ポーションバッグと飾り石
食事会の後は王宮に行く事もなく、薬や携帯食料をひたすら作る日々だった。そして今日は、クランベリーさんが勤めているフラワーコットンを訪れている。
「こんにちは」
店のドアを開けると、クランベリーさんは待っていたのか、カウンターチェアから元気よく立ち上がり礼をした。
「ジェーン様!ご機嫌いかがですか?奥にどうぞ!」
「元気ですよ。クランベリーさんもお元気そうですね」
「はい!元気です!図案もしっかり用意出来ています!」
店主さんに挨拶をして奥の部屋でポーションバッグの図案の確認をした。糸の種類等、細かい打ち合わせをし、各軍団、騎士団の刺繍は無事に決まった。
「ではこれで!ポーションバッグの図案、決定で宜しいですか?」
「ええ、タウンゼンド宰相から姉弟子が大口契約を取って来てくれましたからね。軍団、騎士団、各五十ずつですよ。ふっふっふ」
お茶を飲みながら二人で話をしているとクランベリーさんの耳がピコピコ動く。
可愛い。
触りたくて手がうずうずしてしまう。
「全部で、百?うわあ、忙しくなりますね!」
「ふっふっふ。クランベリーさん・・・各隊に五十です・・・ふっふっふ。四百ですよ」
はっ!と、息を吸い込み、口元に手を持って行き驚きで顔を赤くするクランベリーさん。
仕草も可愛い。
「よ、よんひゃく・・・。百が四?あわわわ・・・」
「ふっふっふ・・・薬師協会からも百です」
「ええ!!五百・・・ひえええ・・・」
「そして・・・・王宮の事務方からも注文が入りそうですよ。ペンの刺繍を希望できるか聞かれたとランさんが言っていましたから。騎士も軍団も追加注文がまだ入りそうですよ・・・ふっふっふ・・・笑いが止まりません!」
「ジェーン様!笑っている姿も恰好良いです!素敵です!強そうです!僕、千でも、二千でも頑張って刺しますよ!」
耳をピコピコ動かし、クランベリーさんは目をキラキラさせていた。
可愛い。
「頼りにしています。数が多いので頑張って下さい。まず、各軍団十ずつ作って頂いて宜しいですか?早めに欲しい方がいるようで、五回に分けて納める事になりました」
「了解です!!がんばります!!」
耳をピンっと立てて、ふんっと力こぶを作ろうとして答えてくれる。
尻尾があるのか、まだ聞けてないし見れていない。お尻に視線を送るのは変態だと思い我慢をしている。我慢する時点で変態なのかしら。変態魔女になってしまう。クランベリーさんから怖がられたら嫌なので、セクハラにならない様にしないと。どこかのセクハラ隊長と同じになってしまうわ。
「出来上がったらどんどん薬局に持って行きますね!お役に立てそうな事があれば何でも言ってください!」
「ふふ、頼りにしています」
話しを終え、私はフラワーコットンを出て、お使いを頼まれたクランベリーさんと薬局の近く迄一緒に歩いた。
「ジェーン様!ではまた!マジックバッグはもうすぐ出来ます!また連絡します!」
「はい、宜しくお願いします」
元気よく手を振るクランベリーさんに軽く手を振り返した。
はあ、今度年齢を聞く位は大丈夫よね。15歳位かしら。私より三つ四つは下に見えるけど、獣人の人達って年齢が解り辛いのよね。クランベリーさんは見習い終わったばかりって言ってたし、私より歳は下のはず。あの可愛さで年上だったらそれはちょっとショックだわ。
ふむふむと考えながら、バッグの話も上手くいき上機嫌で店に戻った。
店に戻るとランさんがニコニコして、お菓子を食べていた。ジロウ隊長やハワード隊長が店に商品を受け取りに来てくれたらしい。
