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名無しの薬局での食事会  

マツさんから食事を受け取り、テーブルに並べた。


「玉ねぎ屋の煮込み料理はお高いレストランより美味しいと評判です。パーティーではお酒も最高な物を用意していますよ」


ハワード隊長にお皿を渡しながら私が言うと、ジロウ隊長はトマトの煮込みを取り分けていた。


「いいですね。肉がホロホロですよ。食べるのが楽しみです。さ、食べながら話しますか。で、どうしました。臭いスプレーが口に入ったような顔をしていましたが」


「私、そんなにひどい顔していましたか?ジロウ隊長、あの薬、口に入った事があるんですか?」


取り分けられたトマト煮込みをジロウ隊長から受け取り、私はハワード隊長と自分の前に置いた。


「あー、ありますよ。ホグマイヤー様、周り見ないでおかまいなしに噴射しますからね。避けたら怒られるし、臭いから鼻つまんだら息出来ませんので口でしますよね、その瞬間プシューって口に入って来るんですよ。あれ、絶対狙っていましたね。ハワード隊長は口に入りませんでしたか?」


「飛竜に乗っていましたから、口に入る事はありませんでした。ただ、あの匂いの中にはいましたので、想像はつきます」


眉間に皺を寄せて、ハワード隊長はワインを飲み、私が渡したパンを受け取った。


「ぷふふ。ご飯の時に話す内容じゃないですね」


「で、何があったんです?」


「大した話じゃないですよ。ジロウ隊長もご存じでしょうが、私、恋人との別れ話で大通りで揉めてハワード隊長とランさんに助けて貰ったんです。先程その場所に事件後初めて通り、その時の事を急に思い出してしまいました」


パンをちぎりながらジロウ隊長は頷く。ハワード隊長はパンを持っているが食べていない。


「あー、成程。警護する上でジェーン嬢の調書は自分も読みました。ホグマイヤー様が相手の手を潰す許可有り、と記入されていましたね。原因は暴行ですよ。隊員でも過去の事件を思い出す事はあります。ふとした時に誰にでも起こる事です。だからと言って、大した事ではない、で片付けないほうが良いですよ。苦しい事は本人にしか分かりませんから」


私はワインを置いてジロウ隊長を見る。ハワード隊長は頷き、ワインを飲んでいた。


「軍団にいると後悔するような事が多く起こります。まあ、自分は失敗が多いですから後悔はせず、反省ですね。隊員の仕事は怪我もしますし、ジェーン嬢からしたら目を覆うような事もザラにあります。それでも自分は進みますよ。生きてればそれだけでどうにかなります。ほら、始末書書くのなんてなれた物ですよ。ジェーン嬢、相手を傷つけたと思っていませんか?相手への未練がありますか?」


私はじっとジロウ隊長を見る。


「まさか。未練もありませんし、別れた事を後悔もしていませんが、もっと、話をすれば良かったかなと思った事はあります」


「ジェーン嬢、優しいですね。くたばれクソ野郎、別れた事を後悔して指でも咥えてろ!でいいんじゃないですか?」


「私は良いと思います」


ハワード隊長は頷き同意した。


「ま、ジェーン嬢が幸せになるのが一番ですね。ずっと先の未来で相手と偶然すれ違ったら、にっこり笑って幸せな姿を見せつけてやったらいいんですよ。まあ、綺麗に忘れて無視もアリですね」


ジロウ隊長はトマト煮込みを食べながら私の方を向いて話した。


「幸せかあ・・・。見せつけられますかね。ご飯食べたら元気が出てきました」


ハワード隊長はゆっくりスープを飲み、とても美味しいですね、と言われた。


「私は、遠回りをして帰れば良かったと思いました。今でも思い出し傷ついているのに、配慮も無くあの場所を通った事に申し訳なく思いました・・・。あの時私は側にいたのに、と。そんなに想われていたのになんて馬鹿な男なんでしょう・・・。大切な者を傷つけ隊員の誇りも無い者など、その場で処罰すればよかったです。私がもう少し早く駆け付け、掴んでいた手をすぐに斬り捨てればジェーン嬢が痛い思いをする事も無かったのでしょうか・・・」


ゆっくりとスープを飲みながら、ハワード隊長が私の手首を見てぽつりと言う。


美人の無表情怖い。


「あー、それ、始末書ですみませんよ。気持ちは分かりますが。相手が剣を抜いてないので、鞘のまま叩くくらいですかね。骨、叩き折る迄ですか。相手が武器に手を掛ければ、自分も切り捨てますが」


「ハワード隊長、気にしないで下さい。二人共、話がちょっと怖いですよ、新しいトラウマが生まれてしまいます。私は、顔合わせの時もお二人がいて良かったですし、あの場所を通ったのもきっと今日で良かったと思います。臭いジロウ隊長がいてくれたおかげでご飯を楽しく食べれますし」


