素敵なマジックバッグ
クランベリーさんから、マジックバッグの刺繍が出来上がったと、連絡が届いた。いつでも来て下さい、との事だったので、私は早速フラワーコットンへとむかった。
店に入ると、クランベリーさんが笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは、クランベリーさん」
「こんにちは!ご機嫌いかがですか、ジェーン様!マジックバッグが出来上がりましたよ!奥へどうぞ!」
店主のチェンさんに挨拶をして、奥の部屋へ行くと素敵な刺繍が入ったマジックバッグと、ポーションバッグが置いてあった。
「ジェーン様!マジックバッグ、どうですか!刺繍糸も飾りも使い放題で好きにして良いって事だったので、張り切りましたよ。この星の部分はですね、店長に頼んでドレスに縫い付ける宝石を使わせて貰いました!」
「すごく素敵です。うわあ、お洒落になりましたね・・・・。マジックバッグとは思えません・・・。光が当たるとキラキラして綺麗ですね。値段は以前言われた額で大丈夫ですか?」
「ええ!宝石も数が揃って無い物や形が不ぞろいな物なんですよ。でも、刺繍にしてバッグに使ったらこんなに綺麗ですよね。中にはすごく良い宝石もあるんですよ!」
クランベリーさんは耳をピコピコ動かしていた。
「ポーションバッグも個人注文分は出来上がっています!えっと、大魔女様、飛竜、スレイプ、街並み、剣ですね。それぞれ数と刺繍を確認して下さい。僕、刺繍刺すの大好きなんです。図柄を考えて、刺し出す時が一番わくわくします!今回の刺繍は本当に最高な物が刺せました!」
「刺繍って凄いですね。あ、ポーションバッグも今、お金を払いますね。王宮分のポーションバッグも宜しくお願いします。最初の納品分だけ急ぎでお願いします。後は少し時間をおいても大丈夫ですから」
「はい!お任せ下さい!良かった!ポーションバッグ、注文が沢山ですからね。刺繍以外にも何か注文があればいつでもどうぞ!」
私はポーションバッグの刺繍を触り、頷いた。
「事務方もやはり注文がきそうですよ。刺繍の大きさは今まで通りでお願いします。杖は入れて下さい。ペンの刺繍も考えて貰えますか?」
「お任せ下さい!もう、考えていますよ!羽ペン、ペン先のみ、ノートにペン、何種類か考えています!」
「素晴らしいです。ふっふっふ。一緒に頑張って稼ぎましょう。刺繍、頑張って下さいね。ふう、最近、ちょっとお金を使いすぎてしまって頑張って稼がないといけないんですよ。お金のかかる方がいてですね、色々買わないといけません。困ったものですね」
私は出されたお茶を飲んだ。クランベリーさんはえ!っと言って、耳をピンっと立てて席を立った。
「ジェーン様!色々買わされているんですか?貢ぐって奴ですか?駄目ですよ!」
私はポーションバッグとマジックバッグを横に置いた。
「うーん、貢ぐとは違うような・・・。勉強代です。声は渋くて素敵で良い方なんです。初めは威厳たっぷりの凄い方だと思ったんですけどね。ゴロンと転がって本読んで、お菓子食べてお酒飲んでますよ。でも、文句言いながらも色々教えてくれますし、親切ではあるんですよね。今度新しいお酒と本を買ってこいって言われたので、珍しい良いお酒を探しています、何処か良いお店を知っていますか?グラスも探しに行かなくてはなりません」
「勉強代ってなんですか?渋くて低い声って男性ですか?大魔女様ではないのでしょう?ジェーン様、ダメな男に貢いではいけませんよ!ジェーン様は渋い人が好きなんですか?」
クランベリーさんは涙目になって私の手を握っている。耳もへにょんと垂れてしまった。
垂れた耳も可愛い。
じっと耳を見たらセクハラね、駄目ね。変態魔女になってしまうわ。
「勉強代でも貢ぐでもどちらでも良いですが責任をもってお酒とグラスを買わないといけません。クランベリーさん、心配してくれるのですね」
「!!!」
私は優しく手を握り返すと離し、お茶を一口飲んだ。クランベリーさんは真面目な顔で私を見て、耳をピンっと立たせていた。
「ジェーン様!分かりました!僕、もっと頑張ります!お酒もグラスもなんでも一緒に買いに行きます!声はこれ以上低くならないと思いますが、背は伸びると思います!父も母も背が高いので!」
「ええ。一緒に頑張りましょうね。買い物を付き合ってくれますか?ところでクランベリーさんの年齢はおいくつですか?私は十九です。背がまだ伸びるなんて羨ましいですね」
私が言うと、クランベリーさんは目を丸くしてちょっと顔を赤くした。
「僕、十八です、僕は獣人のハーフですから・・・成長が遅いようです・・・。良かったら、サミュエルと呼んで下さい」
少し、手をもじもじして言うクランベリーさん改め、サミュエル君はとても可愛いかった。このままでも十分だと思うけど。
「では、私もロゼッタと。一つ違いだったのですね」
「ええと、はい」
もじもじのサミュエル君。
サミュエル君をにこりと見ているとサミュエル君のシャツがふわっと動いた。私が、うん?と思って目線を下げると慌ててサミュエル君はシャツを直した。
「どうされました?」
少し顔を赤くしたサミュエル君はシャツを慌てて押さえていた。
「ああ、すみません。えっと、しっぽが動いてしまいました。すみません」
しっぽ。
「隠さなくても私は気になりませんが、嫌なら隠されたままでも」
私がそう言うと、サミュエル君はそっとしっぽを出した。私はサミュエル君のしっぽに目が釘付けになった。
少し長い茶色のしっぽがピロピロと動いている。
「可愛い・・・・」
私は思わずジッと見て呟き、はっとした。
「あ、すみません、思わず。見られるのが嫌なら隠して下さい。ただ、隠すのが普通なのでしょうか?コロン領では隠して無い方もいました」
「いいえ・・・。あの、ロゼッタ様は、嫌じゃないのですか?僕は人型に近いですが、獣人を嫌う方もいらっしゃいますから普段は隠しています。獣人にもよると思いますが、僕は接客もありますから・・・」
少ししっぽが垂れてしまった。ああ。
「私は気になりません。サミュエル君は魔女が怖いですか?得体のしれない者として気持ち悪く思いますか?」
尻尾がピンとたった。
「いいえ!そんな事!」
「では、一緒ですね」
あ、動いた。
「ロゼッタ様、これからも宜しくお願いします」
尻尾がふよふよと動く。私の目もつられてしまう。
「はい、こちらこそ、宜しくお願いします」
私は可愛いしっぽを見せて貰い、ふわふわの気持ちでお金を払い薬局へと戻った。とても良い一日だった。
そして、あっという間に日々は過ぎ、いよいよ明日がお披露目の日となった。
ランさんは店を閉めると、私に抱き着いてきた。けしからん胸の衝撃が凄いが私はフォルちゃんに防御膜を出して支えて貰いランさんを抱きとめた。
ランさんの胸は武器にもなる。
「ロゼッター!明日頑張ってねー!お披露目の時は店に来てるから。ロゼッタファイトよー!」
「はい、がんばります。ランさんも気をつけて。明日のパーティー楽しみです」
私が言うと、一度ランさんはぎゅっと抱き着いて帰って行った。