねぎ屋の注文届いたみたいです。取りに行ってきますね」
アルちゃんがマツさんが来たのを教えてくれたので、皆に声を掛けソファーから立ち上がった。
「どれ、手伝うよ」
クリスさんも立ち上がり、私の後に続く。ドアベルが鳴り、ロゼッタちゃーん、と声が聞こえた。
「マツさん、今開けます」
私が店のドアを開けマツさんから料理を受け取ろうとすると、私の後ろからクリスさんが出てきて料理を受け取ってくれた。マツさんがクリスさんを見て驚いて、「まあまあ、あららら」と、言いながら深々と礼をした。
「可愛いロゼッタさんの先輩だ。若い魔女さんをこれからも頼むよ」
クリスさんは玉ねぎ屋のマツさんに言うと、マツさんはにっこり笑って礼をして帰って行った。マツさんはお金を貰うのを忘れて帰って行ったので、私はフォルちゃんに急いでお金を届けて貰った。
食事とお酒の瓶を持って私達が工房に戻ろうとすると、外はすっかり夜になり裏戸の窓から覗く景色も薄暗くなっていた。
「日が落ちるのが早くなった。もう、すぐに暗くなる」
クリスさんは窓の景色を見て呟くと工房に入って行った。
「おお、美味そうだな。食おう。ロゼッタ」
「はい、師匠」
私は皆の分のお皿とスプーンを出し、スープを皆のお皿によそっているとクリスさんがスープを受け取り、私をじっと見た。
「うん、ロゼッタさん。一つ思い浮かんだよ。君の魔女名」
ベンさんはスープとパンを口に入れるとクリスさんを見た。
「へえ。ロゼッタちゃんの?僕は紫紺が好きだけどな。響きが綺麗だよね。ホグマイヤー様は?」
「私はなんでもいいさ。好きにすればいい。クリス、なんだ?」
「うん。宵闇はどうだろう。君の髪は金が混じってるからね。でも、金は使いたくない。宵闇は闇夜じゃない、丁度さっき窓から見えた色だよ。きっと時々、月や星が見える日もあるはずだよ。君の髪のようにね」
私はクリスさんにむかって顔を赤くして頷いた。
「うわあ、いいですね。でも、素敵でちょっと恥ずかしいかな、名前負けしません?それに色の名が入ってないですが?」
師匠は煙草に火を点けて頷いた。
「ロゼッタ、闇魔法が得意だしな、いいんじゃないか?色を表せれば名は大丈夫だ。木蘭の魔女が昔他国にいた。クリスも胡桃になりそうだったしな。うん、クリスが付けた名前の方がいいな。ロゼッタ、それも発表の時に言うぞ、お前の名付け親はクリスだ。師匠が私。ベンジャミンが見届け人だ」
「うん、僕もそっちが良いな。素敵な名だね。クリスさんは芸術的だよねえ。宵闇の魔女ちゃん、宜しくね」
「有難く受け取ります」
クリスさんは満足そうに頷くと、杖を取り出し魔法陣を出した。私の周りにクリスさんの魔力が降り注がれる。
「灰茶の魔法使いは名前を授ける。ロゼッタ・ジェーン。君の名は宵闇の魔女だ」
ベンさんが杖を出し、魔法陣を出すと、優しい魔力がふよふよと私を包んだ。
「白群の魔法使いは、名付けを認める。宵闇の魔女ちゃんの誕生だよ」
師匠は杖を振り、辺りに好き勝手に魔力を飛ばした。
「よし。ロゼッタ。派手にいけ」
「はい、師匠。灰茶の魔法使い様、白群の魔法使い様、有難うございます。立派な魔女になって師匠のようになります!」
私は魔法陣を出すと魔力を溢れさし、工房一杯に光を降らせた。
「うわあ、こりゃすごいねえ。ホグマイヤー様が二人なんて勘弁してよ」
「まあ、どうにかなるだろう。ロゼッタさん、おめでとう」
師匠は頷き、お酒を飲みながら杖を振り回していた。
「ヒヒヒ。無事に決まったな。クリス、ベン。ロゼッタすげえだろ?」
「うん、弟子になって一年なってないんでしょう?どうしたらこうなるのかなあ。凄いねえ」
「話は聞いていたが、ここまでとはね。いいね、可愛いね。私の子供みたいだ。ゼンは自分で付けたから初めての名付けだよ。クリスパパって呼ばれても良いな」
「バカ、なにがパパだ。ジジイだろうが。ロゼッタ、本気にしなくていいからな。ロゼッタが凄いのはなあ、私が凄いからだ!ヒヒヒ!ほら、お前らも飲め!」
師匠が皆のグラスにお酒を注ぎ、使い魔達もこっそりお酒を飲んでいた。ベンさんは、このスープ美味しいねえ、と言いながら食べ、あ!と言われた。
「ね、ホグマイヤー様の弟子で、クリスさんが名付け親で僕が見届け人、ゼンは拗ねないかな」
クリスさんも頷く。私は皆にお酒を注いでいく。師匠の奥の棚からお酒もこっそり出してベンさんの前に置いた。
「ああ、確かに。ふむ、じゃあ、ホグマイヤー様の祝福の後に、もう一つ、祝福の言葉をゼンに言わせよう。兄の立場にさせるのはどうだろう。ゼンは私の弟子だし可笑しくない。その後、皆でバルコニーで祝福を飛ばすのはどうだろう」
師匠も煙草を吸いながら頷く。
「ああ。だんまりにはそれがいい。祝福を授けるのは師匠が多いが、二度してもいいな。数の制限はなかったな。私が先にする。ゼンがその後にもう一度祝福をする、ロゼッタはゼンの妹の扱いで良いだろう。ゼンは喜ぶだろ。久しぶりの魔女だ。派手に行こう」
ベンさんは楽しそうに頷く。
「いいねえ!僕は前、水にしたから今回は火にしようかな。クリスさんは水かい?」
「ああ。水にしよう。私は東にするから。ベンは西がいいな。ゼンは南だな。あいつは風かな?ホグマイヤー様は北で土か闇か光を。ロゼッタさんは好きな魔法を真上の空だよ」
私は頷き、皆を見る。
「あの、私、明日は一人だと思ってました。皆さんがお祝いをしてくれて本当に嬉しいです。有難うございます」
二人は苦笑いし、クリスさんが優しく話し掛けられた。
「僕達は来るつもりだったよ。ホグマイヤー様に捕まってしまって遅くなったくらいだ。魔法使いや魔女は、自由だ。でも、お互いを助け合うものだよ。ホグマイヤー様には僕らも返せない恩があるからね。弟子殿のお祝いだ。何がなんでも駆け付けるよ。ゼンもきっと来るつもりだったと思うよ。ホグマイヤー様のせいで遅くなってるんだよ」
私はもう一度礼をすると、師匠を見た。
「なんだよ、私が悪いみたいじゃないか。ま、とにかく明日だな。ロゼッタの前祝いだ。飲むぞ!!あ、ロゼッタ!この酒、隠してたやつだぞ!しょうがない奴だな」
早く寝るつもりだった私は、皆と楽しくご飯とお酒を飲んで夜更かしをした。