「ハハ。あー、ハヤシ大隊長、怒っていますかねえ・・・」


「まあ、致し方ないかと。薬保管庫のみならば被害が少なくて良かったのでは?噴水は暫く辺りが封鎖されましたので」


「あー、そうですネ。ジェーン嬢、自分の臭い始末書と比べて失礼かもしれませんが、何事もどうにかなると思いますよ。でね、無理な事はどうにもしなくていいですよ。さ、美味いワインを飲みましょう」


私はワインを一口飲んで頷いた。


「ジェーン嬢は今、嫌な事を飲み込んだんです。不味い物を口の中で、もごもごしてたのをやっとごっくんって感じですかね。でも、変な物食べてしまうと、時々腹がチクチクします。そんな時は横になったり、薬飲んだり、別の事して気を紛らわすでしょう?」


まあ、出してしまうのが一番ですけど、と言ってジロウ隊長はワインを飲み、私のグラスにワインを注いだ。


「全部抱え込まないで、時々愚痴言って、すっきりしたらいいんですよ、で、きっといつか全部飲み込んで綺麗に消化出来ます」


ハワード隊長も頷いている。


「私で良ければ愚痴はお付き合い致します。宜しければ、食事もしましょう」


「ふふ、そうですね。こうやって、友人がお祝いで送ってくれたワインを楽しく飲めて良かった。ジロウ隊長も、ハワード隊長も有難うございます。ここで食事もまたしましょうね、今度はランさん誘ったら来ますかね?もう少し広いと皆で食べれますが・・・。もう、あの場所通っても怖くないですよ」


「あー、ラン嬢はどうですかねー。奢りますって言わないと来て頂けない気がします。ジェーン嬢、今度通る時も誰か一緒がいいですよ。自分が一緒にいましょうか?当分は無理はしない事です。ジェーン嬢には笑っていて欲しいです」


「私もそう思います。ジェーン嬢、えっと、次通る時はご一緒しますよ。その、私達は、仲良し、ですので・・・」


「ふふ、そうですね、仲良しでした。宜しくお願いします」


ハワード隊長は、いつでもお供致します、と、綺麗な顔でニコリと微笑んだ。


ジロウ隊長は私がマジックバッグからリンゴをテーブルの上に出すと、何処からかナイフを出し器用に剝きだした。


「なんですか?仲良しって。まあ、仲良いのは良い事ですよ、え?まさか?ひょっとして?」


「ジロウ隊長も私と仲良しですよ。私が思っているだけですかね?」


「あー、それなら、おっさんも仲良し仲間に入れて頂きますか・・・」


ハワード隊長はワインを飲むと頷かれた。


「ジロウ隊長はおっさんではないかと。ジロウ隊長がおっさんであれば、私もおっさんと言う事になります」


「ぷふ、おっさんが二人・・・。私の新しい友達、おっさん二人ですよ・・・。ぷふふ!」


「ジェーン嬢・・・。おっさんは酷いかと。ジロウ隊長も私も二十代です。おっさんは五十代位からで宜しいのでは」


私は笑いながら、ジロウ隊長が剥いたリンゴを食べた。ジロウ隊長にもう一つリンゴを渡すと、花の形に剥けますよ、と言って剥きだした。


「あー、ハワード隊長とそりゃ歳はあまり変わりませんがね。キラキラ具合が違うといいますか。まあ、じゃあ、お兄さんですかね、あー、なんかお兄さんって響きエロいですね。ほら、ジェーン嬢、リンゴで薔薇ですよ。綺麗でしょう?」


「ぷふ!何ですか、ジロウ隊長、お兄さんってエロなんですか?ジロウ隊長の基準が分かりません。世のお兄さん達に謝る事になりますよ。リンゴ、綺麗で凄いですけど。ジロウ隊長は器用なセクハラ謝罪隊長です」


「ジロウ隊長、御令嬢の前でその発言はどうかと。それに私はおっさんは嫌です、異議を申し立てます」


ご飯を美味しく食べ、ジロウ隊長の下らない話をハワード隊長が真面目に返しているのを聞き、私は笑ってお酒を飲んだ。


少し前まで、笑いながらご飯を食べているなんて考えもしなかった。使い魔達も、いつの間にか皆側にいてリンゴを食べていた。


私が話を聞きながら、笑ってリンゴを食べているとジロウ隊長が私の顔をじっと見て、ニカッと笑った。


「そうやって、笑っているのが一番可愛いですよ」


突然、ジロウ隊長が真面目な顔をして言ったので、私は目を丸くして驚いてしまったけどハワード隊長が優し気に頷いているのを見て、また笑ってしまった。








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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 そうですね、にっこり笑って幸せ一杯なのを見せ付けるのもアリですかw キレイに忘れて、もし何か言われたら「そんな事もあったわねぇ」と笑い飛ばせれば、あちらにしてみれば痛手…
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