「ジロウ隊長、お菓子持って来てくれたよー。揚げパンだって。新しい屋台の店みたいだよー。温かいうちが美味しいって。ハワード隊長は私達に一本ずつジャムを持って来てくれたよー。ロゼッタ、どうぞー。第六の商品も持って行ってくれるしー、お菓子もくれるしー。二人ならまあ、仲良くしても許してあげようかなー。ロゼッタ、お話は上手くいったー?」
「あ、ライラさんのジャムですよ。メリアの物らしいです。クランベリーさんも大口注文喜んでましたよ!追加の注文も期待出来ますし全部で五百以上注文入りますよね・・・、ふっふっふ。ランさん、稼ぎましょう!!」
ランさんは、いいわねー、と言いながら揚げパンを食べながら頷く。
「ロゼッタがやる気に満ちているわねー!いい事よー!!他にも頑張って営業してくるわー!!消臭剤が注文入っているわよー」
ニコニコしているランさんを見ながら私達が話していると、ドアベルがカランと鳴った。
「アクセサリーが出来上がりました」
そう言いながら、無精ひげを生やし目をギラギラさせた人が入って来た。一瞬、やばい感じのやばい人が来たのかと思ってしまった。
「どうもー、イアンさん。ヒゲ凄いですねー。ロゼッタ、キッチンで話したら?」
「あ、イアンさんでしたか。分かりませんでした。注文してた分ですね、イアンさん、キッチンにどうぞ」
奥のキッチンの椅子に座って貰い、お茶とお菓子を出しアクセサリーと飾り石を確認させて貰った。
「早かったですね?無理されませんでしたか?おヒゲがモジャモジャですよ。お疲れの様ですが、良ければお茶とお菓子をどうぞ」
「見苦しくてすみません。集中してると身なりを気にしなくなるので。お披露目に遅れては大変と思いまして急ぎました。どうぞ、確認して下さい」
「驚きましたが見苦しくはないです。では確認させて頂きますね」
イアンさんは、布に包まれたアクセサリーを一つずつテーブルに出していく。趣味の悪いネックレスは四つの素敵なアクセサリーに生まれ変わっていた。
「うわあ。とても素敵です。三匹の分は、少しずつデザインが違うんですね。小さく彫り物もしてあるんですか?羽と・・・牙?・・・これはなんだろ?あ、アルちゃんのしっぽですね。ふふ、可愛い。飾り石も可憐で、シンプルなのが良いですね。無駄な物がないのが師匠のようです。とても良い物を作って頂きました。有難うございます」
「使い魔殿達の分はですね、サファイアに金を使いました。飾り石の方は白金ですね。ホグマイヤー様をイメージと言われたので、金よりも白金にしましたよ。このアクセサリーはですね、こう繋ぎ合わせる事が出来るんですよ。で、ジェーン様の分をここに置くと、一つになります。せっかく元が一つのアクセサリーだった物ですからね。私はよく分かりませんが、魔女様と使い魔様って、大切な関係でしょう?」
三匹が頷いている。気に入った様で良かった。
「皆も気に入ったようです。こちら、代金です。急いで仕上げて貰って有難うございました。お披露目ではこれを着けて行きますね」
「こんなに良い仕事は疲れても嬉しいです。また、なにかあれば言ってください。最優先で作ります。玉ねぎ屋のパーティー、楽しみにしています。あれ?料金大分多いですよ?」
「ええ、急ぎの分の料金を足してます。無理を言って急いで作って貰い、すみませんでした。イアンさん、しっかりお休み下さい。パーティーでお待ちしています」
「ええ、明日は一日寝ます。もし、何かあったらかまわず叩き起こして下さい。親父に伝えておきます。では」
イアンさんは私が持つアクセサリーを満足そうに見るとお茶を飲み、隣に帰って行った。三匹も嬉しそうに見ているし、皆気に入ったようだ。
私は大切にアクセサリーをバッグに入れるとランさんに声を掛け、奥の工房のドアを開けた。




